AKLO アルバム解説 Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』

AKLO アルバム解説 Kendrick Lamar『To Pimp A Butterfly』 INSIDE OUT

(AKLO)で、ここでまあ、ある少年に出会うんですけど。その少年に『お前は洗脳冴えている。お前が知っていること全部、実は大したことない。ここで見りゃあわかるだろ?だから、本当にお前の重要な友達には、ホームに帰って来いって伝えてくれ』って子どもに言われて。

(渡辺志保)なるほどね。

(AKLO)で、ケンドリックはみんなに、ホームに戻るようにこの曲でも言っていて。まあ、自分がそこでちょっとリハビリした感じがあるんすよね。それが『Momma』っていう曲ですね。

(渡辺志保)そうか。母なるアフリカみたいな意味なんですかね。『Momma』に込められたタイトルの意味も。

(AKLO)ああ、そうそう。たぶん。母なる大地的な部分があると思います。で、次、またちょっといきなり飛ばして、『How Much a Dollar Cost』という曲があるんですけど。

(渡辺志保)『1ドルの価値を問う』ということですかね?

(AKLO)1ドルの価値を問うという。これも実はアフリカが。南アフリカか。が、ベースになっていて。これ、すっげー面白い、ストーリーテリングラップになっていて。これね・・・

(渡辺志保)ヴァース3まである曲ですよね。

(AKLO)そうそう。これね、どういう感じか?って言うと、まず、ケンドリックがアフリカでドライブしていて。で、ガソリン入れないといけないみたいな。で、入れようとしたら、ホームレスに声をかけられるんですよ。そのホームレスが『YO、たのむから10ランドくれ』(※ランドは南アフリカの通貨)みたいなことを言って。『お前のパイプに協力するつもりはない。どうせこいつ、クラックが好きなんだろ?』みたいな。『こんなやつのために、金をあげられねー』みたな感じでケンドリック・ラマーは『無理だ』みたいに断るんですよ。

(渡辺志保)うん。

(AKLO)そしたら、『たのむよ』みたいな感じで言うんですけど、ケンドリックは無視して車に乗るんですよ。で、車に乗っても、ずーっと、『なんだよ、お前』みたいな感じで見ているから、『なんでこいつは俺にキレてるんだ?ホームレス、お前、超自己中じゃね?』みたいな。『そうやって物をもらって生きていくなんて、信じらんねー!』みたいにケンドリック、ブチ切れるんですよ。

(渡辺志保)うん、うん。

(AKLO)で、そいつに『なんだよ?』みたいな感じで言って。で、『たのむよ』みたいな。で、ひたすらこのやり取りが続くんですよ。で、ケンドリックはいろいろ考えるけど、あげない理由しか思いつかないんですね。ヴァースの中で。

(渡辺志保)彼に対して、ネガティブな印象しかないってことですよね。

(AKLO)もうネガティブな。で、そのホームレスが『Exodus 14』っていう聖書のチャプターを読んだことがあるか?って最後に言うんですよ。ケンドリックに。で、ケンドリックはそれに対して、『なんだよ、こいつ?まるで俺が嫌なやつみたいに仕向けようとして。俺がちゃんと神に誓ってないみたいな感じに持って行こうとする、そのスタンスが気に食わない!』と。

(渡辺志保)はいはいはい。

(AKLO)もうこの曲、めちゃくちゃホームレスにブチ切れるんですよ。ずーっと。で、最後の最後に、本当キツいことをいうんですよね。『お前にはコインすら、やりたくねーよ!』みたいなことをケンドリックが言ったら、そのホームレスが『よし。じゃあいいことを教えてやろう』みたいな感じで、ついにオチなんですけど。

(渡辺志保)はい。

(AKLO)『1ドルの価値を教えてやる。1ドルの価値は、お前の天国行きの席の確保のための金だ。俺が、神だ』みたいな感じで。そいつが実は神様だったっていう、世にも奇妙な物語的な感じのオチで。

(HIPHOP HYPE!の中の人)笑ゥせぇるすまん的な。

(渡辺志保)『I am God』『Heaven Spot』とかね。予約のためにっていう。

(AKLO)そうそうそう。っていう感じのオチで。最終的にケンドリック、『うわっ、マジかよ?どうしよう?どうにか助けて下さい!』みたいになる。なんで、ちょっとその曲。いい感じなんで。『How Much a Dollar Cost』という曲、聞いて下さい。

『How Much a Dollar Cost』

(AKLO)っていうことで、いま聞いてもらった曲が『How Much a Dollar Cost』という曲でした。

(渡辺志保)ぜひね、ヴァース3と。あと、最後の最後にロナルド・アイズレーが出てきて、すごいいいことを歌うので。本当、最後まで聞いてほしいなって思いますけど。

(AKLO)そうですね。で、そんな感じで進んでいくんだけど。最終的に、お母さんにすげー怒られるんですよ。このストーリー展開の中で。そこで、『あんたね、無理してコンプトンだからタフぶったりとかしないで、自分らしくいなさい!』みたいなところがあって。それで、『よし、自分らしく行こう』ってことをやっと悟れるんですよ。

(渡辺志保)はいはいはい。

(AKLO)だから、いままでフェイクだったもの全てを取り除いて。音楽シーンが求めているものとか、そういったものを全部無視して、『俺は俺なんだし、俺ができることをやろう』みたいな感じになった時に、納得した上で、ようやく生まれたのが『i』。

(渡辺志保)なるほどね。最後じゃあ、『u』ですごく迷っていて、どうしよう、どうしようと思ったけど、アフリカにも行って、お母さんにも『あんた、嘘ついたりしなくていいのよ』みたいに言われて。やっと・・・

(AKLO)やっと、『i』。自分で『I love myself!』って言えるようになった。

(渡辺志保)自分のことが好きになったよっていうことなんですね。

(AKLO)自分のことが好きになった。そしたら、自分が完全にリアルな男になって。そして最後の曲。『Mortal Man』っていう曲があるんですけど。

(渡辺志保)はい。『i』でアルバムが終わりじゃないんですね。

(AKLO)そう。そこで終わりじゃなくて。この曲は、ま、ま、まさかの12分以上ある!ふざけんなよ!っていう長さなんですけど。

(渡辺志保)ねえ。最後、16曲目がね、めちゃくちゃ長いという。

(AKLO)そう。この曲のね、ヤバいところは、もう超自信満々になったケンドリックがファンに、『YO!お前らさ、ずっと俺のファンでい続けれる?本当にヤバい時でも応援し続けれる?約束できる?俺のファンになったら、マジだぜ?』みたいな。で、なんでかって言うと、いままでケンドリックは有名になった黒人とか、有名になった人ってみんな叩かれて、結局悪いところが見つかってダメになっていくとか。殺されるとか、そういうことばっかりだったけど、『俺のことを守ってくれない?これから俺、もっと上がっていくから、そうなった上で、またみんなで俺の悪いところ見つけて、ブログとかで悪口とか書いたりするの、やめてくれよ!』みたいな感じで。自分を守った上で・・・

(渡辺志保)はい。

(AKLO)でもまあ、なおかつ、自信満々なんですよ。それは。自分がリアルな男だってことを言えるからこそ、『俺のことをサポートしろよ。こんなリアルだぜ!』みたいなことが言えると。そんでまあ、実はこのアルバムを作っている上で、少しずつあるポエムが出来上がっていくんですけど。そのポエムがようやくこの曲で完成します。

(渡辺志保)なるほど。

(AKLO)毎曲、一行ずつ増えていくようなシステムで。このポエム、どうなっていくんだろう?って実はリスナーにずっと思わせておくんですよ。アルバムの中で。で、やっと完成するんですけど。やっと完成したポエムを、誰かに聞かせます。

(渡辺志保)はい。

(AKLO)で、その誰かっていうのは、2Pac。

(渡辺志保)ヤバいよねー!いや、でも2Pacに聞かせますって、ラップで言うだけじゃなくて、ケンドリックのすごい神がかっているところは、実際にね。

(AKLO)そうそう。実際に。誰も聞いたことないような、本当の2Pacの声で。で、どこで・・・

(渡辺志保)なんか、スウェーデンのラジオって言ってましたね。

(AKLO)あ、スウェーデンか。どっかでもらって。アンリリースのやつ。それをもらって、その答えているやつに合わせて、自分で質問を書いて。本当に自然に会話している感を。

(渡辺志保)擬似インタビュー、擬似会話を自分のアルバムのアウトロに持ってくる。

(AKLO)擬似インタビューを2Pacとしているみたいな。

(HIPHOP HYPE!の中の人)新しいよね。

(渡辺志保)ねえ。正気の沙汰じゃねー!と思いましたね。

(AKLO)そうそう。なんで、そのポエム言ったところから、2Pacとしゃべり出すところを聞いてもらいたいと思います。

(AKLO)はい。というわけでね、聞いてもらっていますけども。このしゃべっている感じが超ナチュラルだよね。

(渡辺志保)ヤバいよね。そうそう。2Pacの声がね、入ってきた瞬間、ワーッ!ってなりますけど。

(AKLO)そうなんですよ。まあ、でもね、言いたいことはまだいっぱいあるんだけど。俺が印象として、今回受けたものは、ケンドリック、弱いなっていう部分ね。自分はすごいネガティブな男なんだなってことがわかったし。で、自分の中にすげー納得のいかない部分がいっぱいあって。自分の中でフェイクだなと思っていた部分があって。それをお母さんに怒られたりとかするんだけど。そうすることによって、ケンドリックなんてラッパーの中でもチャラくないじゃないですか。ぜんぜん。

(渡辺志保)まあ、そうだね。グッドキッドっていうぐらいだから。

(AKLO)他のラッパーのチャラい感じが、余計なんか、むしろそっちの方が怒られているみたいな感じがするんですよ。聞いていて。で、最終的に本当に素直になれる奴って、本当に限られていて。そんな中でケンドリックはそれを上手くやって。だから、少しだけあったフェイクさを全くなくして、超リアルになった自分が、唯一2Pacとしゃべれる男、みたいなところまで辿り着くみたいなストーリーなんじゃないかな?って俺は思っていて。

(渡辺志保)素晴らしい。

(AKLO)本当に少ないフェイクさなんだけど、彼はそれをすっごいネガティブだから、膨らましすぎちゃっただけで。他のラッパーに比べたら、超硬派じゃん!みたいな。

(渡辺志保)そうだね。

(AKLO)ただそれによって、今回のアルバムで俺、ケンドリック最強になっちゃったんですよね。簡単に言うと。誰にも文句言われないじゃん、もう、みたいな境地に辿り着いたんじゃないかな?と思ってます。

(渡辺志保)リアルだし。結構このアルバムって本当、レイシャルな問題とか、コンシャスな、コンシャスなっていう、そういうところばっかりクローズアップ、最初はされがちだったんですけど。なんかその問題、人種問題とかって、このアルバムを彩る、ほんの一つのスパイスでしかなくって。本当、聞けば聞くほど、AKLOくんが言うように、もうケンドリックの本当、心のリアルな声っていうのがすごい伝わってきますし。サウンド的にも、前作をはるかにしのぐ、本当に素晴らしい・・・まあ、前作も本当、素晴らしいけど。ジョージ・クリントンまで引っ張りだして、ドクター・ドレーもスヌープ・ドッグも入ってきているようなぐらいですから。本当に次のフェイズに、三段飛ばしぐらいで行っちゃったなっていうね。

(AKLO)うん。本当にそんな感じ、しました。素晴らしいアルバムだったと思います!

(渡辺志保)はい。いやー、もう本当に超大作の解説でございました。ありがとうございました(拍手)。

(AKLO)ありがとうございました!

(渡辺志保)ということで、AKLOさんの『To Pimp A Butterfly』特集でございました。かなりボリュームあったし、みなさん、めちゃめちゃ勉強になったんじゃないでしょうか?

<書き起こしおわり>

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