松尾潔 R&B定番曲解説 Bobby Caldwell『What You Won’t Do For Love』

松尾潔 R&B定番曲解説 Bobby Caldwell『What You Won’t Do For Love』 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、Bobby Caldwell『What You Won’t Do For Love』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。

(松尾潔)続いては、いまなら間に合うスタンダードのコーナーです。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。さて、R&Bの世界でも、ジャズやロックと同じように、スタンダードと呼びうる、時代を越えて歌い継がれてきた名曲は少なくありません。そこでこのコーナーでは、R&Bがソウル・ミュージックと呼ばれていた時代から現在に至るまでのタイムレスな名曲を厳選し、様々なバージョンを聞き比べながら、スタンダードナンバーが形成された過程を僕がわかりやすくご説明します。

第16回目となる今回は、ボビー・コールドウェル(Bobby Caldwell)が1978年に発表した名曲『What You Won’t Do For Love』について探ってみます。では、まずお届けしましょう。ボビー・コールドウェルで『What You Won’t Do For Love』。そして、その『What You Won’t Do For Love』をサンプリングしたことで知られております2パック(2Pac)feat.エリック・ウィリアムズ(Eric Williams)で『Do For Love』。

Bobby Caldwell『What You Won’t Do For Love』

2Pac『Do For Love』

お届けしたのはボビー・コールドウェルで『What You Won’t Do For Love』。そして2パック feat.エリック・ウィリアムズで『Do For Love』。ボビー・コールドウェル。1978年の名曲『What You Won’t Do For Love』。これは日本では『風のシルエット』というタイトルでよく知られておりますね。なんでそんな雰囲気重視のタイトルになったか?といいますと、ジャケットをご覧いただけるとすぐにわかるんですよね。ハットをかぶった男性がベンチに腰掛けている。その影絵のようなイラストレーションがジャケットになっております。

で、このシルエットっていうのをまあ、意訳したというか。『話を盛って』っていう言い方が最近、ありますけども。そこに『風の』ってつけちゃうところが、当時の気分だったんだろうし、実際にこの曲の、なんて言うんでしょうね?爽やかだけではない、ちょっとこう、もしかしたら冷たい粒が混じっているような。そんな風が吹きつけるような感じっていうのをよく示していると思いますね。ボビー・コールドウェルという人は、はじめに言っておきますと、白人でございます。

この、いまなら間に合うスタンダードの中でね、白人アーティストが出てくることは稀なんですけども。まあ、そういう肌の色を超えて、アメリカのブラックコミュニティーで大変愛されている曲ですね。さっき話したジャケットの話。これがキモになっておりまして。このジャケットのせいもあって、ボビー・コールドウェル。実は最初の頃っていうのは白人っていう彼の出自というのがよくわからない、伝わらないままこの曲がアーバンステーション、ブラックステーションでヒットしたという逸話が残っております。

で、ボビー・コールドウェルが所属していたTKというレコード会社。これはもうマイアミのレーベルでございまして。有名なところですと、KC &・ザ・サンシャインバンド(KC and the Sunshine Band)とか。ピーター・ブラウン(Peter Brown)とかといった、ファンキーな白人がたくさん在籍していたから、まあまあボビー・コールドウェルみたいな人を売り出すのはお手の物だったとも言えますけども。まあ、たしかにそういった予備知識がなければ、まあわかりやすく言うと、スティービー・ワンダー(Stevie Wonder)フォロワーのような印象を与える、大変ソウルフィーリング、R&Bフィーリングに満ち満ちた歌声ですよね。

で、このボビー・コールドウェルっていう人は鍵盤を奏でながら歌うのですが、作曲能力が大変高くて。自分のこういったヒット曲以外にもね、たとえばピーター・セテラ(Peter Cetera)『Stay With Me』とかね。日本人にも耳馴染みのあるヒット曲を作曲家としても書き下ろしている人ですね。黒人アーティストに提供した曲もたくさんあります。

で、そんなボビー・コールドウェル。最近ですと、クール・アンクル(Cool Uncle)っていうね、ユニットの活動で再浮上してますね。ジャック・スプラッシュ(Jack Splash)という作り手とユニットを作りまして。これがメイヤー・ホーソーン(Mayer Hawthorne)とジェイク・ワン(Jake One)のタキシード(Tuxedo)とよく比較して語られますけども。この番組でも、何度かお話しましたクール・アンクルでやっているアプローチってういうのは、ヒップホップ以降のビートに非常にオーセンティックなR&Bスタイルのボーカルが乗っかるという作り方なんですが。

まあ、驚くのはね、ボビー・コールドウェルの年齢ですよね。この人、1951年8月生まれですから、現時点で65才なんですが。この『What You Won’t Do For Love』をリリースした20代後半の時と、いま60代半ばのボーカルの印象があんまり変わらないんですよね。これはね、シンガーとしては本当に得難い体質というか、特質ですね。で、このボビー・コールドウェルの『What You Won’t Do For Love』という曲はブラックコミュニティーに大変愛されたっていう風に言いましたけども。

いまの時代では、そのストレートなカバーももちろんありますが、サンプリングネタとしてもクラシックになっているというところが面白い話ですし、この曲のなんて言うのかな?地肩の強いところなんですかね。2パックがエリック・ウィリアムズという男性シンガーをフィーチャーしている『Do For Love』。このエリック・ウィリアムズという人は、ブラックストリート(Blackstreet)のボーカルとして有名です。これはソロとしてね、共演しているんですが。2パックの『Are You Still Down』という彼の死後リリースされたアルバムの中でも、大変に目立っていた曲です。『Do For Love』。

っていうと、このエリック・ウィリアムズが『What You Won’t Do For Love』のサビをただなぞっているのか?っていう風に思われそうなんですけども。あくまで、ボビー・コールドウェルのオリジナルをちょっとピッチを変えて使って。それを補助するような形でエリック・ウィリアムズが歌っているという。ボビー・コールドウェルの原曲へのリスペクトが半端ない、そんな使用例でもあります。

で、この2パックの『Do For Love』に影響を受けたと思しき曲っていうのもたくさんありまして。以前にもこの番組でご紹介しました、エリック・ベリンジャー(Eric Bellinger)という男性シンガーをフィーチャーしたミディ・マフィア(The MIDI Mafia)の『Do 4 Love』という曲。これなんか、タイトル全く2パックと同じなんですが。ボビー・コールドウェルを飛び越えて、2パックの『Do For Love』へのオマージュとなった曲なんですよね。

ですから、ボビー・コールドウェルという才人が70年代にまいた種がまず花開いて。そこからこぼれた種。もしくは、風で運ばれた、そういったボビー・コールドウェル遺伝子がね、どんどんどんどん新しい命を育んでいるということも言えるんじゃないでしょうか。もちろん、ボビー・コールドウェルのこのボーカルに肉薄するような出来のストレートなカバーというのもたくさんあります。僕が好きなもの。中でも、フィリス・ハイマン(Phyllis Hyman)の『What You Won’t Do For Love』っていうのはもうディープなところもあって好きです。

フィリス・ハイマンっていう人はね、この番組でも話したと思いますけども。自ら命を絶った人なんで。その彼女の晩年の作品という付帯状況が加味されて、僕にはずいぶん染みる出来になっているんですが。そういったことを抜きにしますと、一般的にこの曲のカバーとして、最も有名な曲はこれから聞いていただくデュエットバージョンではないでしょうか?オリジナルがリリースされた翌年には、もう素早くカバーしていたという、ナタリー・コール(Natalie Cole)とピーボ・ブライソン(Peabo Bryson)。この美声コンビによるカバーをお聞きいただきたいと思います。

ご存知のようにナタリー・コール。2015年。昨年の大晦日に亡くなりました。65才。じゃあその、ナタリー・コールとピーボ・ブライソンの若かりし日の歌声、ご堪能ください。『What You Won’t Do For Love』。

Natalie Cole & Peabo Bryson『What You Won’t Do For Love』

今夜のいまなら間に合うスタンダード。ボビー・コールドウェルの1978年のナンバー『What You Won’t Do For Love』を取り上げました。最後にご紹介したのはナタリー・コールとピーボ・ブライソンのデュエットバージョンで『What You Won’t Do For Love』。これは79年の2人のデュエットアルバム『We’re the Best of Friends』に収録されていました。ちなみに、このボビー・コールドウェルのオリジナルバージョンなんですけども、当時R&Bチャートで六位。ポップチャートでも九位という、もう本当に文句のつけようのない成績だったんですがね。

まあ、R&Bチャートの方が順位は高かったんだなってことを改めて、さっき感心して。これを収録したその名も『Bobby Caldwell』というアルバム。アルバムはどうだったんだろう?と思ってチャートブックを眺めておりましたら、アルバムはR&Bチャートで最高位七位。そしてポップチャートでは21位ということで、このブラックコミュニティーから愛された証っていうのも歴然として数字に現れてますね。

ボビー・コールドウェル。ニューヨーク生まれなんですけども。マイアミで育って、マイアミのレーベルTK。詳しく言うと、その参加のCloudsっていうレーベルなんですが。そこからデビューした、マイアミの風を運ぶ男なんですが。いまでも、毎年のように来日してその美声を聞かせてくれる。それを聞くことができるっていうのが我々、大変幸せなんですが。その時にかならず、デビューアルバムの『Bobby Caldwell』というセルフタイトルドアルバムの中からこの『What You Won’t Do For Love』であるとか、『Special To Me』、『Come To Me』、『My Flame』。

まあ本当に、どれも名曲だな!と。いろんなカバーとかサンプリングをされている曲ですよ。いずれも。本当にいい曲、多いなと思うんですが。やはり、デビューアルバムにはいろんなものが詰まっているんだなという発見を与えてくれる。そんなボビー・コールドウェルです。

(中略)

さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ。寝酒ソングなんですが、今夜は『What You Won’t Do For Love』をもう1バージョン、聞いてみたいと思います。この人もかなりメロ夜の常連になってきましたね。テレス・マーティン(Terrace Martin)という人がドン・ダラ(Don Dolla)というトークボクサーをフィーチャーしたバージョンです。こちらを聞きながらのお別れとなります。

これからお休みになる、あなた。どうかメロウな夢を見て下さいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週3月14日、月曜夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。

Terrace Martin『Wont Do For Love ft. Don Dolla』

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32677

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