町山智浩 韓国・尹錫悦大統領の戒厳令発令と『ソウルの春』を語る

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町山智浩さんが2024年12月10日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で韓国の尹錫悦大統領が突然、戒厳令を出して大きな混乱を引き起こした件についてトーク。全斗煥大統領の軍事クーデターを描いた映画『ソウルの春』を例に挙げながら話していました。

※この記事は町山智浩さんの許可を得て町山智浩さんの発言のみを書き起こし、記事化しております。

(町山智浩)今日はちょっと韓国の話をさせてほしいんですけど。っていうのは、この間ちょうど僕、ソウルに行ってたじゃないですか。そこでちょうど韓国のアカデミー賞の授賞式があって。青龍賞っていうんですけど。そこで最高の映画として、ここでも紹介させていただいた『ソウルの春』という映画が作品賞を取ったんですね。で、僕はその後、『ソウルの春』の舞台になったところを見に行こうとして。あれ、最後にクーデターを全斗煥大統領が起こしまして。それにたった1人、最後まで……軍隊が全部、そのクーデター側に少しずつ、少しずつ、ついていっちゃって。最初はクーデター側がほんの少しかいなかったのが、軍隊全部がクーデター側に流れて。それで政権がひっくり返るっていうところにチョン・ウソンさんという俳優さんが演じる首都防衛隊長はたった1人だけ残って、立ち向かうっていうシーンがあるんですね。

で、あの最後の舞台になったところっていうのは韓国の李王朝の王宮で景福宮っていう宮殿があるんですが。光化門という門があって、その前の広場なんですよ。あの最後のシーンって。で、そこに行ってチョン・ウソンみたいに写真を撮ろうかなと思っていたら、すごいデモをやっていたんですよ。あれは2週間ぐらい前だったんですけども、すごかったんですよ。もうみんな、のぼりを立ていて、いろんなK-POPを流しながら踊ったりしてやっていたんですが。

ちゃんと、そののぼりには「尹錫悦大統領を許さない」って出ていて。「ああ、こういう状況になってるのか」と思っていて。それが僕、ソウル滞在の最後の日だったんですよ。で、飛行機に乗ってアメリカに来て。この番組にも出て。翌日、菊地成孔さんっていうジャズミュージシャンの人と「『ソウルの春』はいいですよ!」っていう話をしていたら、その時に戒厳令が出ました。びっくりしましたよ。もう超偶然で。

それでその後、戒厳令でどういうことしたかというと、空挺部隊という精鋭部隊を尹大統領は国会に送り込んだんですね。そうしたら、そこに集まっていた議員の人たちがそれを押し返す形になって。そこに後から来た市民の人たちも軍隊を国会に入れないってことで戦ったんですが。あれ、今も続いてますけどね。今もずっと国会前でみんな、集会をしてますけど。あれ、ソウルって夜、零下4℃ぐらいになるんですよ。も、めちゃ寒いんですよ。ソウルって、乾燥してて。あそこでみんな、K-POPの歌を歌いながら、いわゆるオタ芸というのをやったりして。あれ、面白いですね。で、いろんなのぼりとか立ているんだけど。「自分はオタクだから、オタク活動をやりたいから、政治をちゃんとしてくれ」とか書いてあるんですよ。

必死に阻止をした韓国国会議員と市民たち

(町山智浩)「オタクだから思いっきりゲームがしたい」とか「アニメが見たい」とか書いてあって。それでデモに参加してるんでね。あれは新しいですよ、本当にね。で、ああやって市民が行動に移せているっていうのも、それは何度も韓国がそれで失敗してるからですね。そのクーデターの件も、『ソウルの春』の中で軍隊が全部、「これはクーデターの側についた方がいいんじゃねえか」っていうことで、ついちゃったわけですよ。でもその後、光州事件という事件がありまして。空挺部隊とか韓国の軍隊が「北朝鮮が裏にいるデモが起こっているから、それを鎮圧しに行け」って言われて、行って。実際にはそんなことはなくて。それで軍隊が民間人を射殺してしまうという、大虐殺事件が起こってるんですね。

だから今回は兵隊さんたちも「2度とそういうことがないように」っていうことで、大統領の言うことを忠実に守って国民を弾圧するっていうことを安易にしないようにしてましたね。それは1回、やっちゃっているからですよ。『ペパーミント・キャンディー』っていう韓国映画があるんですよ。1人の中年の男が人生がめちゃくちゃになって、失敗して。女の人にも優しくできなかったし、誰にも優しくできなくて。

で、どうしてそうなったのか?っていうんで自分の人生を回想していくと、実は光州事件で罪もない人を殺してしまったっていうトラウマで自分の人生を破壊してしまったという映画でしたが。やった方の兵隊たちも本当に傷を負って、大変な事態になったんですけども。だからそういうことが散々あったから、やっぱり韓国の人たちは「2度とそういうことを許さないぞ」ってことで戦ってるんですけど。

過去の過ちを描く韓国映画

(町山智浩)やっぱりね、『ソウルの春』とか『ペパーミント・キャンディー』とか、そういう映画が次々と公開されて自分たちの過去の過ちをみんなで見直して。あと、その時に生まれてなかった人もそれを見て勉強するんですね。で、どんどんどんどん学んでいい国になろうとしてるんだなっていうのはわかりますね。それで圧倒的なエンターテイメントにして、めちゃくちゃ面白いってところが……『ソウルの春』とかね。やっぱりすごいなと思いますけどもね。

町山智浩『ソウルの春』を語る

町山智浩『ソウルの春』を語る
町山智浩さんが2024年8月13日放送のTBSラジオ『こねくと』の中で全斗煥の軍事クーデターを描いた韓国映画『ソウルの春』を紹介していました。

『町山智浩のアメリカ流れ者』2024年12月10日放送回

<書き起こしおわり>

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