町山智浩 ドラマ『重版出来!』の素晴らしさを語る

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映画評論家の町山智浩さんがTBSラジオ『たまむすび』の中でいよいよ最終回を迎えるドラマ『重版出来!』についてトーク。その素晴らしさについて話していました。


(赤江珠緒)そして、今日は……

(町山智浩)今週はですね、今日が最終回なんで今日やらないともう間に合わないということで。『重版出来!』というドラマの話をさせてください。

(山里亮太)見ております!

(テーマ曲が流れる)

(町山智浩)はい。もうこの音楽を聞くだけで涙が出てきますけども。

(赤江珠緒)ハマってますねー(笑)。

(町山智浩)毎週泣いてますよ。

(山里亮太)僕も。

(町山智浩)もう毎週、ボロボロに泣いてますけども。で、見てない人のために説明したいんですが、TBSで毎週火曜日にやっているドラマですね。で、重版出来というのは出版用語で「本の二刷目が出来上がりました」っていう意味なんですが。舞台はバイブスという架空の青年漫画雑誌の編集部で、ヒロインは黒木華さん扮する新入社員の編集者の黒沢心ちゃんですね。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、その彼女を中心に漫画家さんや出版関係者の人たちのドラマなんですけども。で、原作は小学館のビッグコミックスピリッツに連載中の松田奈緒子さんの漫画なんですけども。これ、とにかく僕がびっくりしたのは……っていうかこれ、『たまむすび』でやらなきゃならないなと思ったのは、赤江さんが出てましたね(笑)。

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(赤江珠緒)そうなんですよ。あらっ、ご覧になっちゃいました?

(町山智浩)ねえ。いやー、もうズルい役ですねー!

(赤江珠緒)(笑)。そう。いいところで、遺影とかで出てくるでしょう?(笑)。

(町山智浩)だってキラキラ輝いていたじゃない。赤江さん。

(山里亮太)いい思い出の中でね。牛露田先生の奥さん。

(町山智浩)もうキラッキラでしたよね。もうね。

(赤江珠緒)ありがとうございます。わーい。

(山里亮太)町山さんはあの演技とか見ていて、どうでした?

(町山智浩)いや、だってただもう本当、女神のような人っていうキャラじゃないですか。ねえ。もうズルいなと思いましたよ。本当に。

(赤江珠緒)(笑)。ああ、よかった。そうですか。ご覧になっている人からそう言われると、よかった。

(町山智浩)俺なんて、ひどい役っていうか、出てるわけじゃないけど。ライバル出版社のすごい悪い、ズルい営業マンだよ。

(赤江珠緒)そうそう! エンペラーの営業の町山さんってあれ、町山さん?

(町山智浩)でしょう? そっちは女神で、俺はズルい営業なのか? と思ってね(笑)。でね、これ、原作者の松田さんの旦那さんの新保(信長)さんっていう人が編集者で、ちょっと知り合いなんですよ。僕。

(赤江珠緒)へー。

(町山智浩)で、「どういうこと?」って聞いたらですね、あの町山っていうキャラは脚本家の野木亜紀子さんのオリジナルキャラだっていう話なんで。まあ、嫌われてるんだろうなと思いましたけどね。はい(笑)。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)町山さんが?(笑)。

(町山智浩)もう最近ね、俺、すごい嫌われてるんですよ。漫画の中で。漫画の世界で。

(赤江珠緒)ええっ?

(町山智浩)でね、いろいろ出てくるらしいんですけど。最近、読んでびっくりしたのは『DEAD Tube ~デッドチューブ~』っていう漫画でね、映画マニアで童貞でオタクでいじめられっ子で。きれいな女の子に騙されて人生を潰されてしまう男っていう主人公の名前が町谷智浩(まちやともひろ)でしたよ。

『DEAD Tube』町谷智浩


(赤江珠緒)ああ、そう(笑)。それはちょっと……

(山里亮太)「ま」がないだけだ! 確実に町山さんだ。

(町山智浩)それ、ほとんど俺じゃん?っていうね(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)ふざけんなと思いましたけど。まあ、嫌われてるんでしょうがないんですが。はい。

(山里亮太)でも、これは違っていたんですね。この町山さんは。

(町山智浩)そうそう。だからね、モデルにされているんですけど。『重版出来!』もね、モデルがいるって言われてるんですね。出てくる人に。

(山里亮太)僕もそれ、イメージしながら見ています。これはこの先生のことかな?って思いながら。

(町山智浩)そうそう。で、放送されるたびに漫画関係者の人たちがTwitterとかで盛り上がってるんですね。で、赤江さんの旦那さんの役になった、昔すごかった漫画家さんなんだけど、いま描けなくなっちゃったっていう漫画家さんも……

(山里亮太)ギャグ漫画のね。

(町山智浩)そう。『ど根性ガエル』の吉沢やすみさんじゃないか? とかね。まあ、いろんな実在の……

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(赤江珠緒)『ど根性ガエル』の?

(町山智浩)はい。じゃないかな?って。まあ、娘さんがね、描いているんですよね。その時のことをね。本にしているんで。とか、いろいろ言われてたり。あと、最上もがちゃん扮するモデルと付き合っている滝藤賢一さんが演じている売れている漫画家の人がいるじゃないですか。

(山里亮太)高畑先生。

(町山智浩)そうそうそう。あれは誰だ?っていう話で、たぶんですけど、何人かが合成されていて。アイドルと結婚した江口寿史先生とかですね、あとは尾田栄一郎先生がキャンギャルと結婚されてますよね。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)尾田さん、奥さんね、きれいな人なのよ。

(町山智浩)そうなんですよ。尾田栄一郎さんの漫画ってあれ、子供にものすごくいいなと思ってですね。あれを見ると、ロリコンにならないですね。『ONE PIECE』を読んでるとね。

(山里亮太)(笑)。あのボリューミーなね。

(町山智浩)ナイスバディ、バンバンだから。ロリコンとかふざけんじゃねーよ!っていう感じになって。なかなかいい男が育つと思うんですけど。まあ、それはいいんですが。教育上素晴らしい漫画が『ONE PIECE』だと僕は思っているんですが。まあ、それは置いておいて……(笑)。

(山里亮太)そこだけじゃないですよ。友情とかもあるんですよ……

(町山智浩)(笑)。「もうナイスバディ以外は出さねえぞ、俺の漫画には!」っていうね、素晴らしい政治的ポリシーを感じますが。あとですね、永山絢斗くん。イケメンの彼が演じる新人漫画家は絵が下手で下手で下手で。で、他の雑誌では「載せられない」って言われるんですけど、黒木華ちゃんだけが「これはすごい才能だわ」っていうことで、彼に賭けてみるっていう展開になっていますけど。あれはよく、いま言われているのは『進撃の巨人』の諫山創さんじゃないか? と。

(赤江珠緒)ああー、やっぱりそうか。私もそう思いましたね。

(山里亮太)僕もそう思って見てました。中田伯。

(町山智浩)で、彼も絵のせいで最初少年ジャンプに蹴られて。で、それを別冊マガジンに入社して1年目の編集者の川窪さんに見出されてデビューして。

(赤江珠緒)へーっ! 1年目の編集者だったんだ。こっちも。

(町山智浩)1年目なんですよ。彼。だから黒木華ちゃんのキャラと同じなんですよ。設定的に。

(山里亮太)なるほど。じゃあ絶対にそうだ。諫山さんだ。

(町山智浩)だからそうじゃないか? とか言われたりしてるんですけど。で、そういうのもあってですね。あと、『重版出来!』でなにがいちばんいいかっていうとですね、キャスティングなんですよね。

(山里亮太)見事ですよ。

見事なキャスティング

(町山智浩)これ、原作とそっくりなんですよ。出てくる人たち、顔が。で、いちばんすごいのは、五百旗頭さんですよ。

(赤江珠緒)五百旗頭さん。オダギリジョーさんね。

(町山智浩)そう! あの黒木華ちゃんの先輩の編集者で、もう完璧な編集者なんですよ。で、このオダジョーの色気がハンパないね。

(赤江珠緒)そうですよね。かっこいいですよね。

(町山智浩)濡れ濡れですよ! 本当に。

(山里亮太)濡れ濡れ? 汗かな?

(赤江珠緒)だってこの髪型でかっこいいって、どういうこと? みたいな。

(町山智浩)超かっこいいんですけどね。で、そのオダジョーがさっきの滝藤さんに「大好きです!」って告るんですよ。

(山里亮太)はいはいはい。滝藤さんがね、他の出版社に行っちゃうんじゃないか?っていう時ね。

(町山智浩)そう。他に引き抜かれるんじゃないか?っていうね。もう、あのラブシーンはもう本当にもう……

(赤江珠緒)ラブシーンじゃなかったと思うんですけど……

(町山智浩)ラブシーンですよ! 『ロッキー3』並のラブシーンですよ。うっとりですよ、あれ。

(山里亮太)アポロとロッキーの(笑)。

(町山智浩)やっぱりね、描き手とかと担当の人は惚れてないとね。少なくとも、担当の人は描き手に惚れていないと、いい作品は絶対に生まれないと思うんですよ。

(赤江珠緒)なるほど!

(山里亮太)町山さんだって、両方やっているじゃないですか。だから、その気持ちは……

(町山智浩)両方やっているんですよ。要するに、もう濡れ濡れでズブズブですけど。まあ、それはいいんですが(笑)。

(赤江珠緒)もっと違う表現、ないんですか?(笑)。

(町山智浩)あ、すいません。ごめんなさい。はい。それで……男なのにね、言ってること、おかしいですね。はい(笑)。毎回、とにかくめちゃくちゃ泣けるんですけど。とにかく、お話が素晴らしくて。いちばん僕が泣いたのは、ムロツヨシさんの話なんですよ。

(赤江珠緒)はいはい!

(山里亮太)泣けた!

(赤江珠緒)ねえ。長くアシスタントをされていたのに。

(町山智浩)ベテランのアシスタントで、もう何十年もアシスタントをやっているんですけど、その一方でデビューするために、ネームって言ってるんですが、ノートに書いた漫画の設計図をね、書いて。編集者に見せているんですけど、なかなかそれが採用されなくて、デビューできないんで。で、10年以上がたってしまったと。で、そこの彼のアシスタントのチームに、永山絢斗くんが入ってくるんですね。

(山里亮太)中田伯。絵が下手だけど天才な子が。

(町山智浩)そうなんですよ。で、コミュニケーションも全く取れないんですよ。彼は。で、感情がないんでみんなから変人としてバカにされているんですけど。そのムロツヨシが永山くんの書いたネームを読んで、その才能に愕然とするんですよね。で、「こいつは天才だ! 絶対に勝てないや、これは!」って思うんですよ。ところがですね、そのムロさんの書いた、誰も相手にしてくれないネームを永山くんが読んで、涙をこぼすんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、「この物語は人間の尊厳についての物語です!」って言うんですよ。で、それは本当なんです。当たっているんですよ。ただ、ムロさんはそれが恥ずかしくて、隠して誰にも言わなかったんですね。その、非常に実存主義的なテーマなんで。で、編集者は誰も気がついてくれなかったんだけど、永山くんは天才だから気づくんですよ。そこに。一発で見抜くんですね。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、その時になぜかムロさんは漫画を辞めて田舎に帰っちゃうんですよ。

(赤江珠緒)そうなんですよ。

(山里亮太)あれは悲しかった。泣けたなー。

(町山智浩)でもあれね、すごいいろんな意味があると思ってね。まず、一発で見抜かれたことで、この永山くん扮する中田くんは本当に天才なんだっていうことが決定的になったんですね。あれで。でも、逆に言うと、ムロさんの漫画には天才を泣かせる力があったっていうことですよね。

(赤江珠緒)そうですよ。うん。

(町山智浩)そうなんですよ。で、しかも彼は天才だから、この世で最高の読者なんですよね。で、この世の最高の読者を1人だって泣かせることができたんだから、俺は漫画家としての仕事を全うしたという気持ちもあったでしょうね。

(山里亮太)ああー、なるほど! そっか。自分が凡人だって気づいたから辞めたっていうだけじゃないのか。

(町山智浩)だけじゃないと思うんですよ。「やっぱり俺は間違っていなかった」っていうのも確信したと思うんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そこで消化できた部分があるんだ。

(町山智浩)だからすっごく複雑ないろんな意味があって。もうあの回は本当に涙ボロボロでもう、止まらなかったですけど。

(赤江珠緒)ねえ!

(町山智浩)で、そういう風に言っていると、この『重版出来!』っていうのは「漫画に興味ねーや」っていう人は、「俺には関係ねーし。よくわかんねーな」って思う人も多いと思うんですよね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)でもね、そうじゃなくて。漫画家さんだけじゃなくて、出版に関わるいろんな職種の人が毎回主役になるんですよ。『重版出来!』って。たとえば、二話目は営業マンの坂口健太郎くんがへなちょこでね。しかも、漫画にあんまり興味なくて。で、営業にも興味なくて。自分が働く意味がわからなくて、本当にもう呆然としているんですね。これはいったいどうしたら……仕事をするっていうことは自分にとってどういう意味なんだろう? 自分の人生にとってなんだろう?っていうことを掴む話になっているんですよ。

(赤江珠緒)うん、うん。

漫画を取り巻く様々な職種と仕事を描く

(町山智浩)それって別に、出版とかと関係ないですよね。誰にでもあることで。それで彼は、「自分の仕事っていうのは作り上げられた商品をいかに消費者に伝えるか?っていう仕事なんだ」っていうことに気づいていくんですよね。だからそれって別にどこにでも通じることですよね。

(赤江珠緒)たしかに。

(町山智浩)だからこれ、ドラマ全体を通して、『重版出来!』っていうのは漫画についてだけじゃなくて、編集者とか、アシスタント、営業マン、装丁をするデザイナーの人。あと、印刷所とか書店さんですよね。書店さんも出てきますよね。濱田マリさんのね。

(山里亮太)はい。河さん。

(町山智浩)あれも実在の人物らしいんですけど。

(山里亮太)ええーっ?

(町山智浩)そうなんですよ。あと、読者の反応も漫画にフィードバックされていますから。いま言った人たち全員が力を合わせて作り上げていくのが漫画っていうものなんだっていうことを描いているんですよね。『重版出来!』って。

(赤江珠緒)そうですね。だから私ね、三話目のね、要潤さんの回。(成田)メロンヌ先生と編集マンの荒川(良々)さんの関係性とかを見ていて、なんかラジオとかを作るのと一緒だなと思いましたもん。パーソナリティーとディレクターとかと一緒ですよね。

(町山智浩)全く同じですよね。だからね、あれは要するに連載が打ち切りになるっていう時に、担当編集者と漫画家はどういう風にそれに対して立ち向かえばいいか?っていう話ですよね。でね、雑誌が廃刊になったりするの、僕も経験があるんですけど。本当に辛いんですよ、あれは。

(山里亮太)あれも泣けたな。だから安田顕さんがね、あんな風になるきっかけになった、雑誌の追い込まれた時とかも、辛かったですよね。

(町山智浩)そうなんですよ。どうやってその、裏切りにならないようにまとめていくか?っていうね。本当にあれは辛い話。あれはヤングサンデー廃刊の時をモデルにしているらしいんですけど。

(赤江・山里)ああー!

(町山智浩)で、あそこで安田顕さんが「漫画っていうのはこれに関わる人たちみんなの家なんだ!」って言うんですよね。でも、あれは本当にそうで、雑誌っていうのはそうなんですよ。雑誌って作る時に全員が家族のつもりでやらないと、できないんですよ。で、僕もそうやっていたんですけど、そうするとどうなるか?っていうと、本当の家族をダメにしちゃう場合があるんですね。

(赤江珠緒)ありがち(笑)。業界にありがちな話(笑)。

(町山智浩)家に帰れないから。で、安田顕さんは本当の家族がダメになったんで、本当の家族を取ることにした人なんですよね。だからそのへんもすごくよくできていて。でも、たぶんね、これ、ラジオ番組なんか本当にそうじゃないですか。家族じゃないですか。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)で、僕みたいにこうやってゲストみたいな形で出てくる人は、漫画家ですよね。一種のね。雑誌だったら。それで、ディレクターとかは編集者ですよね。だから本当にね、どこの職場も同じで。たぶんね、映画もそうだし。僕、映画の内側に行った時も思ったんですけど、やっぱり家族なんですよ。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)で、音楽もそうなんですよね。CDを作ったりも。でもね、たぶん家電を作るのも、自動車を作るのも、ファッションもね、食品もサービス業も農産物もそうですけど。やっぱりみんな、家族みたいにして作っていってると思うんですよ。そういうものは。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、ただの冷たいビジネス関係ではたぶんね、人の心を掴む商品は作れないし、やっぱり直接付き合っているその、「あなたのためにやります」っていう気持ちがないと、やっぱり作れないですよ。漫画家の人はいちばん身近にいる編集者がいて。編集者の君のために描くっていう気持ちがまずないと、その向こうの読者に届くものも作れないですよね。

(赤江珠緒)はー! なるほど。

(町山智浩)だから僕はいつも、ここで話すときに山ちゃんと赤江さんのために、話しているんですよ。

(赤江珠緒)うわー!

(町山智浩)そうじゃない? みんな。

(赤江珠緒)急に来た。バークレーから、急に来た。

(山里亮太)だからなのかな? 尻の情報とかかならず入れてくれるのは、僕らのためだったのかな?

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)そう。喜ぶと思って。違うか(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)でも、そうやってさ、みんな仕事を通じて本当に密接につながりあうことによって、日本全体ができている……できていたと思うんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)だって、日本ってビジネスライクな国じゃないじゃないですか。もともと村社会で。やっぱりそうやって、目の前にいる誰かのために作りたいっていう。野菜を作る人だったら、野菜を仕入れに来るあなたのために、いい大根を作ったよっていう気持ちで作るんだと思うんですよ。で、それがつながっていくんですよ。連鎖的に。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)それで、日本って世界で二番目の経済大国になっていったと思うんですよ。戦後。ただ、この『重版出来!』っていうのは、それが崩壊した後の世界っていうものをテーマにしているんですよね。

(赤江珠緒)ああー。

(町山智浩)で、セリフの中で「もうバブルの頃とは違うんだよ」っていうのが何度も何度も出てくるんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。本屋さんも厳しかったりね。

バブル崩壊後の世界

(町山智浩)そう。「バブルの頃はあんなにみんなであったかくものを作れていたのに……」っていうことがあって。で、たとえば「コミックの初版部数はいまは5千部が限界だよ。普通だよ」っていうセリフが出てくるんですね。でもね、それだと作者に入る印税っていうのは20万円なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ! そうか。5千部で。

(町山智浩)これ、生活できないですよ。でも、いま電車に乗っても、誰も漫画も本も読んでいない時代だから、しょうがないですよね。だからこのバブル崩壊から26年間、ずーっと撤退戦なんですよ。出版とか、映画も、テレビも、ラジオも。音楽業界も、家電メーカーも。26年間、ずーっと撤退戦を続けて、ギリギリで耐えているんですよね。で、「クールジャパン」とか言ってるけど、ふざけんじゃねーよ、バカ!って思いますけど。

(赤江珠緒)本当だなー(笑)。

(町山智浩)いま、日本映画はヒットしても30億円を超えるのは年間に数本しかなくて。通常は15億円でヒットって言われているんですよ。これ、制作費5億円が限界ですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。うん。

(町山智浩)下手なテレビ以下なんですよ。日本の映画って。こんな撤退戦の中だから、余裕がないから、どんどんひどくなっていってるんですよ。制作の現場がね。かつての、仕事によって心と心が密接につながっていく擬似家族的な関係っていうものも、仕事の倫理とかも、もう本当に痩せ細っていって。もう枯れてしまっているんですよ。現在、日本って。だから、僕なんかたとえばいま、記事を書いていますけども。メールのやり取りだけで、1回も顔を合わせたことがない編集者とかいっぱいいるんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)で、原稿を送っても、なんの内容に関してのコメントもないまま、いきなり打ち切ったりね。

(赤江・山里)ええーっ?

(町山智浩)まあ、講談社ですけどね(笑)。あと、単行本の装丁のデザインを僕に見せないまま出したりね。

(赤江珠緒)ええーっ!?

(町山智浩)だから要するに、描き手とのつながりが作れない状態になっちゃっているんですよ。編集者とかが。でも、その頃の講談社っていうのは10年以上赤字が続いて、慢性的な経営危機にあったから、余裕がなかったんだと思うんですよ。

(山里亮太)なるほど。

(町山智浩)でも、いま現在、仕事の場における人間関係って荒野ですよ。荒野とか砂漠みたいになっているんですよ。ネットのせいもありますけど。で、そういうのって人間関係全体が家族とか全てに向かって、日本全体に広がっていると思うんですよ。砂漠のような人間関係が。そこから生まれてきたのが、この『重版出来!』に出てくる永山絢斗くんなんですよ。

(赤江珠緒)ああー、そうですね。人に関心がないとかね。うん。

(町山智浩)そう。彼は親から捨てられて、誰ともつながらないまま生きてきて。友達もいなくて。人間の心が全くわからない、まさにそういったバブル崩壊後26年で生まれてきた人間なんですよ。だから、彼の描く漫画には彼が抱えている、その圧倒的な孤独とか恐怖感とか絶望とか無力感がいっぱいなんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)で、それはたぶんバブル崩壊後に生まれたものにしかわからない苦しみなんですよ。でも、それを彼は上手く表現できないんですけども、彼の表現を助けたのは、その漫画作りの家族的なつながりなんですよね。現場の。で、そこで彼にはずっと家族がいなかったけど、ここで家族が初めてできるじゃないですか。

(山里亮太)あ、そうだ。

(町山智浩)その力によって、その支えで彼はそのずっと抱えてきたものを表現できるんですよ。それで、いまの滅びかけている出版っていうものを復活させることができるかもしれないっていうのが、たぶん今回の最終回になると思うんですよね。

(赤江珠緒)はー!

(山里亮太)そうなんだ! そういうテーマだったんだ。

(町山智浩)まあ、勝手に考えています。僕が。はい(笑)。最終回、まだ見てませんけども。でも、ねえ。講談社も諫山さんが復活させましたからね。『進撃の巨人』一発で講談社は立ち直りましたからね。

(赤江珠緒)そうですよね。

(町山智浩)だからたぶん、現場はガタガタになっているけども、いま現在の日本が抱えている苦しみみたいなことを表現することで、もしかしたら日本自体も再生できるのかもしれないという、ここもね、勝手に見てますが。勝手ですが、はい(笑)。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)まあ今日の最終回、全然違う話になったら、「町山、バカじゃねーの?」ってなると思いますけども(笑)。

(赤江珠緒)それはちょっとわからないですけどね。

(山里亮太)「エンペラー倒したぞー!」で終わったらね(笑)。

(町山智浩)そう(笑)。そういうね、感じがするんですけど。まあ、本当にいろいろと考えさせられる、素晴らしいドラマだな思っていますね。

(赤江珠緒)そうですよね。身近だけど知らない職種だったりね。こういうお仕事をされているんだとかね。あと、自分の周りの人をまず幸せにしないと……

(町山智浩)いまから追いついて見れる方法があればね、もう最終回なんですけど。今までの分も見れる方法があれば、なんとか見ていただけるといいなと思いますけどもね。

(赤江珠緒)ねえ。実際にちゃんとプロの漫画家さんの絵とかも出てくるじゃないですか。あのドラマは。ねえ。

(町山智浩)そうそうそう(笑)。あれもすごい人を選んでいて。一流の漫画家の人がですね、小道具をちゃんと描いているところがすごいですよね。

(赤江珠緒)ねえ。架空の漫画だらけなんだけど。

(山里亮太)藤子A先生も出しているでしょ?

(町山智浩)そうそう。藤子先生は仕事をチャチャッとあげて銀座で飲むっていう漫画家の人で(笑)。ちょっと違うノリの人ですけど。漫画で人生犠牲にして、死ぬほど描いているっていう感じじゃないですけどね。藤子A先生は、はい(笑)。

(赤江・山里)(笑)

(町山智浩)というね、素晴らしいものだと思います。

(山里亮太)最終回、楽しみだな―!

(赤江珠緒)ねえ。今日、最終回。10時からですね。TBSで放送でございます。そうか。町山さんがそんなにハマッてらっしゃったとは。ねえ。

(町山智浩)僕、もともと漫研で漫画も描いていたし。全然芽にならなかったですけども。で、編集者だから。

(山里亮太)ドンピシャだ。町山さん、わかりすぎるぐらい全てがわかってるんだ。この中身が。

(町山智浩)インサイダーですから(笑)。

(赤江珠緒)そうですね(笑)。

(町山智浩)あのね、スクリーントーンを削るカリカリカリ……っていう音がだんだん盛り上がっていったりとかね。すげー音の使い方だな! と思いましたよ。SEとしてスクリーントーンを削る音って、なにそれ? と思ったり。

(赤江珠緒)ねえ。

(山里亮太)これはちょっと今日の最終回、楽しみが膨らみました。町山さん。

(赤江珠緒)町山さん、ありがとうございました!

(町山智浩)どもでした。

最終回放送後の感想トーク

翌週のTBSラジオ『たまむすび』で町山さん、赤江さん、山里さんが最終回の感想トークをしていました。

(町山智浩)そうそう。『重版出来!』、最終回よかったですね。

(赤江珠緒)ねえ。先週のスペシャルウィークでの町山さんのお話も話題になりましたよ。

(町山智浩)ああ、そうなんですか? なんかね、「視聴率で勝てなかった」とかいう記事ばっかりネットで見ると出てくるんでね。内容について、なぜ誰も書かないんだろう? と思いますね。日本のジャーナリズム、どうなっているんだ?って思いますね。

(赤江珠緒)うん。

(山里亮太)本当に面白かったですけどね。

(町山智浩)でも、視聴率がダメだとダメって、どうなっているんだろうと思うんですけど。

(赤江珠緒)しかもね、いま、いいドラマはむしろみんなね、録画してじっくり見ようみたいな人が増えてますからね。

(町山智浩)ねえ。だって家に帰って、その時間にテレビを見るっていう人がいま、いないでしょう? 若い人でね。それでテレビ、持ってないしね。一人暮らしの人は。

(赤江珠緒)ねえ。

(町山智浩)非常に限定された、昔ながらの生活を送っている人の視聴率だけで決まっちゃって。それで判断されるってすごくおかしいですよね。

(赤江珠緒)そうですね。

(町山智浩)いま、見方みんなバラバラなんだからね。

(赤江珠緒)たしかにね。でも、最終回。いかがでした? 町山さんは、ご覧になって。

最終回は予想通りでなかったのがよかった

(町山智浩)最終回はね、予想通りじゃなかったのがよかったですけど。天才漫画家の、永山絢斗くんが演じている中田先生が、人の気持ちが全くわからない人だったわけですよね。彼ね。でも、それがヒロインの黒木華ちゃん演じる担当編集者に対してね、「あなたのためだったら、描きます」って言ったのがよかったですね。

(山里亮太)サイン会でね、「絵も描いてくれ」なんて言われたけど、本当はそれ、「下手だから嫌だ」って言っていたけど……でも、「描く」って言ったんだよね。

(町山智浩)そう。だから目の前の人のためにしか、やっぱり仕事ってできないんですよね。実際は。なんでもそうなんですよ。だから本当、編集者もそうだし、みんなそうなんで。でも、やっぱりね、本当にただ「原稿、ください」ってメールを送ってきて。送ると、「いただきました」だけの編集者も多いですよ。いま、本当に(笑)。

(赤江珠緒)愛がないねえ。

(山里亮太)それはね、血が通ってないよ。

(町山智浩)でもまあ、そういう社会になっちゃっているんですよね。本当にね。

(山里亮太)町山さん、最終回の三蔵山先生の言葉、どうでした? あれ、かっこよかったですよね。

(赤江珠緒)小日向(文世)さんが演じていた。

(町山智浩)あれ、手塚治虫先生がちょっと入っているんでしょうね。

(山里亮太)ああー! あれ、手塚治虫先生なんですか? 三蔵山先生って。

(町山智浩)いや、いろんな人が入っているんですよ。たぶんね、鳥山明先生とか、いろんなのが入っているんですけど。ただ、要するに「お前らには負けねえよ!」っていう人だったんですよ。手塚治虫先生は、本当に。

(赤江珠緒)引退か? と思いきや……

(町山智浩)温厚な人だと思っているでしょ? 手塚治虫先生って。

(赤江珠緒)はい。

(町山智浩)全然そんなこと、ないですよ。嫉妬深くて、いろんな漫画家の人に嫉妬して。「あいつのような漫画を描いてやる!」って描き続けた人なんですよね。ずっとね。

(赤江珠緒)へー!

(山里亮太)石ノ森章太郎さんにものすごい嫉妬していたっていうのは聞いたことがあります。

(町山智浩)いろんな人に嫉妬して。水木しげる先生に嫉妬して『どろろ』を描いてますしね。

(赤江珠緒)ああ、そうなんですか!

(町山智浩)だって、手塚眞さんっていう、手塚治虫先生の息子さんは水木しげる先生の漫画ばっかり読んでいるって嫉妬して描いたんですよ。

(赤江珠緒)(笑)

(町山智浩)はい。で、『AKIRA』の大友克洋先生が、非常にリアリスティックな絵を描いて出てきたら、パーティーかなんかで会った大友先生に「君の絵みたいな絵。あれぐらいは僕でも描けるんだよ」って言ったっていう、非常に有名な話がありますけど。

(赤江珠緒)(笑)

(山里亮太)へー!

(赤江珠緒)みんなすごくむき出しなんだな。

(町山智浩)そう。だからこそ、どんどんすごい作品を描いていった人ですよね。だから、そういう気持ちがないとやっぱり、「もういいや」みたいになっちゃって、描けなくなっちゃうんで。ああいうところがすごいなと思いましたね。

(赤江珠緒)なるほどー!

(町山智浩)ただ、やっぱり最近のテレビドラマって見ているとスポンサーの数がすごく多くて。12社ぐらい提供してるじゃないですか。

(赤江珠緒)そうでしたっけ?

(山里亮太)そこは注目して見てなかったな。はい。

(町山智浩)あれはもう、本当にもうドラマも支えられなくなっているんだなと思いましたね。

(赤江珠緒)ねえ。昔は一社提供とかありましたもんね。

(町山智浩)昔はあんなの、一社か二社で提供できたのに(笑)。もう、どんどんお金がなくなっちゃってね。そう。今朝ね、実は園子温監督とTwitterでやり取りしていてね。園子温監督は「お金なくて頭くるよ!」っていうTwitterだったんですけどね。


(山里亮太)ああ、映画を撮られるんですか。また。

(町山智浩)そう。彼、なんか中国に行ったら、中国はいま、8千億円市場なんですね。年間ね。

日本と中国の映画制作費の違い


(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)映画の市場が。でも、いま日本って平均で3億円から4億円なんですよ。1本の邦画の制作費が。桁が違うんですよ。全然違うんですよ。日本って市場が2千億円ぐらいなんですね。で、アメリカは1兆円ですね。だから、『デッドプール』があったでしょ? あれね、実は低予算映画なんですよ。

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(山里亮太)えっ、そうなんですか?

(町山智浩)でも、制作費は60億円なんですよ。

(山里亮太)へっ? で、低予算映画?

(町山智浩)そう。『アベンジャーズ』とかはだから、240億円ぐらいかかっているから。

(山里亮太)そっから比べると低予算なんだ。

(町山智浩)でも、『デッドプール』って10分あたり6億円かけているんですよ。『デッドプール』を10分作るお金で、日本映画は2本作っているんですよ。逆に言うと、日本映画1本作るお金で『デッドプール』は5分しか作れないんです。

(山里亮太)だって日本映画、がんばってますよね。それだったら。

(赤江珠緒)そうですね。そうなりますね。

(町山智浩)大変な事態ですからね。はい。

<書き起こしおわり>

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