町山智浩『女王陛下のお気に入り』を語る

町山智浩『女王陛下のお気に入り』を語る たまむすび

(町山智浩)あと、歴史的にすごく難しい映画かな?って思うと思うんですよ。こういう話を聞くと。でも、そうじゃなくて『大奥』として面白がって見るような映画なんで。たとえば歴史的にあんまりごちゃごちゃ言ってもしょうがないと思うのは、王宮の中でダンスするシーンがあるんですね。ダンスをしているのはすごいドレスを着てやっているんですけど、マドンナが昔やっていた「ヴォーグ」っていうダンス、ありますよね?

(赤江珠緒)うん?

(町山智浩)覚えてますか?

(山里亮太)どういった動きです?

(町山智浩)ちょっと口では言いにくいんですけど、手をこうポーズしていくんですけど。マドンナのヴォーグっていうのは。

(町山智浩)そのヴォーグをしたり、あとはわかりやすいのは『サタデー・ナイト・フィーバー』のディスコダンス、あるじゃないですか。あれを王宮のダンスのシーンでやるんですよ。

(赤江珠緒)へー! 当時の社交ダンスっぽくなく?

(町山智浩)だから、あんまり指摘してごちゃごちゃ言うなよっていう映画ではあるんですよ。

(赤江珠緒)ふーん、ああ、そういうことか。

(町山智浩)もっと面白がっていいよっていうところでもあるんですね。ただ、ものすごくグロテスクなシーンも多くて。というのは、この貴族の男たちが本当に気持ち悪いんですよ。そこに写真、ありますかね?

(赤江珠緒)ああ、ありますね。

(山里亮太)うわっ、すごいな、これ。

(町山智浩)気持ち悪いんですよ。

(赤江珠緒)みんなカツラをかぶっている時代か。

(町山智浩)これはね、歴史に結構忠実らしいんですけど。男の人たちはカツラをかぶった上に、その顔におしろいを塗って口紅をつけて、つけボクロをしているんですよね。つけまつ毛とかもしていて。まあ、すごいことになっているんですけども。

(赤江珠緒)なんでこれが流行ったんでしょうね、当時ね。

(町山智浩)その頃、このセリフの中で「男は美しい方がいいだろう?」っていうセリフがあるんで。そういうブームだったみたいですけどね。

(赤江珠緒)ヒツジのオバケみたいになっていますけどもね。

(町山智浩)そう。それを全員がやっているからすごいんですよね。

(山里亮太)これが一斉に襲ってきたら、怖っ!

(町山智浩)そう。で、政治的な戦いの話ではあるんですよ。実はスペイン継承戦争をめぐって、2つの派閥が戦っていまして。その当時は議会政治の始まりの頃なんですよ。立憲君主制になっていた頃なんで、政党はあるんですね。で、その戦争に反対する政党と戦争を継続しようとする政党の政治的な戦いが王宮の中で行われるんですけども。その戦いにこの女性2人の葛藤が巻き込まれていくっていう形なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)だからこれですごく画面は絶対にこの王宮から一歩も出ないんですけど、この王宮の中での変な貴族たちのふざけた人間関係の結果として、戦争で何百万人も死んでいるんですよ。実際は。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)それがまあ、逆に見えないんですけど、想像をすると怖くなるんですよ。この人たちの「あの人が嫌い!」「あの人が好き!」とかっていうそういうので10万人とか死んじゃうんですよ。

(赤江珠緒)とんでもないことに……。

(町山智浩)結果として、戦争が動くんでね。という、そういう不気味さもあるんですけど。でもね、基本的にはこの映画、コメディーなんですよ。

(赤江珠緒)コメディー!?

(町山智浩)コメディーなんです。これ、ゴールデングローブ賞でもコメディー部門なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)コメディー部門です。分類は。だから、ギャグとしてほとんどのシーンを撮っているんですよ。これ、監督がヨルゴス・ランティモスっていう人なんですけども。この人はずーっとコメディーばっかり撮っているんですが、それが笑うに笑えないコメディーなんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)苦笑いコメディーしか撮らない人なんですよ。

(山里亮太)すごいジャンルだな、苦笑いコメディーって。

苦笑いコメディーの名手 ヨルゴス・ランティモス監督

(町山智浩)いや、日本にも結構ありますけどね。だからたとえばいちばんこの人の映画でわかりやすいのは『ロブスター』っていう映画なんですね。これ、話しましたよね?

(山里亮太)見ました、見ました。

(赤江珠緒)ああ、恋人を作らないと動物に改造されちゃうっていう?

(町山智浩)そうそう。結婚をして子供を作らない人間は社会にとっていらないからっていうことで、改造されて動物にされちゃうっていう国の話なんですよ。

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(赤江珠緒)はー! あの監督。

(町山智浩)どうしても異性と付き合えない非モテの人たちは学校に行って付き合う方法を学ぶんですね。その世界では。で、オナニーしたりすると罰として指を折られるんですけども。

(赤江珠緒)ああ、そうだ。そういう……なるほど。

(町山智浩)だからそれで「もう恋なんてしなくていい!」なんてマッキーみたいなことを言ってその学校から逃げ出すと、今度は恋愛とか結婚に反対する反政府ゲリラがあって、そこに入るんですよね。で、「恋愛とか結婚とか、たくさんだ!」とか言っていると、そこにいる人を好きになっちゃって、今度は「お前、なんか恋をしているらしいな?」ってリンチされそうになるっていう。

(赤江珠緒)ああーっ! 不思議な映画。

(町山智浩)でも、おかしいでしょう? 笑うしかないですよね? これね。でも、笑えないんですよね。こういう笑うに笑えないコメディーを作り続けている人がこのヨルゴス・ランティモスっていう監督なんですよ。だからこの『女王陛下のお気に入り』もね、「ハハハ……」ってこう失笑するというか、ため息をつくような笑いが連続して起こるというね。すごく……でも、『大奥』ってそうじゃないですか。

(赤江珠緒)そうか!

(町山智浩)「ひどいな!」って思うじゃないですか。

(山里亮太)ギャグみたいなことが起きますもんね。

(町山智浩)でしょう? いじめがね。そういう映画なんで、本当に面白いですから。あと、でもやっぱりかわいそうなところもあって。『大奥』の中でよく出てくるセリフで「私たちは大奥という牢獄に閉じ込められているんです」っていうのがあるでしょう?

(赤江珠緒)見てましたよ、岸田今日子さんのナレーションの。

(町山智浩)ねえ。「ここは女たちの牢獄です」って言うじゃないですか。この女王も王宮という牢獄に入っているんですよね。

(赤江珠緒)はー、そうか。全く望んでいないのに。

(町山智浩)そう。だって誰も彼女を愛していないんだもん。彼女が王家の血を持っているからチヤホヤしているだけで、誰も自分を愛していないっていうことを知っているからものすごく辛くて。そのへんはね、結構かわいそうなんですけどね。一歩間違っちゃうと志村けんのバカ殿になっちゃうようなギリギリのところで非常に深いドラマにしているなって僕は思いましたけど。ただ、これを演じたオリビア・コールマンっていう女優さんが言っているんですけど、「私自身は自分の女王という役をドナルド・トランプだと思って演じました」って言っているんですよね。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)「政治のこともよくわからないのに国のトップになっちゃって、わけがわからなくて癇癪を起こして。身内ばっかり味方につけて、身内の言うことだけを聞いているんだけど……」っていうね。

(赤江珠緒)たしかに。で、ブレーンもどんどん辞めていったりして。

(町山智浩)そうそうそう。で、いつもギャーギャー言っているっていう。「トランプのつもりでやりました」っていうことを言っているのが面白いですね。

(山里亮太)それを言えちゃうの、すごいな。

(町山智浩)だからこれ、昔の話のように聞こえるんですけど、いまも起こっていることですね。世界各地で。だって韓国で朴槿恵大統領のスキャンダルがあったじゃないですか。あれも全く同じですよね。

(赤江珠緒)はー、そうか! お気に入りというか、仲良しの。

(町山智浩)そう。大統領のお気に入りの言う通りにして……みたいな。で、国自体を傾かせるっていうね。どこにでもありますよ。日本でも、なんか世間知らずのお嬢さんが政治を振り回したりするじゃないですか。どこででも起こっているっていうね。全然古い問題じゃないですよ。

(赤江珠緒)そうか。

(町山智浩)そう。だから本当に面白いんで。試写にご招待します!

(赤江珠緒)『女王陛下のお気に入り』なんですが、日本では2月15日に公開なんですけど、一足早く見られますということで。しかも上映後には町山さんのトーク付き。1月29日(火)、港区六本木の20世紀フォックス映画試写室で町山智浩トーク付き『女王陛下のお気に入り』特別試写会が行われます。時間は夜6時開場、6時半に上映スタート。1月29日の火曜日です。応募の詳細についてはFOXサーチライトの公式Twitterをご覧ください。

(赤江珠緒)面白そうですね!

(町山智浩)面白いですよ、これ。イヤーな気持ちにもなりますけどね。

(赤江珠緒)古今東西ね、人間のドロドロしたところが面白く描かれているということで。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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