(山里亮太)ちょうど僕、これを目の前でパフォーマンスを聞きましたね。
(外山惠理)いいなー。
(町山智浩)彼女は日本でこれ、すごいプロモーションしていましたからね。
(山里亮太)ですよね。朝の『スッキリ』に来てこれを歌っていらっしゃって。そういう意味だったんだ。
(町山智浩)歌詞はすごい強烈な内容なんですよ。
(山里亮太)やべえ。俺、「フーッ、フーッ!」って言ってたわ。
(町山智浩)「私のことをバカで男にだらしないって思っているかもしれないけど、余計なお世話だよ!」っていう歌なんですよ。
(山里亮太)へー! すごい強い歌なんだ!
(町山智浩)すごい強い歌なんですよ。で、このへんから戦っていくようになるんですけども。2016年にドナルド・トランプが大統領選に立候補しまして。で、その時に彼がものすごく女性たちにセクハラをしているということがいろいろと判明して。「彼にレイプをされた」という人まで出てきたりして、すごい話題になっていったんですよ。で、その時にいろんな女性ミュージシャンたち……レディ・ガガやマドンナとか、そういった女性のミュージシャンや芸能人たちはすごくトランプに対して否定的なコメントを出していったんですけど、テイラー・スウィフトだけは出さなかったんですよ。
で、それには実は深い理由がありまして。彼女はカントリーミュージックから出てきた人なんですね。で、カントリーを聞くような人たちは非常に保守的な人たちが多くて。トランプ支持者たちがに圧倒的に多かったんですよ。だからそのへんで「波風を立てない方がいい」という判断を事務所の方がしたんですよ。それで彼女はそれに対して沈黙をしたことによって、逆にトランプ支持のネオナチとか白人至上主義者たちが勝手に「テイラー・スウィフトは隠れトランプ支持者なんだ!」って言い出して。「彼女は白人至上主義者たちの女神だ!」って言い出して勝手に崇拝し始めたんですよ。
(外山惠理)はー!
(町山智浩)「テイラー・スウィフトはネオナチや白人至上主義者の女神だ!」とかって。KKKとかが。で、彼女は非常に困ったことになっちゃったんですよ。それで2018年、アメリカで中間選挙があったんですね。その時、テイラー・スウィフトは「ここで私ははっきりと、反トランプであるということを言おう!」って考えて。それで言おうとするというあたり、そのスタッフと論争をしているところがこの映画『ミス・アメリカーナ』の中に記録されているんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)これ、すごいんですが。具体的には彼女のその選挙区だったところにマーシャ・ブラックバーンっていう上院議員に立候補した共和党の人がいて。「マーシャ・ブラックバーンには投票をするなという呼びかけをしたい」ってテイラー・スウィフトは言ったんですね。なぜならば、このマーシャ・ブラックバーンという人は共和党の女性なんですが、男女の給与格差を解消する法案に反対投票をしていたり、それから女性に対する性暴力を禁止する法案にも反対投票をしていたんですね。日本でも、いるじゃないですか。男女雇用機会均等法や夫婦別姓の法案に反対する女性議員って。
で、テイラー・スウィフトが「だからマーシャ・ブラックバーンには投票をするなと言いたい」って言ったら、スタッフに「それを言ったらマーシャ・ブラックバーンはトランプにかわいがられている議員だから、反トランプということになるのでやめておこう」って言われるんですよ。その時にね、セキュリティーの担当者はこう言うんですよ。「トランプに反対したら、何が起こるかわからないぞ。恐ろしいぞ」って言うんですね。
で、それはかつて、同じカントリーシンガーでディクシー・チックスという人たちがイラク戦争に反対した時、当時のブッシュ大統領の支持者からものすごい攻撃を受けて、カントリーミュージック界から締め出されたっていうことがあったんですよ。だから「ディクシー・チックスを思い出せ!」って言われるんですよ。で、「もしトランプに反対したら、君のファンの半分は消えてなくなるぞ!」って言われたんですよ。
で、彼女はその時の心情を歌にしていまして。『The Archer』という曲なんですが。それはすごい歌詞で。「私は戦う準備ができているわ!(Combat, I’m ready for combat)」って言うんですね。こんな曲です。
Taylor Swift『The Archer』
(町山智浩)はい。これの歌詞は「私はコンバットする準備ができているわ!」っていうすごい歌詞なんですよ。美しい歌なんですけども。「それで私から去っていくのは誰?(Who could ever leave me, darling)」って言っているんですよ。「私についてくるのは誰?(But who could stay?)」っていう。すごいんですよ。「これから戦争に行くからな! 私についてくるのは誰だ?」っていう歌詞なんですよ。「逃げるやつは逃げろ!」っていう歌詞なんですよ。
(山里亮太)めちゃくちゃ戦う歌なんだ、これ。
(町山智浩)すごい歌詞なんですよ。全然そうは聞こえないですけども。で、彼女はそういう風に止められるんですけども、彼女は「私は歴史の正しい側に立ちたいから」っていう風に言うんですね。それはどういう意味かっていうと、たとえば昔、黒人の人権を……要は選挙権とかがなかった黒人の人たちの人権を取り戻そうという公民権運動というものが1960年代にあった時、それに賛成する側と反対する側がいたわけですね。で、黒人の人権を支援する側に立った人は歴史的には正しい側についたわけじゃないですか。
あと、ベトナム戦争がありましたけど、あれも戦争の賛成派と反対派に分かれたですけども。あのベトナム戦争も間違いだったことがその後、完全にもう判明して。アメリカは結局ベトナムと国交を回復してるわけですから。あれは戦争に反対した人たちが歴史的に正しい側だったんですよ。あとはイラク戦争。あの戦争は完全にでっちあげだったことはすぐに判明して、イラク戦争に賛成した人たちは歴史の間違った側だったんですよ。
「だから私は歴史の正しい側を選びたい」と言って泣きながら、「どんなに反対されても、私はそのトランプには反対し、マーシャ・ブラックバーンに反対することを表明する」って言うところがクライマックスになってるんですよ。このドキュメンタリーの。これはね、すごいですよ。そのへんのことは。だって「命が危ないよ」とまで言われるんですよ。セキュリティーの担当者に。
(外山惠理)本当。しかも1人で戦おうっていうね。30歳ぐらい……。
(町山智浩)いやいや、当時はまだ30前なんですよ。それでね、結局そのことを表明するわけです。そうしたら、トランプ大統領はその時、なんて言ったと思います? 「彼女は歌を歌っているだけだから、よくわかっていないんだろう」って言ったんですよ。それはこの間、きゃりーぱみゅぱみゅさんが黒川検事長の定年延長問題を後付けで合法化する検察庁法改正案に抗議するっていうツイートをした時に、ある政治評論家がきゃりーさんに言った言葉と全く同じなんですよ。「彼女は歌を歌っているから、よく知らないんだろう」って言ったんですね。普通に生きていれば、知っているよ、バーカ!っていうね。
だって、大人になったらみんな、投票をしなきゃならないんだもん。じゃあ、きゃりーさんは知らないで投票をしていると思っているのか?っていう話ですよね。だからこういう時、全く同じようなことを言うんですよ。そういうのを潰そうとする人はね。面白いぐらい同じなんですよ。「よくわかっていないんだろう」っていう風に言うんですよ。
それで結局、中間選挙で彼女が反対をしていたマーシャ・ブラックバーンは勝ってしまうんですよ。で、それは理由がはっきりとしていて。テイラー・スウィフトのファンというのはだいたい20代。でもアメリカの選挙って日本の選挙と同じで投票をする人の中で20代の投票率って20%ぐらいしかないんですよ。
(外山惠理)ああ、アメリカでも。
(町山智浩)アメリカでもそうなんです。だからやっぱり50代ぐらいが多くを占めちゃうんですね。だから選挙には勝てなかったですけども。このドキュメンタリーがすごいのは、テイラー・スウィフトさんはそれを知った時、まず泣くんですが……その後すぐにね、「歌ができた!」って言うんですよ。で、「今、歌ができた!」って言って曲を作るんですが、それがこれですね。
Taylor Swift『Only The Young』
(町山智浩)これは『Only The Young』という歌で。これはそのマーシャ・ブラックバーンとトランプに選挙で負けた後、すぐに作った歌なんですよ。この歌詞はどういうものかというと、「選挙のニュースを聞いた時、叫びそうになったでしょう?(The moment you heard the news You’re screaming inside and frozen in time)」っていう。いきなりそのままなんですよ。「でも私たち、やるべきことをやったよね(You did all that you could do)」って。「この政治というものはイカサマでレフェリーも騙されているのよ。今は間違っているやつらが自分のことを正しいと信じている。私たちはたしかに負けたのよ(The game was rigged, the ref got tricked The wrong ones think they’re right You were outnumbered)」っていう風に言うんですよ。「ただし、”今回”はね(this time)」って言うんですよ。
(外山惠理)うん、うん。
(町山智浩)これ、歌詞がストレートですごいですよ。「今、デカくて悪いやつとその仲間たちがいばりくさっている。その悪いやつらは汚いことをして、でもすぐにやったことを忘れてしまうのよ(And the big bad man and his big bad clan Their hands are stained with red Oh, how quickly they forget)」っていう。「やつらは私たちを助けてくれない。やつらは自分の保身で精一杯(They aren’t gonna help us Too busy helping themselves)」と。「やつらは今回、これで終わったと思っているだろうけど、そうじゃない。これが始まりなのよ!(They think that it’s over But it’s just begun)」っていう歌詞なんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)すごいんですよ。これは20代の自分たちのファンたち、その人口がまた増えていくから。だから次の選挙では負けないわっていう歌詞なんですね。まあ、これはすごいですよ。
(外山惠理)本当ですね!
(町山智浩)全然負けないんでね。まあ、みんな歌詞のことまでチェックせずにテイラー・スウィフトを聞いているという人も多いと思うんですけども。まあこのドキュメンタリー、全部字幕が出ますんで。ぜひ、どれだけすごいことを20代の女性歌手が言っているのか?っていうね。
(外山惠理)ねえ。影響力のある方だから。すごい。見ます!
(町山智浩)ぜひご覧ください! Netflixです!
(外山惠理)Netflixで『ミス・アメリカーナ』。配信中ということです。町山さん、ありがとうございました。
『ミス・アメリカーナ』予告
(町山智浩)どもでした!
<書き起こしおわり>