町山智浩『女王陛下のお気に入り』を語る

町山智浩『女王陛下のお気に入り』を語る たまむすび

町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『女王陛下のお気に入り』について話していました。

(町山智浩)アカデミー賞のシーズンになりますので、賞を取りそうな映画をどんどん紹介していきます。今回は『女王陛下のお気に入り』という映画を紹介します。これはもうすでに賞レースの中でかなり、ゴールデングローブ賞で主演女優賞を取ったり、あとはこの映画が取るだろうと言われているのはコスチュームデザイン賞。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)女王陛下の話ですから。あとは撮影賞や脚本賞あたりは確実に取るんじゃないか?って言われているような映画なんですよ。で、どういう映画か?っていうと、二大アカデミー賞女優がいまして。レイチェル・ワイズという女優さんとエマ・ストーンという女優さん、2人のアカデミー賞女優の対決映画です。で、一言で言うとイギリス版の百合版『大奥』です。

(赤江珠緒)『大奥』ね! はい。

(町山智浩)『大奥』です。ただ、お殿様は女王陛下です。

(赤江珠緒)うん!

(町山智浩)舞台は1708年のイギリスです。で、イギリスはその時にスペイン継承戦争っていう戦争をフランスと戦っています。スペインで王様に跡継ぎがいなかったんで、その血縁であるフランスの王様が「じゃあ次のスペインを継承するのは俺だ!」って言い始めたんで、それをイギリスが阻止しようとしてヨーロッパ全土を巻き込むような大戦争になったんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)でも、その当事者であるアン女王は全然状況がわかっていないんですよ。

(赤江珠緒)じゃあこれは完全に実話をベースにしているお話ですか?

(町山智浩)そうなんです。実際にあった話で。このアン女王がすごく贅沢なものを買おうとしている買い物のシーンがあるんですね。で、側近の人に「いま、我が国は戦争中ですから、そのような贅沢はちょっと……」とか言われると「えっ? 戦争してるんだっけ?」って言うんですよ。

(赤江珠緒)おっとっと……。

(町山智浩)そういう人なんですよ。お嬢さんで、全く世間を知らないんですよ。政治とか全然わかっていないんですよ。で、イギリスって非常に優れた政治家の女王が何人かいますよね? たとえばエリザベス一世とか、イギリスをあれだけの大国にした偉大な政治家がいたわけですけども、このアン女王という人は全く本を読まない人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、政治や社会に全く興味がないし、そういったものを見ようともしない人だったんですね。

(赤江珠緒)あらら、向いていないですね。

(町山智浩)そう。ただのお嬢さん。たまたま王家の血の人だから女王になったんですけど、そういう資質のある人ではないんですよ。でも、しょうがないんですね。他にいないから。

(赤江珠緒)困ったもんですな。はい。

(町山智浩)困ったもんなんですよ。で、ワガママばっかり言って、甘い物ばかり食べているんですごく太っていて。いま残っている肖像画だと結構痩せているように描かれているんですけど、実際にはものすごく太っていて。亡くなった時、棺桶の縦と横が同じ長さだったって言われていますね。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(山里亮太)正方形?

(町山智浩)そう。だから一歩も歩けなかったんですよ。この映画ではまだそこまで行っていない状態だったんで。でも、痛風になっちゃっていて、ほとんど歩くことができなくて。車椅子じゃないと移動できないし、王宮の外には全然出れないという感じになっていますね。で、ただ結構この人はかわいそうで。この人、演じている女優さんはオリビア・コールマンっていう女優さんなんですけども。この人、あんまり知られていない人なんですけど、このアン女王の演技でゴールデングローブ賞の主演女優賞を取りましたね。

(山里亮太)へー、いきなり。

(町山智浩)というのはこの人、実際にはかわいそうな人なんですよ。この人、いっつもね、「私はどうせブスでバカでデブだってみんな、思っているのよ!」って言っているんですよ。

(赤江珠緒)コンプレックスがすごくある人なんだ。

(町山智浩)すごいんですよ。わかっているんですよ。で、召使いの人がちょっと見ただけで「いま、私を見ていたでしょう? 私を見て、バカにしていたでしょう!」とか言っているような人なんですよ。

(赤江珠緒)ああ……。

(町山智浩)ちょっとかわいそうなんですよ。しかもね、その女王陛下の部屋にはウサギがたくさんいるんですよ。ウサギがいっぱいいて、そこらじゅうウサギのウンコだらけなんですよ。

(赤江珠緒)なぜに?

(町山智浩)それはね、ウサギが17匹いるんですけど、「17」というのはこの人が産んで死んでしまった子供の数なんですよ。

(赤江珠緒)えっ、17人も?

(町山智浩)17人も。流産、死産、あとは体が弱くてすぐ死んじゃったとかで17人の子供が死んでいるんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

(町山智浩)なんというか医学的な問題があったらしいんですけども。で、「跡継ぎを産まなきゃならない」って言われているのに全然産めないまま、旦那さんも死んじゃっているんですよ。

(赤江珠緒)あらー……。

(町山智浩)だからものすごいトラウマだし、ちょっと想像がつかないですよね。17人も子供が死んじゃうトラウマって。で、精神も破壊されているし、誰も味方がいないんですよ。で、いつも駄々をこねて「うわーっ、やだやだ!」とかってジタバタ、本当に子供みたいに手足をバタバタさせているという、非常に困った状態があるわけですね。

(赤江珠緒)そういう人がトップって、困った感じですね。本当に。

(町山智浩)そこでもう1人、彼女のブレーンがいるんですね。それがサラ・チャーチルという公爵夫人かな? 貴族のご婦人なんですけど、それがレイチェル・ワイズさんというアカデミー賞女優さんが演じますけども。この人がアドバイザーとしてこの女王についているんですよ。この人はね、チャーチル首相の祖先ですね。

(赤江珠緒)ああ、そうですか。はい。

(町山智浩)で、この人はすごく政治的な才能があって、全部わかっているから彼女のかわりに考えて。で、アン女王はこのサラさんの言う通りになにもかもしているんですよ。

(赤江珠緒)ふーん! じゃあ、影の支配者みたいな?

(町山智浩)そう。黒幕みたいな存在なんですよ。で、このレイチェル・ワイズさんという女優さんも実際にケンブリッジを出ている人ですからね。ものすごい頭がいい上にこの人、この顔で48歳ですからね。

(赤江珠緒)おおーっ!

(町山智浩)美魔女なんですよ。しかもね、この映画の中ではみんなすごいドレスを着ているんですけども。当時の大きいイギリス貴族のドレスを。でも、この人だけはそういうのも着るんですけど、ほとんど男装ですね。パンツルックが多いんですよ。

(赤江珠緒)へー! ああ、その方が合理的だということですか?

(町山智浩)うーん? スポーツマンなんですよ。馬も乗れるし、狩猟もするし、かっこいいんですよ。だから凛々しい感じ。もし日本でこれをやるんだったら、天海祐希さんとかがやったらすごくいい感じですね。

(赤江珠緒)ああ、なるほど、なるほど。

(町山智浩)声も男声だし、しゃべり方もナヨナヨしてなくて。「そうじゃないですね」みたいな感じなんですよ。

(山里亮太)宝塚の男役的な?

(町山智浩)そうそう。アン女王に対しても「あなたのことを『ブス』だの、そんな風に言うのは私だけですからね」とかっていう感じでズケズケとなんでも言っちゃう人なんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)女子もキュンときちゃう感じの。

(町山智浩)そう、それで女王は言いなりなんですね。で、そこにもう1人、やってくるんですよ。それがエマ・ストーンという『ラ・ラ・ランド』でアカデミー主演女優賞を取ったあの女優さんがアビゲイルという名前の女中さんとしてやってくるんですね。

(赤江珠緒)うん。

レイチェル・ワイズVSエマ・ストーン

(町山智浩)で、このアビゲイルはサラさんの従姉妹なんですけども。お父さんが失敗してお金をなくしちゃって、売られてきちゃった人なんですよ。没落して。で、とにかく一銭もない状態で王宮に下働きとして入ってくるんですね。で、徹底的にいじめられるんですよ。

(赤江珠緒)サラさんに?

(町山智浩)全員に。いちばん下だから。だから馬糞だらけの泥に顔から突っ込まれたりね。あと、「これで洗っておいて」って洗剤を渡されて、手を突っ込むとそれが苛性ソーダで手がブワッと溶けたりとか。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)まあ、その頃は苛性ソーダを掃除に使っていましたんで。素手で触っちゃダメですけどね。そういう、もうひどいいじめにあうんですよ。で、男の貴族とかもすごい嫌なやつばっかりで。彼女を地位が低いからって蹴って崖から突き落としたりするんですよ。

(赤江珠緒)もう人でなしばっかりじゃないですか。

(町山智浩)人でなしばっかりなんですよ。で、ものすごいどん底にそのアビゲイルが落ちていくんですけども、そのへんのいじめ、いじめの連続は『キャンディ・キャンディ』的なんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! なるほど!

(町山智浩)シンデレラというかね。あと昔、『愛少女ポリアンナ物語』っていうテレビアニメがあったの、覚えていますか?

(赤江珠緒)はい。よかった探しをするポリアンナ。

(町山智浩)そうそう! よかった探しのポリアンナ! ああいう感じ。よく覚えてましたね。ポリアンナとか、あとは『小公女セーラ』とかあったでしょう?

(赤江珠緒)『小公女セーラ』もね、途端にいじめられるっていうの、ありましたね。

(町山智浩)あれもお父さんが没落したか死んだかで一銭もなくなっちゃって、孤児になっちゃったセーラさんが孤児院で廊下をゴシゴシゴシゴシ、こすらされる話だったでしょう? まったくそうなんだけど、その廊下をこすらされる時に苛性ソーダでやらされるんですよ。ひどい世界がずっと続いているんですけど。で、これでアビゲイルがどうしようもないだろうって思って見ていると、ある日偶然アビゲイルは女王陛下の秘密を知ってしまうんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それは、まあアドバイザーのトップのサラさんと実は同性愛関係にあって、エッチをしている現場を見ちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああーっ! ふんふん。

(町山智浩)で、その秘密を知ったアビゲイルがそれを利用してこの王宮でのし上がっていくっていう物語なんですよ。

(赤江珠緒)はー! なかなかドロドロしていますね!

(町山智浩)これね、ドロドロしている女同士の戦いで、これを「『大奥』だ」って言ったのはそういうことなんですよ。だから『大奥』でも、わからないけどレイチェル・ワイズさんがやっているのはお局様みたいなものですよ。

(赤江珠緒)そうか。その寵愛を得るためにいろいろと……っていうことですか。

(町山智浩)そう。女王陛下の寵愛を得るために……っていう感じで。だから今度はアビゲイルが女王陛下を誘惑するっていう作戦に出るわけですね。レズビアン的に。これ、すごい映画でね、エマ・ストーンってもうアカデミー主演女優賞を取ったんだから、もうすごいトップに上がっちゃっているのに、すごい攻めているんですよ。このエマ・ストーンが。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)素っ裸になっていますよ。この映画の中で。で、それをレイチェル・ワイズが見てびっくりするっていうシーンがあるんですよ。そのシーン、本当にびっくりしているんですよ。というのは、脚本に書かれていないのにエマ・ストーンが「私、脱ぎます!」って言って監督は「いや、そんなことする必要ないのに」「私、脱ぎます!」っていうことで、エマ・ストーンが自分から脱いじゃっていて。

(赤江珠緒)えっ、そうだったんですか!

(町山智浩)そう。で、レイチェル・ワイズには知らせないでそのシーンを撮ったんで、レイチェル・ワイズは本当にエマ・ストーンが素っ裸になってびっくりしているのを撮られているんですよ。

(赤江珠緒)はー! なるほど!

(山里亮太)本当のリアクションだ。

(町山智浩)これ、赤いヘルメットをかぶった人が看板をもって出てきそうな感じですよね?

(山里亮太)「テッテレー♪」ですよね。本当だったら。

(町山智浩)そうそう。「すいません、ドッキリでした!」っていう。そういう映画になっているんですよ。結構すごいですね、これね。

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