宇多丸『楳図かずお大美術展』『ZOKU-SHINGO』を語る

宇多丸『楳図かずお大美術展』『ZOKU-SHINGO』を語る アフター6ジャンクション

宇多丸さんが2022年3月9日放送のTBSラジオ『アフター6ジャンクション』の中で『楳図かずお大美術展』の模様を紹介。『わたしは真悟』の続編的な新作『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』などについて話していました。

(宇多丸)これ、ついさっきホヤホヤで。熱感をちょっと逃さずやりたいなと思ったんですけど。今日ね、仕事を終えて……『マイゲーム・マイライフ』。もう残りわずかなんですけど。その収録を終えまして、ちょっと早めに終わったんで「あっ、これ、行けるな!」と思って。今、六本木ヒルズの東京シティビューっていう、要するに展望台になってるところがそのまま展示会になってるっていう。いろんな展覧会、やったりしてますけど。あそこでずっとやっている『楳図かずお大美術展』。これに行けるぞ!ってことで、さっと行ってきたんですよね。

(日比麻音子)うわっ、いいなー、そのフットワーク!

(宇多丸)そうなんですよ。3月25日までなんで。ちょっとボケッとしていると終わっちゃうっていうことで。なおかつ、やっぱり週末は混むだろうから、行くなら平日がいいかなと。あと、やはりこの晴天の中というか、天気がいい時。ちゃんと見晴らしがいい時に……まあまあ、荒天の時もいいかもしれないけど。要は、前からこの話をするたびに言ってますけど。今回、『わたしは真悟』という楳図かずおさんの代表作のひとつの続編的な作品群っていうのがひとつの目玉になっておりまして。という時に、その東京シティビューのところからはちょっと東京タワーが見えるわけですよね。

(日比麻音子)何でも、東京の全てが見えると言っても過言ではないですけども。

(宇多丸)で、その東京タワーというのは『わたしは真悟』という作品において……日比さん、読んだことないですよね?

(日比麻音子)ないです。

(宇多丸)大きく言って前半・後半みたいなのがある話で。前半は悟くんという少年と真鈴ちゃんっていう女の子がいて。全く育ちも境遇も違う2人なんですけど。その2人が、とある出会いがあって一瞬で恋に落ちる。子供なんですけどね。だからね、会場にずっと『禁じられた遊び』が流れていたりしましたよ。子供同士の『禁じられた遊び』感だよね。大人の干渉を受けない、本当に純粋な2人の愛なんですよね。でも、いろんな境遇が違いすぎて、まあ『ロミオとジュリエット』じゃないですけど。まあ子供だしね。で、結ばれるっていうこともない感じの2人で。そこがまず、すごい切ない。子供が純粋だからこそ切ない。で、その子供時代っていうのはいつまでもないみたいな。「この今の僕たちのこの感じは今しかないんだ」みたいなことを彼らが言っていて、それもすごく切ないんですけど。すいません。『わたしは真悟』の説明を先にしちゃいますよね。

で、その2人が思い詰めて。そのタイトルになっている「真悟」っていうのは元々、工業用ロボットなんですよ。組み立て用の。工業用ロボット。普通に部品を組み立てるだけのただロボットね。機械の。その、当時のコンピューターがあって。そのコンピューターに子供だから、「2人の子供をどうやって作ればいいか?」みたいなのをカチャカチャやって……インターネットじゃないですよ。で、そのコンピューターのあれで、どういうわけがその答えが「333ノテッペンカラトビウツレ」って出る。「えっ、どういうことかな?」みたいな。そう言っている後ろに東京タワーがバーンとあるみたいな。

(宇多丸)もう、家出同然みたいな感じで2人は逃避行してるわけです。で、「もうこのままだと2人は引き離されるから、最後に2人の子供を作ろう。でも、作り方がわからない。コンピューターに聞いてみよう」「333ノテッペンカラトビウツレ」って。で、「333」……つまり、東京タワー333メートルの上から飛び移れば何かが起こるんじゃないかと思って2人はその東京タワーの上へ、大人たちに追われながら登っていき、そして登ったところであることが起こって、奇跡が起こる。

で、その工業用コンピューターが意識を持ってしまう。「私は意識を持った。私は真悟だ。親は悟と真鈴だ」っつって。で、その失われた両親のとの関係を何とか取り戻すべく、機械なんだけど……コンピューター。動けないんですよ。工業機械だから。いろんな手を使ってその両親に会いに行くまでっていうのが後半なんですけど。ぶっとんだ、めちゃめちゃぶっとんだ話なんですけども。

(日比麻音子)ああ、そういう話だったんですね。

(宇多丸)そういうロマンチックな……それと同時にすごく世界が異様な様相になっていく時代というか。予言的なというか。楳図さんの作品は常にそうですけど。みたいなものが描かれていくというSFジュヴナイルストーリーでありつつ、みたいな感じの。非常に怖い場面もあったりするんですが。というその『わたしは真悟』の続編的な作品があるというのが目玉の今回の展示なので。だから東京タワーが見える場所っていうのはまず、すごい重要なわけですよ。

(日比麻音子)大事な存在だ。

(宇多丸)なおかつ、すごくわかってらっしゃるなというのは今回、楳図さんご自身の作品だけじゃなくて、いろんな現代アーティストによるインスタレーション。その楳図さんの作品にインスピレーションを受けたインスタレーション作品が飾られていて。まず、入っていきなり目につくのはその東京タワーが見える位置に置かれているエキソニモさんというユニットかな? その方々が作っている、もうこれは『わたしは真悟』を読んだ人だったら「うわっ、真悟っぽい!」って思う、もう電気コードっていうか、いろんなものを繋ぐエレクトリックなコードがまるで内臓がはみ出たようにグニャー、グチャーっていっぱい置いてある中に『わたしは真悟』の画面がいろいろ映し出されて。向こう側には東京タワーが見える。しかも、そのテレビ画面の足元には赤いランドセルが置いてあるんですね。この赤いランドセル。ここがポイントです。

(日比麻音子)はい。

エキソニモのインスタレーション

(宇多丸)もう、いいか。これね、『わたしは真悟』はもう名作だから言っちゃうけど。「333ノテッペンカラトビウツレ」って。でも、その東京タワーの上はもう風も強いし、もうグラングラン揺れているからめちゃめちゃ怖いわけです。そんなわけで大人たちは「降りてきなさい! こっちにきなさい!」って。で、「東京タワーは333メートルじゃないんだ! 地盤沈下で30センチ、低いんだ。だからもうそんなバカなことはやめて、こっちに来なさい!」って言われて。でもその2人は「そんなことじゃ僕たちはもう終わってしまう……」っていうんでもう決死の覚悟で。最後、東京タワーのてっぺんに赤いランドセルを置いてその上に乗っかってヘリコプターに飛び移るという。で、その瞬間に奇跡が起こってコンピューターが意識を持つというくだりが来るんですよね。その赤いランドセルが置いてあるわけですよ。「かぁーっ! わかってるねえ!」って。

(日比麻音子)「これだ!」と。

(宇多丸)みたいなのがあってね。でね、まあでもこんなのは序の口で。私、なにに衝撃を受けたってやっぱり今回のその『わたしは真悟』のみならず、楳図先生、漫画作品としては『14歳』という作品が連載が終わってから27年間、新作は発表されてないわけです。

(日比麻音子)ああ、そうでしたか。

(宇多丸)で、久しぶりに来たのがその『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』と銘打たれた楳図かずおさんが今回は絵画作品として『わたしは真悟』の続編的な……ちょっとパラレルも含まれるというか。直接というよりはでも、匂わせるような続編っていうのがあるというのは聞いていたのね。で、今回は絵画作品。漫画じゃなくて。

(日比麻音子)絵画か……。

(宇多丸)で、行ったら……まず、楳図先生ってやっぱりその『14歳』から27年間、漫画作品を書いていないから。正直、なんていうかお年もお年ですから。なかなか漫画を書いたりする体力、難しいのかな? 残念だ、なみたいなぐらいのことを思っていたんですけど。だから今回、絵画もなんていうか、ポンポンと絵が飾ってあるみたいな感じなのかなって思っていたら……とんでもなかったです! 絵が101個、あるんですよ。で、その1個1個が言っちゃえば、結局やっぱりこれは楳図さん流の新しいタイプの漫画っていうか。その1個1個がコマなんですよ。結局。1個ずつはね、40センチ? もうちょっとあるかな? とにかくちょっと小さめです。意外と思ったより。思ったより小さめの絵に、でもものすごく細密に、すごく細かく描かれていて。

もう誰がどう見ても楳図かずおの世界であるあれが描かれていて。しかも、部分部分にはセリフがあったりとか。そう。ちゃんと言語的なメッセージも込められていたり。時間運びもね、コマ的に。ちゃんとこの場面のアクションがこうなるっていう風に連続してるのもあれば、むちゃくちゃ時間が飛ぶとかそういうのもあったりとか。飛躍もあったりするんですけど。まず単純に「ああ、そういうことなんだ!」って。本当に続編だし。

101枚の絵ひとつひとつが漫画のコマとなる

(宇多丸)この間、タイガー立石さんっていうね、現代アート作家であり漫画家でもあるタイガー立石さんが絵画をコマ割りにして漫画にするというね手法をしていて。すごくそれも展覧会、面白かったですけど。タイガー立石さんのある意味逆で、絵画を漫画にするっていうか。もう1個1個の絵がコマであるような作品であって。それが101個あって。数がめちゃくちゃあるんですよ。しかも、僕はもちろん『わたしは真悟』のみならず、楳図さんの大ファンですけども。一緒に行ったマネージャー小山内さんは楳図作品、全然知らなかったんですけども。でも、もうグイグイ引き込まれていて。そもそも、漫画としてめっちゃ面白いのよ!

(日比麻音子)ああ、そもそもそのストーリーというか。

(宇多丸)面白いし、ぶっとんでるし。もう、なんていうか見ていくうちにクラクラしてくるの。やっぱり楳図かずお、天才だな!っていう。もう話も面白いし、展開もぶっとんでるし。でもやっぱりその『わたしは真悟』の真鈴と悟の美しい、子供の時にしかなかった純愛の名残みたいなものが実はそこに隠されていて。で、ちゃんと名場面を彷彿とさせる東京タワーなのかなんなのか、みたいな。これ、メインビジュアルにも出てくるんですけども。そういうのも出てきたりとか。

(宇多丸)とにかくね、1個1個が描きこまれているので。1個1個の絵もじっくり見たいんだけど、同時に漫画だから……「ちょっと、次、次! どうなっているの? えっ、次は何番? 何番? 次、どこ?」みたいな。それで見ていくみたいな。だからね、もう1周ぐらいしたくなる。もう1回、じっくり見てもいいし。だからね、結構がっつり『わたしは真悟』の続編でした! いやー、というようなあれで。とにかく、本当にこの一言です。クラックラした。もう、あまりのことに。あまりのパワー、あまりの奇想、あまりの面白さ、あまりのエネルギー、あまりの美しさ、みたいなところでね。やっぱり楳図かずおはすげえな! これ、もっとみんな騒いでいいやつじゃない?っていう。

本当に、長年の楳図かずおさんのファンとしてもですね……もちろん、今回はだからある意味『わたしは真悟』を中心とした、あと作品の名場面が飾ってあるようなのが『漂流教室』と『わたしは真悟』と『14歳』っていう、ある意味近未来の、何ていうかちょっと予言的な。今、いろいろ世の中が大変なことになってますけど。予言的な3作品を中心に、もちろんキャリアを振り返るようなところもあったりするんだけど。そこがまあメインの展示だったので。もちろん楳図さんのある意味、もうちょっと作家としての全方位的な特集みたいなものは他の機会にもちろんやりようはあると思うんだけど。それにしてもね、だから回顧的なものというよりはやっぱり今回、楳図さんの新作ですよね。『ZOKU-SHINGO』のすごさっていうか。で、それを27年間……だから要するに1個1個の絵、すごい本当に書き込まれた、ちゃんとした絵なんで。101枚、作ってたんだよね!

(日比麻音子)ずっと、だから……まあコンスタントにかどうかはわかりませんけども。その間に確実に制作活動は続けてらっしゃったってことですもんね。

(宇多丸)とにかくヤバい展示だったし、ヤバい作品だったし、ヤバい漫画だったし、絵画としてもやっぱりその、これほどコマとして活用するというような絵画のあり方っていうのは当然、プロの漫画家でないとできないことでもあるだろうし。あとね、もちろん『わたしは真悟』の続編。次から次へとページをめくるように絵を見ていってしまうという。

(日比麻音子)体験としてもオンリーワンですね。行かなきゃいけないっていう。

(宇多丸)という面白みもありつつ、同時に僕はすごい楳図ファンとして想起したのは『闇のアルバム』っていうね楳図さんの1冊で完結している、しかもショート・ショート集っていうか。それこそ1枚絵とか2枚絵ぐらいで完結する、ストーリーがあるとも限らない……もうなんか、ただ単に嫌な感じがするシチュエーションだけがポンと置かれてたりとか。というシリーズがあって。たとえば1個、僕はすごい印象に残ってるのはすごい宇宙を隔てて離れている恋人同士。お互いを画面でしか見たことない。

それでようやく会えるってなって会ったら、女の人の方が超でっかいっていう。要するに、全く交わらない2人だったことがわかる、みたいな。ちょっと悲しい……やっぱり楳図さんの作品の特徴っていうのは全ての人はある種、その自分の主観というものに閉じ込められてるっていうか。主観の中にいる。主観こそがその人にとっての世界であって……というようなのが楳図さんの一大テーマだと僕は思ってるんだけども。

でね、それはともかくとして、そんな感じで1枚絵で見せる、2枚絵で見せるみたいな、そういう絵画的な漫画表現の可能性みたいなのはその『闇のアルバム』っていうのでもやっていたりするし。あと、まあ『わたしは真悟』とかをはじめ、特に『わたしは真悟』が有名かな? 扉絵がもうとにかく、それ自体もう絵画的な、アート作品としてすごいっていうのもありますんで。

(宇多丸)まあ、そういう要素は知ってたけど……それがこのボリュームで展開されているのか!って度肝を抜かれて。

(日比麻音子)101の新作……。

(宇多丸)まいった! もうとにかく、本当に面白いの。だし、言っちゃえばそういう漫画的な俗っぽさもちゃんとある作品群なのね。絵画的な美しさもあるけど、もう吹き出しもあるし。あと本当にね、これは褒めてるんだけど。「なにを考えてるんだ?」っていうような展開とかもガンガンあったり。

(日比麻音子)予期せぬ、想像すらできないような。

(宇多丸)まあ面白い展開、グロテスクな展開。あとはもう、想像もつかない、何を考えたらこんなことになるのか……みたいなのもあれば。でも最後に、終わり方がちょっとフッと物悲しいというのかな? その感じ、余韻の粋な感じもやっぱり楳図さんだなって。だから元々、大ファンでしたし。大学時代はサークルで毎週お互いにZINEを作りあって渡しあうという遊びをしていたんですが。その時に私が作ったZINEは楳図かずお短編と中編のおすすめ作品集みたいなものを、まあちょっと売り物じゃないんでね。その勝手に名場面とかをうまく切り貼りして。「ここがすごいんだ」みたいな解説をして仲間内に配ったりしてたんですけど。というような私からしてもですね……。

(日比麻音子)なおのこと、じゃあ新作っていったら……。

もう一度、楳図作品を読み返したくなる

(宇多丸)だし、やっぱり改めて……もちろんもう何度も読んでますけど。楳図作品、もう1回ちゃんと読んでみようっていうかね。『14歳』とかは今、読むとだいぶまた読み方っていうか、感じ方も変わってるかもしれないなとか、いろんなことを思いましたね。まずはぜひ皆さん、ちょっとね、『わたしは真悟』を読んでいくのがもちろん望ましいですが。1冊というのは『わたしは真悟』というのが望ましいですが、読んでなかったら小山内さんも「これはすげえ!」と圧倒されていたので。いかがでしょうか。東京シティビューで3月25日まで開かれているということですので。

(日比麻音子)時間がない!

(宇多丸)すいません。そんな感じで。ほかほかでございました。ちなみに図録は間に合っておりませんで、注文方式となっております。

(日比麻音子)またこれもすごそうだな。ずっしりと。

(宇多丸)というような感じでございました!

<書き起こしおわり>

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