岩下尚史さんが2025年1月5日放送のTBSラジオ『日曜天国』に出演。新橋・花柳界の言葉の数々や、「粋」という言葉の本来の意味について、安住紳一郎さんと話していました。
(安住紳一郎)「チョンチョンコピー」の話をちょっと……。
(岩下尚史)ああ、チョンチョコピー。
(安住紳一郎)チョンチョコピーっていうのは東京の言葉で……なんでしょう? 若い人のことを言うんですか?
(岩下尚史)東京というか、新橋の花柳界だけ。新人のことです。
(安住紳一郎)チョンチョンコピー。
(岩下尚史)「私みたいなチョンチョコピーがこんなお座敷に……」なんて言っていましたよ。
(安住紳一郎)「オチャッピー」っていう東京の言葉もありますよね?
(岩下尚史)オチャッピーもその流れであるんじゃないかなと思いますけども。ちょっとわかんない言葉が多いんですよ。新橋って。「ダダベタ」とかね。
(安住紳一郎)ダダベタ?
(岩下尚史)ダダベタ……前に歌舞伎の俳優の女将さんを「あの人、ダダベタだからね」って新橋の芸者衆が悪口、言っていて。その人を見て「ああ、こういうのがダダベタなのかな」って想像する他、ないんですけどね。ダダベタとか……あと、いろいろとありましたね。
(安住紳一郎)「ノメカメ」っていうのはなんですか?
(岩下尚史)ノメカメっていうのはたぶんね、関西の言葉。だから新橋の花柳界って、銀座でしょう? 銀座ですから、諸国の言葉が入ってるんですよ。諸国から入ってきて、それが新橋の中で少し、言い方が変わって。ノメカメってどういうんだろう? 踊りの稽古の時、「それじゃノメカメでいけない」ってお師匠さんたちが言っていて。どうもね、わかんないんですよ。あとね、自分のことをキヌボロの言っていて。「私はキヌボロでございますから」ってばあさん芸者が言っていましたけども。キヌボロもわかんないしね。とにかく、わかんない言葉が多いの。辞書を引いても出てこない。
(安住紳一郎)そうですよね。どこにも載ってないから。
(岩下尚史)それで出版社に「それをあなた、全部羅列して……」って。なんか『銀座百店』で連載をしてたんですよ。新橋だけのことを。「それを注釈つけて語源を……」なんて言われたけども。そんな面倒くさい仕事、誰がするもんかと思って放っておいてるんですけどね。
(安住紳一郎)アハハハハハハハハッ!
失われつつある新橋花柳界の言葉
(岩下尚史)だから私は語源を調べないかわりに……今、新橋の花柳界に行ってももう使ってないんですよ。だから私が使ってるの。そうすると、誰か調べてくれるのよ。
(安住紳一郎)まあ、そうですね。いつかね。誰か使ってると、残りますからね。
(岩下尚史)残りますから。私の頃はそれを覚えないと新橋のおばあさんたち、口を聞いてくれなかったんですよ。
(安住紳一郎)あれはなんか、なんですかね? そのテンポが崩れるから、そういう人にいちいち注釈すると粋じゃないっていうことで。
(岩下尚史)そこで会話が途切れると、もう口を聞いてくれなくなるのよ。昔の人、今みたいに手取り足取り教えてくれないから。
(安住紳一郎)そうですよね。
(岩下尚史)厳しかったですよ。
(安住紳一郎)昔の映画とかドラマ見ても、聞き取れない言葉がいっぱいありますもんね。速いし、わかんないし。
(岩下尚史)あとね、銀座の今の人たちもずいぶん変わりましてね。私と同じぐらいの歳の人もそうだけども。「粋」っていのをすごい皆さん、おっしゃるの。「粋な旦那じゃなきゃいけない」とかね。私らの頃ね、粋な旦那なんか、いなかったですよ。
(安住紳一郎)そうですか。
「粋な旦那」が存在しない理由
(岩下尚史)私が仕えた金田中のご先代。よく新聞社とか雑誌社が来てインタビューする時に「さすが、社長は銀座の料亭の旦那だから粋ですね」なんて言われると、その時にムッとしちゃって。その人が帰ると怒ってたの。「粋な旦那なんか、あるかよ。無礼者め!」って言っていたの。粋ってのは、昔で言うと「生き生きしてる」というのが語源らしいんですよね。折口先生に言わせると。だからもっと若くて、魚の棒手振りのお兄ちゃんとか、なんですか? あとは鳶とか、そういう人の美学だったんじゃないですか? だからうちの社長はよく「銀座で粋はない」って言っていた。
(安住紳一郎)もう少し老練した、落ち着いたっていうのが旦那衆の褒め言葉だっていう?
(岩下尚史)そうです。あと、履物もですからね、銀座の履物はね、鼻緒を挿げる時に緩かったですよ。
(安住紳一郎)どういうことですか?
(岩下尚史)つまり、粋な履物ってなんていうか、ちっちゃくて引っ掛けて歩く。あれは下町。浅草の方とか、そうだけども。銀座は緩く挿げますっていう風によくおっしゃっていた。昔の履物屋さんは。今はそうじゃないですけど。
(安住紳一郎)今はちょっときついくらいで突っかける感じで。
(岩下尚史)今はね、その粋っていうのがすごく拡大解釈されていて。何でもかっこいいことは「粋」ってなっているっぽい。
(安住紳一郎)なるほどね。やっぱり言葉ひとつとっても、いろいろあれですね。美学とか、そこに人々の知識とか、教養が込められますよね。
「粋」という言葉が現代ではものすごく拡大解釈されていて、なんでもかんでもかっこいいことを「粋」と言う風潮についての岩下さんのお話、めちゃめちゃ興味深く聞いてしまいました。新橋花柳界の言葉の数々も全然意味はわからないですけど、面白いですね!