町山智浩『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』『Porcelain War』を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと
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町山智浩さんが2025年2月18日放送のTBSラジオ『こねくと』で映画『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』『Porcelain War』を紹介していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得て町山智浩さんの発言のみを書き起こし、記事化しております。

(町山智浩)今日も引き続きなんですけど、アカデミー賞にノミネートされている映画を紹介します。まず1本目が『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』という映画です。これはパレスチナの映画です。パレスチナとイスラエルの合作映画と言っていいと思います。今週、21日から公開なんですけれどもアカデミー賞の長編ドキュメンタリー賞にノミネートされています。

で、舞台はヨルダン川西岸地区。いわゆる「ウェストバンク」と言われている地区なんですが。これ、地図を見てもらうとわかるんですが、イスラエルという細長い国の中に二つのパレスチナ人居住区があるんですね。ひとつは今、すごく問題になっていてものすごい空爆を受けているガザ地区というのが西側の地中海に面した海岸沿いにあるんですけども。反対側の内陸地の方にヨルダンとの国境にあるヨルダン川の西側の地区がこれ、ヨルダン川西岸地区、ウェストバンクと言われているところで。そこにも何百万人ものパレスチナ人が押し込められているんですよ。

この映画はここが舞台なんですけど。もともと、ここはイスラエルではなくヨルダンの中だったんですね。これは1967年にイスラエルが戦争でヨルダンから奪い取ったところで、そこにパレスチナ人が住むところだったんで。彼ら、ヨルダン人だった頃は自由だったんですが、イスラエルに取り込まれてからは中に押し込められて、外に出ることができないんですよ。

で、他のところに出ることができないだけじゃなくて……あ、ちなみにここの地域はハマスは支配してないです。ハマスがはガザだけなんですよ。ところが、この閉じ込められた地域にイスラエル軍が入ってきて、彼らがこのパレスチナ人の家をどんどん壊してしまうという映画なんですよ。パレスチナは警察というものも持っていないので、だからやられっぱなしなんですよ。これ、一応名目はあって。「ここに軍事演習場を作る。だからその土地を空けろ」っていうことで家を壊していくんですけども。

パレスチナ人の家を破壊するイスラエル軍

(町山智浩)でも、見ているとその軍事演習場は作られないんですよ。だからこれ、嘘なんですよ。ひどい話で。ただ単に壊すことが目的なんですね。パレスチナ人が住めなくすることが目的なんですよ。で、それをそこに住んでいるパレスチナ人……ずっと住んでいる人ですけども。バーゼル・アドラーさんっていう人ですけども。その人がカメラで撮り続けていたものがこの映画なんですね。で、撮り続けているんですが、何もできないわけですよ。

目の前でイスラエル軍がブルドーザーとかを使ってガンガン家を壊していくんですけども。じゃあ、その人たちの家はどうなるのか? それから家財道具とかがどうなるかなんて、知ったこっちゃないんですよ。で、そこに住んでいたパレスチナの人はしょうがないから、洞窟に暮らすんですよ。もう、ひどいんですよ。水もガスも電気もなにもないんですよ。

で、それを撮り続けていたら今度は向こうが本音を出してきて。壊したところにイスラエル人の新興住宅地を作ってしまうんですよ。それが目的だったんだっていうのが露骨に分かるんですけども。そうすると、そこに住んでいたおじさんが「俺の家を壊すな!」ってやっていると、その人は撃たれてしまうんですけれども。それもね、目の前で起きていることを撮影しています。

もう目の前で撃たれるところがちゃんと撮影されてるんで衝撃なんですけど。ただね、そこにイスラエルの若者が来るんですよ。監督たちもみんな、90年代生まれの人たちなんですよ。撮影している人たち。若者だわ。俺からすると。娘と変わらんわ。で、イスラエルの人が来て「ひどいことを行われてるので頭にきて、取材しに来た」っていうジャーナリストなんですよ。で、撮っているうちにイスラエルのジャーナリストとこれを撮り続けていたパレスチナの若者たちの間に友情が芽生えていくんですね。で、もう腹を割って話すわけですよ。「なんでこんなことになってるんだ?」って。

で、イスラエルの彼、名前はエイブラムスさんですね。ユバル・エイブラムスさんですけど。「俺たちも反対してんだけど、止まらないんだ」っていうことで。夜、ずっと焚き火を囲んで話し合うシーンとかもありますけども。お酒は飲んでなかったみたいですけど。そういう映画で。

これが今、アカデミー賞の候補になっていて。前に紹介した伊藤詩織さんの『ブラック・ボックス・ダイアリーズ』と争ってるって感じですね。長編ドキュメンタリー部門で。で、これがアカデミー賞を取るかどうか。『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』……このタイトル『故郷は他にない』っていうのはイスラエル側が「出ていけばいいじゃねえか」って言うんですよ。これ、出て行けないのにそう言うのね。要するに、出れないんですよ。閉じ込められていて。それになのに「出ていけばいいじゃねえか」って言うんですけど。だから「他にないじゃないか」っていうことで『ノー・アザー・ランド』っていうタイトルがついてるんですよ。

「出ていけばいい」と言われても、どこにも行けない

(町山智浩)これは今、すごい大問題になってることですね。アメリカのトランプ大統領が先日、ガザの空爆でもうめちゃめちゃになって、何万人も死んだところをアメリカが占領して、アメリカのものにして。そこを高級リゾート地にするっていう発表をしたんですよ。これ、日本でも報道されてますよね? これ、どうかしてますよ。何万人もの子供たちを殺したところにリゾート地を作って、誰がそこで遊ぶんだ?っていうね。

そんなところ、誰が行くんだ?っていう。もう人でなししか来ないだろう?っていう。で、しかもそのイスラエル、ネタニヤフ首相がものすごい空爆をして廃墟にしたところをなぜアメリカが占領するの? これ、全くわけがわからないし。それで少し、ガザに残っているパレスチナ人たちも全部、国外に住んでもらうってトランプは言っていて。「エジプトとヨルダンに定住させる」って言ったんですね。そしたらエジプトもヨルダンも「そんなこと、聞いてねえよ?」って怒っているんですけど。

何でも勝手に決めちゃうんですね。なんかもう本当に俺、「これは現実なのか?」って思ってますよ。とにかくね、このタイトルにそういうものに対する怒りがにじみ出てるんですけど。

もう1本、映画があって。これも長編ドキュメンタリー賞の候補になっていて、日本ではまだ公開決まってないんですけど。『Porcelain War』っていう映画も見たんですよ。これ、「Porcelain」っていうのは焼き物の磁器。お茶碗とかに使うやつ。だから瀬戸物ですね。「瀬戸物戦争」っていうタイトルの非常に奇妙な映画で。「何だろう?」と思って見たらこれ、撮ってる人がね、瀬戸物でかわいい手のひらに乗るようなマスコットを作ってる夫婦なんですよ。名字が違うからカップルみたいなんですけども。で、一緒に暮らしていてかわいいフクロウとか、猫ちゃんとかね、カメレオンちゃんとかいろいろいっぱい作っていて。きれいに色を塗って作っているアーティストなんですよ。陶芸家ですね。

それが自撮りで作っているところをカップルで撮り合っているだけの映画なんですよ。前半は。ほのぼのしていて。ところが、そこにプーチンのロシア軍が攻めてくるんですよ。それでもて、ものすごい爆撃があって、戦車で踏みにじって虐殺をしてるんで。今まで、かわいい瀬戸物のマスコット作ってたおじさんが「故郷を守るしかない!」ってことで銃を取って戦ってロシア軍と始めるんですよ。

後半はだから……これ、自撮りなんですけども。ずっと激しい戦闘シーンですよ。そんなものを撮るつもり、なかったわけですよ。彼らは。そうしたらそんなになっちゃって。それでまた先週、トランプがプーチンと一緒にウクライナのロシア側の地域をロシアにあげるっていう発表をして。「なんでお前が決めるんだよ?」っていう。もうなんなの? トランプ、地球の王かなんかのつもりなのかな?

トランプさん、そこに住んでる人に人生があるとか、まるでわかってないんだと思いますけど。『マッドマックス』に出てくるあの首領ですよね。「ヒャッハー!」な人たちを率いている人たちと同じでね。しかも、そのウクライナにね「もし条件のいい形でプーチンと交渉してほしいんだったら、ウクライナにある地下資源の半分を俺によこせ」って言ったんですよ。もう、ヤクザ? 本当、俺は信じられないですよ。

交渉じゃなくて、「みかじめ料をよこせ」みたいな感じでね。俺、これが現実だってこと自体が全く信じられないですよ。まあ、この『Porcelain War』、「瀬戸物戦争」っていう映画はこれもウクライナの問題なんで。今現在、アカデミー賞でこれが候補になってるってことは非常に大きな意味があるんですが。

『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』予告

『PORCELAIN WAR』予告

アメリカ流れ者『ノー・アザー・ランド 故郷は他にない』

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