町山智浩 ドラマ『ウォッチメン』を語る

町山智浩 ドラマ『ウォッチメン』を語る たまむすび

(町山智浩)そう。今、アメリカみんなマスクしてて。しかも黒いマスクをしているから怖いんですよね。みんなだから本当の顔が分からないし。この『ウォッチメン』っていうのは去年作られたドラマなんですけど、なんか現在がアメリカを予言してるみたいなところがあって。ちょっとすごいなと思ってるんですが。それでなんでマスクをしていて、警察官が全員素性を隠しているかっていうと、何年か前にテロリストによって警察官の自宅が襲われて奥さんとか子供が皆殺しになるという事件があったんですよ。で、素性が知れると警察活動ができないからということで、全員が秘密になっている。だから……スーパーヒーローってみんな、そうじゃないですか。

なんでみんな、スパイダーマンとかバットマンとかは覆面をして戦っているかっていうと、素性が知れたら家族とか友人が誘拐されたりするからですよ。だからそうなってるんですけど、警察官の全員がそうなっちゃう。スーパーヒーローと同じ立場になっちゃうっていう話なんですよ。で、なぜ彼らの家族が襲われたか?っていうと、これを襲ったのはクー・クラックス・クラン(KKK)という白人至上主義団体……これは現在もある実在する団体ですけども。それの流れをくむ白人テロリストたちが襲ったんです。で、どうしてそんなことをしたのか?っていうと、これがね、この『ウォッチメン』というテレビシリーズはすごくて。現実の歴史と『ウォッチメン』の別の時間軸の歴史世界というものがすごく複雑に絡んでくるんですよ。

というのはね、これは「レーガン大統領がいなかった世界」なんですよ。で、レーガン大統領っていうのは1980年に大統領になって、1981年からものすごく右派的な政治をしていったんですね。つまり、それまでないがしろにされていると言われてきた白人労働者の人たちに味方をして、黒人の人たちの人権がどんどんと拡大されているということに怒っていた白人の人たちの支持を得たんですよ。それがあったから、アメリカというものは変わっていったんですけども。レーガン大統領じゃなくてロバート・レッドフォードがこの世界では大統領になってしまうんですよ。

(外山惠理)ええーっ!

レーガンではなく、ロバート・レッドフォードが大統領に

(町山智浩)ロバート・レッドフォードっていうのは俳優さんなんですが、ものすごくリベラルな人なんですよ。で、さっき言ったオジマンディアスっていう大金持ちが裏工作をして、ロバート・レッドフォードを大統領にしちゃったんですよ。だからレーガン以降のアメリカの右傾化がなかった世界なんですね。それでどんどんどんどんと黒人の地位が高まっていった世界なんですよ。だから、白人たちが怒って黒人に対する虐殺行為をするようになったっていうことになっていて。このドラマ、すごく考えさせられるんですよ。政治がリベラルになったら、じゃあその白人の右翼の人たち、差別主義者はどうなるか?っていうと、かえってテロリスト化するんですよ。

だからそういうところがね、「正義って何だろう?」っていうことをいろいろと考えさせてくれるドラマになってるんですね。しかもそのKKKっていうのはみんな、覆面をしているじゃないですか。それは要するに、自分たちが差別的な理由でテロを起こすから、素性が知られたら困るからなんですけども。これ、警察官も覆面をしていますから。お互いに覆面をしたまま、戦うんですよ。それで互いの素性がわからないという。だから、このドラマはその2つのグループ、警察官 VS 白人至上主義者グループなんですけれども、お互いの正体を知ろう、知ろうとするミステリーにもなっているんですよ。それで、敵の中にも味方がいるかもしれない。味方の中にも敵がいるかも知れないっていうことで。わからないんですよ。

(外山惠理)そうか。本当の姿がわからないんですもんね。なるほど。

(町山智浩)そうなんですよ。それですごく複雑な話になっていて。しかも、なぜその黒人を憎んでいるのか?っていうと、「リペレーションというものが行われた世界」という設定なんですね。これね、「リペレーション(Reparation・賠償)」っていうのはね、アメリカでは何百年も黒人を奴隷にしていたじゃないですか。でも、アメリカ政府ってそれに対する賠償というものをしていないんですよ。ところが、この『ウォッチメン』はその賠償をした世界ということなんですよ。ロバート・レッドフォードが大統領だから。

なので、ずっとね、南北戦争の時に「黒人を奴隷にしていたことに対する賠償をする」って言っていたんですけども、南北戦争で北軍が勝った後にも実際には賠償はされなかったんですよ。ところが、この世界ではその賠償がされたんで、それを白人たちは恨んでるんですよ。それで黒人に対してテロを仕掛けているんですね。しかも、そのタルサというところでは昔ですね、1921年に黒人の人たちが南部の奴隷から逃げてきて、その開拓地であるオクラホマでビジネスをやって大成功して、黒人のお金持ちがいっぱいいたんですよ。

それを恨んで妬んだ白人たちがそこを襲撃して、100人ぐらい殺してるんですよ。でね、すごいのはね、飛行機から爆弾を落としているんですよ。

(山里亮太)ええっ?

(町山智浩)普通の街の商店街ですよ? これに関しては実際にオクラホマのタルサ市が最近、2000年代になってからその虐殺の被害者たちの遺族を捜して、全部弁償するっていうことを始めました。だから事実とフィクションがものすごく複雑に絡み合っている、すごい面白いドラマなんですよ。

(外山惠理)えっ、このドラマのおかげで賠償金を……というか、そういう風になったわけじゃないんですか?

(町山智浩)それは違うんです。賠償金と遺族の特定っていうのは10年ぐらい前に行われたんですね。でね、これがすごく面白いのはね、実際にオバマ大統領が出てきた時に、そのオバマ大統領は黒人の大統領ですごく差別を無くすような政策をしていった時に実際にどうなったのか?っていうと、白人至上主義者のグループがどんどん伸びたんですよ。彼らのメンバーの数とかその活動はどんどん激しくなっていったんですよ。オバマ大統領に対する反発でね。で、その彼らの票をつかんでトランプが大統領選に出て、当選してるんですよ。

(外山惠理)そうか……。

現実のアメリカを反映した作品

(町山智浩)だからそれもね、このドラマ『ウォッチメン』には盛り込まれていて。すごい現実を反映してるものになってるんですよね。だから差別を政府の方がなくそうとすると、逆にそういう差別する側の人たちが地下に潜ったりテロリスト化するんだっていう難しい問題を描いてるんですが。それとプラス、じゃあ神であるそのドクターマンハッタンはどこにいるのか?っていう問題があるんですよ。

こんな現状に対して、その神になった男、ドクターマンハッタンはどこにいるのか?っていうことがあるんですけど、ドクターマンハッタンっていうのは元々が人間だから、神のような力を持っても性欲があるんですよ。人に恋をするんですよ。あの、ギリシア神話に出てくるゼウスっていう神がいるじゃないですか。ゼウスはスケベなんですよ。

(山里亮太)ああ、そうですか?

(町山智浩)ゼウスは人間の女の子に惚れちゃうと、次々とエッチをして子供をいっぱい生ませるんですよ。ヘラクレスとかもそうですよ。で、このドクターマンハッタンもそういう神様になっちゃうんですよ。

(外山惠理)じゃあ、子供はいっぱいいるんですか?

(町山智浩)いや……そこまでは言えないんですけども。この『ウォッチメン』ってどこに着地するのかな?って思ったら、なんと宇宙的な規模のラブストーリーとして終わっていくんですよ。

(外山惠理)ええーっ! それ、何話あるんですか?

(町山智浩)9話かな?

(外山惠理)9話で終わるんですか。へー!

(町山智浩)そんなに長くないです。ちゃんと終わります。

(外山惠理)へー! 見たい。

(町山智浩)だからぜひこの機会にご覧いただけるといいかなと思います。ものすごく複雑でね、でも面白いですよ。

(山里亮太)今、説明をうかがったので。見方がわかりました。

(外山惠理)ねえ。ありがとうございました。町山さん。

(町山智浩)はい。ロマンティックな映画でもありますから。

(山里亮太)ああ、そうなんだ。今のお話を聞いてどうロマンティックになるのか……。

(町山智浩)俺も期待してなかったからびっくりしましたよ(笑)。ということで、今ネット配信していますので。よろしくお願いします!

ドラマ『ウォッチメン』予告編

(外山惠理)ドラマ『ウォッチメン』は明日、4月22日(水)から先行配信スタートということです。

<書き起こしおわり>

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