宇多丸さんが2023年10月30日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション2』で虹のコンキスタドール『君がいて良かった!了解です。』について話していました。
(宇多丸)続いてはですね、もちろんずっと前から活動はされてますけど。この連載であんまり、申し訳ない。取り上げることが少なかったんですけど。虹のコンキスタドールの新曲にいきたいと思います。『君がいて良かった!了解です。』という曲ですね。虹コン、あんまりやってないですもんね。ちょっと申し訳ないけど。
(森田秀一)割と王道系が多かったんで。アトロク的ではない感じが多かったんですよね。
(宇多丸)僕のチョイスする感じではなかったんですけど。今回の曲は取り上げてみました。この『君がいて良かった!了解です。』、作詞・作曲・編曲を手がけているのはマハラージャンさん。ライブアンドダイレクトでも2度ぐらいかな? 出ていただいて、圧巻のライブを見せていただきました。普段は割とブラックミュージックベースっていうか、ファンクとかディスコとかをベースに、すごい皮肉、シニカルな歌詞を乗せる。でも曲は超美しいみたいな感じで、僕も本当に大ファンというか。マハラージャンさん、ラジオもすごい聞いていただいていて……みたいな感じだったんですけども。そのマハラージャンさんが手がけている。
で、曲自体はマハラージャンさんの中ではちょっとロック寄りっていうか、ギターポップっていう感じで。すごい疾走感のあるギターポップで曲自体もかっこいいんですけど。『君がいて良かった!了解です。』ってこれ、どういうことか? これ、ぜひ宇垣さん、歌詞に注目してください。この連載、いろいろやっていて。でも、やっぱり歌詞が心底面白いものってそんなに……申し訳ない。そこまでは多いとは言えなかったんですよ。僕も作詞家でもあるから。本気で感心する歌詞って、あんまりそこまではないんだけど。これは、やられました!
これ、どういうことか?っていうと、一言でいうとぶっちゃけ「クソLINE」的な。「一緒に◯◯、行かない?」「了解です」「◯◯しない?」「了解です」「かわいいね」「了解です」って……つまり、拒絶の意思としての「了解です」っていう。
(宇垣美里)もはや、オートで(笑)。
(宇多丸)自動的に返す、拒絶の意思を示す「了解です」とか、「大丈夫です」とか。まあ最終的には「興味ありません」とか出てくるんだけど。という歌なんですよ。だから「君がいて良かった!」「了解です」って。もう「了解です」「了解です」っていう要するに拒絶を全曲にわたってしてるような歌で。それがまず、すごくシニカルで面白い。しかもこれって、森田くん。うがった見方をすれば、アイドルという構造というか。
(森田秀一)そうですね(笑)。
(宇多丸)絶対的な片思いっていうかさ。そこ浮かび上がってくるみたいな。
(宇垣美里)ああー!
(宇多丸)でもね、僕はこれを聞いていて……だから最初はすごく笑っちゃうし。「かわいい」とか言っている側の凝りなさ加減みたいなものが笑えてくるんだけど。だんだんちょっと、泣けてくるっていうか。なんていうかな? 「お前、もうやめろ! 脈ない、やめろ!」みたいな、そんな感じもあるし。なんかやっぱり人間同士って、こういうことだよなっていうか。思いがそんなに成就するわけでもないし。ダメなもんはダメ。一生、交わらないっていうものなのかもな……みたいな。なんか僕はちょっとだけ、その曲のスケールが大きい部分も見えてくるっていうか。そこがやっぱりマハラージャンさん、すごいなという風に思ったりしたあたりなので。ぜひ、この曲ちょっとフルでいきたいと思います。
で、曲を聞く前にですね、ちょっと私、聞いていただきたい曲があって。全体としてはギターポップなんですけど、サビの感じがですね、これは1986年、ブロウ・モンキーズというグループの『Digging Your Scene』という大ヒットした曲がありまして。森田くん、僕の言ってること、わかるよね?(笑)。
(森田秀一)僕は言われてわかりました(笑)。「なるほど」っていう(笑)。
(宇多丸)ちょっとまずブロウ・モンキーズ『Digging Your Scene』のサビをちょっと聞いてみてください。こんな曲です。
The Blow Monkeys『Digging Your Scene』
(宇多丸)はい。ブロウ・モンキーズ、1986年ですね。大ヒット曲『Digging Your Scene』。今の中の「I know I’ll die♪」っていうところがあるんですけども。このフレージングっていうか。「I know I’ll die♪」っていうのがマハラージャンさん、サビ「了解です」の部分にサンプリングしていると思う。
(宇垣美里)へー!
(宇多丸)と、俺は思う! どう聞いても! 皆さんはどう思いますか? 虹のコンキスタドールで『君がいて良かった!了解です。』です。
虹のコンキスタドール『君がいて良かった!了解です。』
(宇多丸)はい。すごいなっていう。虹のコンキスタドール『君がいて良かった!了解です。』。作詞・作曲・編曲マハラージャンさん。恐ろしい曲を作りましたね!
(宇垣美里)最初は送ってる側の……オタク側なのか、その、なんていうんだろう? 心の折れなさ、読めなさに「怖すぎ……」って思ったんですけど。でもそれに対して折れずに、ほだされずに全部に「了解です」って送れているそのお前のメンタリティーもなんなん?っていう気もしてきて(笑)。
(宇多丸)機械的にね(笑)。
(宇垣美里)でもだんだん、「相手、本当に人間か?」みたいな気持ちになってきて(笑)。
(宇多丸)そうですね。だからそのディスコミュニケーション感がなんか悲しい。なんだけど、ギターポップゆえのちょっとエモさも入ってくるから。あと、たとえば「映画、行かない?」「興味ないです」「了解です」って……だから今まで送ってたやつが今度は「了解です」って返すところとか、うまいな!って思って。ちょっと森田くんさ、今リモートだからあれだけど。今、スタジオの俺らがもんどりうって。悶絶していて(笑)。
(森田秀一)本当、この曲を聞くと「了解です」っていう言葉が使いづらくなりますよ(笑)。
(宇多丸)アハハハハハハハハッ! 本当だよね(笑)。
(宇垣美里)機械的に送れないですよね(笑)。
(宇多丸)実際の要素がね。そうだよね。
(森田秀一)宇多丸さんから来たメールになんか無意識で「了解です」って返しちゃったんですけども。「あっ、ヤバい。これ、拒否の気持ちかな?」みたいな(笑)。
(宇多丸)でも、仕事上は「了解です」ってあるよね(笑)。しょうがないよね。
(森田秀一)仕方ないですね。許してほしいです(笑)。
(宇多丸)でも今度、森田くんから「了解です」って来たら「なんなん!」みたいな(笑)。
(宇垣美里)「読んでないん?」みたいな(笑)。
(宇多丸)でも、本当にいろんな意味ですごい1曲じゃないでしょうか。
(宇垣美里)これはすごい(笑)。
(中略)
(宇多丸)メールです。「マブ論で虹コン、やった! 数年前から虹コンにハマって以来、ずっと虹のコンキスタドールの曲が流れるのを待っていました。ミュージックビデオもとてもかわいいので、宇垣総裁にもぜひ聞いてほしいです。今年の夏に出た『マイレージラブサマー』もおすすめです」。でもね、「了解です」ってあんな……。
(宇垣美里)ちょっとドキドキしちゃった。
(宇多丸)ニコニコして歌われるほど怖いっていう感じもありますよね。
(宇垣美里)「この子は、一体……?」みたいな(笑)。
ニコニコして歌われるほど怖い曲
(宇多丸)いや、でもすごい曲を出したんじゃないですかね。虹コン。ちゃんと聞いてますよ。いろんな曲、毎月チェックしてるんですけども。今回は特に私に刺さったということで。まあ、私の独断と偏見コーナーなんで。すいませんね。偏りがございます。申し訳ございません。あと、続いてのメールは「時間が増えてお話にも余裕が感じられるマブ論、最高です。虹コンの曲が流れてる間のもんどりを打つスタジオの様子……」。もう悶えて悶絶して(笑)。
(宇垣美里)「ど、どういうこと?」って(笑)。
(宇多丸)「月刊PAMでパンパンする宇垣さんなど、映像もついて素敵です」って。で、この方はfishbowl『熱波』について。これはヤマモトショウさんプロデュースの曲で。ヤマモトショウさん、元々フィロソフィーのダンスの楽曲とかでもいっぱい取り上げてたんすけど。たしかに『熱波』あたりからさっき言ったヤマモトショウ節、すごい掴んだっていう感じがあったんで。
(宇多丸)「『熱波』がすごく好きだったのでヤマモトショウさん、もっと掘って聞いてみたいと思います」ということで、ありがとうございます。実際にヤマモトさん、手がけてる曲めっちゃくちゃ多いし。実際、先ほど森田くんも言っていたけども。流行ってる曲を今、手掛けていらっしゃるっていうか。だったりするんで、追いかけ甲斐、あるんじゃないでしょうかね。マブ論、元ネタを比べてかけるとか、ああいうのもできて。どうですか? ブロウ・モンキーズのあれ、わかっていただけました?
(宇垣美里)あの「でーす」のところですよね?
(宇多丸)そう。「了解でーす」が「I know I’ll die♪」のサンプリングだと俺は思う!
(宇垣美里)あの「了解です」の放り投げた感じ、よかったなー。
(宇多丸)マハラージャンさんに今度、聞いてみます。
<書き起こしおわり>