(でか美ちゃん)そうですよね。そういうこう演出というか、きっかけの展開みたいな。あそこはすごいユニークで好きだったシーンなんですけども。
(青柳拓)もう2022年の段階で完成しました。
(町山智浩)ねえ。僕、監督から見せてもらって。これでもう全然問題ないっていうね、ハッピーエンドで素晴らしい、爽快感のある負け犬の逆襲みたいな感じの映画なんですけど。
(町山智浩)それも公開したいぐらいですよ。
(町山智浩)ねえ。そうしたら博士がね、議員を辞めちゃったから「これ、公開できないよ」っていう事態になるんですよ。「どうすんの、監督?」っていうね。これ、自腹でやってますからね。お金をブチ込んでますからね。
(でか美ちゃん)でも、そこからの博士が鬱になってっていうのは、そのり密着の仕方もちょっと距離感とかは……変わらなかったですか?
(青柳拓)いや、変わりましたね。やっぱりどうやって……周りの人にも鬱病で悩まれてる人がいるんですけど。やっぱりカメラを向けるっていうことに対してすごく慎重になりました。だから博士の間合いというか、距離を保つためにも撮影を一旦、凍結するというか、封印するという形で取り上げて。だんだんだん博士が外に出られるようになったタイミングから、博士もなんていうんでしょう? この鬱病の経験を自分と似たような経験をしている、悩んでる人たち、困っている人に向けて、家族の人とかにも向けて、この自分の鬱病の経験を伝えたいみたいなことを話してるのを見て、その方向に向かえばいいんじゃないかって。この映画のこうスタイルというか、方向性を見いだしてきた段階から、かなりまたアクセルを踏み出して。今度、だから選挙っていうフェーズと、鬱っていうその後のフェーズっていう2つの映画のテイストが絡み合った、クロスした映画になったなという感じで。
(町山智浩)鬱ってなかなか映せないから自分自身、俺は映していてもよかったんだけども。その頃、まだなんかオープンにするといろいろ家族も困るだろう、みたいなこともあったから。だけど、そこから彼がUber Eatsを『東京自転車節』でやっていて。「俺もあれをやりたい。もう1回、再起する物語で自転車に乗りたいんだ」っていうところから、鬱病を映していても、走るじゃないですか。そこがいいっていう。
(でか美ちゃん)なるほど。めっちゃ自画自賛だけど、わかります。でも、ちょっと答えたくなかったら、いいんですけど。やっぱり凍結……制作が止まったみたいな時期っていうのは、だから自転車に乗れるようになる前っていうのは何を考えられてたんですか?
(町山智浩)それは本当に苦しいですよ。トイレに行くのも大変。風呂にも入れないぐらいで。まあずっと、受け入れる……YouTubeを見るとか、そういうのはやっていたけど。文字も書けなかったぐらいですからね。
(石山蓮華)なんか私がこの『選挙と鬱』っていう映画を見て、青柳監督のその姿勢に対して「いいな」と思ったのがこの『選挙と鬱』っていうことを並べて映画にするために、被写体というか、撮っている相手っていうのが選挙で頑張ったことをきっかけになのか、わからないですけど。鬱の状態になった時に、映画とその人そのものっていう2つの……天秤にかけるべきではないんですけれども、2つの要素があった時に、相手の人生というか、その水道橋博士という人を尊重した上で、映画もちゃんと仕上げているっていうところ。やっぱりドキュメンタリー映画のカメラって人を傷つける可能性を常に持ってると思うんですけれど。そのカメラを向けることの怖さというか、気をつけていることとかって青柳さんは、どう思ってるのかな?っていうのをぜひ伺いたかったんです。
(青柳拓)本当にだからこれは難しくって。鬱病っていうもの自体も本当に1人……博士のケースっていうもので。それぞれ、いろいろなパターンもあったり。で、鬱になる原因っていうのもひとつ、原因があったりだとか、それが複数・複合的なものだったりとか、サイクルであったりとか。そうやって、ひとつに決められない。で、映画で第三者である立場からなにか、「これがきっかけである」って断言もしにくいっていう状況の中。で、またカメラを向けるっていうことだけではなくて、映画を撮りたいっていう意思を博士に伝えるってことだけでも、博士はエンターテイナーですから。
表に出てくる。これ自体が本当の鬱なのか?っていうことも分からなくなってくる。まあ、カメラの前に立てるっていうことは、それは本当なの?っていうことも分からなくなってくる。で、実際にやっぱり連絡が取れなかったっていうこともあって。なんて言うんだろう? その鬱の輪郭を映画で表現できないかなっていう意識で後半は撮っていきました。
(町山智浩)周りの人のインタビューとかね。
鬱の輪郭を映画で表現できないか?
(青柳拓)周りの人のインタビューとか。そうやって、核の部分はやっぱりカメラは何かしら行くっていう方法もあるんですけど。そこは、輪郭の方をちょっと今回、選びました。
(石山蓮華)私は今、この選挙をきっかけにっていうような言い方をしてしまったのは誤りだったなと思ったんですけど。すいません。なんですけど、やっぱりその輪郭を撮るってなかなか簡単じゃないというか。ドキュメンタリー映画であっても、そうじゃない劇映画であっても、その起っていることを撮るのが一番、簡単だと思うんですけれど。輪郭を撮るっていうのは、どういう風にものを撮ることなんですか?
(青柳拓)いや、どうですかね。でも、自分が悩んでいることそのままを結構、しどろもどろなインタビューとかもあるんですけど。ちょっと自分も泣いちゃっているようなところもポロッとあるんですけど。そういうなんていうか、自分のわからなさを含めて、見せていく。結構、正直にさらけ出しながら出していくっていうことでだんだんだんだん見えていく可能性がある。そして、あとは周りの人たちがどう思ってるかとか、ご家族……奥さんのチエさんがどう思ってるかとか、そういうことも含めて、周りになるべく聞いていくっていうことからその輪郭が描けるんじゃないかっていうまあ、希望ですね。自分は描けてるっていう意識というよりは、指向性を向けてるって感じですかね。
(でか美ちゃん)なんかでも、やっぱり青柳監督がすごいなと思ったのが、輪郭を撮った上でやっぱり人間とか病とかその選挙、政治というものは本来、複雑じゃないですか。その政治家も人間がやってるから複雑ないろんな思いがあって、分かりやすく政策を打ち出してなんとか当選に向けて頑張るっていう物語がある上で、途中で「選挙に勝つならこうした方がいいですよ」っていう、アドバイザーの方が出てくるシーンがすごい好きで。あそこのシーンがすごい、良くも悪くもショッキングな部分だったんでは寄せさせてもらったコメントにも選挙カーのような感じで「水道橋博士、水道橋博士でございます。『選挙と鬱』、ぜひご覧ください」っていう、そのちょっとまあ言ったら中身のない文章を最初に書いて。「本当は中身が面白いのに」っていう一文を添えるコメントを出させてもらったんですけども。
その「選挙ハック」っていうものがあるってわかっていたけど、ここまでわかりやすくあるんだって思いましたし。私、ちょっと個人的な体験としては本当、ついこの間の都議選の時に普通に大人の1人として「投票に行きましょう」というような発信を自分のSNSに書いたら、ものすごい数のリポストとかあとコメントをくださる方がいて。それは政治関心が高まっていて良いことだなと思ったんですけど、まあ自分とは考え方が異なっているなという人たちからも、たくさんリポストしていただいて。ちょっと正直、不安に思ったのが「ここの支持者って見えるようになっていない?」っていう。その、私的には「この政党の一番としている政策はちょっと差別なんじゃないか?」って思う部分もあるぐらい、なんか反対なところから、反対の支持者の方からたくさんリポストされることで、ここの感じに見えないというか。
でも、別に誰も悪いことはしてないんですよ。で、むしろその「投票に行きましょう」って促すことではあるし。このリポストも映画で見た選挙ハックのひとつなんだとしたら、自分が一番なんとか正直、ちょっと消去法みたいな部分もありつつ、支持している場所、投票した場所がやってこなかった選挙ハックでもあるなと思ったし。なんか、選ばなかった努力っていうのを選挙ハックとしてやってる政党がこんなにも多いんだっていうのを映画で感じたばっかりだったんで。まあ正直な話、ちょっとぞっとする思いもあって、なんかショックだったんですよね。あのシーンがかなり。
(青柳拓)そうですね。でも、僕もやっぱり疑問がありますね。選挙システムって結構、認知度が広がるってだけでかなり戦局を左右するっていう。政策的な本質的な部分って全然、語られないですし。クソ暑い夏にやるっていうので、誰も聞けないですよね。名前ぐらいしか。なんか、そういう仕組み・システムみたいなことにはすごい疑問を持ちましたね。
(町山智浩)あと、放送でできないっていうこともね。この選挙期間中にこの話や話し合いができないっていうのが……やっぱり人間って全員が政治的なのに、すごく日本人は政治を語るのが下手になっていきますよね。本来、語るべき時期に語らないから。
(町山智浩)だから大きなテレビとかラジオのとかのメディアが政治……というか、まあ選挙期間中に選挙について報道しないという日本の姿勢ってこれ、最近始まったもので。僕が子供の頃は違いましたからね。はっきり言うと、第2次安倍政権からこうなっているんですけど。そうなっていくと、要するに選挙についての情報というのはネットしかなくなるんですけど、ネットは野放しですから。まったくファクトチェックされていないものが広がっていくんで、投票率が伸びても、それがいい政治家を選ぶとは限らなくて。ただ、票を稼ぐ。テクニックを持つものだけが勝つっていう事態に現在、なっているんですけど。まあ、そういうことは置いておいて、この映画は実は……そういうことを話していると『選挙と鬱』っていう映画が難しい映画に聞こえるんですが。この映画はコメディです!
(でか美ちゃん)あっ、出た! 伝家の宝刀「コメディです」(笑)。
(町山智浩)この映画は、コメディです!
(でか美ちゃん)でも見ているんでわかりますけども、コメディですね。
「この映画は、コメディです!」(町山)
(石山蓮華)そうなんです。これはね、なんかタイトルだけ見るとかなり、この画数……「鬱」って多いし、ドキッとするんですけれど、楽しく見られました。それはやっぱり監督の人柄というか、撮り方もそうですし。被写体が博士であるっていうことがすごく大きかったんだと思うんですけれど。改めて、博士にとってこの作品をご覧になってどんな感想を持ちましたか?
(町山智浩)僕はドキュメンタリー自体も大好きだし、評論もいくつも書いてるけど。だからそういう、サシャ・バロン・コーエンとかマイケル・ムーアとか、すごく影響を受けていて。そういう政治を舞台にしたコメディ的なドキュメンタリーをなぜ作らないんだと思っていたので。自分自身が主役でこれが撮れるんだ。そしてカメラマンを得て、自分の中では主人公として伸び伸び選挙の部分はやっていて、本当に楽しいです。楽しいし、面白いシーンがいっぱいあると思います。あれは僕しかできないなと思いましたから。
(青柳拓)そうですね。
(でか美ちゃん)明らかにその政治家になるべく出馬してるんですけど、完全に芸人の顔が出ちゃっている時もめっちゃあって。だからこう言っちゃあれなんですけども、青柳監督はこんなニコニコして、見る人が見たら炎上するかも? みたいなシーンもバンバン入れているんですよ。鋭く。
(石山蓮華)そうですね。で、「Me We(私はあなたたちだ。あなたたちは私だ)」っていうことを博士が選挙のスタートから標語として言っていますけれど。それが本当にハマる作品にどんどんなっていったんだなと思いました。そして、もうお時間そろそろになってきましたかね。最後になってしまうんですが監督と、そして博士からリスナーさんにメッセージをお願いします。
(青柳拓)はい。でも選挙っていうものがテーマの映画なんですけど、気がついたらその自分の話として見てしまうような、そんな不思議な体験をこのドキュメンタリーでできます。笑っていいところ、笑うところもすごい多いですし。最後にはちょっと胸に残るものもあると思うのでぜひ皆さん、劇場に今週末から公開です。見に来てください。お願いします!
(町山智浩)6月28日公開なんで。映画興行っていうのも選挙にすごく似てるんですね。だから1票1票、積み重ねていくことだし。とにかく初期に、最初に入れないと長くできないとか、勝ち負けがあったりするので。これはもうみんなで……僕ら、ゲリラ戦を戦っている気持ちでやってるので、ぜひぜひ応援していただければと思ってます。
(青柳拓)『選挙と鬱』に1票をお願いします!
(石山蓮華)そうですね(笑)。そして町山さん、改めてこの映画、どんな人に見てほしいなと思いますか?
(町山智浩)もう本当、誰でもいいんです。とにかくこの映画ね、政治に全く興味なくても、1分先の展開が予測できないというですね。「ええっ?」っていうのが延々と続きますので。ただ、楽しんでもらえればいいと思います。
(町山智浩)マスコミ試写でも拍手が続くんですよ。これはもうすごい意外でした。
(青柳拓)なかなかないことですよね。
(でか美ちゃん)あと、町山さんも博士もいらっしゃってっていう、自分も同席しているという場が初めてなんで改めて、映画と関係ないことを言いたいんですけど。マジでお互いの友情関係大事! 本当に。ここは本当に同い年ぐらいの……博士、最近若い人と仲がいいから。同い年ぐらいの友情、マジでもう見ててなんかグッとくるんで。たまになんか生配信でケンカみたいなっているんで(笑)。
(町山智浩)みんな、するんです。この年だと(笑)。
(でか美ちゃん)それが伝えられただけで、私は十分です。
(石山蓮華)ということで今週、28日土曜日から公開される映画『選挙と鬱』から、映画の主演である水道橋博士と青柳拓監督にお越しいただきました。水道橋博士、青柳監督、お2人ともありがとうございました。
(博士・青柳)ありがとうございました。
(石山蓮華)町山さんもありがとうございました。
(町山智浩)どうもでした!
水道橋博士主演、青柳拓監督の映画『選挙と鬱』、すごいことになっていそうですね。一度完成したものがダメになり、そこから立て直したのは本当にすごいことです。公開されるのが楽しみ!