菊地成孔さんがTBSラジオ『伊集院光の週末TSUTAYAに行ってこれ借りよう!』にゲスト出演。映画『ロンググッドバイ』をこんな感じで推薦していました。
(伊集院光)さあ、お待たせいたしました。映画には一言も二言もあるゲストの方に、週末借りたいオススメの一本、週末これ借りよう作品を伺います。今回のゲストは菊地成孔さんです。よろしくお願いします。
(菊地成孔)どうもよろしくお願いします。
(小林悠)よろしくお願いします。
(伊集院光)はじめまして、ですね。
(菊地成孔)はい。
(伊集院光)肩書きは『ジャズ・ミュージシャン』・・・あの、恥も外聞もなく本職の方に聞きますけど、ジャズって何ですか?
ジャズって何ですか?
(菊地成孔)(笑)ジャズは・・・何て言うんですかね?最近あんまり景気の良くない・・・(笑)
(伊集院光)そこからですか(笑)。ジャズの紹介は。
(菊地成孔)一時期、すごい景気良かったんですけどね。
(伊集院光)何か、ジャズって音楽流れてきて、『きっとこれがジャズなんだな』っていうのはある程度わかるんですけど、よく『ジャズっぽい』とか、『あいつのトークはジャズだな』みたいなの、あるじゃないですか。に、おける『ジャズ』にいつも僕、戸惑いながら「ですね!」って言い続けているんですけど(笑)。
(菊地成孔)はい。『即興だ』ってことでしょうね。それね。
(小林悠)あ、そういうことか・・・
(伊集院光)ジャズは演奏5分間あったら、楽譜に書いてあるの1・2分なんで。あれがこれがにたとえ始めたら、もうキリないですよ。最初に『ジャズはプロレスと同じだ』って言った人がいて。私の師匠の山下洋輔って人なんですけど。あれもまあ全部演武で決まっているわけじゃないじゃないですか。とはいえ、終わるわけですよね。そんなようなことはみんな、『ジャズだ』って。『落語はジャズだ』とかね。
(伊集院・小林)へー。
(菊地成孔)なんですけど、そうするとあまりに広くなっちゃうんで。何でもかんでもジャズだジャズだってなっちゃうじゃないですか。もう『人生はジャズだ』みたいになっちゃって。決まってないんだから、みたいな。でも死ぬんだから、みたいな。
(伊集院光)広いですね。ジャズ、便利ですね。
(菊地成孔)そうそう。それで分かんなくなっちゃうんですね。
(伊集院光)さてはあいつら、みんなその便利な感じで俺に言ってきたな?
(菊地成孔)そうだと思います。
(伊集院光)それを全部分からないまま、「なるほど」って言っちゃったんだな。
(菊地成孔)うん。イージー、イージー。
(伊集院光)じゃあ今日も、『ジャズ』で(笑)。
(菊地成孔)まあ、言っちゃあそういうことですね。
(小林悠)いいですね、これ(笑)。
(伊集院光)いやー、まあ映画の番組ってことなんですが、映画はよく見られますか?
(菊地成孔)そうですね。見なくもないですね。映画の本もちょっと出しているくらいの感じですかね。
(小林悠)内容はどんな内容なんですか?
(菊地成孔)僕は映画音楽の研究っていうか、そっちが専門なんで。
(伊集院光)映画音楽。まあその音楽畑の人はやっぱり音楽すごい気になっちゃいます?
(菊地成孔)そう、気になります。もちろん。
(伊集院光)映画自体は悪くないはずなんだけど、音楽ダセー!みたいなやつには、引っかかっちゃいます?
(菊地成孔)音楽がダサいっていうより、音楽自体はだいたいみんなクオリティいってるんですけど、どこに張るかとか、どの音量で張るかとか、何回張るかとか。『張る』っていうのは、出てくるかっていう。鳴りっぱなしじゃないじゃないですか。だから出し引きとか量だとか、そういうことが気になりますね。
(伊集院光)映画音楽に限って、一番好きなの何ですか?
(菊地成孔)ええと、そうですね。『アメリカの夜』っていう、フランソワ・トリュフォーっていう人の映画があるんですよ。夜のシーンを昼間撮ることを『アメリカの夜』っていうんですよね。
(伊集院)ふーん。
(菊地成孔)『La Nuit americaine』っていうんですけど。要するに昼撮影して、あとで光消して夜のシーンにすることを『アメリカの夜』っていうのをタイトルにした、映画撮影中のクルーを追った映画。そのパターンあるんですけど。撮影中の映画を追った映画ってのは。ジーン・ケリーの有名な『雨に唄えば』っていうミュージカルもそれなんですけど。
(伊集院・小林)ふんふん。
(菊地成孔)その映画のフランス映画版で、それの映画音楽が私、一番好きです。はい。
(伊集院光)へー。すいません、何かあの、映画を1つ紹介しろってプレッシャーをかけてるのに、その前にもう1個聞いちゃって申し訳ない。ちょっとこれも聞いてみよう。じゃあちょっと、お願いしている本題の方に行きたいと思います。菊地成孔さんが選ぶ今回の『週末これ借りよう』作品は一体何でしょう?
(菊地成孔)はい、これはですね、『ロング・グッドバイ』っていう映画ですね。1974年公開のアメリカ映画です。
(伊集院光)ジャンルだと何ですか?
(菊地成孔)ええとね、なんとも言えないな。原作はレイモンド・チャンドラーという、これ1つのアメリカ文学の神の一人っていうか。大衆小説の方の中のチャンピオンですね。ハードボイルド文学っていう。要するに娯楽小説ですね。この『ロング・グッドバイ』っていうのは探偵モノで。フィリップ・マーロウっていう探偵ね。金田一耕助みたいな。明智小五郎みたいなフィリップ・マーロウっていうのがいるんですよ。これ、アメリカ人なら誰でも知っているというような知名度のあるキャラクターで。50年代にハンフリー・ボガートが、あの人が当たり役でやったんですね。それの70年代のヒッピー版って言われてますね。
(伊集院光)ふーん。
(菊地成孔)54年はスタイリッシュですから、ソフト帽とかかぶって、ハンフリー・ボガートですからタイドアップしてスーツ着てかっこいいわけですよ。要するに54年と74年だとこんなに違うってことですね。
(伊集院光)へー!俺、74年のアメリカの感じってのがピンと来ない。
(菊地成孔)たとえば何て言うのかな?主人公が、昔はとにかくタフガイで。54年の段階はタフガイで無口でかっこいいわけですよね。要するにバッキバキにキマってたんですけれども、74年になるとまずタイドアップ、ネクタイが緩くなってきて。襟が半分出てたりして。要するに松田優作さんがこれ見て、『探偵物語』以降の路線を決定したっていう。
(伊集院光)はーー!じゃあちょっと、日本にも染みだしているわけですね。
(菊地成孔)あの、世界的にとにかくヒーローがアンチ・ヒーローになって、やることはやるんだけど、ビシッと決めてないぞっていう大きいくくりがあるじゃないですか。金田一耕助とかもそうですね。頭からフケが出てくるような主人公っていう。なんだけど、天才なんだという。
(伊集院光)なるほど!ピンと来ました。なるほどね。正義の味方がいわゆる、ちょっとツッコミどころもあるけれどっていう。
(菊地成孔)ヨレてるんですね。それの一番かっこいいパターンって言われてますね。
(伊集院光)音楽的なところは?たとえば誰がとか。
(菊地成孔)音楽はですね、ジョン・ウィリアムズがやってます。
(伊集院光)あっ、俺でも知ってるよ!スターウォーズの!スターウォーズの人でしょ?すいません、僕の中で断片的な情報で組んでいるところじゃないですか。そうすると、探偵物語に影響を与え、金田一耕助のたとえみたいなちょっとヨレてる。そこに、スターウォーズの音楽が流れちゃったもんだから、意味が分かんなくなっちゃってるんですけど(笑)。
(小林悠)(笑)
(菊地成孔)ジョン・ウィリアムズがジョン・ウィリアムズ化する数年前です。これ。だからまだジャズ書いてますね。渋いジャズ書いてます。
(伊集院光)そうなんだ。僕、ジョン・ウィリアムズっていうのは、もうスターウォーズのあのイメージしかないから・・・ジャズやってた人なんですか?
(菊地成孔)途中から了見変わる人、いるじゃないですか。芸風がバッ!って変わる人が。ジョン・ウィリアムズは、スピルバーグ・ルーカス組と組んだらあれになっちゃったんですね。
(伊集院光)へー!あの、少ない音楽知識で勝手なイメージですけど、普通逆な感じがするんですけど。何かああいう、すごいオーケストラみたいなことをやっていた人が、いや、もっとラフなのでいいんじゃないか?ってので崩したら面白いんじゃねーか?みたいになっていくイメージなんですけど。
(菊地成孔)あの、だんだん枯れていってないんですね。要するにある時からド派手になったんですね。
(伊集院光)そうなんだ。ここまでの話だけで相当もう、楽しいんですけど(笑)。
(菊地成孔)あ、本当ですか。
(伊集院光)ルールとして一応、3つポイントをというポイント分けをしてもらっているんで。1つ目はなんでしょう?
(菊地成孔)えーと、今の話に3つとも入っちゃってるんですけど(笑)。まあ、アンチ・ヒーロー像の決定っていうことですね。ネタバレぎりぎりですけど、まず主人公は一人暮らしで。で、舞台は西海岸でアパートメントの一番上の階に住んでるんですけど、猫と住んでるんです。夜中に猫缶買いに行ったりするところから始まるんです。いかにも松田優作さん、出てきそうなね。
(伊集院光)本当ですね。
(菊地成孔)で、隣の棟っていうか、見えますよね。部屋から。隣の部屋にはね、これがまあ時代背景っていうかこの映画の最大のチャームなんだけど。ヒッピーのしかも怪しげな新興宗教・・・新興宗教って言っても悪いんじゃなくて平和的な、ラブでピースでサイケデリックで、たぶんレズビアニズムっていうかね、女性だけのヨガの集団が隣の部屋にいるの。
(伊集院光)すごい設定ですね(笑)。
(菊地成孔)その人たちね、レオタードだとか半裸でずーっと宇宙と交信してるんですよ。それはストーリーと全く影響しないんですけど。その人たちがちょっと事件に絡むとか、一切ないんですけど。そういったような、今までのアメリカでミステリー、サスペンス、探偵モノっつったら絶対出てこないような、ちょっとヤバくて素敵な人たちが、随所にポイポイポイって置いてあるんですよね。
(伊集院光)何か、余計なモノじゃないですか。そういうのって。余計なモノの、いいバランスで置いてあるのって、いいですよね。
(菊地成孔)いわゆるガジェットね。一番いいですよね。
(伊集院光)で、それがバランス多すぎると鬱陶しくなるけど。なさすぎるのは、嘘くせーになるし、そのバランスのいいやつっていいですね。
(菊地成孔)そのバランスが最適っていうかね。マフィアも出てくるんですけど、ただただ怖いとかじゃなくて、突然勘違いなこと言ったり、激昂してとんでもない話になったりとかね。そういう笑えるっていうようなとこもちょっと。ものすごい緊張と、ものすごい抜けた感じが混じって、後のデビッド・リンチとかにも影響与えてるっていうか。
(伊集院光)何か、面白いことだけでつながっているもんってあんまり面白くないし、怖いことだけでつながっているものってあんまり怖くないじゃないですか。そういうところなんですかね?そういうこう、抜きというか。やっぱり余計なことをいれることで、より際立ったりとか。現実味ができたりとか。
(菊地成孔)まあとにかくかっこいいっていうのが一番の・・・
(伊集院光)かっこいい。いわゆる昔のベタなかっこいいじゃなくて。もう一つヨレたかっこよさみたいな。いつごろぐらいからですかね?自分たちもちょっとヨレてるところが好きになりますよね。そうじゃない、全くない本道のやつに対して。何ですかね?『嘘だろ!?』って思うように。
(菊地成孔)何だろうな?アメリカだと『カウンター・カルチャー』って言うじゃないですか。正統なカルチャーがあって、キメキメがあるのに対してカウンターがあって。で、カウンターはちょっとアンチ・ヒーローだったり、ちょっと崩れてるんだっていうのが出始めるのはベトナム戦争とかですよね。だから60何年でしょ?そうすると、伊集院さんとか私の生まれたあたりがそういうのの始まりっていうか。もうちょっと後にカウンター・カルチャー来るんだけど。69年以降ですよね。
(伊集院光)何か、校長先生の話よりも、ビートたけしさんの話の方が入ってくる感じってあるじゃないですか。ちゃんとこの人、パンツにウンコ付いた上で言ってるんだっていうこと。校長先生は分かんないけど、『パンツにウンコ付いてない!』って言い張るけど、それじゃ信用できねーな!っていう感じのものってありますよね?
(菊地成孔)うん。このマーロウはウンコ付きまくりですよね。
(伊集院・小林)(爆笑)
(菊地成孔)あのね、女性には当たりキツいです。この映画、正直。今だとね、絶対R指定っていうか。女性への暴力、DVみたいなものって今、絶対アメリカでは一番タブーで。絶対悪の1つなんですよ。まあ、どんどん中入っているからネタバレ気味になっちゃいますけど、ヤクザの親分に情婦がいますよね?で、この情婦に対してヤクザの親分がもう、頭おかしい人で暴虐で、ニコニコ笑いながらちょっとキレると顔バーン!って瓶でやっちゃったりするんで。その後ね、その情婦の人、顔中包帯で出てきておとなしくしてるんですよ。
(伊集院光)うわー、それは男性は映画の中の嘘としては、こういう頭のおかしいやつだっていう表現として楽しめるかもしれないけど、もしかしたら女性はそこで心が離れて、離れっぱなしの可能性もありますね。
(菊地成孔)ありますね。74年だったらギリギリの表現ですけど、2013年ではアウトですね。
(伊集院光)へー。ポイント2は?
(菊地成孔)やっぱり音楽ですね。これはさっき言ったようにジョン・ウィリアムズがジョン・ウィリアムズ化する前の、芸風変わってしまう直前の映画なんで、『これジョン・ウィリアムズなんだ』っていうのはあります。主題歌があるんですよ。『ロング・グッドバイ』っていう主題歌があるんですけど(笑)。
(伊集院光)そうなんですか。まんまのやつが。
(菊地成孔)はい。まんまのやつがあって、それをわざわざジョン・ウィリアムズが作曲したジャズソングっぽいんですけども。
(伊集院光)これは、ジャズ・ミュージシャンとしての菊池さんは、結構評価高いんですか?この頃のジョン・ウィリアムズ。
(菊地成孔)めちゃめちゃ評価高いです。この映画のジョン・ウィリアムズのが一番いいかもしれない。
(伊集院光)スターウォーズより?
(菊地成孔)スターウォーズは、いいも悪いもスターウォーズ以降ずっと一緒ですから。芸風はもう、決定ですよね。ですから、この時はちゃんとジャズ書いてて、しかもね、そういうシャレた使い方っていうか、オープニングで曲がザーッて流れてそこにタイトルロゴがかかるというような使い方じゃないんですよ。あるいはエンディングで流れるとか、主人公が歌うとか、定番がありますよね?そういうのをちょっと外して、シャレた感じにしてるんですよね。
(伊集院光)あ、使い方も含めて。
(菊地成孔)シャレてます。すごいシャレてます。オープニングでこう、歌が流れるんですけど。すでにね、ジョン・ウィリアムズの歌声が聞けるっていう段階で結構価値があるんですけど(笑)。
(伊集院光)えーっ!?歌う人なんだ。もう全然そんなイメージ、ないですよ。
(菊地成孔)いや、本当に。で、ジョン・ウィリアムズの歌で最初はじまって、それが途中でカバーヴァージョンになるの。女性の。キーが変わって。で、『おっ、かっこいいな!』って思っていると終わるんですね。途中まで歌ってやめちゃうんで、『この歌この先どうなってるんだろう?』って最後まで分かんないです。
(伊集院光)へー。ちょっとこれ、はじめての観点じゃないかな?いろんな方に映画紹介してもらって、こういう部分を教えてくれる人は、はじめてです。ちょっとうれしいです。3つ目、何ですか?ポイント3つ目。
(菊地成孔)物語の一番の悪はもちろんマフィアではなくて。で、一番悪いやつが役割的には『成り上がり』なんですよ。成り上がって成り上がって成り上がって。金がほしくて金がほしくてっていう悪いやつがいるんだけども、この人がですね、元メジャーリーガーが演じてるんですね。
(小林悠)えっ!?
(菊地成孔)日本だったら江本(孟紀)さんですよ。
(伊集院光)へー!!演技はどうなんですか?
(菊地成孔)上手。俳優としても仕事してる人ですから。スポーツキャスターやったり俳優したりしてね。ジム・バウトンっていうんですけど。だからね、成り上がっていくやつで『憎々しいな』って思ってるんだけど、すごいリアリティーで『こういうやついる。アメリカに』っつったら、メジャーリーガーだっていうね。元。
(伊集院光)へー!じゃあハマってるんですね。
(菊地成孔)めちゃハマりですね。
(伊集院光)日本だと元プロ野球選手の俳優さんで上手な人・・・八名信夫さん。青汁の。
(菊地成孔)(笑)
(伊集院光)あの人、元プロ野球。
(小林悠)えっ!?あの方、そうなんですか?知らなかったです。
(伊集院光)『バッターに打たれるより高倉健に撃たれろ』って言われて。で、東映に入っちゃったって人だから。しかし菊池さん、お詳しいし面白いです!ご本も書かれてるっていうから。僕の今まで注目したことのない感じのアプローチを教えてもらって、見るの今から超わくわく。
(菊地成孔)本当ですか?良かったです良かったです。
(伊集院光)これはでも、2週間後のおさらい編が楽しみです。だってもう、心置きなく話せるのはそこからなんで。はい。1974年公開されましたアメリカの映画『ロング・グッドバイ』を推薦してもらいました。菊池さん、どうもありがとうございました。
(菊地成孔)ありがとうございました。
(小林悠)ありがとうございました。
<書き起こしおわり>
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