高橋ヨシキ『ツイン・ピークス』続編を語る

高橋ヨシキ『ツイン・ピークス』続編を語る NHKラジオ第一

高橋ヨシキさんがNHKラジオ第一『すっぴん』に出演。かつて一世を風靡した大ヒットテレビドラマシリーズ『ツイン・ピークス』と、その25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』について話していました。

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(藤井彩子)では、今日ご紹介いただく……今回は映画ではないんですよね?

(高橋ヨシキ)そうですね、まあ映画もあるんですけども。今回はいまちょうどアメリカで第3シーズンが始まったばっかりですが。『ツイン・ピークス』という元はドラマですね。で、今回もやっているのは一応テレビドラマなんですけど。間に映画が1本あります。で、これをご紹介しようと思っております。

(藤井彩子)はい。1990年から91年にかけてテレビシリーズは放映されていましたが……。

(高橋ヨシキ)大ブームになりましたね。

(藤井彩子)大ブームですよ。Twitterでも(ツイートを読む)「『ツイン・ピークス』が流行った当時、見たことがあるんですけどさっぱりだった記憶。いまだったら入っていけるかしら?」と。

(高橋ヨシキ)うんうん。そうですね。

(藤井彩子)源一郎さんは当時、ご覧になっていました?

(高橋源一郎)あのね、当時ものすごいブームだったんですが、乗り遅れて。あれさ、もうすぐにブームになったでしょ? それで、みんな最初から見ている。すぐ見ていたから、僕はたぶん7、8本目ぐらいの時に「雑誌で特集を組むから、当然見ているよね?」って言われて、「ごめん、見ていない」「じゃあ、見なさい」って言われて、途中から見たら何のことかよくわからない(笑)。

(高橋ヨシキ)いやー、まあ無理でしょうね。それは。難しいですね。

(藤井彩子)途中からだとまずついて行けない?

(高橋ヨシキ)そうですね。一話完結ではないので。ドラマとしては一応一話完結な部分もちょっとはあるんですけど、まあ途中から見たら無理ですね。

(高橋源一郎)謎は多いし、登場人物も多いし、すごい錯綜しているから。だからシーンだけはね、赤いカーテンの部屋とか、そういうシーンは強烈に覚えていたけど……どんな話だって聞いたら教えてくれるんだけど、説明がまた長いっていう。

(高橋ヨシキ)ああー。あとですね、説明されてもよくわからない。今日、これをご紹介するのもかなりチャレンジングな試みというか。説明してもまあよくわかんないことが多いので。

(高橋源一郎)(笑)

(藤井彩子)ではまずシリーズ全体の概要からお願いできますか?

(高橋ヨシキ)シリーズ全体の概要というか、いちばん最初のシリーズが、2シーズンあったんですけども……。

『ツイン・ピークス』テーマ曲

(藤井彩子)この曲ね。これ、流行ったよね。

(高橋ヨシキ)そうですね。で、要は第1シーズンっていうのはツイン・ピークスというアメリカの北東部にある架空の町がありまして。小さな町なんですね。そこにいろんな人が住んでいる。まあ、のどかなところなんですよ。林業が主な産業で、そこでみんな普通に暮らしているところである日、川岸に女子高生の死体が打ち上げられる。これがローラ・パーマーという、ホームカミングクイーンという学園の女王ですね。そのすごくきれいなかわいい子が死体となって打ち上げられる。みんな「彼女はすごいいい子だ」って……外面はよかったので、みんなからいい子だと思われていたんですけども。「彼女を殺したのは一体誰なのか?」というミステリーを追うために……この事件っていうのはツイン・ピークスがはじめてではなくて、おんなじ特徴を持った殺人事件が別の州でもあったので。そうすると、州をまたいだ事件なので、そうなるとフェデラルになるので、FBIがやってくるんですね。

(高橋源一郎)FBIだ。

(高橋ヨシキ)で、そのFBIから来たクーパー捜査官というのが地元の警察と協力をしてローラの死の真相に迫るのか? と思いきや……町の人が次から次へと裏で浮気していたり変人奇人揃いで。どうなってんの? みたいなことをやっているうちに、まあ徐々に謎の核心に近づいていくような感じが第1シーズンですね。

(藤井彩子)はい。

(高橋ヨシキ)で、第1シーズンで一応ローラ殺害の犯人はわかってしまって。で、第2シーズンはその事件と関わりのあるかもしれない、異次元の悪の力のようなものに操られたクーパー捜査官の元上司というのがですね、それがクーパー捜査官に挑戦を挑んでくるということの中で、また次の被害者が出てしまい、云々という。まあそういうことですね。

(藤井彩子)シーズン1が8話で、シーズン2が22話あるんですけど。たぶんいまの話を聞くとシーズン1しか見ていないかなと思いました。

(高橋ヨシキ)ああ、まあそうですよね。そういう人が多いと思います。まあ、そうですね。アメリカでも結構そういうことがあって。で、そのシーズン2で一応打ち切りになってしまったという経緯があります。で、これは本当に始まった時の熱狂っていうのはすごくて。

(高橋源一郎)すごかったね。本当に。本当にみんな見ていたよ。

(高橋ヨシキ)みんな見ていました。

(藤井彩子)なんでそんな複雑な話なのに、あそこまでの熱狂ぶりになったんでしょうね。

(高橋源一郎)そうそうそう。

大ブームになった理由

(高橋ヨシキ)理由はいろいろあると思うんですけど、まずこの『ツイン・ピークス』っていうのはいちばん最初にパイロット版っていうのが作られて、それから始まるんですけども。まあデヴィッド・リンチという監督が作っているんですけど、デヴィッド・リンチは本当にまあ、その時は『エレファント・マン』とか『砂の惑星』とか『ブルーベルベット』とかありますけども。まあ、テレビのプライムタイムにやる番組をやるような人だとはまず思われていなかったし。それから、この『ツイン・ピークス』はデヴィッド・リンチが監督した第1話は完全に映画のやり方で撮られていて。その頃のアメリカのテレビっていうのはもっと普通にセットで役者さんが話しているところがあって、そこで「ハッハッハッ!」なんて終わるようなものが主だったんですね。もちろん、テレビのミニシリーズとかで3話とか5話とか10話ぐらいのものでものすごく映画的な撮り方をするものもあったんですけど。『ルーツ』とかね。

(高橋源一郎)うんうん。

(高橋ヨシキ)そういうのはすごく特殊なというか、意外な例で。これは普通のシリーズもののテレビなのに。

(高橋源一郎)完全な映画だよね。

(高橋ヨシキ)完全に映画として撮っていた。それがまあ、すごい衝撃で。いま、Netflixとかストリーミングですとか、HBOみたいなところが作っているドラマはものすごいみんな映画もかくやのエピックなものばっかりできているんですけども、それのきっかけになった……そういうことが始まったのは『ツイン・ピークス』がきっかけ。いちばん最初にやったのが『ツイン・ピークス』ですね。

(高橋源一郎)ものすごい複雑なのと、ある意味オカルト的。だからよくわかんないまま話が進んでいくんだよね。

(高橋ヨシキ)そうですね。でね、オカルトなのかどうかっていうのもちょっと難しいところで。これ、マーク・フロストという人がいまして。この人、『ヒルストリート・ブルース』という警察物のドラマのクリエイターとして有名なんですけども。この人は群像劇が得意で、いろんなキャラクターをいっぱいバーッと出すのが好きなんですけども。デヴィッド・リンチはデヴィッド・リンチでやっぱり異次元を描いたりするのが上手い人で。この2人の才能が合わさったところに『ツイン・ピークス』はあるんです。だから全部リンチのものでは全然ないんですね。この2人は非常にウマが合ったと。2人でいちばん最初はリンチの企画の映画をやろうと思っていたんだけども、それがポシャッちゃって。

(高橋源一郎)ああ、映画だったんだ。最初は。

(高橋ヨシキ)それはまた別の話なんですけども。その後に今度、テレビでドラマをやらないか?っていうんで、最初はマリリン・モンローの死をめぐるドラマを作ろうと。で、「やるぞ! ケネディ兄弟の闇をあばくぞ!」とか言っていたら、「ちょっとケネディ兄弟の闇をあばくのは止めてください」ってテレビ局に言われちゃって。

(高橋源一郎)やっぱり無理だよね、なかなかね(笑)。

(高橋ヨシキ)「それはちょっと止めてください」みたいなことになったんで。それでその後に……。

(高橋源一郎)アメリカでも無理なんだね(笑)。

(高橋ヨシキ)その頃は無理だったみたいで。それで「どうしよう?」っつっていろいろと考えている中で、そういう殺人事件があって……みたいな話をやろうじゃないかと。それは『Northwest Passage』っていう企画を思いついて、それが『ツイン・ピークス』の元になるんですけども。これはでも、最初に脚本から入っていないんですね。2人で作る時に。何から考えたか?っていうと、「こういう女の子が死んで打ち上げられたとして……」っていうのを前提としてあって。「じゃあ、その町っていうのはどういう町なのか? そこにはどういう人が住んでいて、何が産業で、誰と誰がどういう関係になって、何をやっている町なのか?」っていう設定から考えるところから入ったんですね。

(高橋源一郎)はー。

(藤井彩子)ストーリーじゃなくて、設定。

(高橋ヨシキ)設定。

(高橋源一郎)場所っていうか、世界を作ったんだね。

(高橋ヨシキ)世界を作って。だからその当時、『ツイン・ピークス』はすごい町の詳細なガイドブックというのがあって。それは日本版も出ましたが。ついこの間、『The Secret History of Twin Peaks』という非常に分厚いツイン・ピークスの町の歴史を記した本が出てですね。

(高橋源一郎)すごい(笑)。想像上の歴史だもんね。

(高橋ヨシキ)そうですね。だから本当に想像上の言語を作るようなことをずーっとやっているんですね。で、まあそういうところなんですけども、そのツイン・ピークスという町は昔からちょっと異次元とのかかわり合いもあるんだぞ、みたいな。まあそういうことなんです。

(藤井彩子)なんでストーリーじゃなくてその背景といいますか、設定からだったんですか?

(高橋ヨシキ)それはまあ、そこが面白いと思ったんでしょうね。あと、この2人が最初考えていた時はローラ・パーマーという学園の女王が死んだのの犯人については全く明かすつもりはなかったと。

(藤井彩子)そこが重要ではない? いわゆるミステリーだったら「誰が犯人だろう?」っていうことが重要な関心事になりますけども。そこが重要ではないと?

(高橋ヨシキ)うん。そこは別にどうでもいいやと思っていたらしくて。

(高橋源一郎)わかんなくてもいいと?

(高橋ヨシキ)わかんなくてもいい。それはそれとして、さらに新たな謎がボンボンボンボン出てきて、「なんだこれは?」みたいなことを永遠にやりたいみたいな感じだったんですね(笑)。

(高橋・藤井)はー。

(高橋源一郎)でも一応、第1シーズンで犯人は……「あの人が犯人だ」ってことになっているんだよね?

(高橋ヨシキ)そうなんです。それが大ヒットの逆効果というか。あまりにもヒットしてこれ、『ツイン・ピークス』をやる日はアメリカのバーの売上が落ちたと言われているんですね。みんな家に帰って見ちゃうから。で、それぐらいだったんですけども、その時に結局視聴者から「誰が犯人なんだ?」というハガキ、投書が殺到してですね。

(高橋源一郎)気になるよね(笑)。みんな怪しいもんね(笑)。

テレビ局の圧力に負ける

(高橋ヨシキ)で、テレビ局の圧力に負けたんですね(笑)。で、それで「なんとかしてくれ」ってやったんですけど、デヴィッド・リンチは――まあ、たぶんマーク・フロストもそうだと思うんですけど――いまでもそれを後悔していて。「あれは別にやらなくてもよかった」って。で、結局さっきも藤井さんがおっしゃったみたいに、その犯人がわかっちゃったら第2シーズンはどんどん視聴率が落ちていって、結局打ち切りというか、終わってしまったわけですね。だから、そこは別にそんなわからなくてもよかったのかなっていう。

(高橋源一郎)犯人は考えていたの?

(高橋ヨシキ)犯人はですね、まあ考えているような考えていないようなで。何人か候補者を考えていて。一応、腹づもりはあったんですけども、決めていなかったんで。犯人がその次の第二の反抗に及んだり、それからその犯人がわかるシーンっていうのは候補者3人を使って、3人にやらせて全部撮影していたりしたんですね。

(高橋源一郎)3通り?

(高橋ヨシキ)3通り。

(藤井彩子)あ、そうですか。

(高橋ヨシキ)そう。誰になってもいいかという。

(高橋源一郎)放映されていないやつがあるんだね。

(高橋ヨシキ)放映されていない殺人シーンとか告白シーンとかがある。

(高橋源一郎)へー! 全部やってくれればいいのに(笑)。

(高橋ヨシキ)それは役者から、誰が犯人か漏れるのを防ぎたいというつもりもあったみたいですね。

(高橋・藤井)ああーっ!

(高橋源一郎)なるほど! そうか。役者も信用できないもんね。

(高橋ヨシキ)そうですね。

(高橋源一郎)「俺、犯人なんだよ」って言っちゃいそうだもんね(笑)。

(藤井彩子)でもさっき、「映画のような手法で撮られたほぼはじめてのドラマなんだ」っていうお話がありましたけど。なにが特に変わったんですか? 撮り方が。「映画のように」ってお金の面もあるとは思いますけども。

(高橋ヨシキ)そうですね。お金の面もあります。まず、デヴィッド・リンチが普段使っている映画のスタッフが作っていて。これね、90年代ですけども、80年代から90年代頭でもまだそうですね。アメリカのドラマとかっていうのはロケってしないんですよ。あまり。

(高橋源一郎)あ、セット?

(高橋ヨシキ)ドラマっていうのは基本的に外のシーンだけ他所で撮ってきたフッテージとか使い回しの映像があって。あとは、室内で撮って、みたいな。特にこういう……『ツイン・ピークス』はなにがすごいかって、これはさっき藤井さんも「よくわかんない」っておっしゃっていましたけど。「よくわかんないことをテレビでやった」っていうのがすごいんですね。

(藤井彩子)ああ、そこなんですね。わかりやすいものじゃないものを出したっていう。

(高橋ヨシキ)テレビっていうのはいちばんわかりやすいことをやらなきゃいけないんですよ。で、『ツイン・ピークス』がベースにしているのはソープオペラといって、いわゆる昼メロですよね。で、昼メロ……前もデヴィッド・リンチの時にお話したと思うんですけど、暗黒サザエさんみたいな。まあ、暗黒の昼メロなんですよ。なんだけど、昼メロだからみんなが浮気していたり、謎があったりするんだけども、それに異次元が入ってくるっていう、わけのわからないことをやっているんですね。

(高橋源一郎)(笑)

(高橋ヨシキ)で、普通の昼メロっていうのはそれこそ外のシーンっていうのは有り物のフッテージで、中のシーンはスタジオで切り返しで撮っているだけみたいなものが多かった時に、本当に映画と同じ撮り方でやったと。だから『ツイン・ピークス』も実はそういう風にちゃんとやっているのはパイロット版だけで、あとのシリーズになるとどんどんセットになっていくんですけどね。

(高橋源一郎)普通のテレビ番組みたいになっていったと。

(高橋ヨシキ)そうですね。はい。

(藤井彩子)Twitterでは、(ツイートを読む)「『ツイン・ピークス』、当時見ていました。新作の内容が気になります。登場人物は同じなのか、前作の続きなのか、全く違う話なのか、いつ見ることができるのか。楽しみにです」ということなんですが……もうアメリカでは始まっている?

(高橋ヨシキ)5月から始まりました。いよいよ。

(高橋源一郎)いきなり続編?

(高橋ヨシキ)そうです。25年後の続編ですね。

(高橋源一郎)これって、そんな前から言ってないよね?

25年ぶりの続編『ツイン・ピークス The Return』

(高橋ヨシキ)言ってないんですけど、ところが『ツイン・ピークス』のパイロット版で赤い部屋っていうのが最初に登場した時に、そこに「25年後」って字幕が入っているんですね。それで、『ツイン・ピークス』の最終話でその赤い部屋に死んだはずのローラ・パーマーが登場して、「25年後に会いましょう」って言うんですよ。

(高橋源一郎)そう?

(高橋ヨシキ)で、まさかそんな約束を守られるとは僕も思っていませんでしたけども(笑)。

(高橋源一郎)約束を守ったんだ(笑)。

(高橋ヨシキ)約束が守られてしまったというね。

(高橋源一郎)25年後に本当に、「会いましょう」って会いに来たんですね。

(藤井彩子)だから、映画公開から見るとちょうど25年後に当たるんですけど、設定も25年後なんですか?

(高橋ヨシキ)25年後のツイン・ピークスの町……だけではないんですけど、まあそうですね。はい。

(藤井彩子)クーパー捜査官は?

(高橋ヨシキ)クーパー捜査官はですね、前作。前のシリーズの終わりでクーパー捜査官は実はちょっと悪の霊のようなものに……まあ、悪のドッペルゲンガーのようなものが出てきて、そっちになっちゃっているんですね。で、そのまま話が来ていて、善の方のクーパー捜査官はじゃあどこにいるのか?っていうことも含めて、そこはちょっと、全部は言いませんけども。始まると。

(高橋源一郎)でも、要するに25年後?

(高橋ヨシキ)要するに25年後です。で、ツイン・ピークスの町で適当にやっていた若い子にも子供ができていたり。あとはすごい僕は本当に感動したんですけども。これは言っちゃってもいいと思いますけど、マイクっていうあんまり大した役でもないフットボール部の割りと頭が弱そうなやつがいるんですよ。そのマイクくんがこの間見ていたエピソードではね、就職の面接をやっていましたからね。「なんなんだ、君のこの書類は?」とか言って。

(藤井彩子)ああ、なんかちょっと成長したなっていうね。

(高橋ヨシキ)感動しましたね。

(高橋源一郎)あの、役者も一緒?

(高橋ヨシキ)役者も一緒です。

(藤井彩子)25年たったらクーパー捜査官、もう定年じゃないの?

(高橋ヨシキ)だからクーパー捜査官という「捜査官」の形ではいまいないんですよね。

(藤井彩子)ああ、そうですか。

(高橋源一郎)へー!

(高橋ヨシキ)で、そこはちょっとまた、見てのお楽しみなんですけども。ただ、子供たちの世代の話もあるし、それであと今回は本当にデヴィッド・リンチがこれ、ショウタイム(SHOWTIME)っていうテレビ局でやっているんですけども、交渉が非常に上手くいってですね。1回、デヴィッド・リンチがすごいふっかけたらショウタイムは「じゃあリンチ抜きでいいよ。権利だけもらって、うちでやります」って言ったら『ツイン・ピークス』とかリンチ関係の役者さんとかが「リンチがない『ツイン・ピークス』はあり得ない!」ってすごいキャンペーンを打って。で、ショウタイムは「すいません。じゃあやっぱりやってください」っていうことをやったんで、結構上から交渉ができたんですね。

(高橋源一郎)ああ、今回ね。妥協しなくて済んだと。

(高橋ヨシキ)そう。で、妥協しないでいいという。芸術的な自由と予算と両方を確保したんで。

(高橋源一郎)素晴らしいね!

(高橋ヨシキ)で、今回は18話あるんですけど、全部リンチが監督で。

(高橋源一郎)今回はすごいじゃない。

(高橋ヨシキ)今回は全部リンチが監督。で、全部マーク・フロストとリンチが書いて、全部リンチが監督する。リンチは「長編映画はもう自分は撮れないんだ。コントみたいなものは撮るけど……」って。いちばん最後に撮った『インランド・エンパイア』っていうのはそういう細かい、短い映像をまとめたようなものだったんですけども、「長編映画をやるのはもう無理じゃないかな」って本人は言っていたんですけども。

(高橋源一郎)だよね。そんな話、聞いたよね。

(高橋ヨシキ)そうなんですよ。ところが今回、ここに来て大長編で。で、18話あるんですけども、1話ごとに終わっていないんですね。つまり、18時間の映画を時間が来たところで切っているだけなので(笑)。

(高橋源一郎)長編映画。

(高橋ヨシキ)大長編。18時間の映画だと思っていいと思いますね。で、実際に役者に渡された脚本も、これ1話ごとに全然なっていなくて。500ページのものをドサッと渡されて。「これ、やるから」っていう(笑)。

(高橋源一郎)(笑)

(藤井彩子)じゃあ、言ってみれば適当なところで切ってどんどんどんどんつながっていくっていう感じ?

(高橋ヨシキ)そうです。まあ一応それっぽく、音楽とかでね、「話が終わったのかな」みたいな感じにはなるんですけど、話的には全然普通に切っているだけです。

(藤井彩子)あの前の時に視聴者からの圧力に負けて、ストーリーを変更するみたいなことがありましたけど、今回はなさそうですか?

(高橋ヨシキ)今回は最初に全脚本ができているんですね。で、全部撮っちゃってから……だから最後がもうできているんですよ。できちゃってから放映しているので。

(高橋源一郎)そうか。撮りながら放映じゃなくて、全部もう撮っちゃった。

(高橋ヨシキ)撮っちゃった。先に撮っちゃっているんでね。だからもう間違いないというか。だからそうすると、もういくらでも自由なことをやっているという。だから結構理想の続編だと思います。で、昔のファンが見てうれしいこともあるし、あと昔のシーズンを見ていないことも多い中で、ものすごく斬新で。たぶんファンが絶対に作れない続編ですね。オリジネーターしか作れない。誰かフォロワーとかの人が真似しようとしても絶対に無理。

(藤井彩子)そういう流れって最近よくありますけども、そうではない?

(高橋ヨシキ)じゃあないですね。そこが本当に感動しました。

(高橋源一郎)6話まで見たんだっけ?

(高橋ヨシキ)見ていますね。

(高橋源一郎)面白い?

(高橋ヨシキ)いや、ものすごいです。

(藤井彩子)日本ではいつ頃見られるようになるんですか?

(高橋ヨシキ)日本は7月からですね。

(高橋源一郎)へー! 楽しみだねえ。

(藤井彩子)では、そろそろテレビシリーズ『ツイン・ピークス』のざっくり一言解説をお願いします。

(高橋ヨシキ)ざっくり一言で言うと、「謎は気持ちいいよね」っていうことですね。

(藤井・源一郎)(笑)

(高橋源一郎)やっぱり、謎?

(高橋ヨシキ)そうですね。そのね、謎っていうのは解けるのももちろん気持ちいいんですけど、「なんかよくわかんないな」っていうところの楽しさっていうのはあるし。で、映像で見ていてね、これは実際になんなんだろうか?っていうのがわかる時っていうのは、それは言葉で置き換えているだけで。そうじゃない、映像と音楽とそこに謎があることの楽しさっていうものがあって、まあリンチはそういうことをよくやると思いますけども。『ツイン・ピークス』はそこを楽しむといちばんいいと思いますね。

(高橋源一郎)へー! じゃあ、どんな謎めいているんでしょうか。でもきっと、解かれないんだろうね。

(高橋ヨシキ)全然わかんないです(笑)。

(高橋源一郎)(笑)

(藤井彩子)謎は楽しいよねということで。

(高橋源一郎)デヴィッド・リンチの18時間の映画。

(高橋ヨシキ)そうですね。

(藤井彩子)テレビシリーズ『ツイン・ピークス』を今回はご紹介いただきました。
高橋ヨシキさんでした。ありがとうございました。

(高橋源一郎)ありがとうございました。

(高橋ヨシキ)ありがとうございました。

<書き起こしおわり>

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