町山智浩『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』を語る

町山智浩『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年12月6日放送のTBSラジオ『たまむすび』でNetflixで配信中のドキュメンタリー『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』を紹介していました。

(町山智浩)3本目はNetflixなんですよ。これはね、『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』というタイトルなんですね。これ、クロティルダというのはですね、最後の奴隷船の船の名前なんですが。これ、なぜ「最後」かというと、1860年にアメリカの南部のアラバマというところに到着したクロティルダ号という奴隷船があって。これが歴史上、最後の奴隷船なんですよ。というのは、既に奴隷の輸送に関しては1808年に全世界的にほとんど禁止されてたんですね。アメリカでも奴隷を船で運んではいけないっていう風に当時、なっていたんですよ、既にもうその頃、リンカーンが大統領になるというような時期ですよ。1860年っていう、このクロティルダ号が着いた時には。

この頃は既に「もう奴隷はダメだ」ってなっていたんですね。それで、「奴隷はダメだ。もう南北戦争をするしかない」っていうような状況になりつつある時に、あえて法を犯して奴隷を連れてきてるんですよ。このクロティルダ号は。これね、咸臨丸がサンフランシスコに着いた年ですよ。1860年って。だから結構最近なんですよ。そういうことをして、わざわざ奴隷を連れてきて。110人の奴隷を連れてきてるんですけど。奴隷ってすごい高い、高価なものだったんですよ。当時は。1人で300万円とかするんですよ。今のお金に直すと。で、この110人の奴隷を売ると、それだけで何億円もの利益があがるんですよ。だからもう、めちゃくちゃ儲かる事業ということで、要するに麻薬の密輸と同じで。法を犯してでもやったんですね。

当時、既に違法状態だった奴隷を密輸

(町山智浩)で、それはアラバマ州の河口のモービルという町がありまして。海沿いにね。海と川の河口のあたりりにね。で、そこに住んでいたティモシー・ミーアーという白人の大金持ちがお金を出してクロティルダ号を作らせて、密輸をやらせたんですけども。ところが、奴隷たちは60年に連れてこられるんですけど、65年に南北戦争が終わっちゃうんですよ。たった5年でアメリカでは奴隷制度が廃止されちゃうんですよ。で、連れてこられた彼らは解放されちゃうんですけど、アメリカに着いて5年ちょっと働かされていたら、いきなり解放されちゃったから、なんにもないんですよ。連れてこられた110人は。どうしようもないので、その上陸地点に行って。このミーアーというその奴隷を仕切ってた商売人のところに行って。「私たちをアフリカに帰してくれ」って言うんですよ。

(赤江珠緒)そりゃそうですね。

(町山智浩)ところが「知ったこっちゃねえよ」って言われるんですよ。

(赤江珠緒)うわあ……。

(町山智浩)で、本当だったらこれ、要するにこの拉致行為自体、当時から犯罪なんでね。人身売買が。だから訴えたりできるんですが、証拠は完全に隠滅されていたんですよ。このミーアーという男は最初から「これは違法だ」ってことはわかっていたんで、船に火をつけて、完全に証拠を隠滅ちゃうんですよ。書類のなんにも残ってないんです。だから「私たちをアフリカに帰して」って言っても、「いや、何も証拠がないよ? お前ら、なんかしてみろよ?」みたいな感じなっちゃうんですよ。それでまあ、しょうがないので、そこに帰ってきた110人の奴隷されたアフリカ人の人たちはそこに掘っ立て小屋を建てて、そこで暮らし始めるんですよ。それが後からアフリカタウンって呼ばれるようになって。現在もそこで子孫が続いてるんですよ。

でも、彼らはずっとおじいさん、ひいおじいさん、ひいひいおじいさんとかからアフリカから連れてこられた話を聞かされてるんですよ。だって、要するにこれ、江戸の終わりの頃だから。伝わってますよ。で、特に連れてこられた人のうちの1人は1930年代に映画に撮られてるんですよ。その頃、まだ生きていて。おじいさんで。当時、80歳ぐらいで。その時に民俗学者がですね、インタビューを撮って、記録が残っていたんですけど。その当時はそういったものを出版したり、上映したりするっていう状態じゃなかったんですよ。30年代はね。で、それは闇に葬られちゃったんですけど、2010年代になってそれが発掘されたんですよ。で、証言が残っているから、かなりその船の場所とかも特定できるようになって。で、2018年にクロティルダ号の残骸の発掘作業が始まって、発見されるんです。

(赤江珠緒)ええっ? 船の残骸が見つかった?

(町山智浩)見つかった。だから証拠品なんですよ。で、「これが証拠だから賠償請求はできる」ってことになるんですけど。このミーアーっていう奴隷を運んできた実業家はですね、実はそのアフリカタウンの周辺の土地を所有してる大地主なんですよ。で、今もそこにですね、石油化学工場とか、製紙工場を作って、大儲けをしてて。地元の経済を支配していて。しかもそこから出る化学物質とかで、そのアフリカタウンに住んでる人たちはがんの発症率が非常に高いんですよ。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)だから奴隷として自分たちの祖先を連れてきた人たちの一族が、今も石油化学工場とかその奴隷として連れてこられた人たちの子孫をいじめ続けてるっていうことがわかってくるんですよ。

(赤江珠緒)どこまでもひどいですね……。

(町山智浩)これ、ひどいんでね。で、今もまだ訴訟は進んでないみたいなんですよね。非常に難しい、100年以上前のことで。証拠はあるけれども、現在の企業。その子孫の企業にどのくらい賠償責任があるのかとかですね、そういったことは非常に難しいんですよね。はい。で、この映画の取材にも、そのミーアー一族は生きているんだけども。答えなかったんですけど。

ただね、いいところもあって。このクロティルダ号の奴隷船の船長はフォスター船長という人なんですけども。その人の子孫がこのアフリカタウンに来るんですよ。で、「申し訳ありませんでした。僕自身には責任はないけれども、でも自分がこうやって生きているのは、その奴隷船の船長がいたからなわけで。やはり何らかの責任があるんです。本当に私の祖先が、あなたたちのその祖先にしたこと、申し訳ありませんでした」って謝るんですよ。で、それをちゃんとクロティルダ号で連れてこられた奴隷の子孫の人たちは受け止めて。

奴隷船の船長の子孫と、奴隷の子孫たちとでそのクロティルダ号の上陸地点に行くところがあって。同じ船に乗ってね。それまで奴隷と奴隷船の船長の立場だったのに、同じ船に乗って……まさに呉越同舟ですよ。で、その残骸のあった地点に行って、謝罪を受け入れるっていうシーンがあって。それは非常に感動的でしたね。というのはね『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』。Netflixで配信中です。

『クロティルダの子孫たち -最後の奴隷船を探して』予告

<書き起こしおわり>

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