(町山智浩)『直撃地獄拳 大逆転』を。『ルパン三世』みたいな話なんですけども。まあ、ダイヤモンドを強奪に行く泥棒3人組の話なんですね。で、もう全編小学生が考えたみたいなギャグが5分おきにぶち込まれるというね、やりたい放題の、もうドリフのコントを1時間半にしたみたいな映画になっているんですよ。
(山里亮太)どんなことなんですか? そのギャグっぽいところは。
(町山智浩)説明をするとギャグをダメにしちゃうのですごく難しいんですけども。とにかく、全編下ネタ。子供が喜ぶ、だからうんこ、おしっこみたいなのばっかりなんですよ(笑)。
(赤江珠緒)ええっ? 全編?
(山里亮太)これ、どこかで見れないかな?(笑)。
(町山智浩)ぜひ見てみてください。もうアホらしくて。特にね、彼らがレストランに行くんですけど。あまりにも高級なレストランに初めて行ったので、テーブルの上にナプキンが折りたたまれて立った状態で置いてあるのを見て、「これは何だろう?」って悩むシーンがあるんですよ。で、高級なレストランに行ったことなくて。千葉ちゃんたちは定食屋とかしか行ったことがないから。で、そのナプキンを見て彼らがどうするか?っていうギャグが本当にくだらないんでね(笑)。ぜひ見ていただきたいと思います。
(山里亮太)もう1回、タイトルを聞いていいですか?
(町山智浩)『直撃地獄拳 大逆転』です。
(山里亮太)『直撃地獄拳 大逆転』(笑)。
(町山智浩)すごいですよ、これ。
(赤江珠緒)もうタイトルからして小学生男子が考えたみたいですもんね(笑)。
(町山智浩)そうなんですよ。でね、本当に思った通り、その続きは仕事が来なかったみたいですね。完全に映画を破壊しましたんで。だから、すごいんです。顔をバンバン!って叩くと首が180度回転するみたいなシーンがあるんですね。首の骨を折られて。でも、その後も普通に動いているんですよ。単純にそのシーンは背広を後ろ前に着ているだけなんですね。バカバカしいとしか言いようがないんですけども(笑)。ただ、この映画もタランティーノに影響を与えていて。タランティーノ『キル・ビル』の中で……千葉ちゃんっていつも忍者の役なんで。天井に貼り付いているっていうシーンがあって。それをちゃんと『キル・ビル』でユマ・サーマンにやらせています。
(赤江珠緒)ああーっ!
(町山智浩)天下のハリウッド女優に、映画自体を辞めたくて破壊した映画の真似をさせるなんてどんなんだ?って思いましたけども。「これ、いいの?」って思いましたけども。あと、振り向いた人から目玉がボロッと出ているっていうシーンも『キル・ビル』の中にあって。あれもタランティーノが『直撃地獄拳 大逆転』から引っ張っているギャグなんですよ。そういうね、とんでもない映画が『直撃地獄拳 大逆転』なんですが。でも、彼がやりたいのはそういう映画じゃなかったんですよ。千葉さんがやりたかったのは『仁義なき戦い』だったんですよ。
(山里亮太)あれ、めちゃくちゃよかったですもん。勝利。
(町山智浩)そう! 『仁義なき戦い』2作目の『広島死闘篇』の大友勝利ですね。これ、ご覧になりました?
(山里亮太)もちろんです! もう1回、見直しました。
『仁義なき戦い 広島死闘篇』の大友勝利
(町山智浩)すごいんですよ、本当に。これね、『仁義なき戦い』の「仁義なき」という言葉を一番表わしてるキャラクターなんですよ。仁義もモラルも善悪もなにもないんですよ。で、欲しいものがあれば親分だろうと兄貴だろうとお構いなしに殺すという。しかも、そのやり方は卑怯極まりない。卑怯で凶暴でとにかく欲望の塊。で、とにかくやりたい放題なんですよ。この大友勝利っていう人は。で、名セリフがあって。「ワシら、なんでヤクザやっとるんか? ワシら、うまいもん食って、マブいスケを抱くために生まれてきとるんやないの?」って言うんですよ。
(山里亮太)そうなんですよ。かっこいいんですよね! 競輪場の利権の話。
(町山智浩)これね、すごいのはヤクザがかっこつけてね、任侠だの仁義だのって言ってるんですよね。「でもそれってきれいごとだろ? 嘘だろ? 俺は本音を言うよ」っていう役なんですよ。千葉真一の役は。これ、なんでこんなひどい卑怯でズルくて悪いやつがこんな人気なのか?っていうと、本音だからですよ。みんながヤクザに憧れる本当の理由を言ってるんですよ。で、それはなぜこの映画の中で出てきて重要なのか?っていうと、戦争体験があるんですよ。『仁義なき戦い』っていうのは要するに、広島で原爆の被害にあった人たちの物語なんですよね。
で、この大友みたいな人たちを「アプレゲール」っていうんですよ。当時、言われた言葉です。それは、太平洋戦争でいろんな建て前が日本にはあったわけじゃないですか。「アジアの解放」とか「聖なる戦争」とか。そういうきれいごとに騙されて青春を奪われてしまった若者たちの叫びなんですよ。「そんなの、嘘じゃないか! もう2度と騙されねえぞ! 俺たちはやりたいようにやるんだ!」っていうのがアプレゲールという人たちなんですね。それを代表してるのはこの大友勝利というキャラクターだったんですよ。だから、すごい人気だったんですけど。
『沖縄やくざ戦争』でもね、そういうキャラクターで。「2度とヤマトに沖縄の土は踏ません!」っていうヤクザなんですね。で、「そんなことをしたら山口組と戦争になるぞ!」っていうと千葉さんはこう言うんですよ。「戦争、だーい好き!」って。それは、戦争で散々踏みにじられた人々の怒りなんですよね。まあ、そういう話をするとね、千葉さんがね、「いやー、よく見てるねえ。ありがとう!」って言いながらね、手を握ってくれたんですけども。
でも、彼はやっぱりハリウッドで映画プロデュースをしたかったんですよ。やっぱり日本はね、千葉さんには狭すぎたんです。巨大なスケールのアクションをやりたかったんですよ。
(『戦国自衛隊のテーマ』がかかる)
『戦国自衛隊のテーマ』
(町山智浩)あ、『戦国自衛隊のテーマ』がかかっていますね。それで会うといつもね、ハリウッドで作る巨大なスケールのアクション映画のアイデアや夢を僕に……もうみんなに語っていましたね。少年みたいに目を輝かせてね。それで今、流れてる『戦国自衛隊』。千葉さんの役は自衛隊の部隊を率いている隊長なんですけども。戦車やヘリや哨戒機とともに日本の戦国時代にタイムスリップするんですね。で、自衛官たちはみんな、「現代に帰りたい。戦国時代は嫌だ!」って言うんですけども。でも、千葉さんだけは違うんですよ。「戦国時代、最高じゃないか! やりたい放題だろ!」って。
で、自衛隊というのは戦争ができない軍隊じゃないですか。でも、彼は侍なのに……だから生きる時代を間違ったんですよ。千葉さんは。戦国時代に生まれてくるべきだったんですよ。彼は。そして、天下を取ってやろうじゃないか!っていう話なんですよ。だからね、本当にねこの『戦国自衛隊』の戦国時代に天下を取ろうとする千葉さんはね、映画人としての千葉さんともかぶってくるところがあるんですよ。
(赤江珠緒)ふーん!
(町山智浩)でも結局ね、ハリウッドでは映画をプロデュースできなくて。それもまた、戦国時代で天下を取れなかった『戦国自衛隊』の千葉さんにもかぶってくるところがあって。非常にこの歌はね、いろんなことを思わされますね。はい。
千葉真一さんには生前3回お会いできました。いつも新しい映画の企画を話してくれました。シカゴでギャングスターになった最初の日本人、トーキョー・ジョーこと衛藤健の実話の映画化をハリウッドに売り込んでいましたが、残念ながら実現しませんでした。観たかった……。 pic.twitter.com/hXZa3YEmn0
— 町山智浩 (@TomoMachi) August 19, 2021
(町山智浩)ということで、追悼に聞いていただきたいと思います。『戦国自衛隊のテーマ』。
(赤江珠緒)町山さんならではの追悼だと思います。ありがとうございます。今日は先日、お亡くなりになった千葉真一さんについてお話していただきました。町山さん、ありがとうございました。
(町山智浩)どもでした!
<書き起こしおわり>