町山智浩・宮藤官九郎・北丸雄二『いだてん』を振り返る

町山智浩 NHK大河ドラマ『いだてん』を語る ACTION

町山智浩さん、北丸雄二さんが2020年2月10日放送のTBSラジオ『ACTION』に出演。宮藤官九郎さんと大河ドラマ『いだてん』を振り返っていました。

(幸坂理加)では続いて、『いだてん』の話に移ってもよろしいでしょうか?

(町山智浩)フフフ(笑)。

(宮藤官九郎)すいません、逆になんか、すいません(笑)。

(幸坂理加)では、まずは北丸さんから『いだてん』をご覧になっての感想を宮藤さんにぶつけていただいてもよろしいでしょうか?

(北丸雄二)いや、宮藤さんに言ってもしょうがないんですけど……なぜ、日本の撮影現場とかテレビ業界っていうのは、まあ先ほどの町山さんの話も通じるんですけども。たとえばいろんなスキャンダルがあった時に、いろんなところに目配りをしなくちゃいけなくて。脚本家が本当は関係ないところで悩まなくちゃいけないっていうところも……大変でしょう?

(宮藤官九郎)フフフ、これは俺の愚痴を誘発させるような……はい(笑)。

(北丸雄二)そんなことを気にしないでどんどんやらせてくれないと……それこそ町山さんが言ったような制作者にとっての一番の環境っていうのができないんじゃないかと思うんだけども。それでまた、それに対してメディアがね、ちゃんとフォローしてくれない。メディア……たとえば新聞なら新聞で、新聞は報道機関というか言論機関でもあるので。そういう時にどうするのか?って……それでまたね、いろんな世論として、今はみんなTwitterだとか、個人メディアを持っちゃったんで。

そこで、よっぽど暇な人たちがいろんな文句を言うんだけど、その人たちは関係ないんですよね。楽しめばいいのにも関わらず、文句を言うことによって、何か自分が一角の人物であるかのように思っちゃうっていう。これはね、やっぱり言論教育だとか、それからどうやって言葉にしたらいいのか?っていう学校教育のところからきちんと始めないと……さっきも「英語でしゃべれない」という風に町山さんが言ってたけれども。英語だけじゃなくて日本語だってろくにしゃべれないんじゃないか? 

きちんと公の言語で私たちは会話をし、コミュニケーションするその術をどんどんと失っていってるんじゃないか。それが今回の『いだてん』のいろんなところの、本当は本筋とは関係ないところでいろいろごちゃごちゃ聞こえたものだと。でも、『いだてん』はよかった。

(宮藤官九郎)フハハハハハハハハッ! ああ、よかった(笑)。僕もよかったわ!

(北丸雄二)あんなに……すごい本を僕は見たことがないですね。で、いろんな筋があったじゃないですか。たとえば思想から、それからあの田畑さんにつながる線。それから古今亭志ん生から五りんがいて、志ん朝につながる線。いろんな線がいろんなところで交錯しながら、時間を行ったり来たり、戻ったり……。

(宮藤官九郎)それがね、どうもお年寄りにはね……。

「『ポーの一族』を見ているような気がした」(北丸雄二)

(北丸雄二)わからなかったんですよね。でもそれがすごく面白かったんですよ! 僕ね、あれを見ていて最終話を見ていた時に、『ポーの一族』を見ているような気がしたんですよ。自分がね、時空を越えてずっと生きていて。で、登場人物が時々また戻ってきて、そこにいる。僕、それに気付いた時にザワッとしました。

(宮藤官九郎)ああ、嬉しい!

(北丸雄二)あんなにすごい時空間を経た物語をね、僕はこうやってテレビで見させていただいて。タダで。本当にありがたかったですね。どうもありがとうございました(笑)。

(宮藤官九郎)とんでもない。ありがとうございます。語っていただいて……でも今、本当にそうですよね。ショーケンさんとか、よく考えたら今だったら無理ですよね。出れないですよね。

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(町山智浩)そうですよ。昔、『いつかギラギラする日』っていう映画があって。ショーケンさんとか原田芳雄さんとかね、まあそのへんの人たちが全員集まってて。登場人物全員の前科を足すと何十年っていう映画がありましたけども。

(町山智浩)今はそれね、だから東出くんとかピエール瀧で『いつかギラギラする日2』を作ってほしいんですけども。沢尻エリカちゃんとかね、みんなですごい現金強奪をするとか、デカい山をみんなで踏んでほしいんですよ。それで1人役に立たない、女の尻ばっかり追いかけているやつが彼ですけどね(笑)。そういう、前科者を集めて映画を作ってほしいんだよな!

(幸坂理加)「前科者」って……(笑)。

(町山智浩)あ、捕まってない人もいますし、実刑がない人もいますけども。今もし深作欣二監督がいたら絶対に作っていただろうなって思うんですけどもね。

(宮藤官九郎)今、やっぱり見る人が「物語に集中できない」って言うんですけど、そんなことを言ったら昔の勝新さんとか絶対にね、見れないじゃないですか(笑)。

(町山智浩)そう!

(北丸雄二)僕、マリファナ事件の時にハワイに飛んで、ずっと2ヶ月いたんですよ、あそこに。あれ、1月か2月の寒い時で俺、ウールのスーツ着ていて。そのまま「行け!」って言われてハワイに飛んで。ワイキキで、浜辺のホテルにずっとウールのスーツで結局2ヶ月滞在していて。1週間目でもうTシャツとバミューダ、買いましたけどね。勝新さん、すごかったですよ。「パンツの中にマリファナ」ですからね。

(宮藤官九郎)そうですよね。

勝新太郎のテレビドラマ

(町山智浩)勝新さんのテレビドラマってもう画面が何も起こらなくて、何も映ってないんだけどもよくズームしていくとそこに勝新がいるとか(笑)。1分ぐらいそれとか(笑)。

(宮藤官九郎)フフフ、『警視K』とか(笑)。

(町山智浩)『警視K』ですよ!

(北丸雄二)脚本がなくてね(笑)。

(町山智浩)ヌーヴェルヴァーグみたいなんですよ、本当に。もう芸術だったけど、それを普通にその当時はテレビでやっていたんですよ。

(北丸雄二)実験でしたね。

(宮藤官九郎)そうでしたね。勝さんはプロダクションも独立しましたもんね。それで好きなこと、できましたもんね。昔はそういう意味で言ったら……「昔はよかった」って言っちゃうとあれですけどね。

(北丸雄二)でもクオリティーは今のが全然高いですよ。高いけど、でも自由とか、その時の遊びだとか、そういうものから出てくる意外な面白さっていうものが……今はなんかかっちり決まりすぎですもんね。

(幸坂理加)町山さんは『いだてん』をどのようにご覧になりましたか?

(町山智浩)あ、『いだてん』はね、僕は最初は脱落組だったんですけども。そこからまた復帰しましてですね。で、やっぱりどんどん、戦争が始まるあたりから緊張感が増していくんですよね。で、やっぱり阿部サダヲさんが言うセリフのひとつひとつがかっこいいんですよ。とにかく何度も問いかけるのは「オリンピックって一体誰のものなんだよ?」っていうところは本当にね、今必要な言葉だし。本当に誰のものだかわからないから、あの汚い水の中で泳がせたりとか、炎天下で走らせたりする人たちがいるわけですよ。ねえ。

(宮藤官九郎)そうですね。

(町山智浩)あとやっぱりね、途中からは浅野忠信ですよ。最近、悪いやつをやらせるなら浅野忠信っていう感じがするんですけども。小役人の悪いやつがね。

(宮藤官九郎)川島さん。

(町山智浩)そう。自民党の幹事長で、せっかくみんながずっとオリンピックを東京でやろうとして頑張っているのを、横から取っていっちゃうんですよ。で、「これからは政治案件だから」みたいな感じでね、横から取っていっちゃうんですよ。もうすごいあのタイミング、いいな、浅野忠信!(笑)。ねえ。『沈黙 -サイレンス-』でも本当に嫌な役でしたけどね!

(宮藤官九郎)嫌なやつをやると、いいですよね(笑)。

(町山智浩)嫌なやつをやらせると最高なんですよ(笑)。

(北丸雄二)でも宮藤さんのあの脚本っていうのは結局、そういう個人の物語がね……たとえば戦争であるとか、それから委員会であるとか、政治であるとか自民党であるとかっていうものが、その個人のところにどんどん公の部分、社会が覆いかぶさってくるに対して、個人の方からどうやってそこを突き抜けようか、突き抜けようかっていう。最後までそれで戦って、いわゆる私の物語を貫くわけですよね。

でもそこに公の部分というのは……さっき、「私と公」の部分の話をしてすべっちゃったんですけども。これに関しては本当に、公とその私の部分との葛藤が最後まで貫かれていて。それでかならずその個人の生活の中に社会っていうもの、政治というものがかかわってくるんだっていうことを暗に示してくれた。これはね、ものすごく反抗的な……NHKらしからぬ、反抗的な物語だったっていうような気もしますね。

(宮藤官九郎)「反抗的だ」って言われるまで、自分ではあんまり気が付いてなかったんですけども。言われてみたらたしかに、時間たって振り返ってみると「よくやってたな」って思いますね。よくこれを書いたし、よくこれを通してくれたなっていうか。

(町山智浩)東京オリンピックを延々とやって国威発揚的なね、今度のオリンピックについて盛り上げようとするのかと思ったら、東京オリンピックは1日で終わっちゃうっていう(笑)。あれもすごいなと思って。

(幸坂理加)フフフ、ああ、そうでしたね(笑)。

オリンピックは1日で終わる

(町山智浩)で、試合そのものはほとんど見せないとかね。あと、勝った人たちをヨイショするというような形ではなくて、むしろその陰で負けていった人たちをちゃんと見せていくというのも素晴らしいなと思いましたね。

(宮藤官九郎)まあでもたしかに国とか大きいものにぶつかっていくっていうことは、結局やっぱり負けていく人の話になっちゃうんですよね。どうしても。でもその人の意志はその後、ちゃんと引き継がれてるんだっていう風に、どうしてもまなっちゃうんですよね。

(北丸雄二)つながれていますもんね。本当にね。

(宮藤官九郎)そういう風に思ってもらえるといいなと思って作ってたんですけど。

(北丸雄二)いや、思いましたよ。伝わってますよ、十分に(笑)。

(宮藤官九郎)ああ、ありがとうございます!(笑)。

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