町山智浩『私のはなし 部落のはなし』を語る

町山智浩『私のはなし 部落のはなし』を語る たまむすび

町山智浩さんが2022年5月24日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で映画『私のはなし 部落のはなし』について話していました。

(町山智浩)はい。今日は『私のはなし 部落のはなし』という映画を紹介します。これ、5月21日から既に公開されているドキュメンタリー映画で、タイトル通り被差別部落についての映画なんですが。宣伝文句はですね、「日本の“差別”を丸ごと見つめて学びほぐす」っていう。

(赤江珠緒)「学びほぐす」?

「日本の“差別”を丸ごと見つめて学びほぐす」

(町山智浩)これね、本当に3時間もある映画なんですけれども。基本的な被差別部落についての歴史や問題や現在の状況や未来が全部、この3時間でわかるようになってます。で、専門家の先生たちも次々と出てくるし。一番すごいのは、この『私のはなし』っていうタイトルになってるように、その部落問題の当事者の人たち。つまり「私」たちがですね、「私」たちとしての、それぞれの立場で話をしていくんですよ。だから外側から見た研究だったりではないんですね。基本的に全部一人称なんです。「僕は」「私は」という話で語っていくんですよ。だからこれはすごく画期的で。

普通、今言った「全てのことを勉強する」っていう部分と「私のはなし」っていう非常に個人的なそれぞれの物語って別々の映画になっちゃうんですよね。それをひとつの映画にまとめあげていて、なかなかすごい力作なんですけども。監督はね、1986年生まれ。非常に若いですね。35歳の満若勇咲さんという人で。この人は学生時代に食肉センター……つまり牛や豚の屠場ですね。食肉処理をするところのドキュメンタリーを撮って、それを公開しようとしたら部落解放同盟の人から批判されて結局、公開を諦めたという経験があって。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)でも、そこで諦めちゃわないんですね。この人の場合は。諦めないで「じゃあ、徹底的にやってやる」ということで、その自分に抗議をした部落解放同盟の人たちにも話をどんどん聞いてって、食い込んでいって。で、基本的には落とすところがないように全てを描こうとしている映画ですね。はい。で、この中でとにかく「なんで差別っていうものがあるのか? なぜ差別されるのか?」という話をやっていくわけですが。基本的にその「なんで差別をしているのか?」っていう理由がないんですよ。歴史的な根拠を探ってもですね、はっきりしないんですね。実は。

で、そのいろんな職業の人が昔いたと言われていて。たとえば、食肉加工であったり、皮革加工であったり、あとは処刑に関わってる人であったり、あとはゴミ処理とか。そういったものに関わってる人たち。そういう職業の人たちが差別されて「部落」と呼ばれてたりしたわけですけれども。それは昔、そういう差別があったというだけで、それでは今、なぜその人たちを差別するのか? なぜその人たちの子孫を差別するのか?っていうのには、理由がないんですよ。

(赤江珠緒)そうですよね。うん。

(町山智浩)でも、差別は続いてるわけですよ。で、その理由は「あの人たちは差別されてるから」以外にはないんですよ。

(赤江珠緒)変な状況ですよね。本当。突き詰めるとね。

(町山智浩)「差別があるから差別している」っていう。「ちょっと待って? その差別はどこからで、どんな理由からなの?」「わからない」っていう、そんなことが見えてくるんですよ。突き詰めていくから。これはね、途中でこの「私」っていうのは差別されてる人だけじゃなくて、差別する側の「私」も何人か、出てくるんですよ。その人たちに「なんで差別するんですか?」って聞くんですね。60代ぐらいのおばあさんかな? そうすると「それは昔からの伝統で差別されてるから」って言うんですよ。「いや、だからなんで? 今現在はなんで差別しているんですか?」「いや、昔からしているから」って言うんですよ。

(赤江珠緒)そこはもう、思考停止なんですな。うん。

(町山智浩)そう。その人自身の中には理由はないんですよ。だから本当にね、なんというか、みんなあんまり突き詰めて考えない問題ですよね。で、やっぱり、「面倒くさい」と思う人もいるし。あと「タブーだから」っていう人もいますよね。で、テレビとかメディアでもほとんど扱われない。それは下手にやると抗議があるから、とかね。そういう理由だったり。いろいろとするわけですけども。でも、この監督はたった1人で……ほとんど1人の個人映画に近い形でどんどん、本人がインタビュアーとして話を聞いていくんですけど。それで3時間で実はできることだったんですね。

(山里亮太)へー!

(町山智浩)みんなが何十年も手をつけないできた問題だったのに、この人はほとんどもう予算がない状態で。この監督自身が1人で頑張ってできたことなんですけど、今まで誰もしなかったんですよ。ほとんどね。

(赤江珠緒)最初ね、町山さんね、学生時代に映画を撮ろうとした時も、その時もその差別を何とかっていう思いで撮られようと思ったと思うんですけど。その時は部落解放同盟の人から批判されてるじゃないですか。

(町山智浩)はい。

(赤江珠緒)それで後に今、今回作られた時には、その部落解放同盟の人たちもどんどん食い込んでいって、インタビューができたっていうことなんですか?

(町山智浩)そうですね。だから「どこが問題だったんですか?」って聞いていったんですよ。で、どんどん言ってもらっているんです。その理由とかを。で、とにかく皆さん、こういう問題については考えないようにしてる人も多いと思うんですけども。これ、この3時間の映画を見れば大丈夫ですから。とりあえずは。基本的なところは全部勉強できるんで。それも、その教科書的な、項目だけがどんどん出てくるっていうんじゃなくて。それぞれの当事者の人たちの言葉として。その人たちの顔も出して、描かれていくので。非常にリアリティーのあるものになってますね。はい。

あと、なんというかすごく僕が感動したのは、20代の人たちが出てくるんですね。そういう被差別部落にルーツを持つ人たちが。で、その若者たちがブルーハーツの『青空』という歌を歌うんですよ。これ、ご存知だと思うんですけど。歌詞がね、「生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというんだろう?」っていうものなんですね。

(赤江珠緒)今、流れてますね。

(町山智浩)はい。この歌をね、さっき言った60代のおばあさんの「いや、なんだかわかんないけど、昔から差別されてるからしてるのよ」って言ってるインタビューにぶつけてくるんですよ。まあそこは本当に素晴らしいなと思いましたね。もう感動しました。ということで、この映画がとりあえず1本目ですけど。今日、紹介する作品の。『私のはなし 部落のはなし』ですね。

『私のはなし 部落のはなし』予告編

<書き起こしおわり>

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