宇多丸 日野皓正から聞いたアート・ブレイキーの教えを語る

宇多丸 日野皓正から聞いたアート・ブレイキーの教えを語る 宇多丸のウィークエンド・シャッフル

ライムスター宇多丸さんがTBSラジオ『タマフル』の中で、さかいゆうさんのライブで共演した日野皓正さんから聞いた、名ジャズドラマー、アート・ブレイキーの教えについて話していました。

モザイク
Blue Note

(宇多丸)まあ、ライブとしてもすごく面白かったんですけど。僕らも出させてもらって、よかったんですが。アンコールで、シークレットゲストで呼び込まれたのがですね、なんと、ジャズトランペッター日野皓正さん。日野さん。わかりますね。スーパースタープレイヤーですよ。で、シークレットでこう、出てきて。まあ、『闇夜のホタル』っていう曲をね、さかいゆうくんと一緒にやっているっていうのもあるんですけど。

さかいゆう『闇夜のホタル』

(宇多丸)あの、名前は伏せられてご登場されて。まあ、大御所中の大御所じゃないですか。日野さん、しかも今年72みたいな感じなんだけど。まあ、日野さん、ねえ。たとえば1980年代とかいろいろコマーシャルとかいっぱい出られていて。非常にその、ジャズミュージシャンの中でも華のある存在感でメディアとかいっぱい出られていた。あの感じのままのね、まだぜんぜんね、ぜんぜん保っているっていうか。こんな70、いないでしょ?っていうかっこよさなんですよ。もう、むっちゃくちゃ佇まいとかも。

演奏とかも、たとえばその『闇夜のホタル』で呼び込まれて。その最初の一音でワッ!って持っていくっていう。プァーッ!でもう、おおおーっ!かかか、かっこいいー!で、あんまり手数が多くない感じとか。もうとにかく、音の響き一発で持っていく感じのね。これはもう、本当熟練のというかですね、さすがとしか言いようがないようなプレイの味わいであるとか。吹いてない時に、こうステージ上でダンスとかしてるんだけど、これがまたセクシーで。もうね、72だけど、性的にもね、とてもじゃないけど敵う要素が見つからないというか。もう、まあかっこいいわけですよ。佇まいも。

で、それだけじゃなくて、日野さん、ご挨拶させていただいて、お話して。非常に気さくな方というのはね、なんとなくイメージとしてあったんだけど。話もめちゃくちゃ面白いんですよ。たとえば打ち上げで、来ていただいてですね。あの、居酒屋で話しながら、出てくるエピソードがものすごく面白いんですよ。たとえば、とにかく割と音楽論から表現論みたいな話はしてるんだけど、そこで出てきたのがたとえばですね、昔、日野さんが東京のジャズのクラブでやっている時に、よく常連でいらしていたのが立川談志師匠が。しかも、真打ちに昇進したばかりぐらいの、本当に若くてイケイケな頃の立川談志師匠がよく、客で来ていて。

で、来ているっていうから、ステージに上げて。そうすると、ちょっと小話とかをやってくれる。で、上げるたびに小話を言うんだけど、毎回3発くらいずつ小話をやるって言ってたかな?それをやっぱり若いからというか、まあ、耳がいいんでしょうね。完全に覚えちゃうんだよって。その談志師匠直伝の小話を、とにかくいつ果てるとも知れず。『もう1発、いい?』とか(笑)。長さはまちまちだったりするんだけど、延々、こう・・・それがすごい、おかしくて。『日野さん、これ、僕、ラジオ番組やってるんですけど、今度、日野皓正の小話100連発特集っていうのはどうですかね?』みたいな。『いいね!』なんつって。とにかく気さくな方で。

かと思えばですね、たとえば、出てくる名詞がさ、世界の巨匠たちの。たとえばエルビン・ジョーンズが日本に来た時に、それこそね、大麻で捕まっちゃって。日本にいなくちゃいけなくて、その間に日本でツアーした時の話であるとかですね、あと、マイルス・デイビスの結構晩年の。マイルスとはずっと付き合いがあるんだけど、晩年のマイルスの家に行った時の話であるとかですね。もう、出てくる話がそういうのだけど。その中でも、ちょっと我々がですね、周りにいたさかいくんとかですね、ライムスターの面々がいて。おおー!ってなったのが、アート・ブレイキーという、ドラム奏者ですよ。ドラマーですよ。

アート・ブレイキーのライブ中に、これはニューヨークとかなのかな?呼ばれて。日野皓正指名で、客席に見つけて、『来いよ!』っつって。で、吹いたと。その時に、やっぱり『アート・ブレイキーに呼ばれちゃったよ!』っていうんで、若き日野皓正はですね、すごく気負ってというか、まあ、渾身のソロをワーッ!ってやって。で、決まった!って思ったらしいんですよ。そしたら、終わったら、アート・ブレイキーが言うにはですね、『お前ね、ステージで自分を証明しようとするな』って言われたっていう。

『ステージで自分を証明しようとするな』

(宇多丸)これ、普通ね、要するに証明しよう、証明しようとするわけですよね。ジャズなんかもそうでしょうし、ヒップホップなんか、もうとにかくテメーを証明したい、テメーを証明したいっていう、その塊でできているようなタイプの音楽。プレイヤーもそういう人が揃っていると思われがちなこの音楽において、『自分を証明しようとするな』。で、日野さんはそうか!っつって。で、その教えを胸に、いま、なんとかその域に達しようと精進してきたんだけども。非常にだから日野さんはご自分の言うことを謙虚なこともおっしゃって。

『もうぜんぜん下手ですよ。いまだに』みたいな。『そんな、そんな!』みたいな感じなんだけど。『えっ、じゃあ今日はどうでした?』ってさかいくんがね。『今日は自分を証明、どうでした?』っつったら、『うん。さっそくしちゃったね』みたいな(笑)。で、要はその域には達せないんだが、ただその日野さんが、要は当時のアート・ブレイキーの年齢を超えた自分が思うのは、よく考えてみたら、アート・ブレイキーもその言葉を誰かに言われたんじゃないのか?と。『自分を証明するな』と。で、それを自分に課してきたんじゃないのか?なぜなら、アート・ブレイキーってプレイヤーとしては、お前こそ、自分を証明しまくりのプレイヤーやろが!っていう(笑)。みたいな。うん。

だからこそ、要は放っておけば、俺!俺!俺!俺のプレイ、見て!俺、上手いでしょ?が立っちゃうところだけど、そうじゃない。もっと大きなものに身を任せるということを・・・やっぱりその日野さんがすごい繰り返し言っていたのは、基礎的な実力であるとか、練習であるとか。とにかく基礎に積み上げたプロとしての技術があるのは当然として、その上で、どう抜くか?っていうか。無にして行くか?みたいなのが大事なんだ、みたいなことをおっしゃっていて。非常にレベルの高い話なんですよ。だからその、ぜんぜんド素人がいきなり出て行って、『はい、生身の俺』っつったら、『バカ野郎!』って話で。

そういう話をしてるんじゃなくて。うん。だからね、その言葉の意味を探るのも含めて、日野さんはすごい僕らと、本当にやっぱりね、なかなか珍しいことで。これだけの大御所の方で、しかもほら、そんだけ豪快な、伝説的なエピソードの数々を自分でお持ちのような方は、やっぱりなかなか、ねえ。僕らとは目線が違ったりするんだけど。僕らと同じ目線で、一緒にこう、その場で考えてくれるっていうか。これはこうなんじゃないか?とか。

たとえば僕はこう思うんですけど、とか。すごくちゃんとセッション。会話もちゃんとセッションしてくれるっていうかね。で、もう日野さんが途中で帰られたんですけど、その後もう、さかいくんたちと心酔。なんて言うの?もう最高だ!と。最高の72だ!また会いたい!みたいな。もう、惚れ込んでしまったというね。日野皓正さんということでございます。

あ、ちなみに、日野さんに『いやー、本当、最高でした!』って言うと、『最高じゃないだろ?最最高だ!』とか。そういうなんか、よくわかんない(笑)。そのやり取りが3回ぐらい(笑)。『最高じゃない。最最高!』。最最高な日野皓正さんに敬意を表しまして・・・

<書き起こしおわり>

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