TBS記者の澤田大樹さんがTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で男子校の文化について特集。同じく男子校出身者の宇多丸さんと男子校独特の文化を語る中で、最後に男子校が日本社会に与えた影響について話していました。
(澤田大樹)で、ここまでを通して男子校の生態というか。見てきたと思うんですけども。男子校で目指されていた男子像って結構あるなと思っていて。「運動神経がよくて、体力があって、勉強ができて、女子にモテる」っていうのが男子校における最高の男子像っていう。
(宇多丸)すげえバカみたいな人間像。
(澤田大樹)でも、今回複数の男子校出身の人に取材をして、やっぱりその男子校の行事とか風習とか空気感みたいなものを聞いていくと、やっぱりそこに収斂していくんだなっていうことからもわかるんですよね。で、なんで同じような体験をしていたのか? それぞれ別の学校で「強歩大会」っていうのがあったりだとか、女子に対する同じようなエピソードがあったりとか。そういった答えを探していたら、とある本があって。京大の先生で小山静子さんという方が書かれた『男女別学の時代: 戦前期中等教育のジェンダー比較』っていう柏書房から出ている本があるんですけど。
(宇多丸)はい。
(澤田大樹)そこにいろいろと書かれていて。そこでは男子校の多くが旧制中学を前身にしていて、そもそも男女が別でカリキュラムなどが作られていた。そこではその時点で潜在的にジェンダー的なものが埋め込まれている。普通に学校に通っているだけなのに、すでにジェンダー的であるということなんですね。で、体育会系の行事が多いのは戦前においてのスポーツの位置づけというものにあると思うんですけども。そこはやはり社会的に男性支配を正当化するための装置としてスポーツが使われていたという。
(宇多丸)うんうん。
(澤田大樹)で、「身体的に優れた男子というものが社会を運営していくのは当然だ」という風にされていたんだという。そのため、男子校において「男はスポーツに秀でていなければいけない」というイズム、これが奨励されてきたということです。だから、歩くとか走るとか泳ぐとか倒すとか、そういうことがどんどんとやられてきたという。
(宇多丸)「人より全ての面で秀でた者が人々を導くのだ」という、そういう意味でのエリート。
(澤田大樹)それでかつ、勉強ができるという。で、実際に旧制中学出身者の多くが、その後高校、大学と進学して戦前、戦後も含めて日本のリーダーになっていったことを考えると、明治以降特にその藩がなくなって、あるべき日本男子を育てるために設けられたというものが男子校。それが戦後になって共学化が進んだいまでも、そういったものが、いまの20代に聞いても同じような行事がいまだに残っているというのは、そういった「(日本男子の)あるべき姿」というのが「学校の伝統」という形で残されている。それがいまの男子校なんだという風に思うんですよね。
(宇多丸)うんうん。
(澤田大樹)で、最初、私が特集の冒頭に歌った私の母校(福島県立会津高校)の『凱旋歌』という曲なんですけども。あれ、歌詞が「強者ら(つわものら)、強者ら(つわものら)」っていうんですよ。だから「強者(つわもの)」とか「勇男(いさお)」とか、あと「戦士」とかっていう言葉が歌詞に入っている校歌とか応援歌、そういうものがものすごく男子校にはたくさん残っていたりするんですよね。
福島県立会津高等学校 凱旋歌(リンク先で聞けます)https://t.co/6BYieAlQue
— みやーんZZ (@miyearnzz) 2019年3月17日
(宇内梨沙)へー!
(澤田大樹)で、日本における男子っていうのは常に「強者たれ」「強い者であれ」っていうイズム。それはただ、「弱者の味方」という強者ではなくて、「自分たちが先頭に立って女性や強者ではない人を率いていく」という強者なんですよね。というようなことが教育されているんじゃないかなという風に思っております。ただ、この男子校なんですけど、戦前はほとんどが男子校だった。ただ、いまは男子校の数、実際にはどうなっていると思いますか?
(宇多丸)男子校の数? やっぱりさ、とはいえこんな話とかが受け継がれていたら、親としてはあんまり入れたくないって思う人、増えているんじゃない?
(澤田大樹)いまは、減っているんです。平成30年度の学校基本調査という文部省の調査があるんですけど、全国に4900校あるうち、男子校は106校。全体の2%です。ちなみに宇多丸さんが(巣鴨高校を)卒業した年はだいたい男子校は400校ありました。だから1/4ですね。
(宇多丸)うわっ、そりゃそうか。
(澤田大樹)私が卒業した時でも200校あるんで、それでも半分になっているという。なのでどんどんと減ってきている。ただ、その一方で男子校の影響力って実はまだ強いんですよ。
(宇多丸)そうか。だって受験の結果を見れば……。
政官財における男子校の影響力
(澤田大樹)特に政官財。そういったところに数多くの人材を送り込んでいるんですね。たとえば私がいま、取材をしていますけども、中央官庁のトップ、事務次官。主要13省庁のうち、出身高校がわかっている方が8人いたんですけど、そのうちの6人が男子校出身。まあ6/13ですから、ほぼ半分が男子校。それから三権の長。今度は裁判所。最高裁判所の判事。15人中4人が男子校出身。でも女性を抜くと13人中4人になるのでほぼ3割が男子校出身。
(宇多丸)うんうん。
(澤田大樹)財界を見ると日本経団連の会長、副会長が19人いるんですけど、そのうちの8人が男子校出身。そして私が取材活動している国会ですけど、安倍政権の閣僚20人中8人が男子校出身。麻生太郎さんとかもですね。で、政党で見ると自民党三役、次の総理の候補とも言われている岸田政調会長も男子校出身。野党立憲民主党の代表の枝野さんも男子校出身。もう男子校出身ばっかりなんですよ。
(宇多丸)うんうん。
(澤田大樹)メディアも例外じゃなくて、TBSの政治部は政治部長以下、複数男子校出身者がおり、全体の3、4割となっております。ということで、ある人に聞いたら日本の黒幕っていうのは実は男子校じゃないか?っていう風に言っている人がいるぐらい、日本の中枢のあらゆるところに男子校出身者がいる。
(宇多丸)しかもその男子校出身者のその中のイズムを割とバッコリと受け継いでいるというか。
(澤田大樹)そうなんです。で、それを「普通」としてやっている人たちが……。
(宇多丸)その人たちはその中での成功者だから。その中でのはぐれ者は「なんじゃい!」ってことになっているけど、その中できっちりと上手くやってきた人が中枢に行ったりしているから。ということは……っていう。
(宇内梨沙)学校のヒエラルキーでトップの人たちが。
(澤田大樹)そうなんです。だけどいま、当然日本では女性の活躍の場が広がっている。当然、日本の人口の半分は女性ですから。男だけでは日本は回らないですよね。で、「#MeToo」のムーブメントとかもあるし。男子校の考え方をそのままいままでと同じように心地よくやっていたら、社会っておかしくなっちゃいますよね?
(宇多丸)うんうん。
(澤田大樹)で、今回聞いた人の多くは「男子校の経験は一時的で特殊なものだ」って言っています。だけど、それってそういう風に思っていてもなかなか……「その後の成長に影響がある」って宇内さんもおっしゃっていましたけど。そういう影響も出てきちゃうじゃないですか。だからそういう風に思っていないと危ないなっていう風にも思えて。人知れず、いろんな人たちを実は傷つけてしまうということもあり得るなと、男子校出身者として今回、いろいろと聞いていて思ったりしました。
(宇多丸)なるほどね。いやー、本当にそうなんですよ。だから最初に受験のその進学率の高さ(2019年 東大合格者数ランキングトップ10中、7校が男子校など)みたいなのを聞いた時に感じた「えっ、でもそれってさ……?」っていうのがやっぱりガチだったっていうこともあるし。あとはやっぱりその内なる男子校の血みたいなのに我々は自分でも警鐘を鳴らしながら。
(澤田大樹)「特殊だった」って思っていれば大丈夫かな? 思っておかないとちょっと怖いし、当たり前になったら本当に怖いなって思います。
(宇多丸)いやー、意外と……さすが澤田記者。さすがの到達力がある。最初はどうなるかと思いましたが、それはちゃんと振りになっていたということですね。ということで澤田大樹記者の知っているようで知らない男子校特集でした。
<書き起こしおわり>