(宇多丸)でも『スチャダラ外伝』っていうアルバムの中にも入っていたじゃないですか。それが、もう見る見る……っていう感じ?
(BOSE)見る見る……あれもさ、別にスタートダッシュが良かったわけじゃなくて何段階かで……小沢健二さんの人気もあったろうけど、「実は○○のラジオですごく……」って。それこそ地方のFMでとかさ、それで「バンバン、バックが来ています」って。そういうのがどんどん来たから、「ええーっ?」って思って。
(宇多丸)これ、売れ方が実はEAST ENDの『DA.YO.NE』と本当に似ていて。アルバムの中の本来は1曲で。で、最初から売ろうとしていたわけでもなく。ジワジワとラジオオンエアーなりで。まさに「北海道の○○で1位だって」とか。で、バックが○枚あって……みたいな。実はすごい似ているんですね。時期も近いし。
(BOSE)だから真面目に作って、真面目にただ宣伝したものというか。当時は別に嘘みたいなお金を使えるわけじゃないから。ラップなんか。だから、正直な売れ方だったんじゃないかなとは思うんですよ。
(宇多丸)日本人なりのラップのやり方とかビデオとかっていうのをいち早く、最初に正解を出していたスチャという。で、しかもそれが最初の正解を出したスチャが最初にヒットを飛ばしたっていう。この、きれいさ。
(BOSE)これ、でも当時、本当に雑誌とかでもよく言っていたんですけど。で、「いい、いい!」って言われだすんですよ。それまでロックの雑誌でそんなにもてはやされなかったのに、「小沢健二と一緒にやっているし。スチャダラパー、わかるよ!」ってみんな寄ってくるんだけど……「いや、たのむ! これは本当はもっと不良みたいなラップがそばにいてからの……」って(笑)。
(宇多丸)あってからの。それが売れてからのこれならいいんだけど……って。
(BOSE)そう! 「本当はそうしたらもっとおもろいんだよ!」っていう。
(宇多丸)「最初にデ・ラ・ソウルが売れたりするのは、ちょっとおかしいんだよ!」みたいな(笑)。
(BOSE)「そんなの、世界的にないよ!」って。
(宇多丸)「ランDMCとか、そういう順番があるんだよ!」みたいな。
(BOSE)そう。ビースティ・ボーイズみたいな、そういうのが本当はあった後のやつが先に出ちゃったから。
(宇多丸)だから本人たち的にもめちゃめちゃ居心地が悪いに決まっているっていう。
(BOSE)そう。悪い不良みたいなラップがあってのカウンターで、オタクみたいなのが変なことを言っているラップをやりたかったの。
(宇多丸)うんうん(笑)。まあいまは、比較的そこにね。
(BOSE)そうそう。結果ね、後に落ち着いた。「いやー。よかった」みたいな。
(宇多丸)いまは、どう見ています?
(BOSE)いまの若い人たちがやっているやつ?
(宇多丸)たとえば『フリースタイル・ダンジョン』なり。
最近の若手ラッパーを見て思うこと
(BOSE)だからいまの子たちの再現力、すごいから。同じ目線で見ると。それこそラップのフロウ。いわゆるイマっぽいリズムに乗せたラップが日本語で見事に!って思うよね。本当に。
(宇多丸)同時に俺、スチャの感覚っていうか、すごく平易な日本語で。で、「これを歌にするんだ?」っていうようなことをサビにしたりとか。それっていまの若い子の日本語ラップのトレンドにめっちゃ合っているの。
(BOSE)そうかー。
(宇多丸)だからね、合っているの。
(BOSE)そうか! そうね。「なんにも言ってねえ」みたいなことがテーマの曲とかね。そういうの、あるんだよ。
(宇多丸)『ヒマの過ごし方』みたいなの、いちばん実は合ってるの。
(BOSE)アハハハハッ! そういう意味でもシンパシーを感じる部分、あって。若い人のやつに。
(宇多丸)だから俺はここにおいても、「えっ、待てよ? 一回りして結局スチャがいまの時代と合っている……ふざけるなっ!」って。
(BOSE)いやいや(笑)。違う、違う。それはね……。
(宇多丸)お釣り、返せ!(笑)。
(BOSE)いや、一生懸命にね、同じような若さでなにか真面目に向かっているという……本当に真面目な話になっちゃうけど。っていうのを聞いて、ちょっとジンとする時あるわけ。若い人のやつを聞くと。「これ、だって簡単に聞こえると思うけど、大変なんだよ。この言葉を探して全部ハメるの……」っていうのがわかるじゃん。うちらは。怠けていたらできないんだよ。そん中でみんな切磋琢磨して、「あいつに負けないようにがんばろう!」っていう子が上手なわけで。
(宇多丸)いまなんか、もう新陳代謝が昔に比べて激しくなっちゃっているから。だから本当にしのぎを削っている。
(BOSE)ねえ。一生懸命に聞いてさ、分解してさ。それこそオタク的に追求しないと絶対に勝てないっていう気がするから。
(宇多丸)だから今日、NHK FMを聞いてらっしゃる方は、たぶん偏見というか。「悪い子たちがなんとなく適当にやってるんじゃない?」って思うかもしれないけど、めっちゃ真面目です。
(BOSE)めっちゃ難しいことをあれ、一生懸命やっているんだよね。そういう意味でも、ラップがあってよかったなっていう風に思うわけ。向いどころがないのが、たぶん最初はすごくチャラく手に入れたかもしれないけど、やってみたらめっちゃハマって、いままでいちばん一生懸命になれたはずで。
(宇多丸)自分自身がそうだもん。
(BOSE)そうなんだよ。
(宇多丸)こんなに続いているとかさ、努力とか……(笑)。努力とかしちゃったし、みたいな。
(BOSE)好きでいること、みたいなね。それはたぶん同じように感じているからこそ、ああいういまの若いラップの人たちのことも僕らは好きなんだと思うんだよね。
(宇多丸)うんうんうん。ということで、スチャダラパーよりBOSEさんにお話をうかがいました。
(BOSE)ありがとうございました。
(宇多丸)ありがとうございます。
<インタビュー音源おわり>
(宇多丸)話、盛り上がっているじゃないですか。
(高橋芳朗)楽しそうだったね。
(宇多丸)うん。キャッキャキャッキャとね。「チキショーッ!」なんて言いながらやっていますけどね。ということで、スチャダラパーのBOSEさんインタビューをお聞きいただきました。やっぱりですね、この中でも僕が重要だなと思っているのは、ラップのテクニックというか、そういうところでいとうさん、近田春夫さん、高木完さんたちの世代から、ちょっとここでフェイズがひとつ変わるというか。そこだと思います。要するに、アメリカのラップの聞こえを踏まえた上でラップをする。
(高橋芳朗)うんうん。
(宇多丸)さっき、BOSEくんがそれのいとうさん的な日本語から発想したラップと、高木完さんが割と聞こえ重視というか、スタイリッシュなのが好きな完ちゃんの感覚……完ちゃんのディレクションでそっちに寄っていったんだ、みたいなことを言っていますけども、ここの転換がすごい重要だと思っているんですね。要はいまに至るまでの日本人ラッパー、ある意味全部の原型というか。アメリカラップの進化というのに日本語をどう当てはめるか? 日本語から換算するというよりは、英語的なフロウを日本語にどう再構築していくかっていう、そういうところの姿勢に大きく、コペルニクス的転換が起きたというところがいちばん重要なんじゃないかなと私は思っております。
(高橋芳朗)うんうん。
(宇多丸)後ほど話を聞くジブさん(ZEEBRA)とかにも、どういうつもりで自分たちのラップを作っていたのかとかを聞こうと思うんですけども。
(高橋芳朗)歌詞の内容とかもデ・ラ・ソウルとかジャングル・ブラザーズのを翻訳して……。
(宇多丸)そうそうそう。面白いですよね。実は最初にタネ明かしというか、途中でタネ明かしですけども。アメリカのラップの歴史と日本語のラップの歴史を両方並行で語っているのは、やっぱりこれは切り離せないということ。日本語のラップだけを見ていてはわからないっていうか。ヒップホップっていうのは共通ルールで、世界同時進行で進んでいくスポーツみたいなところがあるので。世界ルールの変更に従い、日本語ラップもこうなりました、みたいな。そういうのが重要というか、それがないとわからない部分も出てくると思うので、この構成にさせていただいた次第です。ということで、スチャダラパーを1曲、ちゃんと聞きましょう。これはコンテストに出た時、この歌詞を乗せて『太陽にほえろ!』二枚使いでやったのがセンセーションでしたけども。これはアルバムバージョンでお聞きください。スチャダラパーで『スチャダラパーのテーマ Pt.2』。
スチャダラパー『スチャダラパーのテーマ Pt.2』
<書き起こしおわり>
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