町山智浩 萩原健一を語る

町山智浩 萩原健一を語る たまむすび

(町山智浩)これは萩原健一さんは修(おさむ)という悪い悪い探偵事務所の下働きで汚れ仕事をしている兄ちゃんの役ですね。で、弟分が亨(あきら)という水谷豊さんで、この2人が毎週毎週、探偵事務所の司令で世の中の底辺、どん底に入っていくという話なんですよ。ところが、そこに行くとやっぱり悪い奴らがいっぱいいるんですよ。毎回、金庫破りであるとか自動車泥棒であるとか、そういう人たちがいっぱいいるんですけど、その彼らはそこに入って悪いことをして探偵事務所のために工作みたいなことをしなければならないということで、潜入をするんですね。毎回。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ところが、どんどんとその人たちのことを好きになっちゃうんですよ。毎回。で、たとえばだから「チンピラと駆け落ちしてしまった金持ちのお嬢さんを取り返してこい」という司令を受けて行くと、チンピラがヒモになっていて金持ちのお嬢さんはその彼を食わせるためにストリッパーをしているんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)あ、ちなみに『傷だらけの天使』って毎回毎回おっぱいとか裸が出てくるんですよ。昔、テレビは自由だったから。で、ところがその金持ちのお嬢さん、愛する男のためにストリッパーになっていて。いい人じゃないですか。いい女の子じゃないですか。だから、萩原健一さんは好きになっちゃうんですよ。「取り返してこい」って言われたのに。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)しかも、そのヒモになっているヤクザ、室田日出男さんがやっているんですけど、ただのヤクザじゃなくて実はすごくいい人だっていうことがわかってきて。それで彼にも惚れちゃうんですよ。で、一緒にヤクザの組に殴り込みに行くんですけど、また弱くてヤクザに脅されて「ひえええー、ごめんなさーい!」とか言っちゃうところがまたショーケンなんですけども。という、毎回毎回そういう話なんですよ。

(赤江珠緒)たしかにすごいゆらぎのある演技ですね。

(山里亮太)なんかちょっと弱い、ねえ。

(町山智浩)これ、おそらく市川森一さんという人がキリスト教徒なんですけども、その人が脚本を書いているんですね。『傷だらけの天使』という物語は。で、これはソドムとゴモラの街に潜入した2人の天使のことをモデルにしているんだと思います。

(赤江珠緒)はー! だから『傷だらけの天使』。

(町山智浩)だと思います。ソドムとゴモラっていうのは悪徳の街で腐敗していたんで神様が全員を皆殺しにしようとするんですけども、その前に2人の天使を派遣するんですよ。で、そこに行っていい人が10人いたらその街は滅ぼさないっていう風に言われていい人探しをするんですよ。で、1人だけロトっていういい人を見つけるんですけど。それでその人のことを逃がそうとするという話が聖書に書かれているんですね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)おそらくはそれがモデルになっているんだと思いますよ。でね、まあその後テレビドラマだと『前略おふくろ様』ですよね。

『前略おふくろ様』

(町山智浩)この『前略おふくろ様』っていうのは僕が住んでいたすごくよく知っている深川の料亭で板前修業をしている真面目な青年のサブちゃんっていうのを萩原さんが演じているんですね。で、毎回毎回ね、「前略おふくろ様」で始まるんですよ。で、これは田舎にいるお母さんに手紙を書こうとして頭の中で手紙を書いているんだけど、結局は手紙を出さないっていう話なんですね。

(赤江珠緒)ふんふん。

(町山智浩)で、すごく気弱で心優しい若者なんですよ。萩原さんの役は。で、いつも「こ、こ、困るっすよ。困るっすよ!」とかって言っているんですよ。すごく困っているんですけど。「かすみちゃん、困るっすよ!」とかって言っているんですけど。どうして困っているのか?っていうと、モテるんです。かわいいから。とにかく母性本能をくすぐりまくるんですよ。

(赤江珠緒)いや、わかりますよ。いまの話を聞いていれば、それはね。

(町山智浩)あのね、萩原さん自身がお母さんっ子だったんですね。お母さんの女手ひとつで育てられて。で、もう本当にね、『太陽にほえろ!』で死ぬ時も「おかあちゃん!」って言いながら死んでいくんですけども。すごく母恋しなイメージがあるんですよ。

(赤江珠緒)へー!

(町山智浩)『前略おふくろ様』な感じですよ。で、年上の女性と結婚をすることが多かったりもしたんですけども。ただ、70年代まではそういうすごく少年なイメージだったんですね。萩原さん、いま言っていたみたいに優しさなイメージだったんですよ。ただ、80年代からいろいろと女性遍歴を重ねたり、逮捕とかが続いたんでスキャンダル俳優となっていったんですよね。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)ただ、スキャンダル俳優になってからも実生活が映画に反映されていくんですけども。たとえば『魔性の夏』という映画では四谷怪談の伊右衛門を演じているんですよ。伊右衛門って自分の奥さんを毒殺しちゃう男ですからね。

(赤江珠緒)うんうん。

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(町山智浩)ねえ。若い女と結婚をするために。そういう最低男ですよね。あとは『もどり川』っていう映画に出ているんですけど、これは歌人の役をやっているんですが、次々と女の人と心中しては自分だけが生き残るっていうような男なんですよ。

(赤江珠緒)ええーっ?

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(町山智浩)だから太宰治の『人間失格』みたいな感じなんですけども。そういう話を次々と作っていく中でスキャンダルを起こしていくんで、非常に映画と現実がわかんなくなってきたんですよね。で、あとは『恋文』っていう映画を撮るんですけど。僕はこの時、たしか萩原さんに会っていると思うんですけど。宝島の取材で。まあ、僕はインタビュアーの横にいただけなんですけども(笑)。これはね、この映画に出た時に倍賞美津子さんと不倫の関係になったんですけど。倍賞美津子さんと結婚をして子供もいる男の役なんですね。『恋文』っていう映画は。で、そこに昔の恋人の高橋恵子さんが白血病で余命1年っていうことを知るんですよ。彼は。

(赤江珠緒)うん。

(町山智浩)ところが高橋恵子さんは独身のまま、そのまま死んでいきそうなんですが、彼女はいまでも自分のことを愛しているということを萩原さんは知るんですね。それで、残り少ない彼女の人生、一緒にいてあげようとして、いまの奥さんである倍賞美津子さんにそれを伝えて。「彼女と一緒にいたいから離婚をしてくれ」っていうような話なんですよ。

(赤江珠緒)ええっ? もう女性からすると……ええっ? どうしたもんだっていう話ですね。

(町山智浩)という話ですよ。だからそういう、もう本当にわがままの一言ですよ。わがまま。で、甘ったれた人っていうことで。でも、それだから女の人を惹きつけてしまうという。男も惹きつけてしまうというキャラクターだったですね。で、演技もね、「ジェームズ・ディーンと似ている」って言ったのはジェームズ・ディーンはアドリブを映画に持ち込んだ人の1人なんですよ。マーロン・ブランドと並んで。

(赤江珠緒)うんうん。

(町山智浩)役になりきることで全く予想のつかない演技をするんですよ。カメラが回ると。で、萩原さんもそうで、さっきの沢田研二さんを撃ち殺した後に泣き叫ぶっていうのはシナリオにはないんですよ。

(赤江珠緒)へー! そうなんですか。

(町山智浩)だからそれ、明らかにチョーさんの役の人がびっくりしているんですよ。萩原さんの演技がすごすぎるっていうことで。で、全く予測がつかない、もうめちゃくちゃをやる人だったんですよね。それでコンサートでもそうでした。もう歌詞もデタラメ、歌い方も踊り方もめちゃくちゃでしたよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)バックバンドが井上堯之さんとか柳ジョージさんとか、もうがっつり超プロフェッショナルのミュージシャンがついていたんで、萩原さんがいくらめちゃくちゃやっても全然大丈夫だったんですよ。支えていたんですよ。で、映画もそうで、彼がデタラメなアドリブをやっても周りの俳優と、あとは監督が神代辰巳、工藤栄一、深作欣二っていう超天才監督たちが監督をしていたから、萩原さんのデタラメを全部受け止めていたんですよ。

(赤江珠緒)はー!

(町山智浩)というようなところがあったんですが、それがその後、だんだんとそういうわがままが許されない歳になっていく中で難しくなっていったんだと思うんですよね。やっぱりヤンチャやわがままが許される時代でもなくなっていったんでね。

(赤江珠緒)デタラメを受け止めてくれる人たちがいっぱいいたっていうのもね。

(町山智浩)昔はいたんですよね。まあ『愚か者よ』っていう歌を歌っている通り、愚か者なんですけども。いま、愚か者っていうのは許されない世界じゃないですか。許されない社会になっていますよ。罪人よりも愚か者の方が叩かれる世の中になっていって。でも、昔はその愚かなことをしても、周りが受け止めていく余裕があったんだけど、いまはその余裕がなくなっているんだと思うんですよ。

(赤江珠緒)基本、みんな愚かですもんね。

愚か者が許されない時代

(町山智浩)そう。基本的にはみんな愚か者なんですよ。でも、その中に優しさを見つけていく天使の役をやっていたんですけどね。で、いま流れている曲は『ララバイ』っていう歌なんですよ。

(町山智浩)これね、萩原さんが会えなくなってしまった……別れてしまったのか、まあ逮捕されて会えなくなってしまったのかわからないんですけども、会えなくなった自分の子供に向けて「会いたいよ、会いたいよ」って歌っている歌なんですよ。

(赤江珠緒)ふーん!

(町山智浩)で、萩原さん自身もお子さんがいて、すごくそういう関係になったみたいなんですけど。その思いが込められている歌なんですね。でね、萩原さんってすごくワイルドなイメージがあるかもしれないんですけど、この歌に萩原さんの優しさがすごくにじみ出ている、こぼれ出しているような歌なんで、この歌でお別れにさせていただきます。『ララバイ』です。

(赤江珠緒)これはたしかにモテるな。うん。今日は先日亡くなった萩原健一さんについてうかがいました。町山さん、ありがとうございました。

(山里亮太)ありがとうございました。

(町山智浩)どもでした。

<書き起こしおわり>
https://miyearnzzlabo.com/archives/56005

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