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町山智浩『ウィンド・リバー』を語る

町山智浩『ウィンド・リバー』を語る たまむすび
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町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でジェレミー・レナー、エリザベス・オルセン主演の映画『ウィンド・リバー』を紹介していました。

(町山智浩)今日、紹介する映画はすごく重い映画なんですが、傑作です。『ウィンド・リバー』という映画です。ウィンド・リバーというのは実在の地名です。イエローストーン国立公園というのがアメリカにあるんですね。ロッキー山脈の上の方、ワイオミング州っていうところにあって。そこにあるウィンド・リバー先住民居留地というところが舞台の映画です。

(赤江珠緒)ふーん。うんうん。

(町山智浩)「ウィンド・リバー」っていうのは「風の川」っていう名前ですけど、いわゆるインディアン。先住民の人のつけた地名なんですけども。そこで、主人公はジェレミー・レナーです。ジェレミー・レナー、この人は『アベンジャーズ』シリーズで唯一の特殊能力を持っていない弓矢の人、ホークアイです。

(赤江珠緒)ああ!

(町山智浩)「俺みたいな普通の人がいた方がいい」っていう人ですね。彼が主人公でね。「そして殺す」っていうミームの人ですけども(笑)。

(町山智浩)そのウィンド・リバー先住民居留地で合衆国魚類野生動物局の局員をやっています。これはね、自然保護区の中でその動物をこの人は管理しているんですよ。連邦政府の仕事で。で、実はその場所はアメリカンライオンとかコヨーテとか熊とか野生動物がいっぱいいるんですけども。それをちゃんと殺すことができる権利を持っているのが彼なんですね。むやみやたらと殺してはマズいわけですから。野生動物の数とか危険な動物を管理しているのがこのジェレミー・レナーの仕事でほとんどホークアイと似たようなもんですけども、ハンターなんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、ウィンド・リバーっていうのはものすごく寒いところなんですよ。山脈の上の方なんですけど、そこで雪の中で倒れて死んでいる少女、女子高生を発見するんですね。で、その女子高生が死んだのはいったい何か?っていうミステリーなんです。『ウィンド・リバー』っていう映画は。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)で、まず彼は警察官じゃないんで、警察官を呼びに行くんですけど、このウィンド・リバー先住民居留地っていうのはだいたい鹿児島県と同じぐらいの面積があるそうなんですよ。

(赤江珠緒)うん、結構広いですね。

(町山智浩)でも、警察官が6人しかいないんです。

(赤江珠緒)6人!?

(町山智浩)6人。

(山里亮太)足りなすぎる……。

(町山智浩)そう。それで2万人以上の先住民が住んでいるんですけど。アラパホ族とかショショニ族とか、インディアンの人がね。そこに警察官は6人しかいないんですよ。で、殺人事件かもしれないんです。この少女は。そうすると、今度はFBIを呼ぶんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

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アメリカの複雑な警察システム

(町山智浩)これね、アメリカの警察の仕組みはすごく面倒くさいんでね、説明する必要があるんですが。まず、いちばん普通に警察官として業務をしている人たちは市警察なんですね。シティなんです。市警察官。で、よく聞く保安官っていう人がいるでしょう? 保安官っていうのは郡に所属しています。で、保安官は警察官じゃありません。保安官は一種の政治家に近い人で地元の人が選挙で選ぶ人なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)警察官ではないんです。で、州には州警察っていうのもあって。ステート・トルーパーって言われている人で、この人たちは市と市を結ぶ高速道路とかそうしたところを自分の管轄にしています。その上にさらに連邦警察っていうのがあって、これがFBIです。こういう仕組みだから州とか市を超えるとそれぞれの警察はそれ以上追跡できないんですよ。だから州を超えた犯罪の場合には連邦警察が出てくるんです。誘拐とかね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、この先住民居留地っていうのは一応連邦政府の土地なんですよ。だから殺人事件だとFBIが出てくるんです。連邦政府のものだから。すごくややこしいんですよ。その法の隙間がそういうシステムだとできてきちゃうんですよ。

(赤江珠緒)ああー、管轄・管轄だけどお互いがちょっと、どっちでもないみたいな?

(町山智浩)そうそうそう。で、この少女の検死をすると殺人じゃなかったことがわかるんですね。っていうのは、このウィンド・リバー地区っていうのは零下20度とか30度になっちゃうんです。そうすると、冷気。外の外気を肺に直接吸い込むと、肺胞がその場で一瞬で凍結して即死するんです。

(赤江珠緒)ああ、じゃあ自然死ではあったと。

(町山智浩)そう。だから冷気を吸ったための死なんですね。そうすると、今度は連邦警察がそれを操作できなくなるんです。殺人事件じゃないから。で、この少女を調べてみると、レイプされていることがわかるんですよ。レイプは連邦法には規定がないんです。

(赤江珠緒)えっ?

(町山智浩)州の法律で規定されているものなんですね。ところが、州の警察や市の警察はこの居留地の中では行動ができないから、レイプ犯は裁くことができない。捜査することもできないんです。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)っていう話なんですよ。この『ウィンド・リバー』っていうのは。

(赤江珠緒)えっ、6人しかいないし、その州の警察もレイプとかは裁けない?

(町山智浩)裁けないんです。っていう話がこの『ウィンド・リバー』っていう話で。ちょっとこれね、びっくりするような内容なんですけど2012年にニューヨーク・タイムズ
っていう新聞にこのウィンド・リバーで異常にレイプとか女性の行方不明者が多いっていうルポ記事が出まして。それを読んだ脚本家のテイラー・シェリダンっていう監督が地元を調査して書いた話がこの『ウィンド・リバー』なんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、これね、FBIから派遣されてくるのは女性捜査官で、この人はエリザベス・オルセンっていうやっぱり『アベンジャーズ』でスカーレット・ウィッチをやっていた人ですけども。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)その人が来て、途中で「殺人じゃない」ということがわかるんだけど、そうすると自分が捜査できなくなっちゃうからそれを隠して捜査し続けるんですけど……ただ、そうすると今度は応援を呼ぶことができないんです。応援を呼ぶと殺人じゃないことがわかっちゃうから。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)だから、なんとかこの少女をレイプしたやつを捕まえたいんだけど、FBIの本部には知らせないで捜査することになる。だけど、彼女はウィンド・リバーという居留地について全く何も知らないんで、息を吸ったら即死するっていうことも知らなかったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だからこのジェレミー・レナー扮する地元で連邦のハンターをやっている人と協力して犯人探しをするという話なんですね。で、このジェレミー・レナーは奥さんが先住民の人なんですけども、離婚をしているんですね。

(赤江珠緒)ええ。

(町山智浩)離婚をしている理由は物語の中でわかってくるんですけど、この映画はね、そう聞くとすごく社会派のドラマなんですけども、実際にはこれ、西部劇なんですよ。

(山里亮太)えっ?

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現代の西部劇

(町山智浩)現在の話なんですけど、完全に西部劇なんです。っていうのは、西部劇っていったい何か?っていうとアメリカの開拓時代。1880年ぐらい……1860年代に南北戦争が終わって、それから西。西部の方、まだアメリカじゃなかった土地に向かってみんなで移住をしていって、そこでなんとか農業とか牧畜を始めようって行くわけじゃないですか。で、そこに行ったらどうなるか? まず、警察がないんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だってまだ政府もなければ何もないわけですよ。政治もなにもないわけです。

(赤江珠緒)まだネイティブ・アメリカンの人たちと争っていたりとか、そんなこともありますもんね。

(町山智浩)そうそう。誰も住んでいないところにいきなり行って家を建てるわけじゃないですか。警察はいるわけないわけですよ。で、周りは先住民もいればいろんな動物もいるし。見渡す限り何百キロも人が住んでいないところに家を建てるわけだから銃を持っていないとならないわけですね。だから全員が銃で武装している。

(赤江珠緒)はいはい。

(町山智浩)そして、警察がいない。どうなるか?っていうと銃で決着をつけるしかないんですよ。なんでも揉め事があったら。

(山里亮太)決闘だ。

(町山智浩)そう。だから西部劇っていうのが生まれたんですよ。わずか150年前なのに全て銃と暴力で決着をつけるという状況がアメリカに生まれたのが西部劇なんですよ。現在も全く変わっていないんです。

(赤江珠緒)いまも?

(町山智浩)変わっていないんですよ。これ、アメリカの西部に行くとわかるんですけど、とにかく人が住んでいるところ……10キロ、20キロ四方に誰も住んでいないところに住んでいて。しかもさっき、警察官がすごく少ないって言いましたよね? まあ、実際にそうですよ。荒野にいちばん近くの警察まで6時間とか7時間とかだったりするわけですよ。そしたら、やはり全員が銃で武装しています。だって怖いじゃないですか。10キロ四方誰も住んでいないところに1人で住んでいたら、やっぱり銃が必要でしょう?

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だから状況は西部劇と何も変わらないんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)だから全員が銃を持っているわけですから、なにか揉めたらすぐに撃ちますよね。で、撃ってその人が死んだり殺されたりしても、まあ運がよくても1日ぐらいは発見されないですよね。

(赤江珠緒)そんなに広ければ、ねえ。

(町山智浩)で、山奥に捨てたらもうたぶん地球が爆発するまで発見されないですよね。下手をすると。

(赤江珠緒)ええーっ! でも、居留地ですけども、アメリカ連邦の土地でもあるのにそんなにアメリカ連邦から守ってもらっていない感じなんですか?

(町山智浩)全く守っていないんですね。これね、警察官が6人しかいなかったのは大問題になって。すごく行方不明者が多いっていうことがわかったんで、2012年にオバマ大統領が6倍に増やして36人にしたんですよ。

(山里亮太)いや、それでも……。

(町山智浩)36人って……鹿児島県と同じ面積で2万人以上いて、36人にしても全然状況は変わらないんですよ。だからすごいことで、いまだに何が起こっても死体も出ないっていうところなんですね。

(赤江珠緒)すごい怖いエリアじゃないですか。

(町山智浩)ものすごく怖い。これを見ていると本当にゾッとしましたよ。で、それだけじゃなくて居留地に入っている先住民の人たちはもう150年間そこに入っていて何もいいことがないわけじゃないですか。企業もないし。で、平均寿命が49才ですって。

(赤江珠緒)はー……。

(町山智浩)仕事もないわけですよ。牧羊とかはやっているみたいですけども。羊とかを育てたりね。でも、失業率は80%。10代の自殺率が全米平均の2倍以上。先住民の女性がレイプされる率が全米平均の2.5倍以上。先住民が殺人事件の被害者になる率は全米平均の5倍から7倍ですって。

(赤江珠緒)もうアメリカって、ねえ。格差といか差のある国だとは聞いてましたけども、そこにもこんな現状があるんですね。

(町山智浩)完全な無法地帯になっているんですよ。もうすごいですよ。見ていると、だからいつ撃たれるかわからないし。要するに、熊とか猛獣がいるわけだから、護身用の銃じゃなくてものすごい高性能のライフルを持っているから大変な世界なんですよ、これ。

(山里亮太)そこで暮らしていくっていうのは大変な……。

(町山智浩)大変なことですね。で、この監督のテイラー・シェリダンっていう人も西部、テキサスの出身なんですね。で、この人は西部劇ばっかり作っている人でね。現代の西部劇作家ですね。この人は『最後の追跡』っていう映画でアカデミー脚本賞になったんですけど、この映画もまた面白くてね。これ、テキサスで銀行強盗する兄弟の話だったんですよ。現代の。

(山里亮太)はいはい。

(町山智浩)で、2008年の金融危機でローンで銀行からものすごい借金を抱えたんで、その銀行の支店を襲いまくるっていう復讐銀行強盗の話なんですね。で、これはただテキサスなんでね、『最後の追跡』っていう映画がすごく笑っちゃうのはテキサスの銀行でお客さんがたくさんいる時に銃を持って「強盗だ! みんな、手を上げろ!」って言うじゃないですか。そこにいる客の全員が銃を持っていて、いきなりバリバリ撃ち返してくるんですよ(笑)。

(山里亮太)フフフ、銃撃戦に(笑)。

(赤江珠緒)ちょっと日本ではありえない銀行強盗のシーンですね(笑)。

(町山智浩)で、「テキサスで銀行強盗するなんてバカなやつもいるもんだ!」とか言われたりしているんですよ(笑)。もう戦争みたいになっちゃっていて。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)でね、そういう映画を撮り続けている人で。このテイラー・シェリダンはその次に脚本を書いたのが『ボーダーライン』っていう映画で、これはアリゾナのメキシコとの国境地帯で麻薬カルテルにコントロールされて全く無法地帯になっている状況なんですよ。それが。

町山智浩 映画『ボーダーライン』『カルテル・ランド』を語る
町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でメキシコの麻薬カルテルとの戦いを描いた映画を2作品、紹介。『ボーダーライン』と『カルテル・ランド』についてお話されていました。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)だから現代のアメリカって何も西部劇と変わっていないよっていうことを作り続けている人でね。これはやっぱりすごいなと思いますね。もう、どうしようもないんですよ。すごい広いところに人がみんな住んでいるから。

(山里亮太)それを守る人もいないっていう。

(町山智浩)そう。日本の人はそういうところにはあまり行かないですけどね。観光で。

(赤江珠緒)でも人権の国だっていうアメリカもそんな鹿児島ぐらいの大きさの無法地帯が現在でもあちこちにあるという?

(町山智浩)あるんですよ。まあ、先住民居留地っていうところは。で、いちばんひどいのはね、そういうところって結構石油が出るんですよ。天然ガスとか。ただ、その石油や天然ガスが出た利益は全然その先住民には行かないんですよ。アメリカとかイギリスとかって、国際的にその土地の権利とその土地から石油を採掘する権利を分けちゃったんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)どうしてか?っていうと、そういうアジアであるとかアフリカであるとか、そういう彼らが開発した国から石油を搾取するためにはそういう法律にするしかなかったんですよ。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)その土地を持っている人の権利にしちゃうと石油の利権を全部自分のものにできないから、「採掘をした人に権利がある」っていう法律にしちゃったんですよ。それでアフリカではずーっと搾取をしていたんですけど、最近「それはおかしいだろ!」ってことでアフリカの人たちはみんな「自分たちの土地から出る石油なんだからこの採掘する権利は我々にある!」っていうことでアメリカやイギリスを追い出して。だからアフリカはいま、豊かになりつつあるんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、アメリカ国内では先住民の人たちはいまだに採掘権で石油を取られてお金がまったくない状態で。そういうどん底のようなところで。殺されても全然犯人が出てこないんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ!

(町山智浩)っていう、すさまじい現実を描いているのがこの『ウィンド・リバー』なんですけどね。

(赤江珠緒)ちょっと見ると絶望的な気持ちになりそうな……。

(町山智浩)でもやっぱりそこにはね、『デッドプール』と同じで。そういうどん底にもやはり、希望とか優しさっていうのはあるんですよ。それはもう、それこそ『万引き家族』とかでもそうですけども。逆にそういう風に人々から捨てられたものだからこそ、わかる人の心っていうのがあるんだという映画でもあって。『ウィンド・リバー』はいい映画でしたよ。

(赤江珠緒)なるほど。

(山里亮太)日本では見れるんですか?

(赤江珠緒)はい。7月27日に公開となります。

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)そして、今日は『ウィンド・リバー』をご紹介いただきましたが、来週はいま申し上げましたカンヌ映画祭でパルムドールを獲得された『万引き家族』をご紹介いただきます。

(町山智浩)もう本当に素晴らしいおしりの映画でした。はい。

(赤江珠緒)フフフ(笑)。

(山里亮太)おしりの映画!?

(赤江珠緒)それはちょっと要約しすぎてますね……(笑)。

(町山智浩)ええっ? なにを間違っているの? 俺の?

(山里亮太)その「おしりの映画」っていうのがどういうことなのか、来週わかるんですね?

(町山智浩)誰のおしりか? ですよ。『万引き家族』で。いったい誰のおしりを俺たちは見るんだ?っていう。

(山里亮太)どの尻か選手権?

(赤江珠緒)なるほど。否定はしないけど、ギュッと要約しすぎているということだけは申し上げておきます。

(山里亮太)それでパルムドール、とれるのかな?

(赤江珠緒)じゃあ町山さん、来週もよろしくお願いします。

(山里亮太)よろしくお願いします。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>

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