菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の名物企画ソウルバー<菊>で、今回もバラク・オバマに捧げる前口上を披露していました。
(菊地成孔)バラク、次郎さんの寿司より富士山のアイスがいたく気に入ったようだな。すっかり白髪も似合うように鳴って、支持率も上がっているようじゃないか。しかし、もしお前が第二次の世界的な冷戦を側近の白人や、それよりももっと白いプーチンと組んで引き起こそうというのであれば、だが。お手並み拝見だ。お前より一手早く、レーガノミクスをパクッたプロパガンダを掲げ、最近じゃ腹も治ったか、太り始めて絶好調の我が国のプライムミニスターも、大いにサポートするだろうよ。
バラク、お前も俺やウチらの首相と同様、生まれた時から冷戦だった世代だ。親の都合でハワイやインドネシアをたらい回しにされていた幼少期から青年期が、お前にとって楽しかったか辛かったかはわからない。しかし、ソビエト連邦が崩壊し、冷戦が終わった瞬間のお前は、ハーバード・ロースクールで法務博士の学位を取得し、シカゴ大の法学フェローになった。そしてその翌年には、ミシェル夫人と結婚して、子どもにも恵まれた。長かった冷戦の終結が、お前のハートに火をつけたのは、ウィキペディアとさらにさえ、明確だ。
真の問題はいつでも「愛」
我々がこのソウルバーを立ち上げてから3年が経過するが、真の問題はいつでも愛だ。たった3年の間に世界中で目を背けたくなるようなことが立て続けに起きた。それはフライトに30時間もかかる地の果てから、一緒にバンドをやっているタクシーで1メーターの友人にまで及ぶ、ありとあらゆる場所で生じる、人生の艱難と辛苦のチェインだ。しかし、我々は結局、どんなにあがこうと、愛からは逃れられない。どんな難しい問題に頭を悩ませようと、我々は愛の在処、愛の状態によって全てを決められてしまう。『非リア充だから愛など関係ない』という、どこかのインターネット屋が作った滑稽な念仏を唱えて生きる新興宗教の信者どもは、いま、愛に最も敏感な宗派だとも言えるだろう。
バラク、調子はどうだ?ノーベル平和賞は、見えるところに飾ってあるかね?世界がもう一度冷戦に戻ると、お前になにがある?なにが戻ってくる?ハワイか?インドネシアか?出会う前の、ミシェル夫人か?ニューヨークか?シカゴか?ホワイトハウスの住み心地は、どうやら冷戦中の方がいいらしいと、白人ばかりのパイセンにでも教わったかね?もう一度、言わせてもらう。俺たちは、お前の行政手腕を見ているわけじゃない。そして、合衆国初の黒人大統領としての意義すら、もう誰も見ていない。我々が見ているのは、53才の合衆国大統領として、いざとなったら結構なんでもやる、やっといらぬカリスマが落ちた、お前の愛の在処だ。
ケネディも、トルーマンも、ニクソンも、レーガンやブッシュのせがれさえ、それを見せた。だが、お前はまだ、おどろくべきことに、実のところそれを見せていない。つまり、もう一度冷戦が訪れて、俺たちが厄介なことに、少しでもノスタルジックな感傷に浸り、それに乗じてなにかを遂行しようとしてるのであれば、それは愛さえもノスタルジーという病に屈して生きているのかもしれないお前と同世代のジャパンクールと、なにも変わらない。要するに、お手並み拝見だ。あの、史上最も笑えるノーベル平和賞はどこに置いてある?思い切り、窓から投げ捨ててみろ。お前のハートに火をつけた、91年のあの時のように。よしんばそれが、100%の野心だったとしてもだ。
(LMFAO『With You』が流れる)
LMFAO『With You』
<書き起こしおわり>