星野源 高野寛『ベステン ダンク』と1990年代楽曲の「豊かさ」を語る

星野源 高野寛『ベステン ダンク』と1990年代楽曲の「豊かさ」を語る 星野源のオールナイトニッポン

星野源さんが2023年10月17日放送のニッポン放送『星野源のオールナイトニッポン』の中で最近、散歩の際に1990年代の楽曲をよく聞いていると話し、その中から高野寛さんの『ベステン ダンク』を選曲。当時の楽曲に感じるエネルギーや豊かさについて話していました。

(星野源)それで今週も相変わらずお仕事をちょっとしてるんですけど。あれですね。なんか最近、しぶとくないですか? 暑さ。東京以外はちょっとわかんないけど、昼間は結構暑いっていうか。陽が結構照っている時があって暑いんですけど。でも、風は涼しくて。夜は結構寒いみたいな。なので仕事がちょっと、たとえば行き詰まるというか。ちょっと……グルーヴみたいなのがあるんですよ。やっていてなんか「おっ、なんか出てくるぞ?」みたいな。で、その「出てこないぞ」ってなった時に「出てこないぞ」を追求し続けちゃう時があるんですよ。なんか、自分に鞭打つみたいなね。やり続けて、それの向こうに何か輝かしい出口があるんじゃないかと思っちゃうんですけど、それって結構間違いなことが多くて。ただ無意味な3時間を過ごしたりするわけですよね。

でもそれってなんか、結構しがちな人が多いと思うんですよね。割と、いろんな世の中のね。「努力をしたから報われる」みたいな。で、その努力の方向がよかったらいいんだけども、よくない方向に向かって努力してる時、結構自分ではそれに気づかないみたいな。で、それを最近は結構、散歩するようになって。散歩をしたら、割と仕事がはかどるという、すごいシンプルな……「そんなの、知ってるわい!」って人もいるかもしれないんですけど。そういうことがあって。で、なんかあれですね。ごめんね(笑)。こんな話、深夜放送で話す話じゃないと思うんすけど……金木犀って、いい匂いですね。アハハハハハハハハッ!

あの……皆さん、知ってました?(笑)。「知ってるよ」っていう(笑)。今、もう街じゅうが金木犀の匂いだよね。結構さ、なんか住宅とかさ、あと公園とかさ、結構金木犀っていうか。その匂いがね、してさ。で、陽はあたたかいんだけど、風は涼しいみたいな。俺は、秋が好きだ(笑)。本当にすごい好きってなって、すごい楽しい。かつ、ちょっとやっぱり冬の顔がのぞかせてる感じみたいの、あるじゃないですか。やっぱりその感じがね、すごい好きだなって改めて思って。それで、ちょっと前までは「夏が好き」って言ってたんですけど……今年の夏でちょっとあまりにも過酷すぎたのもあって、ちょっと今は秋が好きになってきてますね。

なんか秋花粉、俺はそんなにないみたいで。割とちょっと喉が、咳が出たりするっていうのはあるんだけども、春ほどはひどくないので。この過ごしやすさは最高だな、なんて思って。そんな日々を過ごしているんですけど。それで今、歩きながら聞いてる音楽っていうのがあって。それがね、主に90年代の曲が多いんですよ。90年代の初頭とかになると、僕はたぶん10歳ぐらい? 僕、81年生まれなんで、その10歳ぐらいの時の曲。で、洋楽も邦楽も、なんですかね? エネルギーというか、音量的にうるさいとかじゃなくて。曲の中にエネルギーが詰まってるなって感じがするんですよね。それを聞いてるのがすごい楽しいのと、あとは前もちょっと話したけど。そこらへんの音……楽器の音っていうか。あと機材の音。リバーブの音とか、ディレイの音とか。で、打ち込みを自分で……キーボードでとか、あとは年代物のシンセを買いまくったりとか。

それこそ90年代とか80年代終わり頃のシンセサイザーの音っていうのが90年代の頭とかに……それこそリアルタイムで90年の頭の方のシンセサイザーの音とかっていうのがあの時代の音を作ってる音を作っていて。リバーブ感とかね。そういういろんなことをやっと意識できるようになって。いろんな機材をね、自分で体験して。知識として入れるんじゃなくて、自分で買って、弾いて、体験することによって、自分の中に入ってくるっていう。そうやってその当時の、そのシンセサイザーが鳴っていた当時の音を聞くと、なんていうか、理解度がもう全然違うみたいな話を前にもしましたけれども。それが楽しくてしょうがなくて。

大変な時代に作られた楽曲たち

(星野源)で、それを聞いてる時に、なんかすごいエネルギーがあるなと思ったんですよね。でもなんかすごく思うのは、大変な時代だったと思うんですよ。バブルがはじける……90年代前半じゃないですか。バブルがはじけたのって。93年とか、そのあたりでしょう? 91年から93年のあたりぐらいにたぶん、バブルがはじけるじゃん? で、僕はだから幼少期の、あんまり記憶ないぐらいの頃が結構、バブル真っ只中みたいな。『トゥナイト2』がすごい特集をやってたみたいな(笑)。小学生があれを見て、よかったのかな? みたいに今、思うんですけども。もうとにかく、ボディコンみたいな。あと山本晋也監督が風俗街レポートしていたりとか。なんか知らないけど乗っているみたいな、そういう子供時代で。

僕は当時はその感じが苦手っていうか。なんかギラギラしてて、しんどかったんですよね。だからなんか、生音系の音楽とかの方がグッと来ちゃっていたんですけど。でもやっぱり、当時は嫌だったものっていうのが実は体に染み込んでるみたいなのって、やっぱりあって。もっと前の幼少期、もっとちっちゃい頃に親が聞いてたジャズが、子供的には退屈だったんだけど。それが中学、高校になるぐらいになって、自分の音楽の基礎っていうかね。もう音楽の耳の田起こしをしてくれてたっていう風に気づくみたいなのと同じように、あの頃のサウンドっていうものがいかに自分が好きっていうか、体に入っちゃってるか、みたいな。そういうのを今、感じながら歩くのが楽しいんです。

で、なんか今ね、とにかく高野寛さんを聞いてるんですよ。高野寛さん。僕、お世話になってたんですね。僕がくも膜下出血で倒れて。その後に1年ぐらい、休養して。2回目の手術が終わって。それで延期をしていた初めての武道館公演が、自分の力だけではもしかしたらちょっと不安な部分も……その武道館公演が復帰してほぼ最初みたいな感じだったんで。なので、サポートしていただくのにバンドマスターと、あとコーラス、ギターとして参加してもらったのが高野寛さんで。すごくお世話になったんですね。

で、本当にたまにやり取りをさせていただいたりとかもしていて。で、その高野さんの曲もすごく聞いていて。高野さんの曲、聞いてたんですけど。それを聞いてると、たとえばYouTubeとかでね、ミュージックビデオとか昔のライブとか、上がっているのを見たりとかした時に、なんか上がってくるじゃないですか。おすすめみたいなのに。で、横山輝一さんっていう方がいて。知っている? 『Lovin’ You』の。で、「俺、横山輝一さんのアルバム、持っていたわ!」みたいなことを唐突に唐突に思い出して。で、めちゃくちゃ90年代の音なんですよ。いわゆるそのリアルタイムの洋楽の音をめちゃくちゃやられていて。で、「これ、俺はちっちゃい時にアルバムを買って聞いてたのか!」とか思って。

横山輝一『Lovin’ You』

(星野源)なんか「豊かだな」みたいな。なんか、いろんな種類の音楽……それこそヒップホップとかR&Bとかっていうものが日本のヒットチャートの中にガンガンに入ってたっていうか。中西圭三さんとかね。あとは今井美樹さんとかも、いろんな人が曲を作ったりしてますけど。『雨にキッスの花束を』とか。あれはたぶん作曲がKANさんだと思うんですけど。なんか、いろんな洋楽のエッセンスが入っていたりとか。

今井美樹『雨にキッスの花束を』

(星野源)いろんな……カオスっていう部分もあると思うんですけど、なんかすごいパワーがあるな、みたいな。でも大変な時代だと思うんですよ。湾岸戦争があって、いろんな不安があって。で、バブルもはじけそうで、みたいな。いろんな不安の中で、なんか知らないけどパワフルだったんだろうなっていう。で、なんか全然違うんですけど。全然違うけど今、めちゃくちゃ不安じゃないですか。俺、生きていてめちゃくちゃ不安なんですよ。でも、その中で音楽っていうものとか、自分のね、やっている仕事とか、そういうものがやっぱりパワフルでありたい。それが、自分の歌みたいなものが、自分のファンの皆さんに聞いてもらえるとか。で、もしかしたらファンじゃない人に届くかもしれない。そこでその人の人生のなにかが、ちょっと変わったりするかもしれない。なんか、そういうのの連続で人生とか、国とかさ、地球って変わっていくんだろうなって思うから。

それはもちろん音楽だけじゃなくて、いろんなことがね。いろんな人がやっている、いろんなことが随時、そういうことをやってるんだなって思った時に、なんか90年代っていうのの音楽を今、聞いてるのが非常に楽しいということで。で、あとはやっぱり個人の思いっていうか、そういうものが感じられる楽曲っていうんですかね? ちょっとこの後、高野寛さんの『『ベステン ダンク』』っていう曲をかけようと思うんですけど。なんかそれは、ベルリンの壁崩壊のエピソードをテーマにしている部分もあるんですけど。なんていうか、僕がちっちゃい頃を思ってた高野寛さんのイメージって、なんか爽やかな人で。なんていうか、爽やかな曲を歌うみたいなイメージがあったんですけど。やっぱり今聞くと、その爽やかな部分ももちろんあるんだけど、その中に作家性みたいなのがめちゃくちゃ色濃くあって。その歌詞が本当にどの曲も素晴らしくて、すごく大好きなんですけど。なんか、歌詞に込めた思いとか。あと楽曲の音の濃密さみたいな。

で、この曲はたぶんトッド・ラングレンのプロデュースだったと思うんですけど。なんかその邦楽っていうもののボーダーみたいなのと、洋楽のボーダーみたいなのを実はもう全然超えていたりとか。そういうものの中で、日本語の歌を歌っていたっていう。で、そこでテーマがベルリンの壁崩壊でもあるっていう、そこらへんのいろんな個人の思いみたいなものが今……僕はその当時全然、ちっちゃすすぎたので。そこらへんを受け取れなかったけれども、今はそれを受け取りつつ、こういう風にラジオで流したりすることっていうのが面白いなっていう。なんか音楽って、やっぱり面白いなと思うのでこの曲をかけたいと思います。高野寛さんで『『ベステン ダンク』』。

高野寛『ベステン ダンク』

ベステン ダンク / Besten Dank
EMIミュージック・ジャパン

(星野源)お送りしたのは高野寛『ベステン ダンク』でした。いい曲だよー! だから本当に、なんだろうな? 今日のね、ゲストの《りく》くんもそうですけど。なんていうか、YouTubeを見てると「なぜ、こんなこと? なぜ、こんなことに3ヶ月もかけて、10分とか15分の動画を……?」っていう。たぶん、超一生懸命、作ってるじゃない? で、それがやっぱり1000万回再生とかされるぐらい、やっぱり面白いし。で、全部1人で動画も編集してるみたいで。やっぱりそこらへんって、なんて言えばいいんですかね? なんだろう? それをやってることって、たとえば僕の音楽っていう職業もそうですけど。いろんなことがあった時に……前も何度かありましたけど。職業として、まず必要じゃないもの、みたいな風に言われたりする時もあったじゃないですか。娯楽っていうものとかが。

で、そんなことは絶対にないと思うんですよね。なんか、そういうことが……「誰が喜ぶかはわからないけど、俺は絶対にこれ作りたいんだよ!」っていう、そこにその人間のたぶん核みたいなものがあって。それが、さざ波のように全世界に絶対に影響を与えてるはずなんですよ。だから、これを聞いている人でも、こういう時代というか。不安が多くて、「これをやっていて、いいのだろうか?」みたいに思う時ってたぶんあると思うし。僕もあるんですけど。たぶん、それをやってて、いいんだと思うんですよね。なんかそこが絶対に……たとえばそれが表現じゃなくてもね。家事でもなんでも、それは絶対になにかに影響を与えてると思うんですよね。本当に、なにもかもが。だから、そういうのをいつも感じながら、今は外を歩いたり、曲を書いたりしております。はい。なので今日、この後、すしらーめん《りく》くんが来てくれますので、ぜひお楽しみに。

<書き起こしおわり>

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