町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『エイリアン: コヴェナント』について話していました。
(町山智浩)今日はですね、アメリカでいま大ヒットしている、もう一昨日公開された映画で『エイリアン: コヴェナント』という映画を紹介します。
(海保知里)来ましたね。はい。
(町山智浩)『エイリアン』シリーズ、見ています?
(海保知里)私はね、全部見ています。
(山里亮太)僕は1、2ですね。
(町山智浩)おっ、すごいですね。
(海保知里)妊娠している時に『プロメテウス』を見て、衝撃が走りました。
(町山智浩)あ、見ない方がいいですね。妊婦の人は。はい(笑)。山ちゃんは何か見ています?
(山里亮太)僕は1と2ですね。
(町山智浩)ああ、そうですね。1、2はとにかくめちゃくちゃ面白いんですけどね。僕、4とかも好きなんですよ。結構。4はめちゃくちゃなんで、めちゃくちゃなところが好きなんですけど(笑)。で、まあ『エイリアン』シリーズっていうのは1979年に最初の1本目が公開されてですね。それからずーっといろんなシリーズで続いているんですけども。これ、最初の1本目を撮った監督がリドリー・スコットっていう監督なんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)この人が今回の『エイリアン: コヴェナント』も監督しているんですけど。この人は79才ですよ。
(山里亮太)そうだよね。最初を撮っているんだったら、もうそれぐらいの歳ですよね。
(町山智浩)そう。すごいなと思いますけど。この人、この前に撮った映画って『オデッセイ』っていう映画で。マット・デイモンが火星に行くやつですね。
(山里亮太)ああ、はいはい。見ましたよ。見ましたよ。
(町山智浩)そう。すごい楽しい楽しいディスコ映画だったでしょう?
(山里亮太)はい。面白かったです。
(町山智浩)あんな若々しい映画を撮っちゃうんですよ。70何才で。
(海保知里)とても柔軟な感じがしますね。またね。
(町山智浩)そう。この人ね、実はコメディーっていままで全然撮ったことがなくて。それでその音楽映画っていうのも撮ったことがなくて、『オデッセイ』がはじめてなんですよ。ミュージカルコメディーみたいな映画ね。で、いきなりはじめてやってね、ものすごいこの歳で冒険したり実験したり、すごいんですけど。はい。で、このリドリー・スコットっていう人がライフワークとしてやっているのが『エイリアン』シリーズなんですよ。で、この人もうひとつシリーズがあって。もう1本はなんと『ブレードランナー』ですよ。
(海保知里)そうか! そうですよね。
(町山智浩)そう。『ブレードランナー』も新作が今年秋にできるんですよ。
(海保知里)へー!
(町山智浩)すごいんですよ。で、そっちもシリーズ化するんですけど、今度の『エイリアン』も、今回の『エイリアン: コヴェナント』の後も続くんですよ。
(山里亮太)へー! すごいね。何才までやるんだろう?
(町山智浩)そう。79才で2つのシリーズを転がしているんですよ。すっごいですよ。まあ、『ブレードランナー』の方は他の人に監督をさせてますけどね。でも一応、コントロールはしているんですけど。でね、この人がすごいのは、今回の『エイリアン: コヴェナント』って79才の人が作ったとは思えない、お肉屋さんのトラックがひっくり返ったみたいな映画でしたよ。
(山里亮太)どういう状態なんですか、それは?
(町山智浩)(笑)。なんかホルモンとかたくさん積んでいる車がひっくり返っちゃって大変なことになっちゃったみたいな(笑)。
(山里亮太)ああーっ! 出るんだ、それがいっぱい(笑)。
(町山智浩)そう。もう気持ち悪くなっちゃってましたけどね(笑)。すんごいんですよ。今回。だからね、やっぱり肉食の人ってすごいですね(笑)。
(山里亮太)肉食(笑)。
「コヴェナント」の意味
(町山智浩)いつまでたってもすっごいなという感じですけど。それで今回、『エイリアン: コヴェナント』っていうタイトルですけど、「コヴェナント」っていうのはこれね、日本語で全然聞いたことがないですよね?
(山里亮太)はい。
(町山智浩)これね、「約束」っていう意味なんですよ。「契約」とか。
(山里・海保)へー!
(町山智浩)で、これ具体的には新約聖書とか旧約聖書ってあるじゃないですか。あの「約」のことなんですよ。聖書っていうのは神様との約束、契約のことなんで。古い契約が旧約で、新しい契約が新約なんですよ。
(山里亮太)はいはいはい。
(町山智浩)この「神様の約束」っていうすごい大げさなタイトルが今回、ついているんですよ。で、『エイリアン』って最初、ただ怪獣が宇宙船の中に入ってきて暴れるっていうだけの映画だったじゃないですか。
(海保知里)なんかプチューッてかじったりするのがすごい印象に残っています。
(町山智浩)そうそう。「キューッ」っていうのがいいんですけど。あの「キューッ」っていう声はね、人間が出している声なんですけど。まあ、それはいいや。あのですね、そういうかわいい怖い映画だったのが、いつの間にか神様がどうしたとか、すごい映画になっちゃっていて。まあ、リドリー・スコットもですね、もう当然自分の死と立ち向かっている感じなんで。そろそろ。いろいろと大げさなことを考えていると思うんですが。で、今回、「コヴェナント」っていうのは宇宙船の名前なんですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、まあ約束の地を探して地球から旅立って。2000人の移民の人たちを乗せて、新しい惑星を探して飛んでいる宇宙船なんですよ。コヴェナントっていうのは。だから、2000人の移民の人たちは冷凍冬眠、人工冬眠っていう形で眠っているんですけどね。で、その巨大宇宙船が飛んでいて……コヴェナントっていう名前はほら、「約束」なんでもともとユダヤ人と神様がお約束をして。神様の言う通りにしたら、ユダヤ人の幸せになる「約束の地」に連れて行ってあげますよっていう話なんですよ。だから移民船にコヴェナントっていう名前をつけているんですけど。あ、ちなみにユダヤ人は神様と約束したら、虐殺されて大変な目に合っていますけども。あ、そりゃいいや(笑)。
(山里亮太)ん?
(町山智浩)で、行くんですが、途中でその宇宙船が目的地に行く前に、なんか信号が入ってみんな起こされちゃうんですね。で、その信号の発信地を見たら、近くの惑星がすごく、人間が住めるようなところだったんですよ。通りかかったところが。で、「予定を変更してその惑星にちょっと行ってみよう」っていう話になるんですね。
(山里亮太)うんうんうん。
(町山智浩)だから約束しているのに、約束の地じゃない方に行くんでロクなことにならないわけですけど(笑)。
(山里亮太)そこでロクでもないことが(笑)。
(町山智浩)ロクでもないことがいっぱいあってグチョグチョになっていくわけですけど(笑)。
(山里亮太)お肉屋さんのトラックがひっくり返ったみたいな(笑)。
(町山智浩)そう。もうそれでね、ただすごいのがこのリドリー・スコットっていう監督はやっぱり美しい映画を撮る人なんで。グチョグチョはグチョグチョなんだけど、美しいグチョグチョさなんですよ。
(海保知里)グチョグチョに美しいも汚いもあるのかしら?(笑)。
(町山智浩)あるんですよ。あのね、18世紀イタリアのフィレンツェにクレメンテ・スジーニっていう蝋人形作家がいたんですね。その人のタッチに似た感じなんですよ。
(山里亮太)うん?
(町山智浩)その人ね、人間の美女を解剖した、体をバラバラにしたパズルのような彫刻をいっぱい作っているんですよ。そこに写真、ないですかね?
解剖学ヴィーナスhttps://t.co/PaGSJb1UPz
18世紀の人体解剖模型製作者クレメンテ・スジーニ。フィレンツェ自然科学博物館で正確な人体模型を制作した(ロンドンで公開中)。
今とは全然異なる芸術性の高い造形で驚いた pic.twitter.com/fcyktUAuqr— ゆきまさかずよし (@Kyukimasa) 2016年5月17日
(山里亮太)ああっ、うわっ、見せていただきました。結構その、内臓がボロンッ!って。
(町山智浩)すごいんですよ。本当に、これ全部蝋細工なんですけど、本物の人間の体をバラバラにしたみたいにして、臓器を全部作って。しかもそれ、全部組み立て・バラバラに分解可能なんですよ。
(山里亮太)はいはいはい。
(町山智浩)パズルみたいになっているんですよ。で、そういうイメージが出てくる映画なんですよ。この『エイリアン: コヴェナント』って。
(山里亮太)そうかー……。
(町山智浩)もうね、実は昨日、娘を連れて見に行こうとしたら娘が「なんでそんな気持ち悪いものを見なきゃいけないのよ?」って怒ったんで、1人で行きましたけど(笑)。怒る人もいっぱいいるでしょうね。はい。で、今回ね、実はこれ、前作がありまして。その続編になっています。
(山里亮太)はい。
前作『プロメテウス』
(町山智浩)前作は『プロメテウス』っていう映画で2012年の映画なんですけど、やっぱり同じリドリー・スコット監督が撮ったんですが。そっちを見ていないとちょっとわからないんですよ。今回、話が。
(海保知里)そうなんですか。へー。
(町山智浩)はい。主人公が前回と今回で同じなんですよ。
(海保知里)あ、そうか。つながっているわけですもんね。
(町山智浩)はい。そうなんです。で、『プロメテウス』っていう前作の方も宇宙船の名前なんですね。『プロメテウス』っていうタイトルが。で、プロメテウスっていう宇宙船が、どうも人類は生まれた時に地球に宇宙人がやって来て、人類の種をまいたらしいと。その宇宙人の故郷に行ってみようって探検で出た宇宙船がプロメテウス号なんですね。
(山里亮太)ふんふんふん。
(町山智浩)で、そこで人間を育てて作った「エンジニア(設計士)」と言われている人類の造物主。創造した神様のような宇宙人に出会うというのが『プロメテウス』だったんですよ。
(山里亮太)はいはい。
(町山智浩)で、この話はちょっとひねりがあるのは、そのプロメテウス号に乗っているロボットがいるんですね。アンドロイド。人間そっくりなんですけど。それがデヴィッドっていう名前で、マイケル・ファスベンダーが演じています。
(海保知里)美形がね。美形俳優。
(町山智浩)はい。マイケル・ファスベンダーってね、『X-MEN』のね、マグニートとかですね、『それでも夜は明ける』で黒人奴隷を愛しているのにいじめる白人奴隷主とか、そういう役をやっている人ですけど。顔はいいですよね。この人、『SHAME -シェイム-』っていう映画で丸出しにしていますけど、あそこが超巨大なんですよ。
(山里・海保)(笑)
(町山智浩)それはいいんですが(笑)。ハリウッド一と言われてますけどね。この人ね。はい。まあ、それはいいんですよ。置いておいて、このマイケル・ファスベンダーはですね、ロボットとして宇宙船に乗っているんですね。人間が宇宙に行く時、人工冬眠で寝ているから、寝ている間に宇宙船を管理する仕事をロボットがやらされているんですよ。だから彼は、人間に作られたものなんですね。だから、この話、『エイリアン』シリーズの中では人間はエンジニアという神のような宇宙人に作られているわけですね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、その『プロメテウス』っていうのは人間たちが神に会いに行く話なんですよ。で、逆に言えばこのロボットにとっての神は人間なんですね。地球人なんですよ。そういう複雑な人間と神の関係と、ロボットと人間の関係が重ね合わされているややこしい映画になっています。で、これはね、キリスト教徒じゃないとちょっとわかりにくいところがあるんですよ。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)今回の『コヴェナント』っていう映画は、実は最初のタイトルは『失楽園』だったんですよ。
(海保知里)あ、へー。そうだったんですか。
(町山智浩)はい。『Alien: Paradise Lost』っていうタイトルで、『失楽園(Paradise Lost)』っていうのはイギリスのミルトンという人が昔書いた物語のタイトルなんですね。それは主人公がサタンなんですよ。
(海保知里)あ、悪魔?
(町山智浩)悪魔なんですよ。で、その人間を神様が作って、人間をエデンの園で、アダムとイブをかわいがっているから、嫉妬したサタンが神に戦いを挑むという物語で。悪魔のサタンが主人公のヒーロー役をやっているのが『失楽園』っていう物語なんですよ。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、それは最終的にアダムとイブのアダム。人類最初の人間アダムも神様に反抗してエデンの園を出ていってしまうんですよ。だから、自分を作った人と作られた者の反抗の物語なんですね。『失楽園』もこの『プロメテウス』シリーズも。しかし、ただ怪獣が暴れるだけの話をどうしてそんなややこしい大げさなことにしてしまったのか?っていうね(笑)。スケールがデカすぎだろう?っていうね。話、全然関係ねえじゃんっていう気もしますが。はい。
(山里亮太)「エイリアン、怖え!」だけじゃないんだ。もう。
(町山智浩)「怖え!」だけじゃないんですよ。でね、この映画は実はいろいろとチラチラと、イギリス文化の引用があって、それが物語と絡んでいるんですよ。で、それもだからまあ、普通に「怪獣、見てえ!」っていう人が見に行ってもわけがわからないんですよ。だからちょっと今回、それを説明して。ストーリーをこれ以上話すと、「ネタバレだ!」って言う警察官がいるんで。これ以上言いませんが(笑)。
(山里亮太)ネタバレ警察が。本当にね……(笑)。
(町山智浩)だからちょっとこの中でね、引用されていて。最初見ただけじゃさっぱりわからない部分をちょっと説明します。これね、今回の宇宙船コヴェナントにも、デヴィッドと同じ型の……要するに、マイケル・ファスベンダー型のロボットが乗っています。
(山里亮太)ほう。
(町山智浩)ウォルターと言うんですけども。顔かたちは同じなんで、たぶんチンコの大きさも同じだと思いますが(笑)。ロボットにでっかいチンコつけてどうするんだ?っていう気もしますが(笑)。このロボット2人を1人2役でやっているんですけども。彼らが話をするんですけど、その中で『オジマンディアス』という詩を突然朗読するんですよ。
(山里亮太)うん。
『オジマンディアス』の意味
(町山智浩)これはですね、「私の名はオジマンディアス。王様の中の王様。私の素晴らしい偉業の前ではあの万能の神ですら絶望する」っていうすごい、なんて偉そうな、「何様?」っていう詩なんですよ。これは、実際にエジプトを支配していたラムセス2世についての詩なんですね。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)ラムセス2世っていうのは実在の人物なんですけども。エジプトってなんであんなでっかい国か?っていうと、ラムセス2世が周辺の国を全部侵略したからなんですよ。占領して。で、ラムセス2世っていうのは偉大なエジプトの王様で。100年ぐらい前にミイラになった死体が発見されて。でね、この人は身長が183センチで、死んだ時は93才で。93才まで生きていた人なんですよ。
(海保知里)へー!
(町山智浩)まあ、死体から死亡年齢を推定してですね。で、この人ね、子供が180人いたんですよ。奥さんが100人ぐらいいたらしいんですよ。で、北アフリカ全土を支配していて、だから権力者としてもすごくて、王様としてもすごくて、背が高くて。で、ヤリチンというもう最強の男だったんですよ。
(山里亮太)ヤリチンっていうか、王様ですからそういうことは、多いですよね。
(町山智浩)でも180人ですよ、子供。そういうね、なんかもうすごい人が昔いたという話をするんですね。その詩でね。これが実はヒントになっているんですよ。
(山里亮太)えっ?
(町山智浩)この詩は書いたのがシェリーっていうイギリスの詩人なんですよ。で、この人は別の詩というか物語を書いていて。そちらが、『解放されたプロメテウス』っていう詩なんですよ。
(山里亮太)おっ!
(町山智浩)プロメテウスっていうのは神様から炎を奪って、その炎の技術を人間に与えたために、人間はそこから文明を始めてしまって、その文明で神にも匹敵するような高度なものに進化しちゃったんですね。だから神様からプロメテウスは罰せられるんですよ。で、鎖に縛られちゃうんですよ。要するに、人間に炎なんか与えちゃったから、その後にエンジンを作ったり、ロケットを作ったり、大変なことになっちゃうわけでしょう? 人間って。それで「神なんかいらないよ」ってなっちゃうわけじゃないですか。
(山里亮太)うん。
(町山智浩)「そんなことにしちゃったお前はダメだ!」って、縛られちゃうんですよ。プロメテウスっていう人は。ところがこのシェリーの詩はそのプロメテウスの鎖を断ち切って、プロメテウスを解放してやって、万歳!っていう物語なんですよね。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)どうしてか?っていうと、イギリスはその頃、産業革命で科学がものすごく発達していて。もう科学万能の時代に突入していたんですよ。だから「人間万歳、科学万歳!」っていう時代の詩なんですよ。それは。「プロメテウス最高だぜ!」っていう話なんですよ。
(山里亮太)はいはい。
(町山智浩)で、これは実はシェリーっていうその詩人の奥さんがそれに全く反対する物語を書いているんですよ。それは、『現代のプロメテウス』っていう副題なんですよ。
(海保知里)ええ。
(町山智浩)シェリーの奥さんが書いた物語は『フランケンシュタイン』なんですよ。
(海保知里)ええーっ!?
(町山智浩)それは、現代のプロメテウスっていうのはフランケンシュタイン博士なんですよ。
(山里亮太)おおっ!
(町山智浩)で、科学の力で人間を作り出すんですよ。人造人間を。で、「俺は神みたいな力を持った!」って言うんですけど、その人造人間フランケンシュタインの怪物がフランケンシュタイン博士や人間に反抗して暴れだすっていう話なんですよ。
(山里亮太)はいはい。
(町山智浩)で、いま僕、そう言ったけど全然説明がないんですよ。この映画の中に。
(山里亮太)なるほど! なしか……。
(町山智浩)ただ、シェリーの詩が引用されるだけなんですよ。『オジマンディアス』っていう。で、オジマンディアスっていうのは『ウォッチメン』っていう映画でも出てくる人類を支配するような天才ですけども。そこともつながっているんですね。だから「ものすごい、天才的な人間が世界とか社会を支配して、神にも匹敵する力を持つ」っていうテーマがそこにあるんですよ。で、その裏には、そのシェリーの奥さんが「うちの旦那、そんなことばっかり言ってるけど、そんなこと言ってると大変なことになるわよ」って『フランケンシュタイン』っていう物語を書いたんですよ。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、まさにその人造人間の反逆の物語っていうところでつながってくるんですね。で、いま音楽がかかっているじゃないですか。これ、ワーグナーなんですね。ワーグナーの『ニーベルングの指環』のいちばん最初の『ラインの黄金』っていう部分のいちばん最後の『ヴァルハラ城への神々の入城』っていう曲なんですね。この曲は。
『ニーベルングの指環 ヴァルハラ城への神々の入城』
(山里亮太)うんうんうん。
(町山智浩)すごく長い話でしたけど、これどういう話か?っていうと昔、地球は神様と巨人族によって支配されていたっていう物語なんですよ。で、この『プロメテウス』に出てくる人間を作った宇宙人たちは巨人族なんですよ。で、神っていうのはこのアンドロイドのマイケル・ファスベンダーロボットからすると、神は人間ですよね。自分を作っているから。
(山里亮太)はい。
(町山智浩)で、この『ニーベルングの指環』っていうワーグナーの話は、これは神々の世界が終わる話なんですよ。で、この曲が流れるところっていうのは神々が行進して、城に入っていくところなんですね。それを見ながら、1人の男、ローゲっていう神様か人間の間みたいな、神でも人間でもないものがいるんですね。ローゲという。それが、それを見ながら「神様なんてもうすぐ滅ぶんだからよ。お前ら、わかってねえな」って言うんですよ。
(山里亮太)ふんふんふん。
(町山智浩)で、ローゲっていうのは炎の神なんですね。プロメテウスは炎を盗んだんですけど、ローゲは炎の神なんですよ。で、「いつか神様の世の中なんて俺が全部焼き尽くしてやるぜ」っていうところでこの曲が流れるんですよ。で、ローゲっていうのは何か?っていうと、北欧神話におけるロキなんですよ。
(海保知里)ロキ……あれ?
(町山智浩)ロキっていうのは、嘘ばっかりついている神様のようなものなんですけど。ロキっていうのは『アベンジャーズ』のマイティ・ソーの敵なんですよ。弟で。
WOWOWでアベンジャーズやっとる~~~ロキちゃん~~~ pic.twitter.com/hiFfzc0klu
— ノルデ@JOHN! (@noldenonsense) 2017年4月16日
(海保知里)うん!
(町山智浩)で、全部つながってくるんですよ。これ。
(山里・海保)へー!
(町山智浩)これはね、だから全然説明がないんですよ。その、この曲が好きだっていうことしか言わないんですよ。このマイケル・ファスベンダーのロボットはね。でも、実は探ると、神々の世界を滅ぼすローゲ(ロキ)が「てめーらなんか焼き尽くしてやるぜ」っていうところでこの曲がかかるんで。もう、あとはみなさん、想像してください。これ以上言うと、あれなので(笑)。まあ、スケールものすげえデケえ!っていう話になっているんですけど。
(山里亮太)知らないとたどり着けないなー!
(町山智浩)ただね、リドリー・スコットがどうしてそんなスケールがデカくなっちゃうんだ?っていうか。彼がもう1本やっているその『ブレードランナー』っていう映画のシリーズの方もね、人間に作られたアンドロイド、レプリカントが人間に反乱を起こすっていう話なんですけど。なんでどっちも同じテーマに持っていっちゃうのかな?っていう気がしますけど(笑)。まあ、すごいことになっていますよ。今回も。
(山里亮太)へー!
(町山智浩)で、終わり方とかすごくて。どうするんだよ?って思いましたね。今回の『コヴェナント』は。
(山里亮太)そうか。まだシリーズとして続けていく上で。
(町山智浩)そうなんですよ。というね、まあすごくわかりにくい説明ですいませんでした!
(山里・海保)いやいやいや!
(山里亮太)知らなかったら、見る時全然、すんなり流しちゃっていたかもしれないです。
(町山智浩)全然わからないと思いますよ。「この曲、好き」とか言うだけで(笑)。「この詩を朗読」って、それだけですから。説明がないんですよ。ただ、この映画は9月に日本では公開されますんで。それを見てもらうと、「ああ、そういう意味か!」ってわかりますんで(笑)。あの、聞いた時はなんだかわからないけど、見たら「ああっ!」ってわかるのがね、僕はいい解説だと思って。そこを狙っていますんで。
町山智浩が考える、いい映画解説
(山里亮太)あの、あれもそうですもん。この前に僕、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』の見に行かせてもらって。曲のかかるタイミングと曲の内容で、「ああ、そこで。そうだ」ってなりましたし。
(町山智浩)それをね、狙ってやっていますんで。いろいろと地雷を埋めて、みんなが踏むのを待っていますんで。はい。
(山里亮太)(笑)。じゃあ、ご陽気に踏んでいきます。また、どんどん。
(海保知里)ねえ(笑)。
(町山智浩)ということで9月で、ちょっと公開が先なんですが。『エイリアン: コヴェナント』、お楽しみにしてください。
(海保知里)ありがとうございました。9月15日公開ですね。映画『エイリアン: コヴェナント』についてお話しいただきました。すごいためになりました。町山さん、どうもありがとうございました。
(山里亮太)ありがとうございました!
(町山智浩)どうもでした。
<書き起こしおわり>