渡辺志保と宇多丸 Black Lives Matter運動を語る

渡辺志保と宇多丸 Black Lives Matter運動を語る アフター6ジャンクション

(渡辺志保)はい。『PIG FEET』……「豚の足」という、直訳するとそういった意味の曲になるんですけれども。テラス・マーティンというアメリカの西海岸を拠点に活躍しているサックス&キーボード奏者兼プロデューサーのアーティストがいますが。彼、あのケンドリック・ラマーの『To Pimp A Butterfly』というアルバムにも参加していたミュージシャンなんですが彼、テラス・マーティン名義で発表された1曲で。フィーチャリングでデンゼル・カリー、デイリット、カマシ・ワシントン、G・ペリーコというメンツなんですが。

まずカマシ・ワシントンさんは日本でもファンの方が非常にたくさんいると思うんですが。本当に激しいサックス奏者と言いますか。日本のフェスなんかにも登場している非常に有名な、著名なサックス奏者なんですね。あとデンゼル・カリーというラッパーがいるんですが。彼はフロリダ出身で今はLAを拠点に活動しているんですけれども。非常にめちゃめちゃ日本のアニメが大好きなラッパーとしても知られている方で。この全部で5名が揃ったすごく痛烈な曲になっていまして。

(宇多丸)この『PIG FEET』、どういう曲なんですか?

(渡辺志保)『PIG FEET』っていうのは「警察の足」っていう意味なんですね。

(宇多丸)「PIG」が警察の蔑称というか、隠語というか。

(渡辺志保)そうなんです。で、元々は1960年代ぐらいから、ブラックパンサー党という政治的な集団がありましたけども。彼らが中心になって警察のことを「PIG」と……まあ、おっしゃる通り蔑称ですよね。それで警察のことを豚呼ばわりしていたんですけども。それになぞらえて『PIG FEET』という新曲を出しました。

(宇多丸)まさにその足で押さえつけられて、それでジョージ・フロイドさんが殺された件ということですかね。かなり直接的に抗議してるっていう感じですかね。じゃあ、曲紹介をお願いします。

(渡辺志保)はい。では聞いてください。『PIG FEET』。テラス・マーティン feat. Denzel Curry, Daylyt, Kamasi Washington, & G Perico。

Terrace Martin feat. Denzel Curry, Daylyt, Kamasi Washington, & G Perico『PIG FEET』

(宇垣美里)お送りしたのはテラス・マーティン『PIG FEET』でした。

(宇多丸)でも結構あれですね。80年代パブリック・エナミーやパリス級の結構ゴリゴリの曲ですね。

(渡辺志保)そうですね。なかなかセンセーショナルな感じで。

(宇多丸)はい。こんな曲も出ているということですね。あと、ちょっとひとつ志保さんに解説をしていただきたいのが、音楽ジャンルの「アーバン(Urban)」というもの……だからいわゆる日本の言葉で言うと「プラックミュージック」っていうくくりでいいのかな? そういうアーバンというくくりをやめようっていう動きに今、なっているということがありますけど。これについて解説をひとつ、お願いします。

(渡辺志保)はい。今はたぶん世界で一番巨大なレコード会社であるユニバーサルミュージックの傘下にありますリパブリックレコードというところが「もうアーバンという言葉を使うのはやめます」っていう風に言ってまして。私も最初はちょっとピンと来ないところがあったんですけど。もともとこの「アーバン」というの40年前にアメリカのニューヨークにある有名なラジオ局「WBLS」っていうのがあるんですが。

そこのDJの方が自分がかける音楽……ソウルもかければジャズもかけるし、ダンスミュージック、ディスコもかけるっていうのをまとめて「アーバンな音楽をかける」って称したのが始まりだそうなんですね。それと同時に大きな企業のタイアップを取るために、分かりやすくそれを「アーバンなミュージック」っていう風に言うと白人受けがよかったららしくて。そういったことで使われるようになった言葉だそうですが。

でも逆にアーバンという風にくくってしまうと、黒人アーティストがアーバンの傘の下から逃れられないという、そういった現状にもなっていて。これは今年グラミー賞においてもタイラー・ザ・クリエイターというミュージシャンが言っていたんですが。やっぱり彼らがポップミュージックやロックミュージックを作っていても、実際にその出した作品が聞かれた時、受け止められた時に「これは黒人アーティストの音楽だからロックじゃなくてアーバンだね」とか「ポップスじゃなくてアーバンだな」とかっていう風に、その同じ土俵に上がれないっていうんですかね? それが今、問題になっている。

優れた作品でも「アーバン」にくくられて同じ土俵で評価されない

なのでまず、そのリパブリックレコードは会社の部署名でもアーバンという名がついている部署があったのを撤廃したり。そしてほぼ同時期にグラミー賞に関しても、今までアーバンという冠が付いていた部門の名称の変更をするという風に発表したということがありまして。これまで、ありだったものがなしにちょっとずつなっていくっていうのも今回のBlack Lives Matter運動の広がりのひとつなのかな?っていう風にも感じているところです。

(宇多丸)これ、でもさ、これを広げていくと、だからそのジャンル分けそのものがさ、ちょっとなかなか難しいっていうかさ。そういう感じになってきますよね。考えていくと。まあ、それを言ったら全部がポップミュージックといえばポップミュージックだし。で、今って特に音楽のクロスオーバーが激しいから。ヒップホップ出身の人だけどオール歌のアルバムだったりとか。ロック中にラップが入っていたりとか。

だから、その音楽のルーツとか、そういうところがもう今はボーダレスになっていて。というところも考えると、もう本当にだからアメリカにおけるそういうマーケット……その人種的に分けられたマーケットみたいな昔のあり方そのものがちょっともう全体に、たしかに古い。でも現実としてあるところもきっとあるんだろうし。たとえばカントリーとか、あとラップアルバムといえばラップアルバムだよなっていうところもあったりとかして。

(渡辺志保)そうなんですよね。

(宇多丸)だから僕、これはなかなか……もちろん問題提起として理解もしつつ、でも厳密にやっていくとじゃあジャンルってどうなっていくんだろう?って。

(渡辺志保)そうなんですよ。なので私もちょっとまだ消化するのに時間がかかっているところではあるんですけど。でも、たとえば日本人のラップアーティストが世界と肩を並べるほどのラップアルバムを作っても、アメリカのCD屋さんに行くと「アジアンミュージック」っていう棚に入れられてしまう。で、そこで世界の同じ土俵に一緒に上がれないとか。そういう風に考えると「たしかにな」っていう感じはするので。それで元々、R&Bも「Race Music(人種音楽)」って呼ばれていた現実もあるというようなことを考えると、どんどん宇多丸さんがおっしゃるようにジャンルの捉え方であるとか行動そのものも変わっていくんだろうなっていう風に思いますね。

(宇多丸)だから聞き手側のあくまで便宜上としてのジャンル分けであればまだしもだけど、やっぱりそこにね、たとえば昔、MTVでは白人ミュージシャンの曲しかかけられなかったみたいな、そういう壁が実はやっぱりまだあって。そういうところをやっぱり少しずつ、さっき志保さんが言っていたように、昨日まではありだったものをなしにしていくというような動きってのはまだまだね……そういう感じですかね?

(渡辺志保)はい。そう思いますね。

(宇多丸)はい。ということで志保さん、あっという間にお時間来てしまいました。

(渡辺志保)いやー、ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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