ドロッセルマイヤーズの渡辺範明さんが2026年8月25日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の中でゲームデザインという観点から冨樫義博『HUNTER×HUNTER』を解説。『HUNTER×HUNTER』の各章ごとに冨樫義博先生が描こうとしたものについて話していました。
(宇多丸)では最後のパートいってみましょう。『HUNTER×HUNTER』の全体構成とゲームデザインということで。今のはまあ、設定みたいなことね。
(渡辺範明)これが設定なんですけど。この念能力というのを使ってじゃあ、どういうお話を展開しているのかということなんですが。『HUNTER×HUNTER』はすごい長編漫画なので、いくつかの章に分かれています。
(宇多丸)それによってさっきシフトチェンジ、ジャンルが変わってくみたいなことを言っていたけども。それが結構、章によって変わってくよっていう?
(渡辺範明)そういうことですね。それがはっきり見えるんですが。一番最初、ハンター試験編っていうので始まって。その主人公たちがハンターというものを目指すための試験のために単行本で何巻かの展開が描かれるんですけど。この時は実は念能力っていうものがまだありません。念能力が登場しない。で、念能力なしでの知恵比べとか力比べをして、ハンターとは何か?っていうむしろ物語のテーマとかキャラクターの設定の方を先に見せていく。それに何巻かを費やすんですけど。これ、今のジャンプ漫画とかのモードから言うとほぼありえないぐらいの、めちゃめちゃゆっくりした始まり方で。
(宇多丸)なるほど。ちゃんと助走をつけてるんだ。最初にいきなり思いついたことを「どうだ!」って出す前に。
(渡辺範明)で、これが普通の連載だったら第1話で「この漫画ってこういうところが面白いんですよ」っていうのを全部見せなきゃいけないっていう風に普通はなるんですけど、そういうことをしてないんですよね。むしろ、ゆっくりした始まり方をします。で、次に天空闘技場編っていうところ。これはワンフロアごとにフロアマスターがいて、みたいな。いわゆる死亡遊戯形式のバトルシステムで。
(宇多丸)それこそより強い人、より強い人って。
(渡辺範明)そうです、そうです。天下一武道会的なものっていうのをここであえて出してくるんですけど。で、ここで念能力というものが登場して、念能力のチュートリアルにこの場を使います。
(宇多丸)でもある意味、単純だもんね。より強い、要するにこっちが勝つ、こっちが勝つっていうのを見せていくだけ。
(渡辺範明)ここでベタなバトル漫画っぽいことをやるんだけど。この天空闘技場っていうのは上に行くほど強いやつがいて。てっぺんが一番強いわけなんですけど。それを主人公たちは途中でやめるんですね。「別にトップに興味はないから」って言ってやめちゃう。これはもう、明確にメッセージですよね。「この漫画でやりたいことはこういうことじゃないですよ」ということがはっきりしている。
(宇多丸)ほう、面白い! へー!
(渡辺範明)で、じゃあ『HUNTER×HUNTER』で描きたいのは何かというと、やっぱりハンターっていうのは何かを集めたり、コレクトしたり、手に入れることを目指すっていうものだから。実は勝利やバトルは手段でしかなくて、コレクションが目的なんですよ。これってJRPG史の中でもポケモンが作った「ゲームクリアが目的じゃなくてコレクションが目的ですよ」っていう時流におそらくリンクしてるんですよね。
(宇多丸)なるほど。さっき言った、だからやっぱりゲームのあれとかともパラレルだっていうのと。
(渡辺範明)そう。たぶん冨樫先生は今の子供が何に興味あるかっていうことを絶対に考えて書いてると思うので。
(宇多丸)「より強いやつ、より強いやつ、全国トップとか、そんなんいいよ」って。
(渡辺範明)ということだと思います。自分の興味を追求するということをテーマに描いていこうとするので。
(宇多丸)しかもそのカードの切り方の手順、めちゃくちゃ計算され尽くしているじゃん!
自分の興味を追求するということがテーマ
(渡辺範明)そうなんですよ。めちゃくちゃクールなんですよ。で、次にやるのがヨークシン編っていうやつで、ここで描かれるのはオークションです。で、そのヨークシンっていうのはニューヨークがモデルの街なんですけど。都会、大都市で開催されるオークションを舞台に美術品とか骨董品とかの取り合いとか目利き、鑑定みたいなことに念能力が絡んできて。しかも、そのオークションを取り仕切っているのは裏社会のマフィアたちなので。
(宇多丸)いいですね!
(渡辺範明)マフィア同士の抗争も描かれて、暴力団同士のバトルにその念能力が絡んでくるんですね。
(宇多丸)いいですねえ!(笑)。
(渡辺範明)これは結構、かなりバイオレンス映画的な展開なので。宇多丸さんはたぶんね、普通に面白いと思います。
(宇多丸)いいですね!
(渡辺範明)これが応用編1っていう感じですね。だから暴力団×念能力みたいな。オークション×念能力とか。まあ『HUNTER×HUNTER』は掛け算なんですよ、やっぱり基本的に。
(宇多丸)でもさ、ここまでのその天空闘技場編まででルール説明と理念みたいなものを示してから。「さあ、ここから!」って。
(渡辺範明)そうなんですよ。うますぎる。で、次がグリードアイランド編。これが応用編2ですね。このグリードアイランドっていうゲームの中の世界に主人公たちが入って。いわばバーチャル空間におけるデスゲーム。多人数参加型のデスゲーム×念能力ということで。多人数参加型のデスゲームの中に閉じ込められてっていうだけで十分、1個の話になるだけのカロリーと情報量があるのに、そこに個々のプレイヤーが全員、念能力を持っていたら……っていう、かなりワクワクする設定なんですけど。ここで『HUNTER×HUNTER』の真価が発揮されていくっていう感じになります。とはいえ、これはやっぱりバーチャル空間だからゲーム×念能力なわけですけど。本当の実戦が行われるのは次のキメラアント編ですね。
(宇多丸)ああ、まだこれ、そうなんだ。
(渡辺範明)応用編1、応用編2と来て次のキメラアント編でついに実戦編という感じになる。
(宇多丸)めちゃくちゃ周到なんですね。
(渡辺範明)で、このキメラアントというのはもともとアリみたいな生物なんですけど。他の生き物を食べることによってそのDNAを摂取して、生き物として混ざっていくっていう恐ろしい生物なんですよね。で、人類とも混ざっていった結果、要は仮面ライダーにおける怪人みたいなやつらがいっぱい出てくるわけです。で、これも人類vsキメラアント、怪人軍団対念能力者っていうだけで十分に物語になるのに、この怪人軍団が途中から念能力を身につけ始めるので。ここもやっぱり獣人×念能力みたいな掛け算になるし。しかも多人数vs多人数のバトルとは言っても戦争に近い……だから戦争が描かれる。戦場における念能力、異能力ウォーですよね。それを描くっていうのがキメラアント編です。
(宇多丸)盛り上がってまいりました!
(渡辺範明)これはね、盛り上がりすぎてもうキメラアント編のエンディング、ラストバトルの時点でもう少年漫画史上、類を見ないものすごい高カロリーで。なんていうか、すごいテンションの戦いとドラマが描かれるので。もう僕らファンはキメラアント編の時点で「こんなすごい漫画、今までもなかったし、これからもないであろうから。これで『HUNTER×HUNTER』は完結するであろう」とみんな、思っていたんですよ。これより先なんかあるわけないから。
(宇多丸)うんうん。
(渡辺範明)なのに、ここからさらに続いてですね、次にやったのは会長選挙編っていう。
(宇多丸)会長選挙!?
(渡辺範明)ハンター協会っていうのがあるんですけど。それがキメラアント編の激しい戦いの末、先代の会長が死んでしまったので新しい会長を決めるということで選挙をするという。まあ、ちょっと閑話休題的な章が入るんですけれども。
(宇多丸)なるほど。じゃあ、これは腕力っていうか、あれじゃないんだ。
(渡辺範明)完全に武力ではない戦い。でもやっぱり冨樫先生的には「選挙ってゲームだよね」ということで、選挙における謀略戦みたいなことに念能力が絡んできたり。またここで大量の新キャラクターが出てきたりという。政治劇×念能力というのがここで描かれて。
(宇多丸)権謀術数の。
(渡辺範明)それが描かれていくんですが。で、なんか「これは長いエピローグみたいなやつなのかな?」って。これ、『幽☆遊☆白書』の時も結構、ラストはそういう展開だったんで。「このまま終わってくのかな?」と思っていたら……。
(宇多丸)出だしも丁寧だから、終わりも丁寧にやるのかな?って。
(渡辺範明)だんだんとデクレッシェンドで終わってくのかなと思ったら、今、最新の王位継承編。もしくは暗黒大陸編とも呼ばれますが。それが始まって。ここでついにチーム戦。まあ、多人数対多人数の人類vsキメラアントの戦いが今までのクライマックスだと思っていたら、今度はカキン王国っていう国の王位継承にまつわる王子たちの戦いというので。これもデスゲームなんですよ。王位継承デスゲームが描かれるようになって、これが第1王子から第14王子までいるんですよ。で、この14陣営にそれぞれに側近がいたりとか。今までの登場人物、ハンターたちが各陣営に配置されて14どもえの戦いをするというのになり、この登場人物図になって。登場人物、今までも多かったんですけど一気にもう倍以上に膨れ上がって。もうこの王位継承編になってからの新キャラだけで200人とかいるんで。
(宇多丸)これさ、僕は途中までは「おお、すごいですね。盛り上がってまいりました。面白そうだな!」ってなったけど。ちょっとその王位継承ぐらいから「えっ、それってみんな、把握してんの?」って。みんな大丈夫? それ、把握してんの?
(渡辺範明)いや、だからここに至っては読む側のカロリーもとんでもないことになっていって。究極の複雑化。だからこの辺は本当に(マンガ大好き芸人の)吉川きっちょむさんとかはお付きの人の名前とかもたぶん、わかるんですけど。僕は全然名前も言えないし。なんなら全王子の名前も「ええと……」ってなるくらいの感じにだんだんなっていくんですけど。でも面白さでいうと、もうむちゃくちゃ面白い。味が超するんで。
(宇多丸)味が(笑)。
(渡辺範明)味が超するんで。このぐらいの段階なると、これが『HUNTER×HUNTER』の掲載ペースの表なんですけれども。で、王位継承編が始まったのは、Wikipediaがあるので皆さん、読んでほしいんですけど。2012年にこの王位継承編が始まっていて。
(宇多丸)えっ、えっ、そんな前なの!? 2012?
(渡辺範明)そう(笑)。だから実はもう10年以上経ってるんですけど。
(宇多丸)10年以上っていうか、14年だよ!
(渡辺範明)14年、経ってます。14年間1個の章をやってるので。
(宇多丸)覚えてないって! だから(笑)。
(渡辺範明)もう数年に1回、10話ずつ連載するっていう。この10話の短期集中連載を続けていくっていう方式に今はなっていまして。
(宇多丸)でもやっぱりそれだけ複雑化したものを扱ってるから。その密度。なので、やっぱり描くのにも時間かかるという。
(渡辺範明)だからそのぐらいの時間が必要だし。この王位継承編で冨樫先生が試みていることって、たぶん『ゲーム・オブ・スローンズ』みたいなことなんですよ。『ゲーム・オブ・スローンズ』×異能力バトルと考えると非常にわかりやすいんですが。
(宇多丸)うんうん。僕も今、それを想像していた。『ゲーム・オブ・スローンズ』っぽいって実は言おうと思っていた。
(渡辺範明)時期もね、すごくそこに合ってるんですよ。始まった時期が。なんですけど、これってやっぱりね、1人の作家が描けるカロリーの物語をもう超えてるんですよ。
(宇多丸)たしかに。だって『ゲーム・オブ・スローンズ』なんかね、いっぱいみんなでやってるんだから。
『ゲーム・オブ・スローンズ』的な王位継承編
(渡辺範明)そうなんです。で、『ゲーム・オブ・スローンズ』って配信ドラマなんだけど、1話あたりにハリウッド映画1本分以上のコストをかけて。それを数年間に1回、ワンシーズン配信するみたいなをことしてたじゃないですか。で、これと同じようなことを1人の人間がやろうとしたら、それはこのぐらいのペースにもなりますわなという。
(宇多丸)たしかに。ちょっと待ってください。僕、全然読んでもいないのに……冨樫先生、ご自愛ください。
(渡辺範明)いや、本当そうなんですよ! だからもう僕らファンは実は「休載期間が長い」とかはあんまり思ってなくて。むしろ、たまにこの連載が開始した時は「えっ? また10話も読ませてもらえるんですか? ええっ、10週も連続で『HUNTER×HUNTER』の新作が!?」って。もう本当に「冨樫先生、ありがとう!」っていう。これは吉川きっちょむさんが毎回、YouTubeでそう言ってるんですけど。というテンションでやっております。
(宇多丸)ということでゲームデザインから紐解く『HUNTER×HUNTER』のすごさ。これ、でもゼロベースの僕でもめちゃくちゃ興奮するぐらい……「めちゃくちゃ面白えじゃん、それ!」っていうぐらいまでは達しました。渡辺範明さん、この後もよろしくお願いします。
(渡辺範明)お願いします!



もはや何年かに1回、10話分の集中連載をしてくれるだけで「ありがとうございます!」という気分になる『HUNTER×HUNTER』。今、ジャンプで連載しているシリーズも毎話、ものすごい文字量とカロリーでクラクラしますが「とにかくおもしれえ!」という感想しかないですね。宇多丸さんが言うように冨樫先生にはご自愛いただき、できるだけ長く『HUNTER×HUNTER』を続けていただきたいと思っています!
