町山智浩さんが2021年9月7日放送のTBSラジオ『たまむすび』の中で亡くなった澤井信一郎監督を追悼。おすすめ作品として『Wの悲劇』を紹介していました。
(町山智浩)最近ちょっと訃報が続いているんですけども。映画関係でね。で、まず、日本の澤井信一郎監督が亡くなりましたね。澤井信一郎監督の映画ってなにか、ご覧になっていますか?
(赤江珠緒)ああ、ごめんなさい。
(山里亮太)作品を聞けばわかるかしら?
(赤江珠緒)ああ、『Wの悲劇』とかか。
(町山智浩)そうそう。タイトルを言うと結構見ていると思います。
(赤江珠緒)『野菊の墓』とか。
(町山智浩)そうそう。あと『めぞん一刻』とかね、見ている人も多いと思うんですけど。おすすめでこの1本ということだと、やっぱり『Wの悲劇』だと思いますね。ご覧になりました?
(赤江珠緒)見てます。
(町山智浩)あれ、すごいですよね。原作を知ってる人が見ると、びっくりする内容ですよね。
(赤江珠緒)うん。面白いですよね。
薬師丸ひろ子主演『Wの悲劇』
(町山智浩)原作は普通の推理小説なんですよ。夏樹静子さん原作の『Wの悲劇』っていう、なんていうかエラリー・クイーン的な謎解き物なんですね。ところが、この映画版は『Wの悲劇』という夏樹静子さん原作のミステリーを舞台劇化した時の、その主役争いの物語にしているんですよ。
(赤江珠緒)ああ、私はそっちしか見てないですね。原作を読んでないですね。
(町山智浩)ああ、そうですね。だから原作を物語の中の舞台劇の枠の中に入れちゃってるんですよ。で、舞台劇に出るための薬師丸ひろ子さんをめぐるドラマは全部、映画用に作ってるんです。で、薬師丸ひろ子さんはそれまではアイドルだったんですけれども、この映画で……まず最初、彼女はアイドルの役のままで出てくるんですね。非常に……まあセリフの中でもはっきりと処女と言われているんですけども。で、うぶな劇団員として出てくるんですけれども。それで、オーディションに負けてしまって主役を失ってしまうんですけども、たまたま……ストーリー、覚えてますか?
(赤江珠緒)ええとね、なんかケガをされます?
(町山智浩)劇団のトップ女優が三田佳子さんなんですよ。三田佳子さんがパトロンの中年男性とセックスしてる時に、そのパトロンの男性が腹上死しちゃうんですよ。
(赤江珠緒)えっ、そんな話だったかな?
(町山智浩)そうなんですよ。で、現場にたまたま、そのオーディションに落ちて主役をライバルに奪われてしまった薬師丸ひろ子さんが通りかかって。で、その三田佳子さんに「あなた、私の身代わりをして。あなたの部屋でこの男が死んだことにしてください。そしたら、その代わりに私が裏で手を回してあなたに次の『Wの悲劇』の主役をあげるわ」って言うんですよ。っていう、すごいその薬師丸さんが清純派から汚れていって、女優として一皮むけるということ自体をドラマにしてるんですよ。
だから、その随分後にアメリカでナタリー・ポートマン主演で『ブラック・スワン』という映画が作られて。あれがやっぱり、主人公が処女で。白鳥の湖の二重性を表現できないっていうことで非常に役づくりに苦しんでる彼女がダークサイドを知ることによってバレリーナとして一皮むけていくっていう話だったんですね。あれは何十年も後に作られていますけども、『Wの悲劇』がすごく近いんですよね。だから『Wの悲劇』がその薬師丸ひろ子さんという女優の女優開眼と、そのドラマを完全にリンクさせているというものすごく複雑な構成の映画なんですよ。だからこれはもう本当に澤井信一郎監督の傑作としておすすめなので、ぜひご覧ください。
(赤江珠緒)全然覚えてなかったな。そうですか。間違いなく見たんですけどもね。舞台での主役争いっていうのは覚えていたんですけど。
(山里亮太)さっきご説明いただいたあのシーンが出てこないって全てを忘れているんじゃない?(笑)。
(赤江珠緒)そういうことだね(笑)。もう1回見ても楽しめますね。
薬師丸ひろ子の女優開眼とドラマをリンクさせる
(町山智浩)大丈夫ですね。何度も楽しめるから、素晴らしいことですね。それはね。僕もこの歳になるとね、記憶力がすごく落ちてくるので。人生がもう1回、楽しめる感じになってますからね(笑)。
(山里亮太)また新鮮に楽しめるという(笑)。
(町山智浩)髪の毛をもう1回、生えてくるといいなと思いますけどね。それは無理ですね(笑)。
(山里亮太)ずっと気にしていますね、町山さん(笑)。
<書き起こしおわり>