町山智浩 『クリード 炎の宿敵』を語る

町山智浩 『クリード 炎の宿敵』を語る たまむすび

(町山智浩)これは、このドルフ・ラングレン自身が父親からやられたことなんですよ。で、ドルフ・ラングレンはそれで勉強もすごくできて、空手でチャンピオンにもなって。スウェーデンの王立アカデミーで推薦を受けて、シドニー大学に進んで。そこでさらに最高のフルブライト奨学金でマサチューセッツ工科大学に科学者の研究者として入学するんですよ。

(赤江珠緒)マサチューセッツに? へー!

(町山智浩)この人、IQ160なんですよ。インテリなんです。ところが、そうやって親父が敷いたレール通りに進んだところで、彼はそのレールから外れちゃったんですよ。っていうのはバイトであるミュージシャンのボディガードをやったんですけど、そのミュージシャンっていうのはグレイス・ジョーンズさんっていう人で。写真があると思うんですけども。当時、すっごい大人気だった人で。この人は日本でセイコーの腕時計のコマーシャルにも出ていた人ですね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)坂田明さんと一緒にね。ちなみにその腕時計っていうのはデジタルの文字盤と普通の針の文字盤がついているという画期的な時計だったんですけども。ハイブリッドという(笑)。いまだと当たり前なんですけども、大変に画期的な時計だったんですね。そのコマーシャルにも出ていたグレイス・ジョーンズさん、その頃『Slave to the Rhythm』という曲が世界的にヒットした大スターだったんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その彼女のボディガードとしてドルフ・ラングレンがちょっと手伝ったら、2人ができちゃったんですよ。で、彼女の方が「あなた、マサチューセッツナントカじゃなくて、私と一緒に暮らしてスターになった方がいいわよ。顔もいいんだし」って言って、中退をさせちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ! うん。

(町山智浩)フルブライト奨学金をもらっているのにね。で、2人で映画デビューするんですよ。『007 美しき獲物たち 』っていう映画で。それで『ロッキー4』に出る事になっちゃうんですけども。で、その頃、グレイス・ジョーンズっていうのはめっちゃくちゃ売れていて、もうパーティーライフだったんですよ。

(山里亮太)なるほど。パリピで。

(町山智浩)そう。パーティー、パーティー!ってやっていたんですよ。ところが、『ロッキー4』に出ることになったらスタローンが「お前はこれからボクサーになるんだから、徹底的にトレーニングして体を作らなきゃダメだぞ」って言うんですけど、一緒に住んでいる同棲相手の方は「パーティーよ! パーティーよ!」ってやっているわけですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)スタローンが「お前、あの女といたらダメになるぞ。お前、あの女といたらドラゴになれないから、俺の家に住め!」って言って、その家を出て半年ぐらいスタローンとドルフ・ラングレンは同居するんですよ。

(赤江珠緒)ああ、そこまで役作りで。へー!

(町山智浩)で、そのグレイス・ジョーンズとは結局別れることになっちゃうんですよ。

(赤江珠緒)あらら、大学も辞めたのに。

(町山智浩)グレイス・ジョーンズ、別れる時に拳銃を持ち出して「あなたを逃さないわ!」とかって大変な事態になったりしているんですけども。

(赤江珠緒)へー!

ドラゴのイメージの影響

(町山智浩)で、そういうことがあったにもかかわらず、スタローンはそこで共演しているブリジット・ニールセンとできちゃうわけですけども(笑)。それでドルフ・ラングレンはドルフ・ラングレンでそのドラゴのイメージがあまりにもすごくて。ほとんどセリフがなくて、ロボットのようなキャラクターだったんですね。

(赤江珠緒)ああ、サイボーグみたいなね。

(町山智浩)だから、そういう役しか回ってこなくなっちゃったんですよ。

(赤江珠緒)あらー!

(山里亮太)最初のイメージが強すぎて。

(町山智浩)そう。『ユニバーサル・ソルジャー』とかそうなんですけど。まあ、サイボーグの役ばっかりなんですね。人間じゃない役ばかり。筋肉だけの、心のない役ばっかり。で、結局それだと飽きられちゃって、どんどんダメになっていったんですよ。で、スウェーデンに帰って奥さんももらって子供もできたんですけども、やっぱり仕事がぜんぜん上手くいかないんで、酒に溺れちゃったんですね。この人。

(赤江珠緒)あららららら!

(町山智浩)アル中になって、家に強盗が入ったりして、それも大変だったんですけども。

(赤江珠緒)ええっ! なんかいろいろありますね!

(町山智浩)強盗が入って、奥さんが縛られちゃっているんですよ。殺される寸前まで行ったんですけど、強盗がその部屋に飾ってある写真を見たらドルフ・ラングレンだからびっくりして、その場で逃げ出したそうです。

(赤江珠緒)それはよかったですね。

(町山智浩)「あっ、ドラゴだ!」って。でもね、奥さんとの関係は最悪になっちゃって、それで別れて。結局ドルフ・ラングレンはなにもかもを失ってしまうんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! 『ロッキー4』なんてあんな大ヒットした作品に出ていた人が。

(町山智浩)ところが、スタローンも同じことになっちゃうんですね。『ロッキー4』の後、ブリジット・ニールセンと結婚をしたんですけど。わずか1年半で別れちゃうんですよ。で、それはブリジット・ニールセンが『ビバリーヒルズ・コップ2』に出演した時、監督のトニー・スコットと浮気をしたからなんですよ。『トップガン』の監督ですけどね。

(赤江珠緒)そうですか。

(町山智浩)で、離婚をしたんですけど、ブリジット・ニールセンにあまりにもスタローンは惚れこんでいて、ブリジット・ニールセンの銅像を自分の家に建てていたりしたんですね。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)奥さんの銅像を建てる人って珍しいと思うんですけども。それで離婚をして。ただ、カリフォルニアの法律で財産二分割というルールがあるので、財産を半分持っていかれちゃうんですよ。

(赤江珠緒)うわーっ!

(町山智浩)その時、報道されたんですけども、400万ポンドとかいう額なんで、ちょっと当時の金額、わからないんですけども。まあ、10億円とかそんなもんだと思いますけど、持っていかれちゃって、なにもかもを失ったんで。その『ロッキー4』の続編の『ロッキー5』って、ロッキーが弁護士に騙されて全財産を失うところから始まるんですよね。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)実生活を反映しているから。で、スタローン自身もその『ロッキー4』以降、ヒットがなくなっちゃうんですよ。なにをやっても当たらなくなって、『ロッキー・ザ・ファイナル』までヒット作がない状態になるんですよ。

(赤江珠緒)やっぱり当たりすぎて、強すぎる役っていうのはその後、影響があるんですね。

(町山智浩)うーん。いろいろあって。で、あと『ロッキー5』っていうのはすごく辛い映画で。ロッキーが息子との仲が悪くなる話なんですよ。っていうのは、ロッキーの息子は体があんまり強くないんですね。早産だったっていうことがあって。それでいじめられっ子だったり。「お前はロッキーの息子なのに、なんだよ!」みたいな感じで、逆にそれでいじめられちゃうんですよ。有名人の息子っていじめられるじゃないですか。それでグレたりして。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その後もね、ロッキーシリーズはずっと続くんですけど、息子のボビーとの関係はすごくロッキー、うまくいかないんですよ。お母さんをほったらかしにして、お母さん、エイドリアンは死んじゃうわけだし。で、息子は会計士。ビジネスの方に進むんですけど、それもうまくいかなくて。どこに行っても「ロッキーの息子、ロッキーの息子」って言われるんで、耐えられなくなってとうとうカナダに逃げちゃうんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、ロッキーは自分の息子との間がすごく疎遠なんで、そのクリードが来た時に喜んで自分の息子のように育てるっていうことがあるんですけど。それは実はスタローン自身の……その『ロッキー5』でボビーを演じている人っていうのはスタローンの本当の息子のセイジさんなんですよ。で、セイジさんとの関係もいろいろ複雑で。やっぱりサッシャっていう奥さんと別れていますからね。

(山里亮太)うんうん。

(町山智浩)しかも、セイジさんは2012年に不慮の病気で亡くなっているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)だから、スタローン自身もいろんなものを抱えこんでいるんですけども。

(赤江珠緒)なんと、切ない……。

(町山智浩)で、ブリジット・ニールセンもまた大変だったんですよ。ブリジット・ニールセンはスタローンと離婚した後、もう1回妻子のあるNFL、アメフトのスター選手の子供を産んで、また結婚しなかったりね。で、現在までに5回、結婚しています。この人は。

(赤江珠緒)ええっ!

(町山智浩)しかもここ10年ぐらいはお金に困ってね、ドイツのテレビ局のために全身整形手術をテレビで放送させたりするような事態にもなりまして。あと、アルコール中毒になって入院を繰り返して。ロサンゼルスの公園で酒瓶を片手に持ったまま、酔いつぶれているところをいろんな人に目撃されて、写真が新聞に載ったりしているんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! 財産を半分もらった時もあったのに?

(町山智浩)そう。いろいろとあってお金がなくなっちゃったんですね。あと、バーで酔っ払っているところでバーテンダーと恋に落ちて、14歳年下のイケメンバーテンダーとこの間、結婚したんですけどもね。

(山里亮太)この間!

(町山智浩)で、この『クリード 炎の宿敵』にも彼女、出ています!

(赤江珠緒)ええーっ!

(山里亮太)スタローン、出すんだ。

(町山智浩)出ています。スタローン、出しました。(モノマネで)「もうそんな遺恨とか、古い昔のことだよ」って。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)時々、憑依するんですね。

(町山智浩)はい。で、この撮影中にブリジット・ニールセン、現在54歳なんですけど、第5子を出産しています。

(山里亮太)ええーっ!

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I told you that you could fly♡ #love #littlegirl

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(町山智浩)すごいですよ。で、スタローンは(モノマネで)「おめでとう!」って言ってましたけどね。

(赤江珠緒)いやいや、まあ言うでしょう(笑)。

(町山智浩)で、彼女もだからいまはスタローンの『エクスペンダブルズ』ファミリーの一員ですよ、すでに。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)スタローン、懐がデカいね!

(赤江珠緒)どんどん仲間にしていくっていう。

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(町山智浩)そう。人生いろいろあった人たちがみんな、スタローンのファミリーになるんで。島倉千代子さんも入ってますけどね(笑)。

(山里亮太)『人生いろいろ』(笑)。

俳優たちの人生全部盛り映画

(町山智浩)そういう人たちの映画なんで。今回の『クリード』はドラゴの物語としてもう、泣けるし。ボビーとロッキーの物語でもあるんですよ。

(赤江珠緒)そうなのかー!

(町山智浩)そういういろんなことを全部込みで見るとすっごい感動しますけど。いまの情報が全然なしだと全然わからないと思います(笑)。

(赤江珠緒)フハハハハハハッ!

(山里亮太)なるほど。じゃあ、これを聞いておいた方がいいんだね。

(赤江珠緒)私生活がそんなに編み込まれている映画だったとは!

(町山智浩)そう。最近、もうスタローンの映画は全て、出てくる人とか自分自身の人生を全部盛りで、全部わかった人が100%楽しめるっていう、巨大な人生芸術となっていますね。

(赤江珠緒)なるほどね! そうか。ちなみに『Eye Of The Tiger』は82年、『ロッキー3』の主題歌で『ロッキー4』の主題歌は『Burning Heart』ですね。

(町山智浩)ああ、『Burning Heart』。ごめんなさい(笑)。だからサバイバーは二発屋でした。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。『クリード 炎の宿敵』は1月11日。来年早々に公開ということです。でも町山さんのお話を聞くと、とんでもなくいろんなことが盛り込まれている映画だったんだなって。

(山里亮太)もう1回、『4』を見直してから行こう。

(赤江珠緒)もういろんな因縁の因縁っていう感じね。

(町山智浩)そう。『ロッキー4』って本当に不思議な映画でね。ロボットが出てきたりね。とても現実とは思えない、不思議な映画なんでぜひご覧になってみてください。

(赤江珠緒)はい、ありがとうございました。今日は『クリード 炎の宿敵』を紹介してもらいました。町山さん、ありがとうございました。

(町山智浩)どうもでした。

<書き起こしおわり>

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