吉田豪と宇多丸 2018年タレント本ベスト5を語る

吉田豪と宇多丸 2018年タレント本ベスト5を語る アフター6ジャンクション

(吉田豪)続きましては、田崎健太さんの『全身芸人』という、太田出版から出た本です。出たばかりの本ですね。

(宇多丸)はい。

(吉田豪)田崎健太さんは最近はプロレス本でちょっと話題になったりとかして。もともとはサッカーとかの本を書いていた、週刊ポストの勝新太郎番とかをやっていた人なんですよ。『偶然完全』っていう勝新本を書いたりとか。その後、『真説・長州力』でちょっと僕らの世界で話題になって。長州力っていうのはプロレスの話をするのが大嫌いな人なんだけど、プロレスの知識が全然ない人が真っ当にちゃんと取材をして本を書いて。最近は佐山サトルさんの本を出したりしたという。

(宇多丸)へー!

(吉田豪)その人が芸人さん。しかも昭和のかなりご高齢な、月亭可朝さんとか松鶴家千とせさんとか毒蝮三太夫さんとかを取材してっていうことなんですけども。取材の仕方がかなり特殊なんですよ。かならず複数回取材する。そしてその現場も見るっていうやり方で。初っ端が月亭可朝さんなんですけど、もう晩年なんで。で、僕も可朝さんは2回、取材しているんですよ。10年前に取材した時は本当にキレッキレで。全てに毒づいて最高に面白かったんですよ。スキャンダルの直後だったんですけど、全部を笑い飛ばすっていう。

(宇多丸)うんうん。

(吉田豪)で、亡くなる数ヶ月前に僕、たぶん最後のロングインタビューをやっていて。相当元気がなくなっていて、そういう毒っ気も本当になくなっちゃっていたんですね。で、要はそれの前ぐらいだったんで、もう元気もない。トークのキレも悪い。まず、その現場から始まるんですよ。可朝さんがすべりまくる舞台の描写から始まって。

(宇多丸)ええーっ!

(吉田豪)で、しゃべり。舌が回らない。これはおかしい。もしかしたら脳梗塞かなにかじゃないか?って疑いはじめて、病院に付き添ったりとか。その描写がずっと続くんですよ。その後のインタビューの最初のローテンションな感じから。だから、なんだろうな? 普通のインタビューじゃあまずない、ダークサイドっていうか。描写しないでいい部分が本当に山ほど描写されているんですよ。

(宇多丸)うんうん。まあ、付き添って介護っていうか、そういうレベルまで。

(吉田豪)そうです。プラスね、ノンフィクションライターの方だから、なにかを言うじゃないですか。その裏を取るんですよ。

(宇多丸)ああ、なるほど。

(吉田豪)「この人はこう言っているが、現場を知っている他の人はどう言っているのか?」みたいな。だから、結構恐ろしい本になっていて。

(宇多丸)へー! ちょっと書かれた側はなかなか、そこまでさらされてっていうのもあるけど。だから『全身芸人』か。

(吉田豪)そうです。そうです。

(宇多丸)なるほど。そういう本だったんだな。どうですか? 同じインタビュアーとして、吉田さん。やっぱりアプローチは全然違うっていうことで。

吉田豪と田崎健太 インタビューアプローチの違い

(吉田豪)僕はだから、本人が言っていることを裏を取るっていうよりも、「本人が言っているんだから、いいでしょ」ってやるじゃないですか。

(宇多丸)そうやって、「こういうことを言う人」っていうのを込みで面白がろうっていう感じですね。

(吉田豪)そうです。それを突っ込むのもよしっていうので。「あからさまにおかしなことを言っているけど……うん。あえて乗っかろう!」みたいな。「突っ込むの、野暮だよ」っていうタイプじゃないですか。

(宇多丸)うんうん。あと、そのグイグイ持ち上げて持ち上げて……っていうかね。

(吉田豪)よく言うんですけどね。角川春樹さん。「俺が地震を止めたんだよ」って言っている人に対して「そんなこと、あるわけないじゃないですか」って言うの、最悪ですよ。

(宇多丸)フハハハハハハハッ! まあそれを検証してもしょうがないから(笑)。

(吉田豪)「マジっすか!?」って乗っかるのが正解だと思うんですよ(笑)。「すげー!」とか(笑)。

(宇多丸)でも、アプローチの違うあれとして?

(吉田豪)そうですね。僕のやり方とは全く違うけど、その面白さもあります。いい本です。

(宇多丸)『全身芸人』。田崎健太さん。これもめちゃめちゃ面白そう。

(吉田豪)はい。

(宇多丸)じゃあ、続きましては?

(吉田豪)はい。高部務さんの『スキャンダル: 墓場まで持っていかない話』。これも小学館ですね。

(宇多丸)高部務さん。

(吉田豪)全然ご存知ないと思うんですけど、女性セブンとか週刊ポストの記者を経て、フリーのジャーナリストになった方なんですけど。だからそういう人が、実際に自分が記者として接したスキャンダルについて書く本。で、そのチョイスが絶妙なんですよ。沖雅也から始まって、松田聖子、山口百恵ぐらいまではわかるんですけど、萩原健一、堀江しのぶ、大西結花っていう、なかなかなチョイスで。で、なんで沖雅也か?って思ったら、この人が記者の仕事をする前から、日景忠男さんと接点があって。で、日景忠男さんと接点があったから、日景忠男さんの独占告白をまず最初に取れるんですよ。

(宇多丸)うんうん。

(吉田豪)この人、もともと学生運動くずれで仕事がなくてブラブラしていた時に知り合っていて。「お前だったらいいや」っていうことで。その日景さんを独占取材した流れで、日景さんが当時、本を出しているんですよ。あれのゴーストライターをやっているんですよ。

(宇多丸)ああ、そうなんだ。じゃあ中の人でもあるんだ。

(吉田豪)中の人。もっと言うと、松田聖子がなんで出てくるか?っていうと、ジェフ・ニコルズっていうね、当時の恋人の……。

(宇多丸)「魚のにおいがした」でおなじみの。

(吉田豪)そう。ひどいことを言った。あのジェフ・ニコルズの本のゴーストもやっているんですよ。

(宇多丸)ええーっ! じゃあ、あの「魚の……」の張本人じゃないですか! ひどいな!

(吉田豪)そうなんですよ(笑)。インサイダーだからこそ、本当にひどいことも書いていて。山口百恵は実際に取材をしたっていうよりは、当時近くのマンションに張り込んでずっと隠し撮りをしていた側なんですよ。だからそういうような側からのコメントとかなんで。

(宇多丸)なるほど。「取材で」っていうよりは、あんたが……っていうような。

(吉田豪)相当踏み込んだ話なんで。で、大西結花も「なんで大西結花?」って思ったら、大西結花って僕も1回取材しているんですけど、とある当時の大物バンドのボーカリストと交際が発覚して。スキャンダルになって。実はそれ、本人いわく「結婚していると知らされていなくて、記事ではじめて結婚していると知って……」みたいな。要は不倫だとは知らなかった。でも、それによってCMとかが結構キャンセルになったらしくて。この高部さんっていうのはそこの社長ともともと仲がよかったんですよ。で、社長がそれまでノリノリだったのが、CMのキャンセルとかで会社がどんどん大変なことになって失踪して。で、その失踪している社長をつかまえて独占取材して社長にお金を渡した人なんですよ。

(宇多丸)ああー。その「お金を渡した」っていうところでまた1個、踏み込むっていうか。やっぱり当事者になっていく。

(吉田豪)そうなんですよ。

(宇多丸)これだけ、当事者性が高いライターさんって、なかなか……(笑)。

(吉田豪)なかなかないですよ。あんまり、だからこういう作りの本だから、そういう本だと思わないじゃないですか。よくある芸能スキャンダル、いろいろとありましたみたいな本かと思ったら、ただの内部の本っていう(笑)。ちょっとなかなか読めないっていう。

(宇多丸)その高部務さんっていう方はそんなフィクサーだったんですね。

(吉田豪)面白かったですよ。ショーケンさんに脅された話とかいろいろと出てきます。

(宇多丸)これはどちらから出ている本ですか?

(吉田豪)小学館ですね。

(宇多丸)小学館、出すなー!

(吉田豪)がんばってます!

(宇多丸)はい。続きましては?

タイトルとURLをコピーしました