プチ鹿島推薦図書 田崎健太『真説・長州力』を語る

玉袋筋太郎と田崎健太『真説 長州力』を語る YBSキックス

プチ鹿島さんがYBS山梨放送『キックス』の中で田崎健太さんの著書『真説・長州力』を紹介し、絶賛していました。

(プチ鹿島)はい。今日は話題の本をちょっとご紹介したいと思います。いきなりタイトルをご紹介しますね。『真説・長州力』について語りたいと思います。この本はですね、ノンフィクション作家の田崎健太さんという方が書いた本なんですね。いままで、野球の伊良部の本とか、勝新太郎さんの本とか。いわゆるノンフィクションを書いている方なんですけども。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)だから特にプロレスマスコミの方ではないんですよ。それが、長州力の人生というか、これまでの一代記を書くとどうなるか?という、ちょっともう、かなり話題になっていて。これ、7月の下旬に発売されたんですけども。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)で、僕も本当にありがたいんですけど、『教養としてのプロレス』っていうのを書いて。そのおかげもあったんでしょうね。今年の4月ぐらいに井田真木子さんの撰集の。全集の書評を共同通信で書かせてもらったんです。

プチ鹿島推薦図書 プロレス少女伝説と井田真木子 著作撰集
マキタスポーツさんがTBSラジオ『東京ポッド許可局』、推薦図書論の中で『井田真木子 著作撰集』と『プロレス少女伝説』を紹介していました。 (サンキュータツオ)じゃあ、もう一巡しましょうか。まず。じゃあ、PK(プチ鹿島)さん、お願いします。

(塩澤美佳子)ええ。

(プチ鹿島)そしたらまた、共同通信さんから『真説・長州力』という本が出たので、ぜひまた書評を書いてくださいというのが、もう先月末にオファーをいただいたんですよ。で、この間締め切りだったんで。これから、8月下旬から加盟している新聞社にどんどん配信されると思うんで。もしかしたら、山梨日日新聞にも載ると思うんですけども。

(塩澤美佳子)そうですね。

(プチ鹿島)で、とにかくこれ、分厚い本なんですね。で、書評も800字ぐらいだったんで、まあ見どころ、読みどころというのを端的に申し上げると、プロレスって独特のジャンルじゃないですか。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)僕、『教養としてのプロレス』の中でも書いたんですけども。真実ってわからないわけですよ。本当に。何が真実なのか。だから、いろんな雑誌とか、情報とか、人のコメントとかを読み比べたり。いい意味の野次馬になってね。で、読み比べて聞き比べて、これが自分の真実らしきものというのを想像するのが好きだったんですね。

教養としてのプロレス (双葉新書)

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)だからいま、『リテラシー』っていう言葉がありますけど。『情報を読み比べる』っていう。それ自然にもう、学べているわけですよ。プロレスでね。というのは、プロレスっていうのはやっぱり、プロレスラーっていう豪快な人たちがいるじゃないですか。その人たちが語る豪快な伝記とか伝説とかって、やっぱり豪快であればあるほど、僕らはワクワクして楽しいわけですね。

(塩澤美佳子)そうですね。ええ。夢見ますしね。

ノンフィクションの手法でプロレスの世界を描く

(プチ鹿島)ところが、それはプロレスマスコミではOKで成り立っていたんですが。この田崎さんという方は外の世界の、ノンフィクションの方ですから。書き方としては、ただ言いっぱなしだけじゃ、ノンフィクションは書けないんですね。

(塩澤美佳子)ほー。

(プチ鹿島)やっぱり取材対象者とは適度な距離をおいて。で、その証言については本当かどうか、複数の裏付けをとって。で、それを繰り返して繰り返していく作業なんですよ。だから僕、ちょうど2、3週間前に清水潔っていう調査報道の本をご紹介しましたけど。やり方は全く同じなんですね。

(塩澤美佳子)ふーん。

(プチ鹿島)裏付けをとる。そうすると、言ってみれば大人のファンタジーに包まれたプロレスの世界が、ノンフィクション作家の裏付けをとることによって、どんどんどんどん、新しいものに見えてくるわけです。だからこれ、『真説』っていうのは新しい説じゃなくて、真実の真の真説って、そういうところにきてるわけです。なかなか見えなかった世界を、調査報道っていうかノンフィクションですよね。探っていって、言いっぱなし、書きっぱなしじゃなく、裏付けを取ったらこんな本になりましたという本なんです。

(塩澤美佳子)ふーん。

(プチ鹿島)たとえばです。『噛ませ犬事件』っていうのがあったんですね。これ、どういうことか?っていうと、長州力さんっていうのはもともと、オリンピックに出て新日本プロレスに入ったエリートだったんです。まあ、そのオリンピックに出たくだり。大学に入ってレスリングをやってオリンピックに出たくだりもこれ、バツグンに面白いんです。

(塩澤美佳子)ふーん。

(プチ鹿島)というのは、これプロレスファンなら知ってるんですけど、長州力さんっていうのは在日韓国人の方なんですね。ですので、オリンピックに出るにあたっては、韓国から出たわけですよ。そうじゃないと、出れなかった。で、そのくだりもちゃんと調べて書いていたんですけども。で、それでオリンピックに出て。新日本プロレスに入ったんですよ。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)まあ、鳴り物入りで入ったんですが、どうも強いんですけども、プロレスっていうのは面白いところで、強いだけだと、なんかこう、ねえ。売れないんですよね。

(塩澤美佳子)はあ。

(プチ鹿島)これ、長州さんは『ファンの心を掴む』っていう言い方をしてるんですけど。なかなか掴めなかった。で、メキシコに海外遠征に行って、それまでパンチパーマだったんですけど、ちょっと長髪になって帰ってきて。それが1981年。こんな事件があったんですよ。凱旋帰国の試合でですね、アントニオ猪木さんと藤波辰爾さんと長州力。この3人がタッグを組んだんですよね。で、やっぱり役者でもそうですけど、自分の名前が最後に呼ばれるっていうのにものすごくレスラーはこだわるわけです。

(塩澤美佳子)はー!

(プチ鹿島)この3人で、当然いちばん最後に呼ばれるのは、アントニオ猪木ですよね。だって、団体の社長でもあり、エースでもあるわけですから。

(塩澤美佳子)ええ。

(プチ鹿島)だから、最後に呼ばれるのは猪木だってわかっているんですけど。じゃあ、いちばん最初に呼ばれるっていうのは、その3人の中でいちばん格が軽いっていうわけですよね。で、長州力はメキシコで自分は生まれ変わったんだと。で、ライバルに藤波辰爾っていう同期がいたんですけども。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)そしたら、いちばん最初に自分の名前が呼ばれたわけです。そこで、本人としては、『俺は生まれ変わったのに、相変わらず日本に帰ってきたら藤波の方が上なのか?』っていうんで、なんとこの当時としてはあり得ないんですけど、日本人同士。日本サイド同士で仲間割れをしてしまうんですよ。

(塩澤美佳子)おおー。

(プチ鹿島)『お前が先に出ろ』『出ない』っていうのでね。で、最後、マイクアピールをして、『俺はお前の噛ませ犬じゃない』っていうので、藤波にケンカを売るわけです。で、そんないままでパターンはなかったわけですよ。僕らが長いことプロレスを見て、日本人陣営同士でケンカ別れするっていうのが。それを長州は初めて、言ってみればタブーを犯したわけですよね。で、これをきっかけに革命戦士、下克上として、たとえば会社でね、抑圧されているサラリーマンとかの支持を受けて。反主流なんだけど、ものすごく化けたわけですよね。一瞬にして、こっから長州力っていうのは生まれ変わって。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)まあ、売れたわけです。観客の心を掴んだわけなんですけども。ただ、そこがプロレスの面白いところで。この事件の真相っていうのが、いろんなことを書かれているわけですね。で、特に、書きっぱなしでいろんな説が入り乱れたわけです。この30年近く。20何年近く。

(塩澤美佳子)ええ、はい。

(プチ鹿島)で、田崎さんは、この長州力さん本人に、この事件についてとにかく詳しく、しつこく聞いたと。これがこのひとつの本の中でキモになっているんですけども。それが読むとね、面白かったんですよね。というのはね、本当にプロレスですから、藤波にはもう負けないっていうのでケンカを売ったと。それが表の言説だとすれば、やっぱりいろんなプロレスマスコミもありますから、ある時、ミスター高橋という元レフェリーの方が、いまから15年ぐらい前に暴露本的なものを書いたんですよね。

(プチ鹿島)プロレスにケンカを売った形で。で、そこの暴露本の中に、『あの噛ませ犬事件。実は、もうシリーズに入る前の重役会議で、興行会議で決まっていたんだ』みたいなことをバラして。プロレスファンはちょっとびっくりしたわけですよ。で、それもひとつの説です。ただ、それにしても、あの迫真の。じゃああれ、お芝居だったの!?って思うわけですけど。

(塩澤美佳子)ええ。

(プチ鹿島)それにしても、あの迫真の演技ってすげーな!って、そういう評価も実はあがったんですけど。で、それについて、いろんな説が入り乱れる中で、田崎さんは聞いたんですよね。その真相が明らかになったんですけど。要はそういう会議っていうのは、そもそもなかった。

(塩澤美佳子)えっ?

(プチ鹿島)いろんな人。長州だけじゃない。長州だけだったら、自分にいいだけの証言をする。いろんな当時の営業部長とか、本部長とかの人に、複数にあたって。そんな会議はなかった。だからミスター高橋っていうのは、また新日本プロレスとモメて出て行った人だから、やっぱり盛って。恨みつらみ、骨髄でオーバーに書いたっていうのがそこでひとつわかって。で、さらに言うと、『でも、長州さん。実際にあれは、どういうあれだったんですか?』って聞いたら、『猪木さんが、なんとなくけしかけてきたんです』って。

(塩澤美佳子)ん!?

長州力が語る『噛ませ犬事件』の真相

(プチ鹿島)凱旋帰国で帰ってきたわけでしょ?で、試合前に、『お前、同じことをやってたら、お前はたしかにメキシコで王者になったかもしれないけど、同じことやってたら、また藤波の下で、一生同じもので終わっちゃうぞ』って。要は、このままブレイクせずに終わるぞっていうのをけしかけて。こんな言葉を言われたらしいんです。『ワインをいちばん美味いと思うタイミングがわかるか?お前』って。ワインっていうのは自分が飲んで、自分の感性で美味しいと満足するものじゃないんだ。栓を抜いた時にそこにいる人が飲んで、「これはいい」と。タイミンがいい時に開ける。で、みんなが酔いしれる。それがワインなんだ。わかるか?』・・・たとえ話を試合前にされるんですって。

(塩澤美佳子)はい。

(プチ鹿島)つまり、『今日のこの試合でお前、仕掛けないとずっと藤波の下だぞ!』っていうのを。でも、長州さんとしてはどこまでやっていいか、わからないじゃないですか。でも、猪木はやれ!ってけしかけて。じゃないとお前、もう売れるチャンス逃すよって。それをワインのたとえ話で言ったんですよ。

(塩澤美佳子)おおー!

(プチ鹿島)で、思い切り感情を出してみろと、それとなく示唆されたと。でも、どこまで感情を出していいかわからない。で、戦いというのはコントロールできる戦いと、できない戦いがある。自分の中でコントロールしているぐらいの感情だったら、それはただの想定内の感情だけで。じゃあ、この一線を越える感情を出してみた。それが、あの噛ませ犬事件。

(塩澤美佳子)ほー!

(プチ鹿島)だからこれ、面白いでしょ?プロレスの本質なんですよ。だから、どこまでやっていいのか、長州は探っていた。で、いきなりケンカを売られた藤波さんは、当然、なにも知らなかった。急に仕掛けられた。全く知らなかった藤波。その噛み合わなさとか、たどたどしさがあれだけの2人の関係に緊迫感を与えた。で、多少の筋書きに偶然を取り込んだ、プロレスにしかできない感情の衝突。あれだけ人の心をひきつけたんじゃないか?って田崎さんは結論づけているわけですよ。つまり、やっぱりプロデューサー猪木のすごさですよ。

(塩澤美佳子)そうだったんだー!

(プチ鹿島)で、やっぱり長州さんはいまだに猪木さんのすごさを言っていて。『猪木さんはシュートですよ。っていうのは、試合の中で何を仕掛けてくるかわからない』。で、試合中に耳元でね、猪木さんが何て言ったか?『俺を殺せ』って言ったんですって。もうこれだけで、プロレスがお芝居だなんだっていうのは超越しちゃうわけですよ。

(塩澤美佳子)はー!

(プチ鹿島)で、猪木さんは本当に、それぐらい、なんだったらいいよ、殺して。『殺せ』って言ったらしい。それぐらいやらないと、感情とかリアルとか、見せられないわけですよね。で、実際にそれが本物の真剣勝負ですし。っていうまあ、僕、噛ませ犬事件だけでちょっと時間がないんでね。

(塩澤美佳子)うわー!

(プチ鹿島)他にもいろいろあるんです。だから、団体を出たり入ったり。移籍したりっていうのも、たとえばマサ斎藤っていう、アメリカで1人で築きあげてきた人の影響もあったとか。いろんな証言をつなぎあわせて、裏付けをとって、初めてあの事件の真相はこうだったんだねって見えてくる。言ってみれば、ファンタジーの世界に調査報道を持ち込んだ、本当に斬新な本でしたね。

(塩澤美佳子)へー!

(プチ鹿島)うん。そう考えると、やっぱりプロレスってすごいなとも、僕は思ったんです。

(塩澤美佳子)本当ですね。見ているだけじゃわかんない。

(プチ鹿島)フワッとヒントは出すけど、最後のところはお互いに任せるっていうね。

(塩澤美佳子)はー!だからできあがってるんですねー!

(プチ鹿島)そうそう。じゃないと、ああいう感情っていうのは出ないですよ。で、自分のコントロールできる感情は、それはもう、想定内だから。それを超えた感情を初めて。だから長州はこの噛ませ犬事件を起こした後、『本当にあれでよかったのか?』っていって、またもう1回、海外に行っちゃうわけです。

(塩澤美佳子)えー!?

(プチ鹿島)マスコミ的には『長州、また海外で秘密特訓』みたいな感じになるんですけど。それはプロレスマスコミの大仰なところなんですけど。だから正しい真実よりも美しい行間を書いてきたのがプロレスマスコミで。それはそれで僕はいいと思うんですよ。だけどそこに、正しい真実を調査報道したっていうのがこの本なんで。それはそれを知らない人にとっても面白い本だと思います。

(塩澤美佳子)へー!

(プチ鹿島)やっぱりこういう、ねえ。80年代、90年代を一線で抜け出してきた。で、自分がお客さんにアピールするためにどう考えてきた人か?っていう人の一代記でございますから。『真説・長州力』。で、僕、来月この田崎健太さんとトークライブも。お誘い頂いてね。

(塩澤美佳子)これ、すごいじゃないですか。

(プチ鹿島)対談相手として。だから今日、こういうことを全部、また田崎さんにぶつけたいと思いますんで。これは集英社インターナショナルから出てますね。『真説・長州力』。面白かったです。

(塩澤美佳子)はい。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/29196

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