松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で90年代のR&Bの楽曲を選曲。グラミー賞受賞スピーチでブルーノ・マーズが「僕のヒーローであり教師でもある」とコメントしたベイビーフェイス、ジャム&ルイス、テディ・ライリーの楽曲を中心に選曲していました。
(松尾潔)改めまして、こんばんは。『松尾潔のメロウな夜』、今夜はレギュラープログラム、メロウな風まかせとまいりましょう。ですが、今日はレギュラーでもちょっと特殊な……「特殊な」って言い方も語弊がありますね。特別な企画と言いますかね、ちょっと試みをやりたいと思っております。「メロウな風まかせビンテージ」とでもいいましょうか。これ、不定期にちょっとやってきたいなと思ってまして、今日はそのトライアル的な第一回目になるんですが。第一回目はメロウな90’s風まかせとまいりましょう。
つまり、新曲を1曲もかけずに、でもいま聞きたい、そんな1時間をお届けできればなという風に思っている次第です。まあ「90’s、きてますよ、きてますよ」ともう3年ぐらい前からこの番組では言ってますが。
先日のグラミー賞のブルーノ・マーズのね、『24K Magic』フィーバーで、その現象も社会的な認知を得られたのかなと。「定着」というフェーズに入ってきたのかなという気がいたします。ブルーノ・マーズ、グラミー賞のスピーチ……あれは最優秀アルバムの時ですかね。いいことを言ってました。彼が自分の音楽的なルーツとなる体験として、故郷のハワイで観光客相手にパッケージショーを当時、15才ぐらいのブルーノ・マーズがやっていた。家族と一緒に。その時にお客さん達がお酒を飲みながら、その音楽に興じて踊ったり騒いだりしてるの見るのほんと楽しかった。
あの頃の感じを呼び戻したくて。もちろん自分の色に調理することも忘れずに作ったのが『24K Magic』であると。あの頃、自分が歌っていた曲っていうのは当時、好きで歌っていたんだけど、作者を見るとベイビーフェイスであり、ジャム&ルイスであり、テディ・ライリーだったと。その3組っていうのは日本でも当時、R&B、アーバン。こういった音楽好きな人たちの間で、ちょっと特別な位置づけにされていた3組なんですが、まさにね、ブルーノにとってもその3組っていうのは格別のリスペクトの対象だそうで。「マイヒーローズ」っていう風に言ってましたね。
彼のような牽引するスターがいてこその、90’sムーブメントかと思うのですが、今日はメロウな90’s風まかせ。まずはテディ・ライリー率いるガイからスタートです。 テディ・ライリーはもう活動は長いですね。ティーンエージャーの頃から天才子役と言うか、キッズ・アット・ワークというティーンエージャーの頃からの活躍で知られてますが、何と言っても彼の名前を特別にしたのは1988年デビューしたガイというグループ。
このグループは分裂や再結成繰り返してますが、今日ご紹介しますのは1990年代に入りまして、『New York Undercover』というサントラの時に発表された曲。今日はこちらをご紹介したいと思います。メロウな90’s風まかせ、こちらからのスタートです。ガイ『Tell Me What You Like』。
Guy『Tell Me What You Like』
(松尾潔)レギュラープログラム、メロウな風まかせ。その特別編、メロウな風まかせビンテージ。今日はトライアルとなるその1回目。メロウな90’s風まかせでお届けしております。『Tell Me What You Like』、ガイでございました。ガイ≒でテディ・ライリーなんですが、ボーカリストのアーロン・ホール、そしてその弟ダミアン・ホール。この存在あってのガイという気がいたしましたね。いまのを聞いてるとね。やっぱり、その時々の音の意匠っていうのありますけども、それに似合う声っていうのがあると思うんですよね。
「いま、ニュー・ジャック・スイングが新しい」なんてことをよく言います。80年代終わりから90年代前半に一世を風靡したニュー・ジャック・スイングという跳ねたリズムが特徴だとされている、まあR&Bの当時のトレンドの音の意匠があるんですが、いま、それをね、ブルーノ・マーズの『Finesse Remix』なんかでブルーノの声で聞くと、かっこよく聞こえますけども。
当時、いちばんかっこよく、その音を響かせていたのは、やっぱりアーロン・ホールの声なんだなっていう気がしますね。ですが、この番組『松尾潔のメロウな夜』は「メロウ」というトーンを忘れずにお届けしておりますので、ガイの初期の作品ではなく、ちょっと落ち着いて90年代に入ってから、ニューなけではない、ニュー・ジャック・スウィング『Tell Me What You Like』。「ニュー・ジャック・スウィング」と呼ぶのさえどうなのか? という、そんなリズムではありましたけども。まあ、90年代の残り香は感じられたんじゃないでしょうかね。
さて、このテディ・ライリーから始まりました風まかせ、そのガイのファーストアルバム、伝説化しておりますけれども。その中に納められていたバラードっていうのも、この番組のリスナーにおかれましては、また思い出がたくさんある人がいいんじゃないでしょうかね。その中に『Piece Of My Love』という名バラード。ニュー・ジャック・エイジの名バラードとされてる曲はございますが。
『Piece Of My Love』に想を得たと言いますか、そこにインスピレーションを受けた曲をご紹介したいと思います。彼女たちも90年代のグループ、まあ数ある女性グループの中では目立った存在ではなかったのですが、こういうムード。ちょっと抽象的な形になってしまいますが、こういうムードが好きな人にはぴったりの曲でしたね。忘れがたい存在です。3人組Tha Truth!の『Piece Of My Love』インスパイア曲、聞いてください。曲は『If I Show U』。
Tha Truth!『If I Show U』
Keith Sweat Featuring Athena Cage『Nobody』
(松尾潔)2曲続けて90年代……もう本当に90年代の曲であるし、90年代ムードの曲ですね。お届けいたしました。Tha Truth!という三人組の女性ボーカル、これはEPMDというラップデュオからソロになって、プロデューサーとしても結構な活躍をおさめましたエリック・サーモンというラッパーにしてクリエイターがいますが。彼を後見人にして、ヒップホップの文脈で夜に出てきたR&Bグループでした。『If I Show U』という曲、これは先ほども話しましたようにガイの『Piece Of My Love』いう曲を下敷きにしているんですが。それ以外にもね、フェイス・エヴァンスですとか、いかにもあの頃のニューヨークR&B人脈の人たちが関与している曲ですね。1997年にリリースされました『Makin’ Moves Everyday』というアルバムに収録されておりました。
それで、ちょっと遡りまして、その前の年。96年にリリースされたキース・スウェット。その名も『Keith Sweat』というアルバムの中から、これは当時モンスターヒットになりましたね。キース・スウェット feat. アシーナ・ケイジで『Nobody』。キース・スウェットの『Keith Sweat』というアルバムっていうと、まるでデビューアルバムのように聞こえるかもしれませんが、これは彼にとって5枚目のアルバムでした。そしていま、これをお聞きになっているお若い方に念のために申し上げますけども、これを出す前に既にもう「ニュー・ジャック・スイングのキング」という称号を手に入れておりました。
で、キングになって、さらにキャリアを確かなものにした、それがこの『Keith Sweat』というアルバムなんですね。キース・スウェットに限りませんが、最初若い時にアップテンポのナンバーで世に出てきて、でもそれからの流行りもので飽きられないために、大人の鑑賞に耐えうるようなミッドテンポですとか、スロージャムと呼ばれる形式のヒットを切望するアーティストは後を絶ちませんが。キース・スウェットの場合は、デビューアルバムでどちらもやってのけたところがございまして。『I Want Her』っていうね、ニュー・ジャック・スウィングというムーブメント自体の幕開けともなる1曲でしたが。
その曲と並んで、アルバムの表題曲である『Make It Last Forever』とか『Right and a Wrong Way』、はたまたドラマティックスのカバー『In the Rain』。そういった曲でスロージャムにも精通してることを1枚目のアルバムで、バランスよく提示したのですが。
まあ、そんな彼でもマンネリと言われているような現象からは……決して「スランプ」とは申しませんが、「キース・スウェットに駄作なし」と言い続けてる僕としては、まあキース・スウェットのアルバムは全部好きなんですが。ただまあ、勢いという意味で、まあ3枚目、4枚目のあたり、「この先、どうなるのかな? この人は」と思ってたら、5枚目でドカン! と出してくれましたね。『Nobody』。この曲だけじゃなかったですけどね、キース・スウェットはアルバム自体が本当に20年以上経ったいまでも、未だに僕よく聞きますね。もうCD、カセットテープ、LPで5、6枚僕は所有してるはずです。その内、数枚は人に……「松尾さんからアルバムもらえました」って人が何人かいるんですけど。そんなに渡した記憶がないんですけどもね、渡したりしていたんでしょうね(笑)。
もうこの頃は、「この世界こそが至上の物」っていう風に思ってましたね。では、そんなキース・スウェット、活躍が長い人ですが、彼の90年代の歌以外の仕事ということで、忘れてはなりません。彼が世に送ったグループ。先ほど『Nobody』でデュエットをしていたアシーナ・ケイジを擁するカット・クロースのラブリーな1曲、聞いてください。『Lovely Thang』。
Kut Klose『Lovely Thang』
Jade『I Wanna Love You』
(松尾潔)2曲続けて女性ボーカルグループ、90年代的な、本当に90’sムードがあふれんばかりの、本当に清涼感のある、いまではちょっとお目にかかれないような、そんなサウンドスタイルの2組をご紹介いたしました。カット・クロースで『Lovely Thang』。カット・クロースというのはね、先ほど何度も連呼しましたキース・スウェットの『Keith Sweat』というアルバムに収められていた『Nobody』というモンスターヒット。そこにフィーチャーされていたアシーナ・ケイジを擁するグループです。同じアルバムの中から『Twisted』っていうもう1曲、メガヒットをキース・スウェットは当時生み出しているんですが。そこでもコーラスをつけていたのがこのカット・クロースという女性グループでした。
自分たちのアルバムのタイトルは『Surrender』っていうんですけどね、その中に納められていた、ひっそりと、でも忘れがたい存在感を放っていた曲です。まあ余談ですけども、キース・スウェットはね、自分のアルバムをヒットさせたり、カット・クロースを世に出したりする一方で、LSGというね、ジェラルド・リヴァート、キース・スウェット、ジョニー・ギルというこの三大人気歌手の特別ユニット。これも97年にアルバムを出してまして。もうちょっと、この90年代半ばから後半にかけてのキース・スウェットのクリエイティブのピークはR&Bの歴史に残るものでしたね。
この頃のキース・スウェットとR.ケリーは本当にすごかったなと思います。さて、話を戻しまして、カット・クロースに続けてお届けしたもう一組の3人組の女性ボーカルトリオ、ジェイドでした。ジェイド『I Wanna Love You』。これは彼女たちの『Jade to the Max』という92年のデビューアルバムに収められている曲であると同時に、『Class Act』という映画のサウンドトラックに収められていて、そこからヒットした曲でもありました。この後見人となっていましたのは、Vassal Benfordというそれ以前から――彼、出身はデトロイトだったかな?――まあ、よく名前を聞くプロデューサーではあったんですが。一流というところの仲間入りしたのはこのジェイドのプロデュースを手がけてからかなという気がいたしますね。
『I Wanna Love You』以外にも『Don’t Walk Away』とか、忘れがたき名曲といろいろとございます。ジェイドでございました。
さて、90年代サウンドトラック……いわゆる「サントラ」ですね。我々が親しみを込めて言っているサントラという魔法がR&Bシーン全体を覆った、そんな期間でもございました。サントラからのヒットをいくつかご紹介したいと思います。まずは97年にクインシー・ジョーンズが主催するクエストレコードからリリースされたサントラ『Sprung』。そこにひっそりと納められていた男性デュオの曲、いまでも僕は時折、懐かしくなって聞くんですね。キーストーンというデュオの『If It Ain’t Love』。
そしてもう1枚、サントラをご紹介させてください。いまをときめくジェニファー・ロペスがヒロイン役で出ていたことでも一部のファンには知られております。『マネー・トレイン』という映画。ウェズリー・スナイプス、ウディ・ハレルソンの『White Men Can’t Jump(ハード・プレイ)のコンビがここでリユニオンいたしました『まねー・トレイン』。その中に収められておりました112の実質的デビュー作『Making Love』。ハイトーンが魅力的な男性グループを2組続けて聞いてください。キーストン『If It Ain’t Love』。112『Making Love』。
Keystone『If It Ain’t Love』
112『Making Love』
(松尾潔)サントラから2曲続けてご紹介しました。まずは97年のサントラ、クインシー・ジョーンズ仕切りの『Sprung』というアルバムから男性デュオ、キーストーンで『If It Ain’t Love』。ちょっとフレディ・ジャクソンに持ち味が似てますよね。そして95年の『マネー・トレイン』からは112で『Making Love』。112は自分たちのグループ名をそのままタイトルにしたデビューアルバムを翌年、96年にリリースします。もちろんその仕掛け人はショーン・パフィ・コムズ、パフ・ダディですね。ぱふ・だでぃですとか、まあクインシーの名前もこの頃ね、現役感の高い名前としてまだまだ有効でしたし。キース・スウェットですとかテディ・ライリーとかね、もういま歴史に残るような人たち。歴史上の人物の名前をどんどんあげてるような、、まさに「役者が揃った状態」という気がいたしますが。
こういったものが、いまのブルーノ・マーズの音楽性のルーツにあるんだなっていうことは本当よくわかりますね。今日はある意味ブルーノ・マーズ、そして『24K Magic』をより深く楽しむための1時間といった、そんな性格もございます。それではじゃあ、グラミーでね、ブルーノがその名前をあげてリスペクトを表明したジャム&ルイスとLA&ベイビーフェイス。この90年代を代表する二大プロデューサーチームの手がけた女性グループを一組ずつご紹介いたしましょう。まずはジャム&ルイスが全面的にプロデュースを手掛けた、これもサントラですね。『モー・マネー』。さっきの『マネー・トレイン』と紛らわしいですね。
まあ、黒人社会において「マネー」っていうのは大切なことなんですが、『モー・マネー』の中からはクラッシュという3人組の『Let’s Get Together (So Groovy Now) 』という曲を後紹介したいと思います。まあ、アルバムを期待されながらもね、惜しくもこれだけで終わってしまった……まあちょっと残念な存在でもあるんですが。ジャム&ルイスが珍しく女性グループを手がけたという、そんな1曲です。そしてこの人たちは女性シンガーを手がけるのはもう本当、お手のものというイメージが当時、ございましたが。中でも、得意中の得意という感じで出てきたのがTLC『Baby-Baby-Baby』。LA&ベイビーフェイスが手がけた数ある名曲の中でも、屈指の名曲。そして屈指の名グループだと思っております。じゃあ2曲続けてご紹介しましょう。いずれも1992年のスーパージャムです。クラッシュで『Let’s Get Together (So Groovy Now) 』。そしてTLC『Baby-Baby-Baby』。
Krush『Let’s Get Together (So Groovy Now) 』
TLC『Baby-Baby-Baby』
(松尾潔)90年代のメロウかつフレッシュな曲を集めてお届けしてまいりました、今夜の『松尾潔のメロウな夜』。メロウな風まかせビンテージ 90’s風まかせ。お届けしたのはクラッシュで『Let’s Get Together (So Groovy Now) 』。そして TLC『Baby-Baby-Baby』。その2組の向こうにジャム&ルイスとLA&ベイビーフェイスが屹立しております。
(中略)
さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。今夜ね、はじめてトライアルとしてお届けいたしました、新曲を一切ご紹介しない風まかせ、いかがだったでしょうか? 今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)の時間になりましたけれども、ここも90年代推しということで。まあ90年代、忘れちゃいけないヒップホップ・ソウルシーン、その女王として君臨して、いまはもう「ヒップホップ」も取って「ソウルの女王」と言って差し支えないメアリー・J.ブライジ。彼女の極上のメロウチューンのサックスカバーで今日はお別れです。
アルフォンソ・ブラックウェルの『Love No Limit』。これからおやすみになるあなた、どうかメロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週、2月19日(月)夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。
Alfonzo Blackwell『Love No Limit』
<書き起こしおわり>