ライムスター宇多丸さんがTBSラジオ『ジェーン・スー相談は踊る』の中でリスナーからの相談に回答。その中で、アーティストの創作活動とドラッグについて話していました。
※2015年2月21日放送分の書き起こしです。
アーティストとドラッグ
(宇多丸)さて、ここからは番組に届いたご相談を紹介していきたいと思います。
(ジェーン・スー)お願いします。
(宇多丸)(メールを読む)『自分は親の代から40年続く大衆中華料理屋を継いで働いており、ポッドキャストでしか聞けないのですが、2人だからこその相談があります。自分は若い頃、エンターテイメントの世界で仕事をすることを目指し、映画、舞台、音楽などジャンルを問わず、人を喜ばすことを常に考え、経験を積んでいました。そこそこの実感を得つつも、アルバイトとの両立で悩み、自分の実力の限界を感じていたので、スチャダラパーのFrom 喜怒哀楽よろしく、結果実家の大衆中華料理屋を継ぐことにしました。15年が過ぎ・・・』。あの、途中で辞めていくっていう話がね。
(ジェーン・スー)そうですね。
(宇多丸)(メールを読む)『15年が過ぎ、スーさん、宇多丸さんのラジオを聞いていると、いまでは大衆中華料理屋を選んでよかったとじんわり脇汗をかいている毎日です。5年前、友人が亡くなりました。残念ながら、自殺でした。彼とは、お互い仕事が終わった後、深夜練習スタジオでセッションしたり、仕事をやりつつも趣味として、息抜きとして、音楽を通じて通いあう素敵な関係でした。しかし、こんな結果になり、彼のことをわかってあげられなかった自分を責める日々が続きました。彼と縁のある仲間と集まり、彼のことを話し合っていると、衝撃的なことを知ります。彼は薬物依存症だったそうです。とてもショックでした。
たしかに振り返ると、昔、「お前が酒を飲むのと一緒だよ」とマリファナをたまにやっていると言っていたのを思い出しました。さらに、「ビートルズや著名なミュージシャンもみんな薬物をやっていただろ?それで伝説的な音楽が生まれたんだから」と言っていたことも。自分が「だけど、薬物を使った状態の作品は、自分以上の作品になってしまって、それは自分プラス薬物だから。それは自分じゃないんじゃないか?」と答えたら、彼は「もともと自分の中に持っていたポテンシャルが開花しただけだから、それはその人の作品だろ?と返されて、納得はいかないものの、話を終わらせたことがありました。
自分は音楽のライブの時に、毎回シラフで挑んでいたのですが、ライブを見ていた方に「酔っ払っていたのかと思った」と言われたことがあり、恥ずかしくもあり、うれしくもありました。本当に酔っ払っていたら、それは俺以上の俺なわけで、俺じゃない気がして。「相田みつをさんがにんげんだもの。って酔っ払って書いたんだよ」って聞いたら、誰が感動するんでしょうか?そんな自分には、彼が薬物に依存していったことが理解できません。ミュージシャンが薬物を使っていたことがニュースになることは、昔からあることですが、心底がっかりします。そしてその作品がどんだけ評価されようが、俺は認めません。それはその人以上で、別人が作った作品だから。スーさん、宇多丸さんはエンターテイメントの酸いも甘いも辛いも体感してきたお二人だと思います。アーティストの薬物問題をお二人はどう思われますか?5年前に亡くなった友人を少しでも理解できたらなと思い、相談させていただきました』ということでございます。
(ジェーン・スー)はい。
(宇多丸)というね、ちょっとね、亡くなられちゃって。
(ジェーン・スー)うん。お友達が亡くなっちゃったのは本当に残念なことだったと思うんですけども。
(宇多丸)まあ、音楽とか。特に音楽とね、薬物みたいなのは常にある話で。
(ジェーン・スー)と、言われてますよね。
(宇多丸)だし、その、たとえばビートルズや著名ミュージシャンも・・・って、まあ70年代は特にそういうトレンドが実際にあったわけですよね。LSDで・・・みたいなさ。で、これに関してね、僕は音楽をやっている側だから。ヒップホップももちろんですね、特にアメリカのヒップホップなんかは、その時その時にそういうドラッグ的な流行みたいなものと無縁ではない。まあ、それはやっぱりアメリカのヒップホップ、特に、アメリカの病みも含めてね。病んでいる、病気のところも含めてリアルに映しとるのがヒップホップでもあるから、というところもあります。で、まあちょっと要はさ、犯罪性というか、違法性の部分は置いておいて。
(ジェーン・スー)はい。
(宇多丸)この方が言っている、自分以上のものが出ちゃっている問題。薬物にたよっていたら出ちゃうんじゃないか?問題に関しては、僕は一応その、薬物というかさ。たとえば酒とかもそうだよ。ライムスターは結構酒飲みグループとしても知られてて。
(ジェーン・スー)はい。ミスタードランクもいるし。
(宇多丸)うん。で、酒のことを歌った曲もすごい多いんですね。で、これ酒ってみなさん、立派にドラッグですからね。
(ジェーン・スー)依存性も高いですからね。
(宇多丸)依存性も高いですし、はっきり言って飲むことによって、たとえば暴力的になったりっていう人も当然いますよね。飲み屋でケンカとかもありますし。つまり、合法ではあるけど、はっきりドラッグなりの危険はあるものですよね。だから、使い方を誤れば、もちろん酒で人生破滅することもありますし。お友達のように、本当に精神の異常をきたしてしまう人だって当然いるわけで。
(ジェーン・スー)うん。
(宇多丸)なんだけど、酒の歌を歌ったりする。それはなぜか?といえば、たとえば酒を飲む状態。よろしからぬ部分も含めて、描きたいという。アーティストというのは。要するに、芸術とか、エンターテイメントっていうのは、正しくないことも描くというのが僕はアートであるというか。だってその、道徳の教科書じゃないから。人間の正しくなさも描くというところも含めて、酒飲んで酔っ払って・・・っていうのも描きたいし。あと、たぶんだけど、LSDとかをやるような人は、当時はね、それによって人間の想像力が、イマジネーションの方が拡張されるって思ったからやってたんでしょ?
(ジェーン・スー)うん。
(宇多丸)で、そのビジョンにしたがって曲を作ったりとかしてるわけじゃないですか。で、まあその気持は僕、正直わからいじゃないです。新しいビジョンが見れるなら・・・みたいなね。ただまあ、そのLSDとかのビジョンはそれこそ70年代にとっくに陳腐化しちゃってるし。まあだいたいこういうもんでしょ?っていうはあるんだけど。問題はやっぱり、ただね、酔っ払ったり酩酊した状態から、ドラッグに本当に入り込んだままの状態では、僕はたぶん本当にいい作品はやっぱりなかなか作れないと思う。だからたとえば、お酒飲んで、ライムスターの歌は酔っ払って書いているか?っていうと、そんなことは不可能なんですね。
(ジェーン・スー)それは、無理?書けないんですね?
(宇多丸)まあ、書けるけど、たぶんいいものにはならない。そうなった時の気持ちっていうのをちゃんと知的に分解して、ラップをするっていうプロの技術で、当然シラフで、理性の面を持って。それがどうやったら、お酒を飲んでない人にも伝わるのか?っていうのを理性的に考えて、組み直さないと作れないわけで。
(ジェーン・スー)はい。
(宇多丸)極端なことを言えば、たとえばフィクションで、お話。小説でもドラマでもいいですけど。まあ殺人の場面が出てくるとしましょう。人を殺したことがないから、書けないから・・・っていうね、理屈になっちゃうじゃん。
(ジェーン・スー)そうですね。
(宇多丸)でもさ、そこは想像力を働かすところにこそ、想像力が勝つところにこそ、やっぱりその、ものを作る側のさ・・・
(ジェーン・スー)矜持もありますよね。
(宇多丸)矜持もあるし、っていうか、そうじゃなかったら作る意味がない。それはなんなのか?っていうのを自分なりに、理知的に解釈して。そうじゃない、大半のそういう経験じゃない人にどう伝えるか?っていうことを、やっぱりもう1回、シラフで考えなおさなきゃいけなわけで。なので、酒も含めてですけど、そこに耽溺したままでなにかっていうのは、溺れてしまう・・・なんて言うのかな?なんにせよ、ダメだと思う。さっき言った、違法の話はちょっと置いておいてね。酒だってドラッグだってことで言うならば。
(ジェーン・スー)うん。
(宇多丸)だから酒とか全般を否定する社会がいいとも思わない。だってそれって、禁酒法の社会がどうなったか?とかさ。だけど、うん・・・その、それでなにかを表現する人が、そっちに溺れてしまって、いい作品ができるとも思わない。って、答えでどう?ちょっと反社会的?大丈夫?
(ジェーン・スー)いやいやいや、そんなことはないと思います。その、宇多丸さんが敢えて避けていらっしゃったのは、法律に、酒はOK、クスリはダメっていうことは、あくまでそこに線引きされた法律であって。そこには根拠はあるけれども、それも時代によって・・・
(宇多丸)そうですね。社会によっても変わってくものだから。だから、なんていうの?『ドラッグが絶対にダメだ!』って言ったら、じゃあ酒もダメだし。まあ、嗜好品全般だってさ、たとえばタバコがダメだったり、コーヒーダメっていう文化だってあるし。そこは、時代とか文化とか国によって、宗教によって、いくらでもグラグラするところであって。なんかそこをなんて言うのかな?白黒絶対で、これをやっている奴は全員クズだ!みたいなのは、僕はそこまで立派な人間じゃないですって。俺はやっぱり酒飲まずにはいられない自分がいるわけだから。
(ジェーン・スー)時もあるってことですよね。
(宇多丸)だから、酒がもし法律で禁止されているところだったら、ひょっとしたら違法な酒を飲んでいるかもしれない。ね。だから、それに関してはちょっとまた別の議論になってくるから、ちょっと置いておくけども、っていう。
(ジェーン・スー)そう。いろんな話がこれ、混ざってるんですよね。その、合法か、非合法なことをやっている友達っていうことに対するショックっていうことと、あと、作るもの、クリエイトするものに関して、なにかプラスアルファのものをやったものは本物なのか?偽物なのか?みたいな。だけど、本物・偽物っていう話じゃないってことですよね。
(宇多丸)そうね。出来上がったものは第一さ、やっている人が、よくいんじゃん。『これは○○を知らないと、わからない』とかさ。だったらそんなもん、クソだ!って言ってもいいと思うけどね。やったことないとわからないなら。そうじゃなくて、やったことなくても、なんかすげービジョンだ!っていうのが伝わるなら、それはその薬物の良し悪しとは別に、まあすごいんじゃない?とは言えるかもしれないけどね。
(ジェーン・スー)そうですね。
(宇多丸)あとね、薬物って言ってもね、ここで言っている薬物がなにか?にもよるよね。アッパー系なのか、酔っ払う系なのかにもよるし。その友達がどういうつもりで薬物なのかも、1人もわからないことだし。うん。
(ジェーン・スー)『5年前に亡くなった友人を少しでも理解できたらな』というのがこのリスナーさんのメールの最後にあったんですけども。
(宇多丸)まあその自殺がさ、直接関係しているかどうかも、これからはわからないし。単純に精神のなんらかのご病気だったのかもしれない。ただ、その精神の弱さがあったから、薬物に行ったという可能性もあるかもしれないし。で、やっぱりそれに耽溺して、たとえばさっきあげたミュージシャンが・・・っていうけど、ビートルズにしろ、ストーンズとかにしろ、それでもやっぱり続けているチーム・・・まあ、レノンは撃たれちゃったから薬物じゃないけど。なんて言うのかな?それで死んじゃうのは、なんか本末転倒っていうか。
(ジェーン・スー)転倒だと思います。
(宇多丸)というのは間違いないと思うので。
(ジェーン・スー)ちょっといろんな問題が混ざってると思うので。お友達を理解するためにも、いろいろ分けて、もう1回考えてみるっていうのも、もしかしたらリスナーさんの助けになるかも知れないですね。
(宇多丸)ちょっと、ごめんね。俺もちょっとなんか、言い足りてないところがあるかもしれないけど。すいません。
(ジェーン・スー)いや、宇多丸さん。ありがとうございます。というわけで、リスナーさん、ありがとうございました。
<書き起こしおわり>