松尾潔 1990年アメリカR&Bチャートを振り返る

松尾潔 1990年アメリカR&Bチャートを振り返る 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中で1989年のR&Bチャートを振り返り。この年にヒットした曲を聞きながら、解説をしていきました。

(松尾潔)続いては、こちらのコーナーです。いまでも聞きたいナンバーワン。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。ですが、リスナーのみなさんの中には「そもそもR&Bって何だろう?」という方も少なくないようです。そこでこのコーナーでは、アメリカのR&Bチャートのナンバーワンヒットを年度別にピックアップ。歴史的名曲の数々を聞きながら、僕がわかりやすくご説明します。

第31回目となる今回は、1990年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介しましょう。1990年、このコーナー、いまでも聞きたいナンバーワンは80年代、90年代を中心にお届けしてきました。で、90年っていうとまさにその2つのディケイドの中でもど真ん中に位置するわけなんですが。この1990年を取り上げることによって、80年代、90年代は全部ご紹介したことになるんですね。そんな重要な1年でございます。1990年。R&Bチャートのナンバーワンを飾りました、そんなヒットは合計で37曲ございます。

37曲っていうと、結構なもんですよ。しかも、僕なんか四半世紀以上たっているんですけども、まだ記憶に新しいというもの……これ、取りも直さず、いまの2010年代のR&Bシーンの音とそんなには変わらないし、顔ぶれも、ずいぶん変わりはしましたけども、いまも現役の人たちもかなり含まれているという、そんな時代でもあります。1990年。いま、バックで流れておりますザ・タイム(The Time)の『Jerk Out』。これなんかはまあ、たぶんいま若い方がお聞きになったら90年代のサウンドか、80年代のサウンドか、ちょっとよくわからないと思われるかもしれませんが。これは90年代の新譜だったんです。

ですが、その90年にザ・タイムがこれ再結成された時のシングルですけども。その時点でこれは「84年のサウンドを蘇らせる」っていうコンセプトでやっていましたからね。話がちょっと複雑になってまいりますけども。先ごろ亡くなりましたプリンス(Prince)が『Graffiti Bridge』という映画を公開した年がこの90年でございまして。その『Graffiti Bridge』の中に、プリンス自身は『Thieves in the Temple』という曲を寄せてナンバーワンヒットになりましたし、その映画に参加していたタイムは『Jerk Out』をナンバーワンに輝かせたと。

まあ、この『Jerk Out』はサントラに収められている曲ではないんですけども、プリンスのペイズリーパークからリリースされた作品です。つまりね、この頃まだ80年代のプリンス旋風が残っているというか、まだ続いている。そんな時代でもありました。まあ、ちょっと時代的なことっていうのは後でお話しますけども。90年代のサウンドっていうのはね、いまと比べるとキラキラしてるなという風に思いました。僕もこの37曲、ダーッと全部聞いた上で、いまこのマイクの前に向かっているわけなんですけども。もう頭の中にキラキラの破片がまだたくさん残っている状態です。

その中で、しっとりした曲、メロウな曲をこれから2曲聞いていただきます。メロウな曲ではあるんですけども、そこに含まれているキラキラの粒。感じていただけるでしょうか。まずはトニー・トニー・トニー(Tony! Toni! Tone!)。この年の12月22日と29日。つまり1年間の最後の2週分の一位をゲットした曲、『It Never Rains (In Southern California)』。「南カリフォルニアに雨は降りません」って、本当かな? 降ることもある(笑)。アルバム『The Revival』の中からのメロウチューン。

そして、1990年はこの人のデビューがなんといっても印象的でした。マライア・キャリー(Mariah Carey)。デビューアルバム『Mariah Carey』の中から8月に2週連続のナンバーワンを獲得いたしました。『Vision of Love』。では、トニー・トニー・トニーとマライア・キャリー、2曲続けてどうぞ。

Tony! Toni! Tone!『It Never Rains (In Southern California)』

Mariah Carey『Vision Of Love』

いまでも聞きたいナンバーワン。1990年編、まず2曲ご紹介いたしました。トニー・トニー・トニーで『It Never Rains (In Southern California)』。そしてマライア・キャリーのデビューシングル『Vision Of Love』。いずれも2週連続ナンバーワンを記録した、そんなメロウチューンですね。まあ、メロウというかマライアはもう1曲目にしてマライア節っていうのが完成していることに改めて驚きますけども。トニー・トニー・トニーはその後、まあ兄弟が仲違いというか別々の道を歩みましたんでね。いま聞くと、そういった事情も込みでしんみりとしました。

さあ、この年、R&Bシーンで最もヒットした曲は何か? ペブルス(Pebbles)でございました。「いたね、ペブルス!」っていう方もたくさんいらっしゃるかもしれません。ペブルスっていう人がいたからこそ、彼女が発掘したTLCといのが世に出たわけですよ。で、当時ペブルスっていうのはね、女性シンガーとして大変な人気でしたけども。その後、TLCのゴッドマザーとして、またそのTLCを抱えるラフェイス・レコードのLA・リード(L.A. Reid)の奥様として。まあR&Bシーンのファーストレディーのような存在になっていくわけなんですが。1990年はシンガーとしての活動が目立った、そんなペブルスでございました。

で、そのペブルス。結局LA・リードとはセパレートするわけなんですけども。そのLA・リードのパートナーでした、ベイビーフェイス(Babyface)。ラフェイス(LaFace)の「Face」の方です。ベイビーフェイスの『Tender Lover』というナンバーワンヒットでこの年はスタートしております。

ですから、まあ1990年っていうのはLA&ベイビーフェイスが幅をきかせていたということは端的に語ることはできますね。で、今日の番組の前半、アトランタ、アトランタという風に申し上げましたけども、ラフェイスが本拠を置いていたのが、まさにそのアトランタですからね。僕も何度かLA・リードをたずねてラフェイスのオフィスに行きましたけどもね。本当に活気がありましたね。その頃ね。

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で、ベイビーフェイスものがこの1年間の中で、自分自身の『Tender Lover』を含めて何曲かナンバーワンを獲得しております。あとは、ベイビーフェイスのお兄ちゃんたちにグループ、アフター7(After 7)の『Ready or Not』がありましたね。

あとはどんな人たちがいたかな? ジョニー・ギル(Johnny Gill)。『My, My, My』がありましたね。これなんかもベイビーフェイスが書いた曲の中でも本当に屈指の名バラードなんじゃないでしょうかね。

あとはアフター7はね、『Can’t Stop』もナンバーワンを取っていますし。

LA&ベイビーフェイス強しという印象はいまでも記憶に新しいんですけど。とにかくね、賑やかなチャートなんですよね。クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)がレイ・チャールズ(Ray Charles)とチャカ・カーン(Chaka Khan)。この2人をフィーチャーして出した『I’ll Be Good to You』。もともとクインシー・ジョーンズがプロデュースするブラザーズ・ジョンソン(Brothers Johnson)の曲ですね。それのセリフリメイクと言えるんですが。レイ・チャールズはね、もういまこの世にいませんし、その後伝記映画が作られて、それに主演していたジェイミー・フォックス(Jamie Foxx)がオスカーを取ってスターになって……っていう。そんな長いストーリーがある前の現役時代のナンバーワンですね。『I’ll Be Good to You』。こういう曲が出たのも90年だったんだなと思いますよ。あとはね、まあクインシーと言えばマイケル(Michael Jackson)の名前がすぐに浮かびますが。まあマイケルの妹でありますジャネット・ジャクソン(Janet Jackson)もね、『Rhythm Nation』で一位を取っておりますし。

あとはニュー・エディション(New Edition)勢ですね。さっきジョニー・ギルの話をしましたけども、ジョニー・ギルのグループメイトでありますベル・ビヴ・デヴォー(Bell Biv DeVoe)が『Poison』とか『B.B.D. (I Thought It Was Me)?』とかそういった曲でナンバーワンをとったり……


あとはやっぱりラルフ・トレスヴァント(Ralph Tresvant)ですよね。ラルフ・トレスヴァントっていうのはニュー・エディションの看板なわけですが。『Sensitivity』というソロ・デビューシングルで12月にナンバーワンをとっております。

うーん。さっきも話しましたけど、いまも活躍している人もいますし、歌っていることは耳に届いているけども、最前線とは言いがたいかな?っていうような人たちもいたりするというね。まあ、僕は個人的に思い入れ深いのはトゥループ(Troop)ですかね。『Spread My Wings』『All I Do Is Think of You』。このあたりのヒットはもう本当、忘れがたいですし。

まあ、一般的にはMCハマー(MC Hammer)の『U Can’t Touch This』とか、そのあたりも90年だったのかということに、改めてこの90年代という曲の強壮ぶりというのを感じるわけなんですが。

このコーナーではね、いつも3曲、ご紹介しているんですけども。今日はその限られた枠の中で、なぜ最初にトニー・トニー・トニーをご紹介したかというと、トニー・トニー・トニーはこの年、ナンバーワンヒットを3曲出しているんですね。6月に『The Blues』。

そして9月に『Feels Good』。

そして暮れに『It Never Rains (In Southern California)』。もう本当に3の倍数の時になるとトニー・トニー・トニーがナンバーワンになるという、そんな90年だったんですね。まあ、ちなみに3月はナンバーワンヒットを出していないんですけども。まあ、それはともかくとして。ですが、トニー・トニー・トニーってその時もいまも、あんまり、日本でこの頃のR&Bシーンを語る時に真っ先に挙がる名前じゃないなと思って。もっと言えば、そこの中心人物だったラファエル……いまはラファエル・サディーク(Raphael Saadiq)ですね。ラファエルとドゥエイン・ウィギンス(Dwayne Wiggins)。この兄弟はね、久保田利伸さんがアメリカ進出をする時も関わりがあった人たちなんですが。「なんかちょっと過小評価されているな」なんて思いがありましたので、今日1曲目に選んだ次第です。

そしてマライアとご紹介したからには、やっぱりこの年の最高のバラードを歌ったジョニー・ギル『My, My, My』をご紹介する。まあ、そんな流れをあえて変化球で。ジョニー・ギルのもう1曲のナンバーワンヒットを今日はご紹介したいと思います。彼、ワシントンDCの出身なんですけども。その時の幼馴染でありますステイシー・ラティソー(Stacy Lattisaw)という、もともとアイドル的に世に出てきた女性シンガーがいるんですが。その幼馴染デュエットがナンバーワンに輝きました。この年の2月24日、3月3日、2週連続のナンバーワンを記録したのはこちらでした。ステイシー・ラティソーとジョニー・ギルで『Where Do We Go from Here』。

Johnny Gill & Stacy Lattisaw『Where Do We Go From Here 12in Extended Version』

お届けしたのはステイシー・ラティソー&ジョニー・ギルで『Where Do We Go from Here』でした。今週は1990年のR&Bナンバーワンヒットをご紹介いたしました。おそらく、一般的には……まあ、少なくとも日本の洋楽ファンの間ではジャネット・ジャクソンの『Rhythm Nation』とか『Escapade』とか。

MCハマーの『U Can’t Touch This』とか。このあたりの方がもちろん有名だとは思うんですが。R&Bというサングラスをかけて見ると、こういう景色が見えましたよという、そんな選曲でした。

(中略)

さて、楽しい時間ほど早くすぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってきました。ということで今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜は1990年のR&Bチャートナンバーワンヒット、クインシー・ジョーンズ『The Secret Garden』。それの女性シンガーたちによるカバーバージョンを聞きながらのお別れです。パメラ・ウィリアムス(Pamela Williams)というサックスプレイヤー。この方も女性ですが、フィーチャリング レジーナ・ベル(Regina Belle)、パティー・ラベル(Patti LaBelle)、テイラー・デイン(Taylor Dayne)&ティーナ・マリー(Teena Marie)です。

これからお休みになるあなた。どうか、メロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのはあなたです。次回は、来週6月13日(月)夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔でした。それでは、おやすみなさい。

Pamela Williams,Patti Labelle & Teena Marie『Secret Garden』

<書き起こしおわり>

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