高橋芳朗 BLACKPINK『Born Pink』を語る

高橋芳朗 BLACKPINK『Born Pink』を語る アフター6ジャンクション

(高橋芳朗)では続いて、セカンドシングルの『Shut Down』へ行ってみようと思いますけど。これ、「誰も私たちにはタッチできない。ここから先はシャットダウン」みたいな。これもボースティングなんですけども。これもやっぱりヒップホップ色、ラップ色がすごい強い曲で。この曲でクラシック音楽のリストの『ラ・カンパネラ』をサンプリングしてるんですね。で、ここからの話は洋楽視点というか、K-POPのちょっとしたサウンド傾向になるんですけど。去年から今年にかけて、クラシックを引用したガールグループのかっこいい曲がちらほら出てきてたんですよ。

ちょっと主だったところを紹介したいんですけど。まずはRed Velvetが3月21日にリリースした『Feel My Rhythm』という曲です。これ、バッハの『G線上のアリア』を引用してるんですけれども。ちょっと聞いてもらえますでしょうか? Red Velvetで『Feel My Rhythm』です。

(高橋芳朗)はい。Red Velvet『Feel My Rhythm』を聞いていただいております。いい意味で『G線上のアリア』使いが飛び道具になってないというか。うまく曲に落とし込まれているなっていう感じですね。

(宇多丸)たしかに。クラシック使いものってね、今までにもあるっちゃあるけども。なるほどね。そこがうまいんだな。

(高橋芳朗)続いてTWICEが去年11月にリリースした『LAST WALTZ』を聞いてもらいたいんですけど。これ、今のRed Velvetほど大胆な使い方じゃないんですけど。サビの直前にチャイコフスキーの『花のワルツ』をモチーフにしたと思われるパートが入ってくるんで。ちょっとそこを頭からサビぐらいまで聞いてもらいましょうか。TWICEで『LAST WALTZ』です。

(高橋芳朗)はい。TWICEで『LAST WALTZ』を聞いていただいております。

(宇多丸)まあ、エッセンスというかね。

(高橋芳朗)そうですよね。ちょっと2000年前後のアリーヤとかディスティニーズ・チャイルドみたいな、なんかシンフォニックなR&Bを連想するところもあると思うんですけど。で、BLACKPINKの『Shut Down』はある意味、こうした楽曲のアイデアの発展形とも言えるんじゃないかなと思っていて。さっきも言ったように『ラ・カンパネラ』をサンプリングしてるんですね。ちょっと念のため、『ラ・カンパネラ』を聞いてもらいましょうか。ドイツ出身のバイオリニストのデビッド・ギャレットの演奏なんですけども。どうぞ。

(高橋芳朗)まあ、おなじみですよね。で、このBLACKPINKの『Shut Down』はこの『ラ・カンパネラ』を引用して、その現行のヒップホップの中のサウンドのトラップにワルツ調のリズムを持ち込んでるんですね。そのへんをちょっと意識して聞いていただけたらと思います。はい。BLACKPINKで『Shut Down』です。

BLACKPINK『Shut Down』

(高橋芳朗)はい。BLACKPINKで『Shut Down』を聞いていただいております。

(宇垣美里)かっこいい!

(宇多丸)これはすごい今までのエッセンス的な使い方っていうよりも、ワンループの強力なリフとして使ってるっていうか。そこがすごい。なんかヒップホップ的な発想というか。

(高橋芳朗)だから今回、ヒップホップ色が全面に出てるっていうのは2曲からよくわかってもらえるかなって。

(宇多丸)これはなんかすごい研ぎ澄まされた……ドレーとかの研ぎ澄まされたループみたいなものさえ浮かばせるような。

(高橋芳朗)すごい中毒性もあるんですよね。やっぱり繰り返し聞いていると。

(宇多丸)これはうまいな。うまい(笑)。

(高橋芳朗)で、今のポップミュージックのサウンドの流れからすると、BLACKPINKが取り組んできたようなそのトラップ的なサウンドとか、もしくはその延長にあるようなサウンドで新味を出すのって結構難しい状況にあると思うんですね。

(宇多丸)そうですね。ある意味、型がバシッとありますからね。

(高橋芳朗)だからたとえばドレイクとか、メーガン・ザ・スタリオンが新作でハウスミュージックを導入してるのもその表れと言えるんじゃないかなと思うんですけど。

(宇多丸)まあ、トラップが出てきてからも結構経ちますからね。

(高橋芳朗)そこを今回、BLACKPINKはそのGファンクのビートスイッチとか、クラシック音楽をサンプリングしたそのワルツ調のトラップだったりでクリアしてるわけなんですけど。次に大きな動きがある時は、何かしら新機軸を擁してくることになるんじゃないかなって気もしますかね。

(宇多丸)まあ音楽シーン全体がどうなるかにも。ちょっとね、もちろん無関係ではいられないと思うけど。

(高橋芳朗)でも実際に今回のアルバムの収録曲をチェックしていくと、たとえば『Yeah Yeah Yeah』っていう曲ではザ・ウィークエンドみたいな80年風のシンセポップをやったり。あとはロゼのソロ曲の『Hard to Love』っていう曲だったらドージャ・キャットみたいなディスコポップみたいな。結構、今までにやってなかったタイプの曲もあったりするんで。そのへんでちょっと、今後の展開が楽しみかなって気はしますよね。

(宇多丸)でも、間違いないところに石を置いているっていう感じだね。囲碁で言うと。ちゃんと布石しているっていう感じですね。

TWICEの動き

(高橋芳朗)そうですね。で、K-POPのガールグループで見てみると、たとえばTWICEなんかは去年の10月にリリースした初めての英語詞のシングル。『The Feels』っていう曲以降、割とディスコ・ファンク路線を強化してきてるんですけど。それって今ね、リゾの『About Damn Time』みたいなナイル・ロジャース流のディスコソング。

もっと言うとBTSの『Dynamite』風のディスコソングがいまだに全米1位になってるような状況を考えると、結構英断だったなというか。すごいうまくいってるなっていう気がするんですけど。先月に出た最新シングル『Talk that Talk』だと、さらにその方向性にハウスの要素を加えてたり。さすがだなというところがありますね。やっぱりTWICEはね。

(宇多丸)まあだいたいね、オーセンティックなディスクを軸にしとけば、どっちにも振れるっていうか。みたいなのはあるからね。だって絶対にさ、どの時代もみんな、嫌いなわけはないんだから。とかあるけど。あと、単純に似合うとかね。でも、BLACKPINKのすごいハードコアヒップホップ押し出しみたいなものはリサさんの人気みたいなものを踏まえたら、めちゃめちゃドンズバを突いているかなって。しかも、そのクオリティーがめっちゃ高いっていう。

(高橋芳朗)で、今年になって頭角を現してきたK-POPの新しいガールグループにしても、だいぶサウンドが結構多様化してきた印象があって。

(宇多丸)グループごとに色がある?

(高橋芳朗)そうそう。で、ここでちょっとサウンドのバリエーション別に3組ほど、主だったところ。めぼしいところを紹介したいと思うんですけど。

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