松尾潔R&B定番曲解説 マイケル・ジャクソン『The Lady In My Life』

松尾潔R&B定番曲解説 マイケル・ジャクソン『The Lady In My Life』 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の中でR&Bの定番曲、マイケル・ジャクソン『The Lady In My Life』を紹介。様々なカバーバージョンを聞き比べながら解説していました。

(松尾潔)続いては、いまなら間に合うスタンダードのコーナーです。2010年3月31日に始まった『松尾潔のメロウな夜』。この番組は、メロウをキーワードにして、僕の大好きなR&Bを中心に大人のための音楽をお届けしています。さて、R&Bの世界でも、ジャズやロックと同じように、スタンダードと呼びうる、時代を越えて歌い継がれてきた名曲は少なくありません。そこでこのコーナーでは、R&Bがソウル・ミュージックと呼ばれていた時代から現在に至るまでのタイムレスな名曲を厳選し、様々なバージョンを聞き比べながら、スタンダードナンバーが形成された過程を僕がわかりやすくご説明します。

久々のこのコーナー。15回目となる今回は、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)が1982年に発表した名曲、『The Lady In My Life』について探ってみます。この曲は、これ15曲目ですけども。いままでの中では、もしかしたら最も聞かれている曲かもしれませんね。というか、最もみなさんのご自宅にある確率が高い。なぜなら、もう前人未到。世界中で1億枚以上のセールスということが昨年の暮れに判明しました。マイケル・ジャクソンの『Thriller』。その中に収められていた曲だからですね。

その中のクロージングナンバーというか。アルバムの最後の曲でした。もういまさら、僕がここで説明するまでもないんですけども。若い世代の方のためにご説明しますと、『Thriller』というアルバム。もう、アルバムの中からシングルカットが7曲。全9曲のうち、7曲がシングルカットされて。シングルカットされなかったのが『Baby Be Mine』と『The Lady In My Life』。僕はアルバムの中でこの2曲が突出して好きという。仕方ない。これはもう、好みなんで。あとは、『P.Y.T.』かな?

ですが、この『The Lady In My Life』という曲。とは言え、1億枚世に出回った作品に収められている作品なので、そんじょそこらのシングルヒット以上の影響力がございます。いま、バックに流れております『Keep Searchin’』というR.ケリー(R.KELLY)の去年のメロウ・オブ・2015。トップ20の中に僕もエントリーした曲ですけども。

松尾潔 2015年 ベスト・メロウソング トップ20
松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』の2016年第1回目の放送で、2015年のR&Bシーンを振り返り。松尾さんの個人的な2015年のメロウソングチャート トップ20を紹介していました。 (松尾潔)さて、2010年にスタートしました...

その曲の中で・・・ここです!はい。曲の最後のところですけどもね。

あの、まったくこのマイケル・ジャクソンの『The Lady In My Life』の歌いまわしを引用しております。オマージュですね。あと、まあこのコーナーのテーマになっておりますクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)の『Bluesette』っていう曲がございますけども。そのクインシー・ジョーンズがプロデュースしたナンバーということで、本当に満を持しての第15回目のご紹介となります。マイケル・ジャクソンの『The Lady In My Life』。まずは、オリジナルをお聞きいただきましょう。

Michael Jackson『The Lady In My Life』

LL Cool J『Hey Lover ft. Boyz II Men』

今夜のいまなら間に合うスタンダード、1982年の作品。マイケル・ジャクソン、アルバム『Thriller』の中から『The Lady In My Life』をご紹介しています。マイケル・ジャクソンのオリジナルに続きましては、この曲をサンプリングして、かつそこにボーイズIIメン(Boyz II Men)という当時人気絶頂のボーカルグループのハーモニーを加味しました、LL・クール・J(LL Cool J)の『Hey Lover』。ご堪能いただきました。1995年の作品。

前半からの流れで言いますと、90年代のボーカルグループシーンの盛り上がりっていうのは80年代のマイケル・ジャクソン作品をも取り込んだと。そういう解釈も可能です。まあ、この曲。マイケル・ジャクソン。当時、世界のアイドルだったマイケル・ジャクソンにしては、ずいぶん大人びた曲です。で、『Thriller』の中から2/9である、シングルヒットされなかった方に入ってしまったというのは、この曲の成熟度があだになったというか。その理由になったんじゃないかな?というのが僕の見立てですね。

で、一説によりますと、というか、クインシー・ジョーンズがマイケル・ジャクソンが亡くなった後によく言ってるんですけども。この曲っていうのはフランク・シナトラ(Frank Sinatra)あたりを想定してもともと用意していたという話がありますね。フランク・シナトラとクインシーっていうのは付き合いが長いですし、実際にこの『Thriller』の2年後ですかね。『L.A. Is My Lady』っていうアルバムでまたクインシーがシナトラの後見人のようなことをやるんですね。アルバムプロデュースを手がけるんですけども。

たしかに、そこに入ってもおかしくない、そんな1曲です。非常にオーセンティックというか、R&Bでもあるし、それ以上にスタンダードの風格を備えた曲ですね。曲を書いたのはロッド・テンパートン(Rod Temperton)。クインシー・ジョーンズ音楽本舗の大番頭と言ってもいいですね。ヒートウェーブ(Heatwave)というファンクグループの中心メンバーだった人ですけども。ロッド・テンパートン、クインシー、マイケル・ジャクソン。このトライアングルで、それこそ『Rock With You』をはじめとして、名曲がたくさんございますが。この『The Lady In My Life』こそ、このトライアングルの描いた、もうボトムの美しい形がこの器の底にはあったという気がいたしますね。

で、これマイケル・ジャクソンのディスコグラフィーの中で言いますと、『Thriller』のひとつ前の『Off The Wall』というアルバムの中に『She’s out of My Life』。『彼女が消えた』っていう邦題で知られたバラードがありましたけども。その延長線上にある曲です。ですが、この『The Lady In My Life』は歌い方がより丁寧だし、まあ成熟を感じさせますね。『She’s out of My Life』はやっぱり少年が女性を手放した悲しみに途方に暮れている感じがするんですけど。『The Lady In My Life』はね、もう大人マイケル。その魅力を感じますね。

まあ、シナトラのさっき話をしましたけども。シナトラが結局これを歌ったところを僕は聞いたことがないですけど。もし歌ったら、こういう感じだったのかな?というのをルー・ロールズ(Lou Rawls)のカバーバージョンである程度は類推することができますね。これ、実はメロ夜でも数年前に一度、かけたんですけども。その頃、メロ夜はひとつのテーマに則って選曲していた時代がございまして。1年目、2年目だったかな?『不倫』っていうテーマの時に、たしかこのルー・ロールズの『The Lady In My Life』をご紹介した記憶がございます。

で、ルー・ロールズのような大人シンガーが歌っても成立するし、あと、インストのカバーでもこの曲のメロディーの美しさは際立ちますね。スタンリー・ジョーダン(Stanley Jordan)という超絶技巧のギタリストが1980年代の半ば。1985年ですか。ブルーノートからリリースした『Magic Touch』という当時、センセーショナルなジャズギターアルバムがありましたけども。そこでこの曲をやっていたのがね、大変に印象的でしたね。

マイケル・ジャクソンの曲というのは本当に、サンバの人とかボサノバの人とか、世界中のいろんな人たちがいろんなジャンルでリメイク、カバーをするんですけども。ジャズの人たちは特に好んでやる傾向がございまして。『Thriller』の中から、『Human Nature』をマイルス・デイヴィス(Miles Davis)がやったように、この曲もスタンリー・ジョーダンがカバーしたということも言えますね。

まあ本当に、マイケル・ジャクソンぐらいになると、公共物というか、ナショナル・トラスト的な意味合いが増えますからね。カバーされるものまで選べないというところもあるんでしょうけど。良質のカバーがたくさんあるというのは、僕たちにとって嬉しいことです。これからご紹介するナンバーは、女性シンガーによるカバー。この人はね、オランダの女性なんですよ。実は、この人のバージョンをお届けしたくて今日、『The Lady In My Life』を選んだようなところもございます。

この番組はじめてのご紹介ですかね?トレインチャ・オーステルハウス(Trijntje Oosterhuis)という、オランダの国民的なジャズシンガーという風に聞いていますね。ですが、まあもともとは90年代半ばに『Total Touch』という男女混成のポップ・グループで活躍していた人なんですね。本当に、万能な上手さを備えた、そして声もいいというね、トレインチャ・オーステルハウスによるバージョンを聞いてください。『The Lady In My Life』。トレインチャ・オーステルハウス。

Trijntje Oosterhuis『Lady In My Life』

『僕たちの愛が輝くから今夜、暗闇はないよ』っていうね。そういうロマンチックな歌い出しで始まるこの曲。『Lady In My Life』。女性が歌っても、なかなかに滋味ぶかいですね。マイケル・ジャクソンが亡くなったのは2009年の6月のことなんですが。その年の暮れには、この作品、もう出ていました。トレインチャ・オーステルハウス『Never Can Say Goodbye』という、アルバム1枚をマイケル・ジャクソンに捧げるトリビュートアルバムの中から、『Lady In My Life』でした。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/32677

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