町山智浩『We Live in Time この時を生きて』を語る

町山智浩 クインシー・ジョーンズと楳図かずおを追悼する こねくと

(町山智浩)これ、脚本をニック・ペインという人が脚本を書いてるんですね。で、この人は若手のイギリスの劇作家なんですけれども、すでにもう日本でも何本も日本人で上演されてるんですよ。非常に注目されている劇作家なんですけど。この人の劇はね、恋愛とかそういった普通の人間たちの関係性をSFとして描くんです。サイエンスフィクション。つまり、その物理理論とか脳科学とか、そういったものと交えて描く人なんですよ。で、たとえばあるラブストーリーでは脳がいろいろとデータを書き換えられるようになった世界で、愛するってことは、単に脳の科学的な反応なのかどうなのか?ってことを問いかけていく話を作ったりしてる人なんですね。

脚本家ニック・ペイン

(町山智浩)で、この人のね、『Constellations(星座)』。日本語タイトルはね、『星ノ数ホド』というお芝居は2014年に日本でも日本人の俳優によって上演されてるんですけど。これがこの『We Live in Time この時を生きて』の基本的な原作らしいんですよ。どうも。っていうのはね、『Constellations(星ノ数ホド)』という芝居はね、宇宙物理学者の女性と養蜂家。蜂を育てている男の2人のカップルの話で。

で、2人が出会って付き合って結婚してまた別れて、みたいな話が前後関係ぐちゃぐちゃで出てくるんですよ。過去、現在、未来を舞台の上でやるんですよ。バラバラなんですよ。フラッシュがステージの上でパッて光るたびにシーンが変わるんですけど、そのシーンがいつの話なのか、観客はそこで考えなきゃなんないんですよ。わからないんですよ。

しかもこの『Constellations(星ノ数ホド)』っていう芝居は2人が付き合わなかった世界っていう別の時間軸も混ざって出てくるんですよ。で、もうこれは一体、どの時間軸のどの過去、現在、未来、どれなのか?っていうことを観客がパッと光るたびに2人のセリフから推察するっていう、そんな芝居が『星ノ数ホド』なんですけど。

これ、すごい面白いですよ。頭、むちゃくちゃ使いますけど。これ、人気作品ですね。アメリカでもすごく、素人の人たちとかまでやってるような、まあ定番の芝居になってるんですけど。ここで面白いのはこのカップルの物理学者の女性がね、こう言うんですよ。「現在の物理学ではすでに過去とか現在とか未来というものは、一方向に流れていくものではなくてすべてが同時に存在するのよ」って言うんですよ。古典的物理学とか、普通の人の感覚だと時間っていうのは過去から未来に向かって一方通行でね、川の流れのようにして流れていって。その上にすべての宇宙が船に乗っていて、過去から未来に向かって流れていくっていう感覚じゃないですか。でも、そうじゃないんですよ。今の物理学では。全宇宙に統一の現在っていうものは存在しないんですよ。

最新物理学での「時間」の考え方

(町山智浩)まあ単純に言うとブラックホールの近くに行くと、要するに重力がものすごく重いところに行くと、時間の流れは遅くなってますから。その段階でもう「統一の現在」っていうのは存在しないんですよ。で、現在の物理学の理論では過去、現在、未来っていうのは同時に存在する。すべてが存在するんだという。

『メッセージ』っていう映画がありましたけど、あれは過去、現在、未来がない、同時にそれを生きることができる宇宙人が来る話なんですね。で、この『『We Live in Time』』っていう映画はその『Constellations』っていうのからSF的な理屈を取っちゃって2人のカップルの話を時間軸をめちゃくちゃに並べたものなんですよ。で、これ、タイトルに意味があって。

『We Live in Time』の意味

(町山智浩)『We Live in Time』っていうのはこれ、日本語タイトルは『この時を生きて』というタイトルなんですけど、ちょっと逆なんですよ。『We Live in Time この時を生きて』っていうのは「その時に生きてたよ」っていう話なんですけど。『We Live in Time』という英語のタイトルの意味は「この巨大な時間の中で私たちは生きている」っていうタイトルの意味なんですね。つまり、これは過去も現在も未来も同時に永遠に存在するならば……これを永久主義と言うんですが。ちなみに、哲学用語で。つまり、誰も死なないんですよ。無限の時の中で全員が常に生きてるんですよ。永遠に生きてるんですよ。一度、生きた人は死んでも死なないんだっていうことなんですよ。

だから『We Live in Time』というね、「私たちはこの時の中に生き続けてるんだ」っていうタイトルになってるんですよ。これ、現在形ですからね。これね、『メッセージ』っていう映画もそうだったんですけど。『メッセージ』っていう映画はね、自分の娘の話なんですけど。おっさんになると、うちの娘も結構いい歳ですけど。赤ちゃんの頃の思い出っていうのは現在っていうか、昨日のような感じなんですよ。で、じゃあ小学校4年ぐらいの時も昨日のようなんですよ。つまり、心の中では好きな人の存在って常に現在形なんですよ。死なないんですよ、だから。

そういうね、まあ、いろんなことを……要するに、彼女は自分の癌の治療を捨てて、短くても自分のやりたいことをやったわけですけど。じゃあ、そういう風に過去、現在、未来もないんだったらば、人生って長さでは評価にはつながらないですね。生きたということが大事なんです。だから、これは恋愛映画でもあるんだけども、すべての人生にとっての映画になってるんで。これはちょっとすごかったですね。このニック・ペインさんの哲学的な恋愛映画でしたね。

これね、メソメソした演出をするなっていうことですね。感動的な音楽が流れて泣かせようとしないところがいいんですよ、これは。基本的にコントが延々と続いていく感じなんでね。

『We Live in Time この時を生きて』予告

アメリカ流れ者『We Live in Time この時を生きて』

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