宇垣美里と宇多丸『虎に翼』脚本家・吉田恵里香の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』イズムを語る

宇垣美里と宇多丸『虎に翼』脚本家・吉田恵里香の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』イズムを語る アフター6ジャンクション

宇垣美里さんと宇多丸さんが2024年6月13日配信のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』放課後Podcastの中で『マッドマックス:フュリオサ』についてトーク。その中で朝ドラ『虎に翼』脚本家の吉田恵里香さんが『マッドマックス 怒りのデス・ロード』から大きな影響を受けていることに触れ、『虎に翼』内の『マッドマックス』的要素について話していました。

(宇多丸)でね、ちょっと話がずれるけども。この間、合間合間で話していたけども。『虎に翼』の話ね。『虎に翼』のネタバレを含んじゃってるけど。轟っていうさ……。

(宇垣美里)轟!

(宇多丸)まあ、いろいろいろいろとにかくグッと来るというか、涙するしかないような瞬間がいっぱいあるドラマだけど。「1週間のうち、月曜日でもうこれ、来る?」みたいな感じで。

(宇垣美里)大変だった……。

(宇多丸)要はね、轟という最初はめちゃくちゃマッチョな男というかね。

(宇垣美里)バンカラみたいな。

(宇多丸)まあ、当時の学生だったらいっぱいいたでしょう。で、女学生たちがその法を学ぶためにいっぱい入ってきたのを、最初は「なんだ? 女が入ってきて」って。

(宇垣美里)「女なんかとは勉強できん!」みたいな。「笑止!」とか言ってましたね。

(宇多丸)まあ、過剰に男らしい人なんだよ。なんだけど、彼はやっぱすごく素直ないい人っていうか。だんだんと……。

(宇垣美里)「自分が思っていた男らしさって、男らしさじゃなかったかもしれない」って。

(宇多丸)「自分が男らしさと美点だと思っていたものは全然、性差とは関係なかった」っつって。だから素直なの。今までは無知でそう言っていたけど、気づけば普通にそうなるっていう人で。誰よりもだから、そういう意味ではフラットな見方になっていた轟という人がいて。彼が戦後、友人も亡くなってしまって……。

(宇垣美里)やっとのことで復員してきて。

(宇多丸)それでまさに、もうヤケクソで酒なんか飲んでいて。

(宇垣美里)その時に、酔っぱらってるのに、ダラーンってなっているのに、新聞からずっと手を離さないんです。

(古川耕)ほうほう。

(宇多丸)その新聞はね、ガンちゃん演じる花岡っていう……まあ、一番エリートっていうか、ちゃんとした人。でも、その花岡は花岡でそういう当時のエリートだから、最初はすごいいい人だと思ってたけど。途中で、彼がある意味、彼も馬脚を現す瞬間があって。でもそれをただしていくドラマなんだよね。

(宇垣美里)「君たちは頭がいい女性だから、認めないとね」みたいな感じで言っていて。「うん? なんかお前、ちょっと間違えてるな?」みたいな感じがちょっと、あったんですけど。

(宇多丸)でもさ、それでやつが崖から落ちたりとか、いろんな面白い事件があるんだけど。でも、彼なりに成長もするし……っていう感じなんだけど。今にして思えば戦時中、戦後にね、結局負うことになった傷に比べれば、学生当時のたとえ、性差別的な男子学生相手であっても、あの時はまだ青春だったっていうかさ。

(宇垣美里)仲間がいて、未来があった。

(宇多丸)そう。まだ可能性が全員に開かれてたのに……っていう、そういう感慨があって。

(宇垣美里)本当、宝物みたいな瞬間だったんだなって。

(宇多丸)でね、彼は戦後の非常に有名な、ある歴史の史実をもとにした人物だったんですよ。これはね、ちょっとここぐらいは伏せておこうかな? あることで亡くなるんだけども、これは非常に有名な人なんだけども。

(宇垣美里)他の朝ドラでも出てくるぐらい、有名な事実なんですけど。

(宇多丸)で、問題はその轟は花岡の親友だったんだけども。で、そこにやってきたのよねさんっていう……。

(宇垣美里)「よねち、生きてたの、よかった!」ってなりました。

(宇多丸)よねさんっていう、一緒に法律を学んでいた、非常にクールで。ある意味、その性差的なところを……。

(宇垣美里)本当に田舎の農村の生まれで。親に置屋に売られるような育ちをしてきたので。「女性である」ということに非常に、なんていうか逆にそれが本当にデメリットであると感じざるをえない人生を歩んできて。

(宇多丸)自らの女性性の否定というかね。そういう感じに行っているような人で。まあ、それがすごいかっこいいんだけどね。

(宇垣美里)そう。男性物のスーツを着ているし。堅い言葉遣いをするし。「そんなキャッキャしてるお前らとは覚悟が違うんだ!」っていう。

(古川耕)ああ、なるほど。そういう感じになってるんだ。

(宇垣美里)っていうぐらいの彼女だったんですけど。

(宇多丸)だから、なんていうかな? その女性とか、いろんな立場の人の中にもいろんなフェイズというか、それがあって。そこもすごく丁寧に描いてるドラマで。でもお互い、こうやって話し合って、わかり合ったり。「そこは違ってもいい」ってなったり。

(宇垣美里)わからないままに、でもそういう人がいるんだっていうことを認めるみたいな。

(宇多丸)というのをすごく丁寧に描くドラマなんだけど。そのよねさんがさ、来て。落ち込んでいる、その轟を自分の店にカフェーに連れて行って。で、その轟に「私の前ではその『男らしい』強がりは無意味だから。もし、この言い方が不躾だったら謝るし。言ってほしくないならそれも謝るけど」って。

(宇垣美里)「別に白黒つけたいわけじゃないけど」って。

(宇多丸)「だけど、私の前ではその殻を取っていい」って言って。そしたら轟が涙ながらにその花岡と……要するに轟が花岡への恋愛感情を語りだすんです。

(宇垣美里)轟自身もわかっていない。「わかっていないけど……でも、たしかにこういう気持ちがあった。ああいう気持ちがあった」っていうのを吐露するシーンがあって。

(宇多丸)だから彼の中ではまだ……やっぱり今みたいに「それはこういう感じかな」みたいに置いたりできないから。

(宇垣美里)そういうものがあるものだとは、思っていないから。

轟の花岡への思い

(宇多丸)で、なにを言おうとしたか?っていうとその脚本家の方、吉田恵里香さんがちゃんと「それは人として好きとか……」。

(宇垣美里)「尊敬していたとか、友人だとかじゃなくて」って。

(宇多丸)そういう漂白された描写ではなくて。やっぱり、当時は言い出せなかったかもしれない、たとえば男性の同姓愛者の気持ちであっても、なんであっても……・

(宇垣美里)「最初から私は恋愛関係として描いてました。登場シーンから」っていう風にSNSに書いていて。

(宇多丸)で、それをあえて……つまりさ、漂白された解釈をして安心したがる人が多い様子を見て、っていうのがあって。

(古川耕)固有の恋愛の形だよっていう風に、はっきりと描きたかったと。

(宇垣美里)「別にわざわざ登場させたとかでもない。そういう人たちのことを透明化させたくない。透明化させられていた人たちのことを描く物語を書いていきたい」っていう風に書いていて。なんという、その心意気というか。

(宇多丸)だからそれはもうさ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』をやっているのよね。もはやあのドラマは『Fury Road』をやるつもりでやっているんじゃないの?っていう。

(宇垣美里)だから、「後に続く人たちの、その後ろを守るあのおばさんみたいになりたい」って吉田さんがおっしゃってたのって、これだなって本当に思うんですよね。

(古川耕)ああ、なるほどね。『Fury Road』のね。

(宇垣美里)道をひらいていってあげたいっていうことだと思うんですよね。

『Fury Road』をやるつもりで『虎に翼』をやっている

(宇多丸)いやー、そういうことですよ。とらつばの話で……。

(宇垣美里)だからとらつばは、もしかしたら『マッドマックス』から生まれたのかもしれない。

(古川耕)なるほど。『マッドマックス』サーガですね。

(宇多丸)でもさ、『Fury Road』はあれだけ、いわゆるアクションエンターテイメントっていう、まあ「男性的」とされる領域の……。

(宇垣美里)まあ、たしかにそこはめちゃくちゃ上がるけど。

(宇多丸)でもさ、そういう領域であれだけの革新を生んで。もう文句なしの、決定的な名作を作り上げたということはやっぱり、いろんなジャンルにおいて。それこそ轟じゃないけれども。「男性の領域っていうのは思い込みだったかもね」っていうようなことを起こしたかもしれないですし。

(宇垣美里)あと『フュリオサ』を見に行く前に私、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見て。『フュリオサ』を見て。また『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見て、それからまた『フュリオサ』を見たんですけど。

(古川耕)サウナと水風呂みたいな感じですね。

(宇垣美里)もう永久機関ですね。一生回り続けて。で、それを見ると、もう1個前の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を見た時に、マックスってすごく病んでる人としてちゃんと描かれている感じが……その時、私はそういう目で見てなかったんですけど。彼は確実に精神的な病を負っているなっていう。でも、そこに全然逃げてないっていうか。それもひとつの、その『虎に翼』に出てくる優三さん。お腹が弱い男の人を描いているように、精神的に弱い人……だからそういう病を背負ってる人を描いていたのかもしれない。だからそういう、そのマイノリティというか、弱者と言われる人たちを……だから今回、見て「マックスもそうだったのか」って私はなりました。

精神を病んでいる人として描かれていたマックス

(宇多丸)まあ、ずっと幻影にも悩まされているし。そもそも、なんというか口に発してコミュニケーションをもはや取ることができない人っていう風になっていて。

(宇垣美里)そうですよね。もう、だいぶヘタで。もう1回、見返したら。

(宇多丸)まともにコミュニケーションを取ることができない人みたいになっていて。

(宇垣美里)「今、車の話する? お前、縛り付けられてるよ?」みたいなタイミングで。

(宇多丸)「それは、俺の車だーっ!」って。

(宇垣美里)「えっ、そこで? おかしくない?」ってなって。だからそういう……執着だと思うんですけれども。

<書き起こしおわり>

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