ドロッセルマイヤーズの渡辺範明さんが2026年8月25日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』の中でゲームデザインという観点から冨樫義博『HUNTER×HUNTER』を解説。「念能力」という設定によって生み出される効果について話していました。
(宇多丸)さあ、ということでまずは前提が済みまして。ステージ2に進みたいと思います。こちらです。『HUNTER×HUNTER』のゲーム的要素のキモ。先ほど出ました、念能力とは何か? この念能力がめちゃめちゃ、設定が本当にゲームっていうか。
(渡辺範明)設定がむちゃくちゃ細かくて。それを全部説明してると、それだけで話が終わってしまうので今日はざっくりいきますけど。まあ念能力というのは「肉体のオーラを操る能力のこと」という風に設定されていて。オーラっていうもの自体は誰にでもあるんだけど、それを認知したり操ったりするのは達人じゃないとできないという設定です。で、ちょっとその念の概念ってなんかアジア的な思想というか。
全部、漢字で書いてあるし。念の基本技っていうのは、たとえば「纏」っていうのはオーラを拡散しないように体の周囲に留めるという技術で。普通の人はオーラがダダ漏れになってるんですけどそれを留めて。で、「絶」っていうのをやるとオーラをピタッと止めることができる。で、止めると体の中にオーラが溜まる。で、「錬」っていうのをして体の中でオーラを練って増幅して。「発」っていうのでそれを出すみたいなね。
(宇多丸)ゲームっぽい!
(渡辺範明)こういう考え方です。まあ、そういう理論があるわけですよね。で、これの応用技でたとえば「周」っていうのは自分の体じゃなくて物にオーラをまとわせるとか。まあ、そういうオーラを見えにくくするとか、他人の隠してるオーラを見極める「凝」とかですね。こういういろんな応用技があったりとかして。基本技の時点で結構、複雑なんですよ。で、この説明を聞いてる時点でなんかめっちゃゲームっぽいな、みたいな感じがしてるんですけど。
それがさらに「来た!」っていう感じになったのが念能力には系統というのがありますと。で、これが六角形で表現されているこの図なんですけど。強化系、放出系、変化系、操作系、具現化系、特殊系という六種類の系統があって。で、あなたが念能力をもし身につけたとして、どんなタイプの能力を持ってるか?っていうのを水見式っていうコップに水を入れて、その上に葉っぱを浮かべて。それに自分の念を込めて起きる変化によって念能力のタイプがわかるというのが作品に出てくるんです。
(宇多丸)これはみんな、やっちゃうね!
学生の頃コンパで「1番好きな漫画は?」と聞かれてハンターハンターと答えたら俺も!という男がいて、カクテルに添えられていたミントをお冷のコップに浮かべて「水見式」とやってみたら「え?」って顔されたの今思い出してもマジ許せない、「ペロ、すごく甘い!ハチミツみたいだよ」くらいやれ pic.twitter.com/3KTd1QVD7s
— 白井瑶 小説「全自動お茶汲みマシーンマミコ」発売中 (@shiraiyo_) January 30, 2017
(渡辺範明)そう。これはね、子供は絶対真似します。で、当時子供だった……僕もう大人だったんですけど。やっぱりそれを見たら絶対にやっちゃうし。それで、たとえば強化系の能力者だったらその水の量が増えるとか。で、変化系の能力者だったら水の色が変わるとか、そういうようなので診断ができるっていう。で、さっきそのオーラの各系統の能力がどんなのか?っていう話はちょっと飛ばしちゃいましたけど。たとえば強化系っていうのはオーラで肉体とか物質を強化する能力なんですよね。なんで、たとえばパンチがめちゃめちゃ強くなるとか、体がめちゃめちゃ硬くなるとか、そういうやつです。で、放出系っていうのはオーラをエネルギー弾みたいに見て出すっていう。まあ、かめはめ波みたいなやつですよね。波動拳とか。
で、変化系っていうのはオーラの性質を変化させて。たとえば刃のようにして何かを切るとか。粘着力のあるものにしてくっつけるとか、そういうやつ。で、操作系っていうのはオーラを使って他人とか物体を操る……人格を操ったりとかですね。で、具現化系っていうのはオーラによって物体を出現させる。銃を出すとか、剣を出すとか、壁を出して防御するとか、そういうことですね。で、特質系っていうのはそれらに収まらない特殊な能力ということで。
で、そのどの能力をあなたは身につけるかがわかりますよっていうのがあるんですけど。この時に僕が「冨樫先生、とんでもないことを始めたな!」って思ったのはですね、念能力の特徴としてこの系統ごとに性格傾向があるっていう話が始まるんですよ。で、これは作中でヒソカっていうキャラが「まあ、僕はそう思ってるんだけどね」みたいなことを言っているだけで。1個の説でしかないんですけど。
でも、たぶん冨樫先生は少なくともそう思ってんだろうなって感じがするのがたとえば「強化系っていうのは単純で一途な人が多い」とか。「放出系っていうのは短気で大雑把な人が多い」「変化系は気まぐれで嘘つきな人が多い」とか。「操作系は理屈屋でマイペースな人」「具現化系は神経質な人が多い」「特質系は個人主義者でカリスマ性がある人が多い」とかっていうのがあって。
メルエムは放出系
コムギは強化系らしいです😗#BAR_EXTRAGAME #BAR #秋葉原#HUNTERxHUNTER #ハンターハンター#少年ジャンプ pic.twitter.com/u2tWT3BQnz— 【公式】BAR EXTRA GAME (@BAR_EXTRAGAME) January 21, 2023
(渡辺範明)これもまたちびっ子たちが「俺の性格だと操作系かな」みたいにやっぱり思っちゃうじゃないですか。で、そういう少年漫画としてのうまさもありつつ、これって冨樫先生の思う漫画論なんですよ。少年漫画キャラクター論なんですよね。で、「こういうキャラクターにはこういう能力を持っててほしい」っていうことを逆算して設定にしちゃってるんですよね。
だからこれの中にたとえば『ドラゴンボール』の悟空とかを当てはめようと思うと悟空って強化系と放出系の能力者で。で、たしかに性格は単純で一途だなとか、そういう少年漫画、バトル漫画。ジャンプバトル漫画におけるキャラクターのなんていうかルール、様式、フォーマット。
(宇多丸)それをなんか可視化したっていうか。図式化したっていうか。類型をむしろルールとして使ったっていうことですね。
(渡辺範明)そう。だから結構メタな発想なんですよ。で、もう1個、この念能力の特徴として「制約と誓約」っていうのがあるんですけど。これはですね、縛りっていう方の「制約」と誓うっていう方の「誓約」の掛け言葉になってるんですけど。この制約と誓約っていうルールがあって、これは「大きなリスクや覚悟を伴った能力ほど強力になる」というもので。
たとえば、むちゃくちゃ強力な能力なんだけどこの能力のルールを破ると自分が死んでしまうとか。あとはすごく限定的な状態でしか使えないとか。たとえば1日のうち1時間しか使うことができないとか。正午になった瞬間しか使えないとかですね。そういうむっちゃ使いづらい制約をつけると、念能力って強力になるんですよ。自動的に。というルールがあって、これもやっぱりすごくメタな発想で。
(宇多丸)だからウルトラマンがカラータイマーが鳴ってからスペシウム光線を出すとかじゃないけど。そういう、だから盛り上げに使われるストーリー上のテクニック。一旦、制限をして「ここしか出せない。今だ!」みたいなのをルール上に組み込んで。
(渡辺範明)それを逆算して入れちゃってるわけですよね。
(宇多丸)だから要はさ、面白さみたいなもの。「こうすれば面白くなる」っていう要素がもうすでにパーツとして用意されていてっていうことじゃない?
(渡辺範明)で、普通はそれを漫画の中で工夫してそういう状況を生み出すわけじゃないですか。「この技さえ決めれば勝つのに、これが今は出せない」とか。
(宇多丸)普通のストーリーラインの中にそれを入れていくんだけど。
テーブルトークRPG的な設計
(渡辺範明)でもそれをそのストーリーラインの中で描くんじゃなくて、もう設定にしちゃっている。これによって魅力的なキャラクターと効果的な能力の量産が可能になるんですよね。で、これは僕、見ていてテーブルトークRPGの設計に近いなと思って。テーブルトークRPGを作る時って、たとえばサイバーパンクの世界観のテーブルトークRPGを作るならサイバーパンク世界のあるあるのキャラクターとか事件とかバトルとかを盛り込むことができるように、その全要素が入れられるフォーマットを作るんですよね。で、思い浮かぶこういうキャラクターはこういう風に当てはめて。たとえば右手がサイバネティックスになってて、そこにこういうチップをはめて……とかってやるとこのキャラが作れるよね、みたいなことを表現していくわけですけど。だから、これはその冨樫先生流のジャンプバトル漫画TRPGのゲームデザインなんですよ。
(宇多丸)うんうんうん。そして勝手にキャラクターとか面白さとか、もっと言えばストーリーみたいなのがなんならこのシステムさえあれば生成されていくことになる。
(渡辺範明)そうです。無限に作れる。ということでこの『HUNTER×HUNTER』は実際にキャラクターがむちゃくちゃ無数にいて。もうすでに数百人というキャラクターが登場しているんですけれども。この数百人のキャラクターがなんかみんな、魅力的で印象的だっていうのはこういうフォーマットを最初に整備してるからだっていうのがあります。というものが念能力です。
(宇多丸)ある意味、でも創作っていうか。こういう面白みを生む、こういうエンターテインメント……特にジャンプでやるようなこういうエンターテインメントの面白さを完全に解明というか、システム的に。
(渡辺範明)そうですね。だからすごい学者っぽいっていうか。だから『幽☆遊☆白書』まではそういう感じではなくて。もうとにかくやれることを全力でやっていたんだと思うんですけど。『レベルE』を経てもう1回、『幽☆遊☆白書』みたいなことをやるってなった時、ここの領域に足を踏み入れたんですよね。だから『HUNTER×HUNTER』は普通の漫画じゃない。
(宇多丸)そして僕がさっき、ペラペラめくっていていろんなジャンルのキャラクターがいるように見えるんだけどっていうのはまさに、それによって生成されているものだからっていう。
(渡辺範明)そうなんですよ。
(宇多丸)なるほど! いや、わかりやすいし面白そう!



冨樫義博先生が少年漫画のキャラクターを分析して「こういうキャラクターにはこういう能力を持っててほしい」ということを逆算し、設定にしたのが念能力。それによって魅力的なキャラクターやストーリーを無限に生成できるというお話、超面白い!
