宇多丸とJini 東京五輪開会式・ゲーム音楽演出の問題点を語る

宇多丸とJini 東京五輪開会式・ゲーム音楽演出の問題点を語る アフター6ジャンクション

ゲームジャーナリストのJiniさんが2021年7月28日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』に出演。宇多丸さん、宇内梨沙さんと東京五輪開会式のゲーム音楽演出の問題点について話していました。

(宇多丸)ということで今日はちょっとオリンピック、まだまだ続いていますが。新型コロナウイルスの感染も広がる中であれなんですけども。ちょっと先週の開会式に関して、とあるゲストをお招きして木曜ならではの話を展開していこうと思っております。アフター!

(宇内梨沙)シックス!

(宇多丸・宇内)ジャンクション!

(中略)

(宇多丸)そんな我々が……まあ、ちょっとた先週、オリンピックが始まって。いろいろとね、ありますけども。思い出してみると、開会式。いろんな意見ありましたけど。僕もね、この番組でいろんな話しましたけど。思い返してみたらね、なんか結構良かったな、みたいな。開会式。やっぱり、全然いいんじゃない、みたいな。やっぱりあの出だしでね、あの『AKIRA』の金田のバイクがザーッ!って来てさ。

(宇内梨沙)あの演出ね!

(宇多丸)「そこな! それそれそれ!」って。で、そこからのPerfumeじゃん。ボーン!って。

(宇内梨沙)世界のPerfume!

(宇多丸)世界に出して恥ずかしくない。で、そこから三浦大知くん出てさ。

(宇内梨沙)土屋太鳳ちゃんも踊ったり。

(宇多丸)土屋太鳳ちゃんも踊って。ドローンもこういう使い方をするんだ! ただドローンを浮かすだけじゃないんだ!っていうね。

(宇内梨沙)競技紹介も熱かったですよね! マリオが出てきて!

(宇多丸)みたいな感じでね。結果、全然よかったなっていう映像が俺の脳裏には流れている、みたいなね(笑)。

(宇内梨沙)「みたいな」(笑)。

(宇多丸)ということで、これは何の話かと言いますと、今出てる週刊文春で。これ、どういうリークなんですかね? 元々の、振り付け師のMIKIKOさんとかが中心になってやっていた当初の案。IOCも当初は絶賛していたという開会式の案というのがなんか、どっかのルートから出てきて。「本来なら、こういう演出だった」っていう。たしかに、この記事を読んでみると今の現状、我々が見たあれに、それの残骸は残ってるんだよね。若干ね。若干の残骸は残っていて。

(宇内梨沙)「ここか」みたいな。

(宇多丸)「ああ、だからあれが急に出てきたんだ」とかっていうのがあって。正直、この元の案を見ると……まあ、この通りに行ったかはわからないけども。まあ、いいじゃん。これさえできていたら……みたいなの、あるじゃない?

(宇内梨沙)「これが、できたんだ」ってちょっと思っちゃいましたね。

(宇多丸)ねえ。なんかそれで余計に悔しくなっちゃって。だから開会式、もちろん皆さんね、頑張った人は頑張ったと思いますし。まあ、楽しんだ部分もなくはなかった。あったはあったけど。正直、この元の案を見ると若干下方修正せざるをえないっていうか。ちょっとね。うん。そういう感じがあるんですよ。で、そんな中、この開会式と言えばゲーム音楽。「日本が誇るゲーム文化」ということなんですかね? ゲーム音楽の数々が流れて。それで入場というところも話題になりました。いろんな意味でこれも意見が出まくっているわけなのですが。これに関して、ちょっとこの方を交えてお話をしようかと思っております。ゲームジャーナリストのJiniさんとお電話、つながっていますので。Jiniさんを交えてお話していきたいと思います。もしもし、Jiniさん?

(Jini)もしもし。

(宇多丸)よろしくお願いいたします。

(Jini)はい。よろしくお願いいたします。

(宇多丸)ということで、改めて言うと東京2020オリンピック、開かれて。開会式が7月23日の金曜日、夜8時からおよそ4時間に渡って開催された。各国の選手が入場するところで、いわゆる名作ゲーム。『ドラゴンクエスト』をはじめとする名作ゲームの音楽が流れて……というような演出がありました。それに関してなんですけども。Jiniさん、もちろんいろいろご意見というのをね、発表されたしてますもんね。

(Jini)そうですね。ちょっと、本当に開会式の半日後ぐらいに記事を書いたんですけども。

(宇多丸)その前にまず、宇内さんがどう感じたか、聞いておこうかな? 宇内さん、どうでした?

(宇内梨沙)まあ、選手入場が始まるタイミングで『ドラクエ』のテーマが流れて。

(宇多丸)オーケストレーションがね。「あ、来るな、来るな。なにが来る? あれか? あれか? ドーン!」って。

(宇内梨沙)「ドーン!」って。「ここで来たか!」って。なんとなく、リハーサルの音が漏れてて。なんかサブカルチャー系の作品がピックアップされそうだな、みたいな話は結構されていたじゃないですか。「ああ、なるほど。入場音楽を全部、ゲームでやっていくのか」と思って。やっぱり単純にワクワクしました。「次の曲、なんだろう? 次はなんだろう?」っていうワクワク感はすごく感じられました。ただ……途中から、セットリストがもう漏れちゃっていたんですよね。なぜか。で、何曲かも決まっていて。入場で絶対にこれ、この曲数じゃ足りないだろう?っていう。入場、何時間もかかる中でこの曲数じゃ足りない。じゃあ、どうするんだろう?って思って待っていたら、『モンハン』の曲が2回目、流れはじめて。「テテテテー、テテテテー♪」って。

曲数が足りず、ループする

(宇多丸)あのさ、喫茶店とかにあまりにも長くいすぎると起きる現象ね。ファーストフードとかね。

(宇内梨沙)「えっ、オリンピックでループしちゃうの!?」ってちょっと思っちゃって。

(宇多丸)ここね、ちょっとがっかりだよね。

(宇内梨沙)「えっ? だって曲ってたくさんあるのに……」って。

(宇多丸)だからちょっとそこでガクッていうか。

(宇内梨沙)ガクッとして。ずっと友達から「『Apex』やろう」っていう連絡が来ていたんで。プレステをポチッとやって。横目で開会式を見ながら……。

(宇多丸)一応、見てはいるけども。「ああ、ゲーム音楽。はいはい。まあまあ、ああ、ループだ。はい、ポチッとな」でゲームを始めたっていう。

(宇内梨沙)「まあ、1周聞いたから。じゃあゲームをやりながら見るか」みたいな。

(宇多丸)ゲーマーの鑑(笑)。Jiniさん、ということで……。

(Jini)いや、本当にゲーマーの鑑ですね(笑)。正直、宇内さんに僕の感想をほとんど言っていただいたみたいな(笑)。でも本当に最初はすごいやっぱりワクワクしたし。みんな、たぶんザワザワってなったと思うんですよね。ソーシャルネットワークの反応を見てても「えっ、『ドラクエ』?」とか「えっ、『モンハン』?」みたいな感じで。みんな「ワーッ!」って盛り上がったと思うんですよ。で、その時もちょうど作曲家の人たちが「えっ、聞いてない。聞いてない!」っていうね。

(宇多丸)ねえ。本人に連絡が行かないんですね。

(Jini)そうなんですよ。その作曲をされてた方がみんな「うわっ、やっと世間に認められた。嬉しい!」って言っていて。もう僕ら、本当にどんちゃん騒ぎみたいな感じで。「ゲームなんか、やってる場合じゃねえ!」って釘付けになってたんですけども。でも、よく見てると「あれ? なんかこれ、2曲目じゃない?」とか。

(宇多丸)やっぱりループ問題(笑)。

(Jini)「あれ? ループしてる? なんかループしてるし……3回目、来た!」みたいな。

(宇内梨沙)ですよね(笑)。

(Jini)「ちょっとじゃあ……『タルコフ』やるか」って。

(宇内梨沙)Jiniさんも(笑)。

(宇多丸)『Escape from Tarkov』を(笑)。ねえ。

(Jini)ちょっと『Escape from Tokyo』しちゃいましたね(笑)。

(宇多丸)東京からエスケープして。平和の祭典の最中にもう一番血なまぐさいゲームをやるという。やっぱりそこに、僕なんかはなんというか、ゲーム音楽を使うのはいいんだけど。でも「はい、使いましたよ」止まりっていうか。

(Jini)いやー、そうですよね!

「はい、使いましたよ」止まりで有機的な演出ではない

(宇多丸)有機的な演出ではないっていうか。なんか「愛がない」ぐらいに思えちゃうんだよね。

(Jini)僕も正直、まさに半日でそのことを記事で触れたですが。僕がちょっと引っかかったのは……本当に嬉しかったんですけど。2点ぐらい「これは、うーん……」って思ったところがありまして。ひとつが、先ほども宇多丸さんがおっしゃった、その週刊文春の記事。元々、これはMIKIKOさんの案で。結構ゲームをゴリゴリにやっていくっていう風なところがあったからこそ余計に思うのは、ゲーム音楽は流れるんですけど、本当に音楽が流れただけなんですよね。

(宇多丸)要するに、ゲーム的な演出とかゲームを思わせるものとか。そういうところはなかったですよね。有機的には絡んでいなかったっていう。

(Jini)そうなんですよ。たとえば、光でマリオ的なものを作るとか……まあ、マリオの曲はそもそも流れなかったですけども。ゲームのキャラクターが背景でパッと映るとか、ライトを使ってやるとか、オーケストラで演奏をするとか。そういうところがなくて。ほとんど、元々ある曲が流れてただけだったっていうのが……たとえば僕らゲーマーはもう散々知ってるんで。「嬉しい、嬉しい!」ってなるんですけど。たとえばですね、これゲームを知らない人が聞いたらどう思うか?

(宇多丸)本当に。ただの音楽にしか聞こえないですよね。それは。

(Jini)そうなんですよ。ゲームの音楽かどうかもたぶん気付かないし。僕も母親にLINEで聞いたんですよ。「今、これゲーム音楽が流れてるんだよ」って言ったら「えっ、これゲームの音楽なんだ。知らなかった」って言っていて。ほとんどの人は……しかもこれ、日本のゲームばっかりなんで。世界の人からしたら、ゲーム音楽かどうかも分からないんじゃないかなっていうのがひとつ、ありましたし。

(宇多丸)実際に世界で人気あるタイトルは違ったりもするしね。

(Jini)そうなんです。まさにそこがもうひとつの懸念点で。本当に選ばれた曲、掛け値なしに最高の曲ばかりなのは言うまでもないんですけども。ただ、今回19曲選ばれてる中で、そもそもまず「19曲」っていうのは少なすぎて。だからループしちゃってたっていうのもありますし。しかもその19曲は全て、CESAっていう業界団体の理事クラスの会社。具体的に言うとスクエアエニックスさん、セガさん、カプコンさん、バンダイナムコさん、コナミさんっていう5社の中から出てきていただけだったので。本当にどの会社も素晴らしいゲーム音楽を作られているのは疑いはないのですが。

ただ、元々IOCのバッハ会長が「多様性、多様性、多様性」っていうことをスピーチの中でも何回も繰り返しおっしゃっていたように、本当に世界中のアスリートを出迎える中でのゲーム音楽を5社からだけで出すっていうのはどうかと。たとえば、他にも任天堂とかソニーとかフロム・ソフトウェアさんとか。あと、日本には当然同人ゲームとかインディーゲームもあるわけですよね。もう本当に多様性を尊重するのであれば、こういう大企業じゃないところからもぜひピックアップしてほしいなっていう気持ちがあったりしましたね。

で、この点はそもそもどうしてこうなってしまったのか?っていうところ。別にたとえばゲーム業界と利権があったとか、そういう陰謀論とかでは決してないと僕も思っていて。むしろ、散々先ほどもお話をされてたように、二転三転していたんですよね。開会式の案というものが。MIKIKOさんの案で最初はすごいリッチにやるっていう。文春の記事では任天堂を大々的に使って……っていう風な案の話もあったらしいんですけど、それが白紙に戻されてしまい。

小山田圭吾さんが不祥事で辞任されることになったりして。本当に二転三転している間におそらく時間も費用もほとんどなくなっちゃって。で、これって正直、政府とか大会組織委員会の責任の下で起きたことではないですか。まさにそういう彼らの負担をですね、「ゲーム音楽なら喜んで引き受けてくれるんじゃないか?」ってことで肩代わりさせられたのか?っていう風に結果的には見えてしまったんですよね。今回は。

(宇多丸)うんうん。なるほど。

(Jini)なので、「ゲーム音楽がすごい評価されてよかったね」っていう気持ちはないことはないんですが、まだまだちょっとナメてないか?っていう気持ちがありましたね。ただ、今回すごいよかったというか、怪我の功名的なところもあるなとは思っていまして。今回、このゲーム音楽を巡って、すごいいろんな意見がゲーマーの間から出てきたんです。「すごいよかった」っていう意見ももちろん、たくさんありましたし。逆にゲームが政治的に利用されているんじゃないか?っていう懸念もありましたし。まあ結構それは感情的なやりとりになっちゃうというか。極論の二分化されてしまったという側面はないことはないんですけども。

あんまり、これまでゲームって政治から遠ざかっていたというか、距離感があった中で、本当によくも悪くも当然、東京五輪という一番政治的な渦巻いてるところにぶち込まれるとでみんなが政治について考えて。これからゲームと政治っていうのはどういう風に関わるべきか?っていうことを考える非常によい機会になったって言ったらあれなんですけど。結果的にそうなったのかなっていう風に僕は考えましたね。

(宇多丸)なんか、そういうたとえばゲーム音楽が使われいて。「わーい!」っていう無邪気に喜ぶだけでもっていうのが喚起されるっていう意味では、その議論が起こることそのもの、全体像っていうのかな? 問題提起として。「そんなことで喜んでいていいんですか? 喜ぶべき場面じゃないんじゃないか?」っていう問題提起が起こることそのものは、なんかすごい全然いいっていうか。そうあるべきというか。オリンピック全体にも通じることだけども。

(宇内梨沙)なんでもかんでも喜んでしまうことに対してブレーキをかける。

(宇多丸)かけてくれる効果もあるじゃないですか。その批判的意見というのは。ちょっとそれだけ取り出すと極端だったり、鋭すぎる意見に見えても、それがあることそのものに意味があるっていうか。そういう気が僕はするんですけど。

(Jini)そうですね。僕としては、もちろんこれ、「よかった」っていう意見も当然、尊重しなきゃいけないと思うんですよね。なんで、要はゲームってどっちかっていうと「まあまあまあ、いいじゃない、いいじゃない」ぐらいの感覚でなんとなく流していたというか。そもそも無関心に近かったんだと思うんですよね。

(宇多丸)まあ、存在感そのものも小さかったですしね。

(Jini)そうなんですよね。その中で、要はぶつかり合うことで本当に考える機会になるっていうか。今後、よくこういうのを「分断される」って言ったりするんですけど。僕は分断はないよりはあった方が正直、いいと僕の考えでは思っていて。

(宇多丸)あるのにないことにするとかよりはね。

(Jini)そうなんですよ。なんか、あるにはあるんだけど、ちょっと言いづらいなみたいな状態じゃなくて。どっちの立場にしても、「いやいや、僕はこう思うよ」っていうことをいろんな立場の人たちが言うっていうのは僕はすごい本当にいいことだと思うし。ゲームがカルチャーとして成熟する一歩になるだろうなって考えるので。僕は結構というテーマで記事を書いてるんですけど、すごい嬉しかったですね。

(宇多丸)そういう意味では、だからまゲーム文化というのでみんながすごくいろんなことを考えてるし。改めて自分たちの愛してきたものとは何か、みたいなことを大事にしなきゃ、じゃないけど。そういう機会ではありましたよね。

(Jini)そうですね。やっぱり本当、こんなことを宇多丸さんの前で言うのも恐縮ではあるんですけども。音楽とか映画っていうのは本当に政治的磁場から育ってきたものも多いじゃないですか。なので、そこは本当はゲームっていうのは、2000年ごろに流行った「ゲーム脳」議論とかも相まって、ちょっと隔離しておこうっていうか、遠ざかっていたところはあると思うんですよね。あそこで、たとえば「表現の自由がある」っていうことでなかなか突っ張りきれなかった部分というのは世間の抑圧もあって難しかったというのもあると思うんで。なんというか、いずれたぶんゲームって政治的にならざるをえなかったからこそ、本当に偶然とはいえ、いい機会だったなと思いましたね。

(宇多丸)香川県のさ、ネット・ゲーム依存症対策条例とかみたいなとんでもないものがある中で、少なくともそういうものに対しては「いや、オリンピックで使われているんですけど?」っていう。今後は香川県の子供たちは「いや、オリンピックで流れていたんですけど?」みたいな(笑)。

(Jini)そうなんですよ。まさにこれは借りというか……「ゲームを使ったよね?」っていうことを後でいくらでも宣言できるっていうね。

香川県 ネット・ゲーム依存症対策条例

宇多丸と井出草平 香川県ネット・ゲーム依存症対策条例の問題点を語る
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(宇多丸)それはこちらも上手く使って……っていうことですかね。ということでJiniさん。今日は短い時間でしたけども。また、改めてこの番組でもいろいろとよろしくお願いいたします。こういうゲーム時評みたいなお話も。よろしくお願いいたします。

(Jini)はい。よろしくお願いいたします。ありがとうございました。

(宇多丸)Jiniさんでした。ありがとうございました。

(宇内梨沙)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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