町山智浩『プラダを着た悪魔2』を語る

町山智浩『プラダを着た悪魔2』を語る こねくと

町山智浩さんが2026年5月5日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で『プラダを着た悪魔2』について話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得た上で、町山さんの発言のみを抜粋して構成、記事化しております。

(町山智浩)今日はですね、もう公開済みなんですが。先週、すでに日米同時公開されたアメリカ映画『プラダを着た悪魔2』を紹介します。

(町山智浩)これ、マドンナの『Vogue』っていう曲なんですけど、Vogueっていうファッション雑誌があってね。そのグラビアとか表紙の人たちがすごい不思議なポーズをとってるじゃないですか。こういうジョジョ立ちみたいな。これはそのヴォーギングについての歌なんですね。このマドンナの歌は。Vogueのモデルの真似をして踊るっていうね。で、これが主題歌で大ヒットした映画が『プラダを着た悪魔1』だったんですが。これ、今から20年前の映画です。

これは全然、おしゃれに興味のない主人公のアン・ハサウェイが社会派の政治ジャーナリストになりたかったのに、なぜかVogueみたいな雑誌……ランウェイっていうね、ファッション雑誌の編集長のアシスタントに配属されちゃうんですね。で、全然ファッションに興味ないから「あんた、なんてダサい格好してんの? 髪の毛バサバサだし」みたいな。髪の毛の量が多いんですよ。アン・ハサウェイっていう人はもともとね。で、靴もだからスニーカーとか履いてるから。で、ものすごくバかにされてその編集長のメリル・ストリープからいじめられてね。っていう話が『プラダを着た悪魔』でしたけど。

で、あれでちょっと良かったのがそのアシスタントの先輩のエミリー・ブラントがいたんですね。彼女、本当にファッション業界で偉くなりたくて一生懸命やってるのに、このたまたま回されてきた興味のないやつが自分と同じ仕事してるからもう憎くてたまらないんだけど。そこで不思議な友情ができてきたりするんですけど。この頃、アン・ハサウェイとエミリー・ブラントって2人ともまだ24ぐらいなんですよ。

めちゃくちゃ若かったんです。すごい若くて。だから、まあ言っちゃうとあれですけど。それから20年、経ちましたから。今は2人とも、40過ぎなんです。驚くほど変わらないこの2人。ねえ。そこは脅威なんですけど。でもメリル・ストリープもすごいですよ。もう70過ぎですからね。すごいんですよ。

で、まあそのアン・ハサウェイにファッションのことを教えたりね、服を貸してあげたりするおじさんが編集のね、ナンバー2のスタンリー・トゥッチさんで。彼も変わらないですけどね。もともと頭ツルツルだから変わりようがないってところで得をしてますけど。はい。で、20年後ってどんな話なの?ってことですよ。これ、一作目を見た人だったらわかるんだけど。これ、言っていい話なんですが結局、そのアン・ハサウェイ扮するアンディは「やっぱりファッション、向いてないわ」ということで。それにあまりにもやっぱりメリル・ストリープがひどいんでね。ミランダという編集長なんですけども。

それで結局辞めて、新聞社に行くんですね。そこで終わるんですよ。一作目は。で、それから20年が経って今回はなんと、そのアン・ハサウェイ扮する主人公のアンディがその新聞でですね、調査報道、調査ジャーナリズムの記事でですね、賞を取るところから始まります。20年間、キャリアを重ねてピューリッツァー賞みたいなやつを取るんですが。ところが、その賞を取った瞬間にですね、その新聞は彼女たちをごっそりクビにしちゃうんですよ。これは実際に起こったことです。

新聞の調査報道部門のリストラ

(町山智浩)今日ですね、実はピューリッツァー賞の発表がありまして。ワシントン・ポストという新聞がですね、トランプがやっためちゃくちゃな連邦政府の首切りの実態をルポした記事でピューリッツァー賞を取りました。ところがこの数ヶ月前の2月にですね、ワシントン・ポストはそういった調査報道をする人たちをごっそり……社員の3分の1をごっそりクビにしました。これね、この映画はそれよりもはるかに前に撮影されているのにこのワシントン・ポストで起こったことを予言してるんですよ。

すごいんです。今回のその『プラダを着た悪魔2』っていう映画はそんな感じでそのファッションに興味ないやって……僕もハイファッションとか全く興味ないんですけど。でも今、世界で起こってる現実をものすごくリアルに予言した映画として。予言っていうか、同時進行的に描いてる映画で。結構怖い映画なんで。ファッションに興味がない人もぜひ見ていただきたいんですよ。

で、そのワシントンポストが社員の首をごっそり切った理由っていうのは、そのワシントンポストを買ったそのAmazonのCEOであるジェフ・ベゾスがね、トランプと戦いたくないからという理由でワシントンポストを縮小していったんですよ。今、ジェフ・ベゾスがやっている宇宙ロケットの開発、それが彼にとって一番、大事なんでね。それはやっぱりNASAとの協力なしにはできないから、彼はトランプと対立したくないんですよね。だからワシントンポストを縮小するということをしたわけですが。

そういったことがね、この映画の中でバンバン出てくるんですよ。『プラダを着た悪魔2』って今回、ファッションだけの話じゃないんですよ。それでそのアン・ハサウェイ演じるアンディは首になっちゃって。「どうしよう?」と思ってると、その最初に働いてたランウェイっていうファッション雑誌を出してる出版社の方から「戻ってきてくれ」って言われるんですよ。

20年も経って。それはどうしてか? 「君のようなジャーナリズムの視点が必要なんだ」っていうことで。なぜか?っていうと、その怖いミランダ編集長がやらかしてしまっているんですね。あるファッションメーカーのヨイショ記事を書いたら、実はそこがひどい奴隷労働の工場を持っていることが暴露されて。「何をやってるんだ! ひどい!」ってことでものすごくそのミランダが叩かれてるんですね。で、「評判が落ちてるから君のそのジャーナリスティックな視点で、そういう記事を書いて……」っていう。というのはね、その元になってるモデルになってるVOGUEっていうファッション誌自身が前に紹介したリー・ミラーっていう戦場カメラマンの第2次世界大戦での残虐行為の写真を載せた雑誌なんですよ。それがVOGUEなんですよ。

町山智浩『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』を語る
町山智浩さんが2025年4月15日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で映画『リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界』を紹介していました。

(町山智浩)だから、そういう記事でこのランウェイもちょっと社会的な地位を取り戻したいということでアンディが呼ばれるんですが。そこで、その鬼編集長のミランダと再会するわけですよ。ところが、彼女は前のような鬼編集長じゃないんですよ。だから今だと完全にアウトだってことばっかりやっていたでしょう? いきなり出社するとほら、コートとバッグをアンディの席に投げつけるじゃないですか。「ハンガーにかけといて!」って。あんなの、今は許されないよね? パワハラになるよね。

ところが今回は彼女、ちゃんと自分でハンガーにかけるんですよ。もうそういうことは許されなくなってるんです。で、彼女と一緒にアンディがディオールに行くんですよ。ところが、そのディオールの広報というか、対応して出てくる幹部が、なんとエミリー・ブラントなんですよ。彼女、出世してるんですよ。

ところがね、エミリー・ブラントの方が今や、ミランダより立場上なんです。ブランドだから。それで「どうして?」みたいな話なんですけどこれ、当たり前なんですよ。ファッション雑誌ってなんで、あんな風に偉そうにしてられるか?っていうと、実はそのハイファッションのブランドが広告を出してるからなんですよね。すごい広告費を出していて。それで記事のように見えない、ファッションのスタイリングのページがあるじゃないですか。いっぱい。そこがメインなんですけど。ファッション雑誌って。あれは全部、実は広告なんですよ。

クレジットが全部、入ってるでしょう? その商品を売るためにそれぞれのブランドの最新の商品をスタイリングして見せてるんで、あれは広告なんですよ。基本的に。だから広告主には頭が上がんないんですよ。これね、実はその昔、うちのカミさん、あるすごい大手の女性ファッション雑誌で編集者として働いていたことがあるんですけど。

その雑誌が1980年代に1号あたりで取っていた広告費がいくらか?っていうと……3億を軽く超えるんですよ。でもこれ、全然驚くべきことじゃないんですよ。僕は宝島っていうパンクロック雑誌にいたじゃないですか。あれ、最盛期は1号あたりの広告収入が1億です。

宝島はハイブランドの広告とかはなかったんですが、広告の数がいっぱい入ったんです。だからどんどんどんどん厚くなっていって。まず最初に大型化して、すぐにどんどんどんどん厚くなったのは広告が入って入ってしょうがないからなんですよ。それで広告の量が全体の3分の1を超えたらいけないのかな? 商業誌って。たしかそういう取り決めがあったんで、記事も増やさなきゃなんないからどんどん厚くなっていって。それでも、どんどん広告が入ってしょうがないからページを増やしていくってすごい状況だったんですよ。

それは1980年代です。でも現在はそんなことないんですよ。もう全くダメで。で、そのVogueですら、全く売れてないです。現在。それであのスタンリー・トゥッチ扮するナイジェルってお師匠さんがいたでしょう? 優しいおじさんが。彼が言うんですよ。「印刷されてるうちのファッション誌なんか、誰も読んでないんだよ」って。それで「じゃあ、何をやってるんですか?」って言うと「ショート動画とか、作ってるんだよ」って言うんです。それでアンディは「そんなの、やってんの?」ってびっくりしちゃうんですよ。

ショート動画作りで食っているファッション誌

(町山智浩)「それで食ってるんだ」って言われて愕然とするんですけど。でも、それでもどんどん斜陽で落ち込んでいく雑誌の売り上げと、あとファッション業界自体が実は減収してるんですね。それはこの20年間、何があったか?っていうと、ファストファッションですよ。

それで誰もハイファッション買わなくなったのともう一つ、大きいのは貧富の差が世界中でものすごく開いちゃったんで。実はハイファッションのハイブランドっていうのを支えていたのはその10万円程度の安い商品を買ってくれる中流階級だったんですよ。結構ね、普通の人たちでも1個だけシャネルを持ってるとか、1個だけグッチを持ってるっていう人、昔はいっぱいいたじゃないですか。

カバンだけはグッチとか。で、10万円ぐらいのを買うじゃないですか。そういう人たちがごっそり減っちゃったんですって。財布だけはみんなね、ハイブランドにしてたじゃないですか。シャネルとか、持ってたじゃないですか。そういうのも、ものすごく減っちゃって。実はそれが何億人もいたわけですよ。全世界にそういう人たちが。それがガーッと減ったんで、まあハイブランドも今、苦しいんですよね。

それで雑誌も苦しい、ファッションも苦しいっていう中で、じゃあどうやって生き延びるか?って話なんですよ。今回の『プラダを着た悪魔2』は。切実な噺でね。もうめちゃくちゃきつくてね。僕自身もそういうところで……ファッション雑誌じゃないですけど雑誌業界で働いてたし。やっぱりね、逃げ切ったから俺は良かったけど今は大変だなと思って。だから、ミランダもそんなに元気じゃないんですよ。

で、で、まあとにかくアンディが何とかしなきゃなんないって言ってると今度はなんとその、編集ですよ? 出版をやってるところにコンサルが入ってくるんですよ。どこも結局、みんなコンサルを外から雇い入れて。どの会社もね。で、「この会社をどのくらい削減できるか?」ってことをやるわけですよ。

だからこれは要するにアメリカ政府がイーロン・マスクを政府の中に入れてね、政府の中でムダなことを切らせたじゃないですか。ああいうことが全企業で行われてるんですよ、現在。で、大抵コンサルっていうのはその企業でやってることは何もわかってないです。それでまず人を切るしね。「ムダを切ろう」とか言って、わかんない奴が来てそれをやるんですよ。

だから激しい戦いになってくるんですね。アンディのやってることはね。で、さらにそこに、要するに企業とか特にメディア関係が弱まってくる……これ、メディアですから。特にこの雑誌社はモデルになってるのはコンデナストって会社なんですけど。ニューヨーカーとかのジャーナリズム雑誌も出してるところなんですね。でも、それをファッション誌が支えてたんですよ。お金で、その会社自体の運営を。でもそれが全部、崩れてくるから、ジャーナリズムも落ち込んでくるわけですよ。で、そこに入ってくるのはIT富豪ですよ。

IT富豪が来て買い取ろうとするんですけど。それで編集に介在してきて何をするかっていうと「AIにすればいいんだよね」って言うんですよ。この地獄のような戦いを果たしてアンディは戦い切れるのか?っていうすごい話になっていて。これ、まあ現実がそうだからしょうがないっていう感じですよね。

それで最近ね、SNSの『プラダを着た悪魔2』の広告宣伝でアジア人差別じゃないかっていう動画が出ましたけども。これ、だから白人ばっかりじゃないですか。本当はね、アフリカ系の人もちゃんと出てるんですけども、広告の前面には出してないし。そういうところでやっぱり、ちょっと遅れてるところがある映画ではあるんですよ。で、やっぱりおとぎ話的なところもあるんで、そこはちょっと批判されてはいるんですけども。

ただ、やっぱり今、この問題にはっきりと正面から取り組んでいる映画っていうのは、そんなに多くないんですよ。っていうのはどういうことか?っていうとこの映画は20世紀フォックスの映画なんですよ。20世紀フォックスっていう映画会社自体がディズニーに買収された会社なんですよ。だからこの映画の中で起こっている問題がこの映画自体に起こっているんですよ。

映画会社でも進む首切り

(町山智浩)特に20世紀フォックスっていう会社は「会社を残す」って言われてディズニーに買収を許したんですが……ディズニーはそのフォックスっていう会社が持ってる撮影所の巨大な施設を閉鎖しました。そういう状況がある中で、もちろん前から言っているパラマウントを買ったそのデビッド・エリソンっていう大富豪のボンボンがですね、とうとうワーナーブラザーズを買っちゃったんですね。彼らがやることは、どう考えても人員削減ですよ。で、ハリウッドの映画人が4000人も署名してそれに反対したんですよ。「ワーナーを合併するのはやめてくれ。絶対に首切りがあるから。何万人単位になるから」と。でも、買われちゃったんですよ。

で、この映画は実は20世紀フォックスってなってるけど、実質ディズニーが作ってるんですよ。ディズニーが親会社だから。で、そのディズニーがこの間、1000人の首を切ったんですよ。それは『アベンジャーズ』とかマーベルコミックスのSFX・VFXを担当している部署を1000人、切ったんですよ。アカデミー賞をいっぱい取ってる人たちですよ。

今後、そのVFXはどうなるのか? 全部AIです。『アベンジャーズ』を最新作は全部、AIだって。ものすごい職人さんたちが一生懸命作って集めてきたデータがあるわけですよ。VFXとビジュアルの。それを使って今後はAIで作るから、それを作ってた人たちはもう辞めてくださいっていうことです。

もっとひどいのはIT会社がAIを開発してる人たちの首を切るんですよ。「これからのAIはAIが作るから人間はいらないです」ってAIを作った人の首を切ってますから。今。金持ちだけが豊かになるんです。この中で、じゃあどうするか?って話でね。まあ本当に俺は見ていてね、全然意味ないんですけどお腹が痛くなっちゃって。見ていて。辛くて。まあ、厳しい状況でね。ただまあ、これだけ真正面からこれと戦ってみせたっていうのは、おとぎ話的なところはあるにはあるんですが。ちょっと強烈なんで、ぜひ見ていただきたいなと思います。はい。

『プラダを着た悪魔2』予告

アメリカ流れ者『プラダを着た悪魔2』

タイトルとURLをコピーしました