町山智浩『わたし、定時で帰ります。』を語る

町山智浩『わたし、定時で帰ります。』を語る たまむすび

(町山智浩)で、これは原作の中で何度も何度も言及されているのは「インパール作戦」なんですね。第二次世界大戦で日本軍がイギリス領のインドの都市インパールを攻撃しようとした作戦なんですけども、全くの物資不足・人員不足のまま9万人の兵士を出撃させたために2万6000人が死んだんですよ。

(赤江珠緒)「最悪の作戦だった」って言われている。

(町山智浩)その死者のほとんどが戦闘による死亡ではなく、餓死か病死だったんです。過労死だったんですよ。で、このヒロイン・吉高由里子さんのお父さんは「企業戦士」って言われていた世代なんですよ。その頃、会社員のことを「戦士」って呼んでいて、兵隊だと思っていたわけですよ。戦争が続いていて、インパール作戦は日本でその後も継続されているんですよ。

(赤江珠緒)そうか。うん。

インパール作戦と『武士道残酷物語』

(町山智浩)でも、そうやって戦ってきて、いったい何が起こったのか?っていうと、日本経済は20年以上も停滞して。賃金も上がらず、子供もいなくて国が縮小して負け戦。結果、なんにもいいことがないんですよ。でね、これは昔、『武士道残酷物語』っていう映画があったんですよ。1960年代に作られた映画で。これはその「滅私奉公」っていう侍の頃からの伝統……つまり、主君のために部下が切腹したり、辛い思いをしたり。兵隊として闘いに行ったらかならず何%かは死ぬわけですよね。そういったものをよしとしたり、そういった犠牲を賛美していた文化っていうのは実は、その武士道。武士が始まった頃からずっと続いているんだ。それが戦争になって、いまのサラリーマンになっているんだっていう。だからそれこそ400年とか続いているんですよ。

(赤江珠緒)はー! だからそういう概念というか価値観を変えるっていうのは相当のね、大変なことですけども。それに向き合っているドラマなんですね。

(町山智浩)そうなんです。だからこれ、革命なんですよ。それこそ最近のことじゃなくて400年とか500年続いているこの日本の滅私奉公とか自分を犠牲にするとかっていうバカげた文化とものすごい戦いをあの吉高由里子さんがやっているんですよ! (モノマネで)「困るんだよな~」とかって言いながら。なぜ、吉高由里子さん1人に戦わせておくのか?っていうことですよ。

(赤江珠緒)当たり前だと思っていることを鵜呑みにせずに、1回立ち止まって考えてみるというのは必要かもしれませんね。

(町山智浩)だってこの結果、いまの日本がどうなっているんだ?っていうことなんですよね。ということでね、今日が最終回の放送なんですよ。

(赤江珠緒)最終回は今日の夜10時から。『わたし、定時で帰ります。』というTBS系の火曜ドラマでございます。見逃した、これから見たいという方はParaviで配信中です。そうか。400年前まで遡るとは……そういう話だったんですね、町山さん。

(町山智浩)もっと前まで遡るっていうね。ユースケ・サンタマリアに吉高由里子さんが勝てるか?っていうことで。最終回、お楽しみに。僕もどんな終わりになるのか、知りません!

(赤江珠緒)はい。わかりました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした!

<書き起こしおわり>

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