ドロッセルマイヤーズの渡辺範明さんが2026年8月25日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の中でゲームデザインという観点から冨樫義博『HUNTER×HUNTER』を解説。『HUNTER×HUNTER』に至るまでのジャンプバトル漫画の系譜について話していました。
(宇多丸)なるほど。はい。さあ、そしてこれがその冨樫先生のこれまでのキャリアと『HUNTER×HUNTER』っていう感じですけど。そんな中、さっきジャンプにおけるそのバトル漫画の系譜みたいなのがありましたけど。そのジャンプの歴史でいうと、どういう位置づけですか?
(渡辺範明)これが面白くてですね。週刊少年ジャンプって異能力バトル漫画っていうのがすごく一大ジャンルとしてあるっていうイメージがあると思うんですけど。だけど宇多丸さんは世代的にご存知だと思うんですが、ジャンプって別にずっとそうだったわけじゃないわけですよね。
(宇多丸)そうですね。
(渡辺範明)ある時からそうなったということで。
(宇多丸)『リングにかけろ』が途中から様子がおかしくなってきてから……あ、違う違う。スケールが大きくなってきてからっていう感じ(笑)。
(渡辺範明)本当にまさにその通りで。ジャンプにおける異能力バトル漫画の始祖は誰かと考えると、おそらく車田正美先生だと思います。で、『リングにかけろ』から始まって『風魔の小次郎』を経て『聖闘士星矢』で完成する車田正美先生のファンタジーバトル漫画的な路線。これがその1個の雛形になってるのと、あと同時代にゆでたまご先生の『キン肉マン』ですね。これも最初はギャグ漫画として始まったわけですけど、だんだんシリアスになってプロレスを元にした超人バトルになっていくと。
で、重要なのはもう1個、ちょいズレですけど1984年にスタートの鳥山明先生の『ドラゴンボール』。これはもう、もちろん言わずと知れた超大ヒット漫画ですけれども。これもやっぱり最初は西遊記をベースにしたアドベンチャーだったのが1対1のバトルを中心にする展開にだんだん変わっていくわけですよね。ということで、バトル漫画になっていく。
で、これらが今で言うとこの異能力バトル漫画の始祖なんですけれども。今の漫画と結構違うのはですね、この頃はまだ格闘技の延長線上で描いてるので、それこそね、リンかけの中で展開した変化がまさにそれなんですけど。格闘技をいかに漫画的にケレン味を増していくかっていうことをやっていた結果、なんか特殊能力とか必殺技みたいなものがどんどん肥大化したわけですよね。で、それによって異能力っぽくなってるんですけど。
(宇多丸)まあ元はね、スポーツ漫画だからね。
(渡辺範明)そう。あくまでスポーツだから。ということはまあ、どちらがより強いかっていう力比べ的な側面が非常に強いので、異能力もあくまで「強さ」を強調するための表現のひとつでしかない。基本的には力比べなんですよ。だから『聖闘士星矢』とかでもよくある、ペガサス流星拳みたいな必殺技をやっているところの背景になんかすごく壮大な風景が出ていて。で、敵がなんか吹っ飛んでるみたいな表現、ありますけど。これって要するにむちゃくちゃ強いパンチですよってことが言いたいだけで。その技が具体的にどんなことしてる技なのかっていうことはそんなに大事じゃないわけですよね。というのがこの頃の異能力バトル漫画の形式です。
(宇多丸)うんうん。まあ、「より強えからより強え」っていうだけね。
(渡辺範明)そういうことですね。で、これに革命を起こした作品が荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』。これは1987年スタートですね。これが異能力バトル漫画における革命作品で。超能力をキャラクター化したスタンド能力っていうのを発明したっていうのも漫画表現としては非常にでかいんですけれども。より普遍的な発明としては強さに明確な上下がなくて。並列の能力の相性関係とか使い方の工夫で勝ち負けが決まるという世界観。
荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』が起こした革命
(宇多丸)ああー、たしかに。なんかどんどんより強い、より強い、より強いって感じじゃないもんね。いろんなタイプがあって、それをどう攻略するか?っていう話ですもんね。
(渡辺範明)そうなんです。で、そうなって何が実現できたかっていうと、まさにそこで。まず1個目は能力のインフレが防げる。より強いやつ、より強いやつってなっていくと結局、同じことを土台を変えてやってるだけでは?っていうことになりがちなんですけど。それが防げる。で、2つ目が個々のバトルにすごく複雑で特異なルールをつけることができる。それまでもたとえば『キン肉マン』とかで「こういうデスマッチ」みたいなのとかはルール設定できるんですけど。
もっとめちゃめちゃ複雑な、たとえば「地上に足がつくと死ぬ」みたいなバトルぐらいだったら昔もできてたんだけど。その地上に足がつくと死ぬバトルをするにあたって、片方の人は重力を制御する能力を持っていて。で、片方の人は自分の体をバラバラにして個々に動かすことができる能力を持っていて、みたいなことすると「えっ? ということはどういう勝負になるの?」っていうのが掛け算で複雑になるわけじゃないですか。こういう複雑なルール設定ができるとこれがゲーム性、ゲームルールみたいなことに繋がっていくわけですね。
(宇多丸)イコール、それが単調になりがちなその「おもしろさ」っていうのをブーストしますもんね。
(渡辺範明)そうです。で、知的にしていく。で、三つ目がサスペンスが描けるようになる。これはつまり強さの力比べをしている、スポーティーな力比べをしている時っていうのは基本的には主人公より格上の相手と戦って、いかにそいつを倒すか?っていう話なので。まあ強さとか勇ましさが基本的には話のベースとなっていて。
(宇多丸)しつこさとかね(笑)。
(渡辺範明)そうそうそうそう(笑)。諦めないとかね、根性とか、まあそういうのが話の中心になる。
(宇多丸)「なぜ、まだ立っている?」みたいな、そういう話だよね。うんうん。
(渡辺範明)そういう話です。まさにそのテンションなんだけど。『ジョジョの奇妙な冒険』は敵の強さがわからない。で、自分もいつ死ぬかもわからないし、相手もいつ死ぬかもわかんないしっていうので、お互いに未知の能力を探り合いながら戦うっていうところでホラーやサスペンスが描けるんですよ。敵が登場した時には「なんだ、この能力は?」とか「今、俺は何をされてるんだ?」っていうホラーから始まり。どうやってそれを攻略していくかっていうサスペンスを描く。
(宇多丸)そうか。これは何なのかっていうことから描けるから。で、それを解き明かして弱点はこれだとかっていう。だからやっぱりさっき言った面白さが積んでいけるよね。単調にならない。やっぱり。
(渡辺範明)で、物語のジャンルがやっぱり変わっているんですよ。一見、バトル漫画っていうと同じに見えるんだけど力比べとサスペンスは全然違うことなんですよね。という風にジャンルが変わりました。で、これが90年代、これはジャンプじゃないですけど。福本伸行先生の『賭博黙示録カイジ』とか。あと高見広春先生の『バトル・ロワイアル』の小説版もこれ、97年なんで。こういう2000年代のデスゲーム作品のブームにつながっていくサスペンスをベースにした知的なバトルっていう流れがここで作られていくわけですね。
(宇多丸)これさ、こっちの話を広げると大変なことになっちゃうけど。いわゆるJRPGとか、ゲームの進化と結構パラレルじゃね?
(渡辺範明)いや、それはそうなんです。で、やっぱりこの時、荒木先生がその辺を意識してるかは微妙なんですけど。90年代にこういう漫画が発達していくことのバックグラウンドにはやっぱり子供の興味の対象が漫画からゲームにシフトしてるっていうのが絶対にあって。
(宇多丸)うんうん。あとスポーツからゲームへ、とかさ。
(渡辺範明)そうです、そうです。という風に、だから部活からゲームへ、とかね。そういうのもあるかもしれないし。というところでゲームみたいな複雑なルール設定をみんなが理解できるし、楽しめるようになっていったっていうのが絶対に背景にあると思います。
(宇多丸)そして漫画としても絶対にそっちの方が面白くなりそうだよね。単調になっちゃうからね。
(渡辺範明)そうなんです。だから進化ですよね。で、98年に『HUNTER×HUNTER』が始まるんですけど。この『HUNTER×HUNTER』における念能力っていう作中の独自のその能力体系の設定はジョジョにおけるスタンド能力の明らかな発展形なんで。で、冨樫先生はやっぱりそのヒリヒリしたホラーとかサスペンスとかバイオレンスを描きたいという思考が元々強かったので。それとこのジャンルがめちゃくちゃマッチしたんですよね。それで『HUNTER×HUNTER』が生まれていくというのがあります。
(宇多丸)さっきのオカルト要素もね、もちろん活かせるし。ということで……ああ、でもすごいわかりやすい。面白い!
(渡辺範明)よかった。
(宇多丸)こんだけゼロベースなのにね(笑)。



荒木飛呂彦先生の『ジョジョの奇妙な冒険』スタンド能力によって起きた革命により、バトル漫画が単純な力の優劣の争いからサスペンス・ホラーを描けるようになったというお話、とても興味深かったです!
