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高橋芳朗 (G)I-DLE『Nxde』を語る

高橋芳朗 (G)I-DLE『Nxde』を語る アフター6ジャンクション

高橋芳朗さんが2022年11月29日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で(G)I-DLE『Nxde』について話していました。

(宇多丸)というわけで、続いて。

(高橋芳朗)続いては、K-POPミニコーナーとしてですね、ガールズグループの(G)I-DLEが10月17日にリリースしたEP『I LOVE』より『Nxde(ヌード)』っていう曲を紹介したいと思います。これ、スペルが「Nude」じゃなくて「Nxde」になってるんですけど。

(宇垣美里)これで「ヌード」って読むんだ。

(高橋芳朗)その理由は後ほど、説明しますね。で、この曲が韓国国内の主要チャートを完全制覇して、今年の下半期を代表するK-POPのヒット曲になっているんですけど。これが非常によく練られたコンセプトのエンパワーメントソングで。ぜひ取り上げておきたいなと思ったんですけど。まず(G)I-DLEの簡単な紹介からいきましょうかね。これ、日本での呼び方は「ジーアイドル」なんですけど。韓国では「(G)」は読まなくて、単に「アイドゥル」って呼ばれてます。

(宇垣美里)アイドルって、あのアイドルですよね? 偶像的なアイドルのこと?

(高橋芳朗)そうですね。でも「アイ」が「女の子」みたいな意味もあって。で、ダブルミーニングなんだけども、「ドゥル」が複数の「達」みたいな意味で。

(宇垣美里)「女の子たち」みたいな?

(高橋芳朗)「女の子たち」っていう意味と「アイドル」っていうのをダブルミーニングとしてかけているんだと思うんですね。で、ここからは「アイドゥル」と呼んでいきたいと思うんですけども。2018年5月にデビューした5人組です。元々、6人組だったんですけど去年1人、脱退してしまいました。韓国、中国、台湾、タイのメンバーで構成されたユニバーサルなグループなんですけど。

で、彼女たちを特徴づけている最大のポイントはですね、セルフプロデュースグループなんですよ。楽曲のコンセプトの発案とか、ソングライティングとか、振り付け、ビジュアルイメージなんかも自ら、積極的に関与していて。

メンバー自身がセルフプロデュース

(宇多丸)近年、だから私が取り上げるアイドル的っていうかさ。かつてのあれからはだいぶ広がってきたけども。もうそういうセルフプロデュースをしている人たちが本当に増えてきていて。それで質が高くなってるアーティストのグループがすごく、日本でも……もちろん、規模とかは違いますけど。全然、日本でもあるんですよということは一応、言っておきますね。

(高橋芳朗)で、今回の『Nxde』にしてもですねリーダーのソヨンが作詞・作曲に携わっていて。彼女は楽曲のトータルプロデュースも務めているんですね。で、そういう制作体制ゆえと言っていいかわかんないんですけど。メンバーと事務所が衝突することが結構多いらしいんですよ。で、この『Nxde』に関してもタイトルからして過激すぎるとか扇情的だっていうことで当初、猛反対を食らったんですって。

でもメンバー曰く「事務所に反対される曲ほど売れる」っていうジンクスがあるみたいで。リーダーのソヨンがPowerPointを駆使して、この『Nxde』のコンセプトを事細かに説明することによって、何とか納得してもらえたんですって。それでも事務所が「審議会で引っかかるから、タイトルだけ何とかしてくれ」っていうことで、スペルを『Nxde』にして。

(宇多丸)なるほど。やっぱりヌードってそんな、韓国では……?

(高橋芳朗)あと、「アイドルが歌う」っていうところもあるのかもしれないですね。

(宇多丸)なるほど。ちょっとコントラバーシャルなんですね。そこはね。

(高橋芳朗)なので、メンバー的にはそのヌードのスペルが変えられてしまったこの『Nxde』っていうタイトルは不本意なところもあるのかもしれないけど。個人的にはこのスペルの『Nxde』が結果的に意味のあるタイトルになったんじゃないかなと思ってるところもあって。

というのも、この曲はヌードという言葉に新しいイメージを与えることを目的として作られてるんですよ。ヌードっていう言葉になぞらえて、ありのままの自分だったり、飾られていない本来の姿を表現して。そこに向けられる性的な視線を交わしつつ、皮肉りつつ、その女性の美の価値や基準が男性によって規定されてきたこと。女性の客体化に抵抗する曲。異議を唱える曲になってるんですよ。

で、実際に歌詞を見てみるとですね、曲のイントロダクション部分でまずこんなことを歌ってるんですね。「どうしてヌードのことをそんな風に考えるの? それはあなたの見方が品性に欠けてるから。型にとらわれないで考えてみて? そうしたらきっと気に入ると思うよ」って。あと、セカンドバースの冒頭ではですね、「失礼します。ここにいらっしゃる皆さん。いやらしい作品を期待されていたのなら申し訳ございませんが、そんなものありません。返金はあちらでお願いします」みたいなフレーズがあったり。

曲の最後では「美しい私のヌード。綺麗な私のヌード。私はヌードで生まれた。変態はあなたの方」なんて歌っていたりするんですね。で、サビでは「How do I look? 私のこと、どんな風に見えている?」っていう風に繰り返し問いかけてくるんですよ。で、ミュージックビデオもまた、その曲のメッセージを踏まえた非常に緻密な、コンセプチュアルな内容になっていて。

まず、このビデオはマリリン・モンローへのリスペクトを込めて、彼女へのトリビュートになってるんですね。メンバーが全員、髪の毛をマリリンみたいにブロンドに染めていたり。あと、ビデオのいたるところに宇多丸さんが見れば一発で「ああ、あれだ、あれだ」ってわかると思うんですけども。オマージュが散りばめられてるんですよ。で、リーダーのソヨンはこれについて「金髪で美人のおバカという大衆が作り上げたマリリンのイメージがあるけども、その裏には知的で強い女性がいたことを改めて訴えたかった」ってコメントしてるんですね。

(宇多丸)間違いないですね。

(高橋芳朗)で、『Nxde』のビデオではこのマリリン・モンローへのオマージュを軸にして、アイドゥルのメンバーはムーラン・ルージュの踊り子に扮したり、美術館で女性の彫刻とともに並んで歌ったり。全編にわたって見る側、見られる側の構図を巧妙に使った構成が取られているんですね。それがタイトルの『Nxde』だったり、その女性の客体化っていうテーマに奥行きを与えてるところがあるんですよ。もう曲のメッセージを理解する上で、ビデオが不可分なものになっているところがあるんですけど。で、こういうメッセージのインパクトに負けないぐらい、トラックも強力で。オペラのね、『カルメン』の『Habanera』をサンプリングしてるんですよ。ちょっとかけてもらっていいですか? 皆さん、ご存知の曲だと思いますが。

(宇垣美里)絶対に聞いたことありますよね。

(高橋芳朗)で、またこのサンプリングがまためちゃくちゃ中毒性が高くて。覚えてますかね? 9月にBLACKPINKの最新作『BORN PINK』を紹介した時にシングルの『Shut Down』がクラシックの『ラ・カンパネラ』をサンプリングしていることに触れましたよね?

(宇多丸)ええ。

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高橋芳朗さんが2022年9月27日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中でBLACKPINKのニューアルバム『Born Pink』について話していました。

(高橋芳朗)で、ここ最近のK-POPのガールグループの楽曲でクラシックの引用がちょっとしたトレンドになってるっていう話をしましたけど。この『Nxde』の『Habanera』の引用も流れをくむ曲としてうん位置付けることもできるんじゃないかなって思ったりもしました。あとね、昨日発表になったRed Velvetっていうガールグループの新曲『Birthday』もね、ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』を思いっきりサンプリングしていて。

(宇多丸)へー!

(高橋芳朗)これもめちゃくちゃかっこいいんだけど。

(高橋芳朗)やっぱりね、K-POPのガールズグループのクラシック使いは今年のひとつの潮流として、大きなトピックのひとつに挙げてもいいんじゃないかなと思いますね。なんで、ちょっとかなりたたみかけるように情報量が多いんですけれども。

(宇多丸)しかも、その(G)I-DLEの『Nxde』っていう曲が発表されたことで、とある効果を狙っているっていうか。

(高橋芳朗)そうですね。それはちょっと後で触れたいんですけども。じゃあ、ミュージックビデオと合わせて聞いてもらえますかね? じゃあ、聞いてください。(G)I-DLEの『Nxde』です。

(G)I-DLE『Nxde』

(高橋芳朗)はい。(G)I-DLEで『Nxde』を聞いていただきました。

(宇多丸)はい。映像も拝見しながら聞きましたけども。最後のオチもね。

(高橋芳朗)バンクシーのシュレッダーのオマージュもありますし。まあ、とにかく細部に仕込まれたネタをひとつひとつ拾い上げていってもキリがないうぐらい、いろんなものが仕組まれているんですけども。で、韓国の音楽メディアでニュースになっていたんですけども。これがたぶん、宇多丸さんさっき言おうとしたことかな? この『Nxde』の大ヒットによって、韓国国内でちょっと興味深い現象が起きてるみたいで。

その『Nxde』の大ヒットが子供とか女性の性的消費の抑止に繋がってるみたいなニュースが上がったんですね。どういうことか?っていうと、その(G)I-DLEのグループ名を韓国語で読むと「ヨジャ・アイドゥル」。これ分解すると「ヨジャ」は「女性」で、さっきも言いましたけども。「アイ」は「子供」。「ドゥル」は「○○たち」っていう複数を意味するんですけど。

以前はインターネットで「ヨジャ ヌード」とか「アイ ヌード」とか検索すると、児童ポルノとか、わいせつなコンテンツが表示されたんですけど。今、そういうワードで検索をかけてもこのアイドゥルの『Nxde』の情報がずらっと出てきて。

(宇多丸)この曲の情報が出る。だから、有害情報を下に押し流して。で、それがさっき言ったヌードという言葉を再定義するような。曲の情報が圧倒するっていうか。

(高橋芳朗)そうなんですよ。ちょっと出来すぎてるんですけど。

(宇多丸)そこまで狙ってたってわけじゃないのかな?

(高橋芳朗)いやー、どうなんでしょうね? それはちょっとご本人に聞いてみたいんですけれども。

(宇多丸)まあ結果としてかもしれないし、狙ったのかもしれないけど。とにかくそういうポジティブなアクションになってると。

(高橋芳朗)まあ一時的なものかもしれないけど。でも、痛快ですよね。

(宇多丸)なんかそのコンセプトも含めて、すごくコンセプチュアルってかさ。全体が。活動全体が、すごく。

(高橋芳朗)めちゃくちゃ練り込んで作ってきた曲だなっていう感じですね。

(宇多丸)だから、バンクシーを最後のオチにしてるのも伊達じゃないっていうか。で、そもそも『カルメン』をサンプリングしてること自体、男性のコントロールを拒絶する女性じゃないけどさ。なんかそういうイメージとも重なるし。なんかすごく考え抜かれてると思います。

(高橋芳朗)そうですね。バンクシーもね、アートの問い直しみたいなことなのかもしれないし。

(宇多丸)で、まさにその今、現実に起こってることがすごい現代アート的なさ、アクションっていうか、結果みたいなことになっていて。なんか面白いし、いいですね。かっこいい。

(高橋芳朗)で、これがバカ売れしてるっていう。

(宇垣美里)でも、そのことが嬉しいですね。これがバカ売れしているという事実。

韓国語メインの歌詞なのにアメリカでも割と評判に

(高橋芳朗)で、この曲は韓国語メインの歌詞であるにもかかわらず、アメリカでも割と評判みたいで。サンフランシスコの人気FM局の99.7では英語・ラテン語以外の言語の楽曲として初めてオンエアーされたんですって。で、アメリカのラジオ局って結構保守的なところがあるので、これは非常に珍しいことですね。で、現地の業界関係者も「『Nxde』のラジオデビューは非常に歴史的な出来事だ。K-POPが世界市場で進出する上で言語が障壁にならないことを改めて確認できた」っていう風にコメントしていたりして。

(宇多丸)K-POP、いくら売れてても、やっぱり基本的には英語曲で、ものすごく向こうのモードに合わせて売れてきたわけだから。さらに次の段階っていうか。あと、やっぱりそのトータルのコンセプトっていうとこが本当にわかりやすいし、今っぽいし。ねえ。

(高橋芳朗)ビデオで興味を持った人もいるんじゃないかなっていうね。で、その『Nxde』の評判も影響してるのかわかんないすけど、この『Nxde』EPの『I LOVE』も全米アルバムチャートで初登場71位にランクインしたんですね。これは大健闘と言っていいと思うんですよ。アイドゥルって2020年にアメリカデビューしてるんですけど。アメリカのメインのチャートにランクインしたのは今回が初めて。

で、『Nxde』の曲自体もワールドデジタルソングセールスのチャートで13位に食い込んでるというヒットになってるんですよね。だから今年のK-POPを代表するヒット曲であることは間違いないし。この間も紹介しましたけど、ガールズグループのスタイルウォーズ化している状況の中で、頭ひとつ抜けたヒットになったんで。ぜひ、ちょっと皆さん、ビデオと共にチェックしてほしいなと思います。

(宇多丸)全然知らなかったので、ありがとうございます。(G)I-DLE『Nxde』。

(高橋芳朗)ちょっとね、もう語りきれないメッセージが込められてたり。ネタがいろいろビデオに仕込まれているんで。そのへんも皆さん、チェックしながら見ていただきたい感じですかね。

(宇多丸)はい、ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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