土井善晴 食材をもてなす盛り付けを語る

星野源 土井善晴流の味噌汁で生き方が変わってきた話 星野源のオールナイトニッポン

土井善晴さんが2022年12月20日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で食材主体という考え方や、食材をもてなす盛り付けについて、話していました。

(星野源)メールが来ております。東京都の方。「お味噌汁は料理の始まりと話されている土井先生にこれを聞くのは、もしかしたらタブーかもしれないのですが……一番好きなお味噌汁の具を教えてください」。これ、この番組で、なんでかわかんないんですけどゲストの方に「好きな味噌汁の具は何ですか?」って聞くのをもう、ずっとやってるんですよ。土井さんのこの本を読む前から、なんとなくそうなっていて。でも土井さんは「何でも入れたらええねん」っておっしゃるから。一番はないのかもしれないって思ってたぶん、「タブーだと思う」って書いてあるんだと思うんですけども。ありますか?

(土井善晴)「一番」言うたら二番がかわいそうでしょう?

(星野源)アハハハハハハハハッ! 素敵だよー!(笑)。

(土井善晴)ねえ。本当に。一番って……二番のことを思ってやってほしいんですよ。だからそれは、もしかあってもその時だけ、自分が思ったことで。もしかしたら、二番が一番かもわかんないじゃないですか。だけどもその「一番をなにか、ひとつ」言うのは、それはもう他の食材に対して、かわいそうです。ねえ。

(星野源)うんうん。そうですね。

(土井善晴)そうなんですよ。

(星野源)で、そのなんて言うか、「なにが一番好きか?」ってそれは自分が主体じゃないですか。でも、その土井さんが言ってるのは、たとえば旬の食材だったり。あとは二番目がかわいそうじゃないかっていうのは、食材が主体っていうか。己が中心なんじゃなくて、目の前にある食材が中心であるっていう考え方ですよね?

(土井善晴)そうです、そうです。いや、自分中心と違いますよ。自分中心というのは西洋的なものの考え方で。「自分がこの食材を何とかしてやろう」とか、「より一層美味しくしてやろう」って……でけへんって。そんなの。

(星野源)アハハハハハハハハッ! さっきの煮るっていうこともそうですし。

自分主体ではなく、食材主体

(土井善晴)本来はできへんのですよ。だけども、違う……なんというか、味覚という刺激で美味しくすることができても。それでは万人を喜ばすことができない。なぜならば、それは好みいう世界があるから。でも、自然物やから。自然物は人間の内なる自然と、健全であれば必ず出会う。合致するものです。だから、自然的な、日本的な美味しさいうのは万人を満足させるものがあるはずなんですよ。

それで、自分は「ちょっと味噌汁が美味しくない」とかいうたら、それは味噌ではないような、安すぎるようなお味噌を買うているか、あるいは自分の方が不自然やねんでって。だけども、やっぱり普通のいいお味噌は、全ての人が「美味しい」って感じるはずなんですよ。これはもう、絶対にそうなんですよ。ということを、私は信じてますけどね。

(星野源)で、それを……自分は1回、味噌汁を初期化して。土井さんのやり方で作って。だからそれはもう本当に身にしみてわかるんですよ。本当にそう思います!っていう。でも、たぶんまだ固定概念に縛られてる人は「そうなの?」って思う人も、もしかしたらいるかもしれないけど。やってみたらわかるっていう。

(土井善晴)それはやらないでね、言うなよと。自分の信じたら、あきませんねん。自分さえ、信じたらあかんのですよ。私もそうですよね。自分の頭で考えてること……私、頭でね、ろくなこと考えません(笑)。

(星野源)アハハハハハハハハッ! いや、「自分を信じたらあかん」っていうのは、本当にその通りだと思いますね。

(土井善晴)自分の身体的な心地よさ。そっちを信じますよね。自分がやっぱり無意識のうちにパッと手を伸ばすとか。自分が無意識のうちにこうやって、パッと置いたら、一番ベストのところに、身体的に経験の中で置くわけです。誰がこんな落ちそうなところにペンを置くのか? 一番安定しているそこに、素直に置く。だから無意識の美意識が働いてると。その無意識の美意識が働くように、ちょっと美しいも見ておいた方がええよ、いうこと。そうすると、それが体の中に入ってくると、何をしても美しいと。

(星野源)それは「盛り付け」っていうところにもう繋がると思うんですけども。メールが来ていて。三重県の方。「私は一人暮らしなので、料理を皿に盛りつけず、炒めたフライパンをそのまま皿として食事をすることがよくあります。しかし、『ちゃんと皿に盛りつけなさい』と親に注意されたんですが、これはダメなことなのでしょうか?」というメールが来ているんですけども。

(土井善晴)「ダメ」とは言わないけども。私はですよ、たとえば鍋焼きうどん。鍋からそのまま食べるっていうのは、やっぱりしないですね。それは、自分のためっていうよりも、やっぱりね、二つ意味があると思うけども。ひとつは、やっぱり食材をもてなしてるんですよ。綺麗にするいうことは。それは、食材に対する敬意。だから人間のために、自分さえよくても、それは食材が喜んでないでっていう話です。

(星野源)だからこの方は「一人暮らしなので」って言ってるから、自分が1人だと思ってるけど。そこには食材がいるんだぞっていうことを思うと、変わってくるかもしれないですよね。

(土井善晴)食材のことを思ってやってほしいですわ。それが、自分を幸せにしてくれるもので。そこにある食材。それは自分の未来やぞっていう。それは、明日自分の血となり、肉となるものやから。自分の未来に対して、大切に思っていう。そのものを傷つけたら、自分が傷つけたものが体の中に入る。そうではなく、やっぱり優しくしてやったら……どんなものでもね、優しくすると美味しくなるんですよ。牛でも、肉でも、ミルクでも、必ず優しく。

だから「うちのお父さんは美味しい肉を作るねん」っていうのも、「いや、それよりもお母さんが優しく手をかけたお肉の方が、ずっと美味しいなんねん」とかね。そういう話をね、産地とか生産者のところに行くと、聞くわけですよ。やっぱりね、みんな、食材を見てもそういう風に作られたものいうたら「ああ、ええ顔してんな」って。このね、食材が顔に見えてきたり。本当に、愛おしいぐらいに美しいもんですよ。

(星野源)土井さんが料理されてるところの映像って、もう本当に綺麗ですもんね。

(土井善晴)そんなことないですよ(笑)。

(星野源)もう本当に「うわーっ!」みたいな。もうなんか、ピカーッ!ってもう、後光が指しているみたいな。たぶんなんか、朝日が入る場所なんだと思うんですけど。すごい綺麗ですよね。

食材を喜ばしてやる

(土井善晴)だから、その食材を喜ばしてやること。私はね、だから普段、必要以上にやっぱり触りたくないし。日常生活の中で、盛るいうことは非日常的なことなんですよ。盛り付けいうのは、「盛る」っていうのは山にすることでしょう? 山にするいうことは、森の中に神様がおるから。神様が喜ぶように、人間の手で盛り付けるわけですわ。でも日常って、人間が食べるものは、盛らんでもええんですよ。で、盛らなくていいいうのが、お皿に入れるだけでいいんですよ。

(星野源)だから、このメールの方も、フライパンから皿に移すだけでいいということですね。盛らなくても。

(土井善晴)皿に移すだけでええんですよ。皿に移す時に、ひとつずつこうやって入れたら、やっぱり人間臭さが、作為が出てくるから、美しくならないんですよ。それを、まあ日常のお皿いうたら、民芸的なお皿でね。量を少なく盛っても、お皿にいっぱい持っても、全部どれをとっても美しく見えるような器を使うはずなんですよ。でも、あれはそうじゃないですよね。晴れの器いうのは、「ここにこれだけの分量をこのように盛ってくれ」っていう風に、最初に器がもう言うてる器があるんですよ。だけども、日常的な普通の、昔からある器いうのは、量に関係なく……道具やから。食材でも、出来上がったお料理でも、盛れるわけですよ。

そしたら、そういうようなところにうまく皿の方がなってるから。鍋からひっくり返す。その時に、食材が嫌がらないで。滑り台でも滑り落ちるように「きゃーっ! 嬉しいわ! 楽しいー!」ってこう、思わせるような。食材に対する気持ちがあったら、うまいこといくんですよ。

(星野源)アハハハハハハハハッ! なるほど。盛らなくて。

(土井善晴)それを強引にブワーッと、なんていうのかな? なんとなく……そう捉えてるんですよ。なんとなく、意識を。だからアクションペインティングのポロックみたいに、なんとなくするんやけども、自然を取り込んだ作為やから、美しくなる。

(星野源)僕は沖縄料理屋でずっとバイトしてた時に、最後の方は料理を作っていたんですよ。で、そこで沖縄出身のマスターが、僕が料理を作った時に一応、審査をするんですよ。で、まずはマスターのまかないを作るっていう仕事から、始めるんです。で、作るんですけど、盛って……やっぱり綺麗にした方がいいかなと思って、なんとなくカチャカチャッてやって、盛って出すじゃないですか。で、一口食べて「うーん、源ちゃん。愛がないな」って言われて。それってやっぱり、そういう作為的っていうものの方が上回っちゃっているっていたんですね。

(土井善晴)「綺麗に整える」いうのは、自分が褒められるように、怒られないようにっていう。でも、食材って、自然なものって、美しいんですよ。本当に。だから、そのことに逆らわない。

(星野源)そうですね。

(土井善晴)人間って、なにかすると必ず心が残ってしまうから。心を残さないようにする。

(星野源)残さないようにする。くぅーっ! 楽しすぎるぜ!(笑)。

<書き起こしおわり>

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