菊地成孔さんがTBSラジオ『粋な夜電波』の公開収録でソウルバーを開店!大雨の赤坂サカス特設スタジオから、いつものごとく世界情勢を踏まえた名物前口上を披露していました。
ソウルバー開店時のメッセージ
(菊地成孔)この番組でソウルバーを開店する時、我々は一貫してシリアに対する合衆国、並びにノーベル財団の対応についてウィズダムを送り続けてきた。しかし、シリアはあの調子で酷い収束に向かい、エジプトもあの調子。ソマリアも北朝鮮も新疆ウイグル自治区もずっとあの調子だ。今夜の開店の前に、はっきり断言しよう。人類は猿であることをやめて以来、ずっと殺し合いを続けてきたし、これからも絶対にやめない。ワイズオーバー『War is over』というのは、正月に文房具屋に貼りだされる習字コンクールの文句。『青空』とか、『努力』とかいうやつのひとつにすぎない。
そして、あの忌まわしい瞬間から3年と48時間が経過した今日も、日本の報道機関はウクライナ情勢を伝え続けている。そこに、チェルノブイリがあることに一切触れないまま。そんな国家に飼い慣らされた多くの人々は、いま、闇雲に感動しようとしている。この国の将来を担う若者の一部はサロンに集まり、聞いたら感動しそうな安っぽい話を集団で書き上げては、それを読んで泣いているそうだ。泣きたがり、嫌味を言いたがる、薄っぺらいバカどもに教えてやろう。感動は愛ではない。ましてや、ケミカルな感動は真の愛を蝕む。匿名で人を撃つチンケなテロリズムや、学芸会レベルの作り話で泣いている暇があったら、一瞬でもいい。愛と向かい合うべきだ。泣くのは親が死んだ時に。人を撃つのは、親が目の前で殺された時に取っておくがいい。
垂れ流しで生きているやつらに待っているのは、ゆっくりした虚しい死しかない。そして、真の愛に触れるのに、南極まで歩いて行く必要はない。しかし、ソウル・ミュージックの神は1時間という永遠を与えようとする今夜、さすがの神も嵐を連れてきたようだ。そもそも最も愚かな生き物だった我々が、さらに愚かにならんとしていることに、さらに愛を失おうとしていることに対して。つまり、嵐は愛の一部であり、愛は嵐の一部だ。嘘だと思うなら、お前らが学校で習ってきた英語力を総動員して、『Earth Wind and Fire』の名前を翻訳してみるがいい。愛とソウル・ミュージックに飢えたブタども。準備はいいかね?
(観衆)イエー!
(菊地成孔)たったいま、この瞬間にも世界中で人々が殺し合っているという事実。そして、神が全てそれを知っているという事実との化学変化によって生まれ続ける、ソウル・ミュージックという奇跡が1時間、途切れずに続くという福音の儀式への準備はいいかね?
(観衆)イエー!
(開店テーマ Earth Wind and Fire – Can’t Let Go)
<書き起こしおわり>