宇多丸が選ぶ 2022年映画ベスト10

宇多丸 野外フェス『波物語2021』問題を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2022年12月28日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の映画評コーナーで2022年に扱った映画の中からベスト10本を選び、そのランキングを発表していました。

(山本匠晃)ということで、大トリ、宇多丸さんのシネマランキング発表ですよ!

(宇多丸)でも、皆さんとお話してたら、なんていうのかな? みんなのいろんな「あれもよかった、これもよかった」みたいな話を聞いてたら、もう俺の順位なんて、そんなちっぽけな……最後に物事を矮小化して終わらせるのはよくないな、みたいな感じがしてきたし。ぶっちゃけ、結構ここまでで出てきた話が本当に多い。やっぱり皆さんとも重なるというかね。そういうところ、ありますんで。ということで、行きますかね?

(山本匠晃)宇多丸さん、お願いしますまず。まずは第10位から第4位まで一気に発表をお願いします。

宇多丸 2022年シネマランキング 第10位~第4位

(宇多丸)行きますよ。
第10位は……『ある男』。
第9位、『ちょっと思い出しただけ』。
第8位、『マイスモールランド』。
第7位、『NOPE/ノープ』(ただし1.43対1サイズのシーンを含むIMAXレーザーGTテクノロジー仕様)。
第6位、『ウェスト・サイド・ストーリー』。
第5位、『RRR』。
そして第4位は、『LOVE LIFE』です。

(山本匠晃)はい。

(宇多丸)はい。ということです。お疲れ様!

(日比麻音子)いやいや、思いを聞かせて(笑)。

(宇多丸)いや、でも結構これまでで話題に出た作品が多いので。まず10、9、8の『ある男』『ちょっと思い出しただけ』『マイスモールランド』とありますけども。なんか今年に限らないけど。やっぱり日本映画、いいものは本当いいし。他にももちろんね、扱いきれてないのもありますけども。本当に、いずれ劣らぬというか。それぞれ違う方向で。とくに『ある男』と『マイスモールランド』はやっぱりその本当にアクチュアルな社会情勢とか、社会の空気みたいなものに本当に逃げずに取り組んでる作品でもあって。そういうところも……で、それがちゃんとエンターテイメントとして結実している。こういうのが日本映画の標準であれば、全然先には希望があるという風に思うし。

『ちょっと思い出しただけ』はやっぱり松居大悟さんね、本当にネクストレベルに入った傑作だと思いますし。もう大好きな作品というね。まあ、この3作についてはさんざん、話をしてきたので。もう本当に文句なしの傑作だと思います。おすすめでございます。『マイスモールランド』『ちょっと思い出しただけ』『ある男』という。

宇多丸『ある男』を語る!【映画評書き起こし 2022.12.2放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論...
宇多丸『ちょっと思い出しただけ』を語る!【映画評書き起こし 2022.2.25放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。 オンエア音声はこちら↓宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ラン...
宇多丸『マイスモールランド』を語る!【映画評書き起こし 2022.5.27放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』の看板コーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。ライムスター宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞し、生放送で評論します。 オンエア音声はこちら↓宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ラン...

(宇多丸)そして『NOPE/ノープ』。本当にですね、先ほどから言ってますけども。ジョーダン・ピールという人の、これもネクストレベルの作品ですね。今までの過去2作が本当にちょっと、なんならわかりやすい作品に思えてくるほど、本当に変わったたとえ話というか、メタファーでもあり。でも本当に超、めちゃくちゃ即物的なとあるエンターテイメントジャンルでもあり。で、やっぱりスペクタクル。要するに、ものすごい映像を見せるということがメイン。

だからこそIMAXのできるだけいい状況で見たいんだけど。そのスペクタクルというものを含む、要するにその見世物であることというののある種の暴力性だったりとか、搾取的な構造だったりとか。あるいは映画史の、なんていうか非常にやっぱり差別的な、アンフェアな歴史みたいなものというのもそこに読み込んで。でも最後、それを言っちゃえば弱者たちが、かつて弱者とされた者たちが頑張って、もう人力でひっくり返していくみたいな。熱いじゃないですか! なにせ、熱いし。特にやっぱりね、あの主人公が猛然と馬を駆るシーンで突然、西部劇的なあの音楽が流れ出して。もう高らかにファンファーレか鳴って、ワーッていくところの高揚感。もう最高でしたね。あれね。『NOPE/ノープ』、大好き!

特にやっぱり先ほどから言ってる1.43対1サイズのシーンを含むIMAXレーザーじゃないと、その正方形に近い形の画角というのが見れないんで。この映画の本来の意図というのが見れない。だからそういう意味では本当に映画館。それもちゃんとした環境の映画館で見てほしい作品ではありましたね。いずれ、アトロク映画祭なんかもやりたいなと思う次第です。

宇多丸『NOPE/ノープ』を語る!【映画評書き起こし 2022.9.9放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論...
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(宇多丸)6位、『ウェスト・サイド・ストーリー』。これはね、なんて言うのかな? 宇垣さんが「スピルバーグ、映画うまっ!」って言っていて。これ、本当にこの感想、すごく言い得て妙なんだけど。現状までの、かつてあったその「古き良き」とかも含む正統派の映画技術みたいなものがあるとして。正統派の映画のあり方とか。みたいなものの現状到達の最高峰っていうか。たとえば『NOPE/ノープ』とかはなんかそこから先にいろんなまた新しい映画の形を模索するメタ映画みたいなところがあるけど。これはその、なんていうか、とにかく映画のかつて持ってた実力みたいな。蓄積してきた歴史とか技術とか、その全てを注ぎ込んだ現状最高峰みたいな。現状で一番立派な映画みたいな。本当にここ20年間で、そう思いました。

あとやっぱりその元の『ウエスト・サイド物語』。ロバート・ワイズの映画版っていうのもあるし。もちろんその元のミュージカルもあったりするけど。そこにやっぱりトニー・クシュナーさんの見事なその現代的な翻案というのかな? この物語が持っている、もっと本質的な悲劇性とか。特にやっぱりその、先ほどマイク・ファイストさん演じるリフに代表される白人チーム、シャークスの本当に哀れな子たちなんだという面。それを本当に強調したことで、よりやっぱ主人公のトニーってのはそこのボスであって。要するに、単なる好青年じゃないんですよね。

一番、恵まれない人生を歩んできた、本当に報われなかった人。僕も評の中で言いましたが、人生に1個もいいことがなかった人が唯一、起こったいいことがマリアに恋したことで。でも、その人生に起こった最良の出来事こそが全ての人を悲劇を陥れていくきっかけともなる。だから、そもそも『ロミオとジュリエット』っていう話が持ってる、それは本質なんだけど。「なんでこんなことになるんだ? 人間は自由なはずなのに……」って。その社会的な枠組みとか、そういうことで理不尽にもこういうことになってしまうというその、強烈な悲劇性。こんな悲しい話、あるかな、みたいな。

そこがやっぱ今回のいろんな翻案によって、ものすごく際立つようになっていて。僕は本当にすさまじいリメイク、アダプテーションだと思いますし。まあ、立派な映画です。『ウェスト・サイド・ストーリー』、素晴らしかった。

宇多丸『ウエスト・サイド・ストーリー』を語る!【映画評書き起こし 2022.3.4放送】 | TBSラジオ
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(宇多丸)そして『RRR』。これも先ほど、ちらっと言いましたが。S・S・ラージャマウリ監督の作風。僕はその「ポエティックアクション構築」という言い方をさせていただきます。詩的な象徴性みたいなものと、もうあっと驚く、でも非常にロジカルでもあるアクションシーン構築みたいなものが重なるという。ちょっと他の映画では見たことないタイプの映画作りですよね。はい。特に今回の『RRR』はそのポエティックなアクションシーン構築、見せ場構築みたいなものが本当に極に達したような1作で。全てのシーンが象徴的であり、その象徴性がそのまま、アクションとしての構造にも重なっていて。

だから、ハラハラするし深いし、感情も揺さぶられるし、ハラハラするし……みたいな。すごい作品でしたね。もちろん背景を知れば、さらにその深みというか。非常に考え抜かれている。私も勉強に勉強を重ねまして評しましたので、こちらも公式書き起こしなどで、後からも見ていただければ幸いです。

宇多丸『RRR』を語る!【映画評書き起こし 2022.11.4放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論...

(宇多丸)そして4位。『LOVE LIFE』を選ばせていただきました。深田晃司監督。もちろんもう今や、世界に誇る監督と言っていいと思いますが。詳しくは映画評を見ていただきたいんですけど。リアルタイムではちょっと言えなくて、映画評に付け加えた部分なんですけど。この作品は要するに矢野顕子さんの『LOVE LIFE』が途中と最後に流れますよね。で、この曲が流れ出して、あの夫婦がついに向かい合って。こっちを見てって。で、「LOVE LIFE」って出て、この曲が始まり。で、あの2人の若い夫婦が破滅を乗り越えているのか、わかんない。外に出ていって。で、表を歩くまでっていうのをずっと、長回しで見せますよね? で、その間にこの矢野顕子さんの曲が流れてるんだけど。

そこで歌われてることっていうのは、「そこにいてね」とか、「生きていてね」みたいなことを歌ってるんですよね。ということは、この長回しは誰の視点なのか? そう考えて、思い至った時に恐るべき……恐るべき着地だっていうか。深田晃司さん、やっぱりちょっともうレベルが違うわっていうか。鳥肌もんだよね。本当にね。すさまじいレベルの作品だったと思います。『LOVE LIFE』が4位でございました。

宇多丸『LOVE LIFE』を語る!【映画評書き起こし 2022.9.16放送】 | TBSラジオ
TBSラジオ『アフター6ジャンクション』のコーナー「週刊映画時評ムービーウォッチメン」。宇多丸が毎週ランダムに決まった映画を自腹で鑑賞して生放送で評論します。宇多丸:さあ、ここからは私、宇多丸が、ランダムに決まった最新映画を自腹で鑑賞し評論...
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