松尾潔と林剛 リオン・ウェア追悼特集

松尾潔と林剛 リオン・ウェア追悼特集 松尾潔のメロウな夜

松尾潔さんがNHK FM『松尾潔のメロウな夜』で林剛さんをゲストに迎え、亡くなったリオン・ウェアの追悼特集をしていました。

(松尾潔)今夜の『松尾潔のメロウな夜』、追悼特集をお届けしたいと思います。長友(啓典)さんと同じ、奇しくも77才でこのたび亡くなりました。2月23日にその人生、音楽人生を閉じましたリオン・ウェアの特集です。リオン・ウェアを追悼するにあたっては、私の知り合いではもうこの人をおいて話し相手としては他に考えられませんでした。林剛さんです。

(林剛)どうも、こんばんは。

(松尾潔)いま、声作ってませんか?(笑)。

(林剛)いやいやいや(笑)。

(松尾潔)僕の知っている林さんの声とちょっと違うんだけど?

(林剛)いや、ちょっと『メロウな夜』ですからね。昼間とは違うトーンで話した方がいいかなと思って。

(松尾潔)この番組、よく聞いてくださっているんですよね?

(林剛)ええ。本当に僕よりヘビーリスナーはいないんじゃないか?っていうぐらい聞いていますね。

(松尾潔)(笑)。うれしいな。そう言ってくれるのはね。

(林剛)だからこの現場にいま、自分がここにいるっていうことがすごく不思議な感じですね。

(松尾潔)いやいや、けど林さんね、昔ネットラジオをおやりになっていたのを僕も時々聞いていましたけども。あれは長い尺の番組ではなかったけど、すごく選曲に技ありっていう感じで。しかも、お声もいいし、おしゃべりもすごいピシッピシッとまとめられる感じだったんだけど。番組のゲストの時ってどんな感じなのかな?っていうね。まあ、今日は追悼特集ではあるんだけども、湿っぽいだけの特集にするのは、リオン・ウェアも決して本意ではないだろうから。彼の音楽によって人生を豊かにしてきたと思いたい僕たちは、にぎやかにとは言わないけど、音楽の楽しさを伝えるような放送になればなと。

(林剛)いや、まさにリオン・ウェアもそういう湿っぽい人じゃ……まあ、音はちょっと湿っぽい感じの人なんですけどね(笑)。

(松尾潔)(笑)

(林剛)そういう湿っぽい人じゃないと思うので。ちょっと明るめに行った方がいいのかな?っていう気もしています。

(松尾潔)わかりました。リオン・ウェアにね、インタビューもされた林さんですけども。後ほど、その話をお伺いしたいんですけども。まずは、リオン・ウェアといえばやっぱりこの曲が代名詞的に語られることが多いですね。歌い手でもあり、裏方でもあったリオン・ウェアなんですが、その後者。曲の作り手、ヒットの担い手としての代表作と言えるんじゃないでしょうか。聞いていただきたいと思います。1976年リリースの不朽の名作アルバム『I Want You』の中から、そのタイトルトラックをお聞きください。マーヴィン・ゲイ『I Want You』。

Marvin Gaye『I Want You』

(松尾潔)お届けしたのはマーヴィン・ゲイで『I Want You』でした。これはもうマーヴィン・ゲイの数あるセクシャルと言われる官能的なヒットの中でもまあ、『Sexual Healing』と並ぶ二大名作と言われることが多いですね。

(林剛)そうですね。この曲があったからこその『Sexual Healing』だという気もしていますね。

(松尾潔)はいはいはい。そして、このアルバムがあるからこそ、これに先立つ『What’s Going On』のような社会的なアルバムも価値を持っていると。要は、社会的なメッセージだけを発する男ではなくて、ベッドの上でもグランドマスターっていう人間ですよね(笑)。

(林剛)(笑)。いや、本当にこの人はもうメロウっていうね……メロウって、この番組も『メロウな夜』ですけども。この人、メロウって音色だけで言うとスティービー・ワンダーのエレクトリック・ピアノとか、ロイ・エアーズのビブラフォンがね。あれがまあ、メロウっていうのが僕の感覚ではあるんですけども。

(松尾潔)なるほど。

(林剛)ただ、彼の本人のたたずまいとか、醸し出す要素とか、そういうものも含めた上で、全体的にメロウっていうか。

(松尾潔)ミスター・メロウ。

(林剛)っていう感じがリオン・ウェアは、その音色というよりもたたずまいというか、雰囲気というか、ムードがメロウっていう。

(松尾潔)リオン・ウェアは本当、アーティスト写真を見るだけで、音がなくて写真を見るだけでも、やっぱりメロウな感じっていうのは出ているんですよね。僕も一度だけ会ったことがあるんですけど。この間、Twitterで彼と一緒に写っている時の写真をアップしようと思って、久しぶりにその写真をひっぱり出して見たんですけど、いい意味でいつ撮ったかわからない。特にこの77才で亡くなったわけですけど、40代以降とかの写真って、ほとんどいつ撮ったかわからないぐらい、イメージが不変の人でしたよね。

(林剛)うん。まあ、それがだから音楽的にもそれ以降、変わっていないというか。って言うことにもつながりますよね。

(松尾潔)まさにタイムレスな存在。そうだ。ここでご紹介したいんですけどもね。これ、林さんにやっぱりメロウな話というか、リオン・ウェアを語るんであれば林さんの話を聞きたいっていう人からね、お便りをいただいておりましてね。新潟県にお住まいのホット・バタフライさん。「林剛さんの選曲、たいへん楽しみです」。福岡にお住まいのボーイズ・トゥ・ボウズさんは「ボウズ念願のKCさん&林剛さんの対談がリオン・ウェア追悼番組で実現とは! ここはリオン・ウェアR.I.P.選曲をお二人がどうされるのか。ぜひチェキりたい」ということでございますね。あとは……番組の常連投稿者のみなさんが大興奮されていて(笑)。バックスピンさんもね、「リオン・ウェア追悼特集!」と。

(林剛)1時間で収まるのか?っていう話ですよね。

(松尾潔)そうですね。大切なことはキチッと話していきましょう。それ以外は……まあまあ、いいや。やっぱり余談三昧でいこう! で、その林さんはいつ、はじめてお会いになったんですか?

(林剛)リオン・ウェアとはじめて会ったのは、リオン・ウェアが初来日を大阪と福岡のライブハウスでしたことがあるんですよね。

(松尾潔)ああ、東京をパスした時だ!

(林剛)そうなんですよ。それが2002年の11月だったと思うんですけども。その時にはじめて、リオン・ウェアのライブを見て。そこで本人に終演後に会ったという感じなんですね。

(松尾潔)へー。じゃあ最初に会った場所は大阪なんですか?

(林剛)大阪なんですよ。で、その時にバックバンドを務めていたのが、いまをときめくサンダーキャットと、お兄さんのロナルド・ブルーナー。

(松尾潔)兄弟でやってきたんだ。

(林剛)とか、そこにカマシ・ワシントンもいたのかどうか、わからないんですけども。ヤング・ジャズ・ジャイアンツというグループをサンダーキャットとかが組んでいて。

(松尾潔)その時はね、(希望)だったんでしょうけど、本当にそうなっちゃいましたね。

(林剛)そうなんですよ。

(松尾潔)この番組でもね、この間サンダーキャットをご紹介したんですけども。まあ、「ジャンルを越境する」っていう言い方はどうしてもしちゃうんだけど。その時、だってびっくりするぐらい若いんじゃないですか?

(林剛)だからまだ10代です。16才とかそんな感じですよ。サンダーキャットが。

(松尾潔)そういう子たちをフックアップするような視点があるんですね。リオン・ウェアはね。なんかイメージ的にはリオン・ウェアって昔なじみの年配ミュージシャンたちとライブをやりそうじゃないですか。でも、やっぱり常に……まあ、けど若い人に愛された人でもあるからな。リオン・ウェアはね。

(林剛)そうなんですよね。あと、やっぱりLAで音楽コミュニティーで結構いろんな人、新旧のミュージシャンとつながりがあったっていうところもあったと思いますけどね。

(松尾潔)この人ほどね、アーティストとしての評価と作り手としての評価がチグハグだったりとか。本国アメリカとヨーロッパとか日本での人気に格差があったり。もしくは、みんなが抱いている人物像っていうのがなかなか合致しなかったりとか。ちょっとこれほどとらえどころのない人も珍しいなって僕、思っていた時期もあるんですけど。特にこの21世紀に入ってからぐらいでグーッとね、リオン・ウェアの評価が固まったかなっていう気がするんですよ。

(林剛)そうですね。リオン・ウェアって、リアルタイムで聞いてファンになった人も、もちろんいるかと思うんですね。だけど、それよりもあとで、やっぱり後追いの人に評価されたっていう部分がかなり大きかったんじゃないですかね。

(松尾潔)なるほどね。じゃあ、ここでちょっと、リオン・ウェアの歌声を早く聞かせてくれっていう方もいるでしょうから2曲。これは林さんに選曲してもらったんですが。まあ彼の代表曲といえる2曲を。まずは『Rockin’ You Eternally』。これともう1曲、『Why I Came To California(カリフォルニアの恋人たち)』。ジャニス・シーゲルとの共演ですが。これはまあ、どちらも80年代に入ってからの作品ですが。まあ、聞いてみましょうか?

(林剛)そうですね。

(松尾潔)リオン・ウェアで『Rockin’ You Eternally』。そして『Why I Came To California』。

Leon Ware『Rockin’ You Eternally』

Leon Ware『Why I Came To California』

(松尾潔)2曲続けてリオン・ウェア本人の歌声をお楽しみいただきました。リオン・ウェアで『Rockin’ You Eternally』。そして『Why I Came To California』。いずれも長らく愛されている名曲でありまして。特に『Rockin’ You Eternally』っていうのはね、その後にドイツのユニットでありますジャザノヴァのメンバーが自分たちのアルバムで取り上げて、リオン・ウェア本人をゲストに招いて。ドゥウェレと一緒でしたっけ?

(林剛)そうですね。ドゥウェレがデトロイトの同郷としてジャザノヴァがそこで、リオンと……昔のデトロイトの人と、いまのデトロイトのドゥウェレを一緒に使うっていうね、粋な……。

(松尾潔)粋なはからいですね! やっぱりそういうね、アメリカではない国からアメリカのR&B、ソウル・ミュージックに憧れの眼差しを送っていた人たちへのシンパシーって我々、あるじゃないですか。

(林剛)はい。

(松尾潔)僕、話しましたっけ? コットンクラブっていうところで隣のテーブルで盛り上がっている白人3人組の男性がいて。「君たち、見たことあるね?」って言ったらジャザノヴァだったって話。しませんでしたっけ?

(林剛)ああ、それ聞いたことありますね。

(松尾潔)そりゃあね、話が合うよ。リオン・ウェアと一緒にやっているんだもん!っていうことですよね。

(林剛)いや、本当にでもリオン・ウェアって特に90年代からなんですけども。やっぱりヨーロッパ勢からの評価が晩年まで、高かった人ですよね。

(松尾潔)イギリスはもちろん、ドイツですとかフランスですとか。で、実際にあちらの方では割りとコンスタントにライブも続けていたみたいですね。アメリカでアルバムをずっと出していない時期も。まあ、考えてみるとね、彼の名を有名にしたマーヴィン・ゲイも自分の身辺がちょっと騒がしくなった時に、まあベルギーのオステンドっていうところで隠遁生活を過ごしていたようなところがあるから。やっぱりアメリカ黒人ミュージシャンにとって、まあ自分たちの主戦場ではあるけれども、やっぱりヘイターも多いから辛いことも多いと。

(林剛)たしかに。

(松尾潔)で、そういう時に自分たちの音楽をより正当に評価して愛してくれている人たちっていうところで、やっぱりヨーロッパに安住の地を求める人が多いですよね。

(林剛)そうですね。リオン・ウェアも言っていましたね。「僕とマーヴィン・ゲイはあらゆる面で似通っている。音楽的な面でも、性的な面でも……」(笑)。

(松尾潔)何、その「性的な面で似ている」っていうのは?(笑)。まあ、彼も結構なモテ男だったっていうことですか?

(林剛)でしょうね。だからまあ、「官能的な歌をうたう」っていうことにおいてだと思うんですけどね。はい。

(松尾潔)うんうんうん。マーヴィン・ゲイっていう人は、たとえばジェームズ・ブラウンなんかと比べるとずいぶんスムーズなクルーナーっていうイメージもありますけど。それでも時にシャウトを交えながら歌いますよね。ゴスペル・シンギングを随所で披露しているわけなんですが。リオン・ウェアは、とにかくシャウトと無縁。クライマックスを作らない性愛の使い手リオン。この表現、間違っていないですか?

(林剛)(笑)。いや、でも本当にそうですね。さっきもちょっと話していたんですけども、彼はいわゆるソウル・シンギングっていうか、汗臭さとかそういうものとはちょっと無縁っていうほどでもないのかもしれないけども……声を張り上げたりとかね、シャウトしたりしない歌い手でしたね。歌い手としてもね。だからこそ、60になっても70になっても、若手からラブコールから相次いで。本人もそういうイメージをあんまり……それこそね、50代から70代まであんまり変わったイメージがないですよね。

(松尾潔)たしかにね。本当、作品もそうですけど、それ以上に歌声がね、いつ聞いても安定したジョイを届けてくれるというね。まあ、そういう意味では歌い手としてのスランプを見せないまま逝ってしまったという印象さえありますけども。

(林剛)そうですね。

(松尾潔)まあ、たしかにこの発生の仕方だと、声量を求められるわけじゃないから。まあ、歌い手ってちょっとアスリートみたいなところもあって。特に短距離走者的なアスリートからすると、やっぱり年齢というのが常に目の前に迫ってくるわけですけど。この人、はじめからずーっと徒競走をやっていたような感じ、ありますよね?

(林剛)そうですよね(笑)。

(松尾潔)すっごく軽やかに地上の上すれすれを飛んでいくような、そういう。

(林剛)あの、こういう言い方をしていいのかどうかわからないですけど、いわゆるピークというものがそんなにないですよね。いい意味で。

(松尾潔)これね、歌もそうだけど、本当に数字的なこと。いやらしいですけど。チャート的に見ると、彼の出したアルバムって全然ヒットしていないし、人気シンガーの数字ではないんですよね。

(林剛)そうなんですよね。だから、さっきかけた『Rockin’ You Eternally』とか『Why I Came To California』とかも、彼の歌い手としての代表曲とされているんだけども、そんなに別に大ヒットしたわけではないという。

(松尾潔)トップテンヒットとかではない。もっと言えば、シングルヒットでさえないと。

(林剛)ただ、それでもいまに至るまで、若手とかに愛され続ける曲という。

(松尾潔)カバーもいいのが多いですしね。うん。

(林剛)でもやっぱり彼はその歌声もそうなんだけども、それ以上にメロディーラインっていうか、旋律の快感っていうか。どこに連れて行かれるかわからないような。

(松尾潔)特徴的なところを挙げるとすれば、一言でいうと彼のメロディーは他の人とどこが違います?

(林剛)うーん。どこでしょうね?

(松尾潔)林さんの言葉で話していただければいいんですけど。

(林剛)なんだろうな?

(松尾潔)なんか、リオン・ウェア節っていうのはあるじゃないですか。だけど僕もいつもそれを表現しづらいなと。そのとらえどころのなさっていうのを感じていたんですけども。

(林剛)そうなんですよね。それを僕もね、あんまり言葉にうまくできないんですが、なんか不安と高揚が同時に押し寄せてくるようなメロディーですよね。で、なんかこう、サビがもちろんあるんですけど、サビが2個も3個もあるような曲を作る。

(松尾潔)これね、僕らもいわゆるソウル好きだから、「来たー、リオン・ウェア!」っていう感じだけど。おそらくね、そんなにブラックミュージックに触れてない人からすると、「どこがサビかわからないよ」っていう印象があると思うんですよね。

(林剛)ただ、たとえばマイケル・ジャクソンに書いた『I Wanna Be Where You Are』とか。あれはサビが2個……最初もサビのような。

(松尾潔)ああ、たくさんサビがあるとも言えるわけだ。

(林剛)とも言えるんですよね。

(松尾潔)なるほど。なるほど。その作法に馴染んでくるとね。

(林剛)でも、それで「えっ、こっちの方向に行くんだ?」っていうような、不思議なメロディーの展開をするので。そこの読めないところがまた気持ちよかったりとかしますよね。

(松尾潔)なるほどね。好事家をひきつけるというか。たとえば、仕事なんかで地方都市に行って、「ここは見るところもないから、もうホテルに帰って寝ます」みたいな人もいれば、「こんなに楽しいところ、ないじゃない! あそこも行きたい、ここも行きたい」とかって分かれる時、ありますけど。それの顕著な、ある種試験紙的な。

(林剛)で、実際に僕も彼のそういうメロディーラインっていうか、そういうのが気になって。これはどこからどうやって作るとか、本人に聞いてみたんですよ。音楽的なことを。

(松尾潔)うんうん。「インスピレーションの源は何か?」とか。

(林剛)そしたら彼はちょっと間をおいて、「Love」っていうね。

(松尾潔)(笑)

(林剛)としか、言わないんですよね。

(松尾潔)かっこいいな。

(林剛)で、その後に「僕は、ロマンティストだからね」っていう。

(松尾潔)「薄々感じておりました」って言い返してやりたいですね(笑)。

(林剛)(笑)。だからそういう音楽的なインタビューとかを何回かしたことがあるんですけども。あまり、そういう音楽的な構造の話とか、メロディーの話とか、そういうことは具体的にはしないんですよね。

(松尾潔)たしかに、そういうことばかり話す人もいるぐらいですからね。この世界にはね。

(林剛)裏方だったら結構話してくれてもいいのにな。話すタイプなのかな?って思うんですけども。

(松尾潔)そうかそうか。そこがやっぱりスターだったりもするわけだな。

(林剛)かもしれないですね。

(松尾潔)演者意識も強かったということなんですかね。

(林剛)とにかく本人はムードを強調しますね。

(松尾潔)なるほど。わかりました。じゃあその彼の特徴的といいますか。まあ、さっきなんと言いました? 「不安と興奮」?

(林剛)不安と高揚が同時に押し寄せる。

(松尾潔)なるほど。「恍惚と不安の二つ我に在り」という言葉がありますけどね。わかりました。そういう相反する魅力を併せ持つリオン・ウェアのじゃあメロディーをね、楽しんでいただきたいと思いまして。あえてリオン・ウェア本人の歌声ではなく、いろんな人への提供曲。そしてカバー曲。そういったものを集めてこの番組でトリビュートミックスを作ってみました。先ほどの林さんのお話にも出てまいりました、マイケル・ジャクソンの『I Wanna Be Where You Are』。この曲でスタートいたします。それでは、リオン・ウェアのトリビュートミックス。どうぞ、お楽しみください。

(トリビュートミックスおわり)

(松尾潔)お届けしましたのはメロ夜的リオン・ウェア トリビュートミックスでございました。曲をご紹介いたしますね。まずはマイケル・ジャクソンの『I Wanna Be Where You Are』。

Michael Jackson『I Wanna Be Where You Are』

そして、ジャクソン5名義での『It’s Too Late To Change The Time』。僕、この曲好きなんですよね。

The Jackson 5『It’s Too Late To Change The Time』

そしてミニ・リパートン『Baby, This Love I Have』。

Minnie Riperton『Baby, This Love I Have』

そしてメリッサ・マンチェスター『Almost Everything』。これは林さんのリクエストですね。

Melissa Manchester『Almost Everything』

マイケル・ワイコフ『Looking Up To You』。これは後にジャネイの『Hey Mr. D.J.』に引用されてさらに有名になりますが。

Michael Wycoff『Looking Up To You』

ティーナ・マリー『My Dear Mr. Gaye』。この曲に協力したリオン・ウェアも亡くなったということです。

Teena Marie『My Dear Mr. Gaye』

ルース・エンズ『Easier Said Than Done』。こちらはイギリスから。

Loose Ends『Easier Said Than Done』

エル・デバージで『Heart, Mind & Soul』。

El DeBarge『Heart, Mind & Soul』

シャンテ・ムーアで『Inside My Love』。ミニ・リパートンのカバーです。

Chante Moore『Inside My Love』

マックスウェルで『Sumthin’ Sumthin’』。これ、90年代にリオン・ウェア健在なりということを広く知らしめることになりました。『Sumthin’ Sumthin’』。

Maxwell『Sumthin’ Sumthin’』

以上、全10曲。メロ夜的トリビュートミックスをお届けいたしました。いかがでしたか、林さん?

(林剛)いや、もうね、リオン・ウェアとしか言いようがないですよね。でも本当にこれを聞くと、もうだいたいリオン・ウェアの代表的なところは……メロディーとか、ムードとかっていうのを感じられるという。

(松尾潔)これ、すごい僕も選曲、迷って。林さんにいろいろヒントもいただいたんですけども。僕自身、たとえば林さんにも番組の前に言ったんですけど。メイン・イングレディエント版の『Instant Love』とかも好きだけど、まあメロウっていうところで言うと、ちょっと違うかな? リズムが面白いからな……とか。

あと、メロウなんだけど、ナンシー・ウィルソンとラムゼイ・ルイスが組んだ時の『Slippin’ Away』とか。

(林剛)はいはい。

(松尾潔)あとは、元アルトン・マクレーン&デスティニーでその後にクリストルっていう名前になった人たちの『Got To Be Real』とか。もうね、こうやっていま思いつくままに言ってもキリがないんですよね。

(林剛)そうなんですよね。僕もだから今回、松尾さんに何曲か提出をしたんですけども。

(松尾潔)「何曲も」です(笑)。

(林剛)何曲もですか(笑)。本当にどれを選んでいいのかわからないぐらいでしたね。

(松尾潔)けどね、そんな中で僕、前から認識が不確かなまま、林さんに「こういうのをやろうと思うんだけど」って言った時に、ゲストの林さんから事前に「松尾さん、それよくあるんですけど。それはあるあるミスです」と指摘を受けて、慌てて外したのがグラディス・ナイト&ザ・ピップスの『If I Were Your Woman』。

(林剛)そうなんですよね。リオン・ウェアってモータウンで……。

(松尾潔)スタッフライターをやっていましたから。

(林剛)60年代後半ぐらいからやっていたんですけども。その時に「L.Ware」っていう風にレコードでクレジットされるわけですよ。ファーストネームを省略して。で、そうするとみなさん、いま見ると「ああ、これはレオン・ウェアが書いてるんだな」って思うわけじゃないですか。でも、実は同じモータウンで「L.Ware」といっても、違う「L.Ware」さんがいたという……。

(松尾潔)(笑)

(林剛)まあ、「LaVerne Ware」っていうんですけど。実はそれがグロリア・ジョーンズの変名なんですね。

(松尾潔)変名だったということでね。

(林剛)だから、たとえばグラディス・ナイト&ザ・ピップスの『If I Were Your Woman』とかね。

(松尾潔)いろんな人がカバーしている有名な曲です。

(林剛)あれの「L.Ware」はラヴァーン・ウェア。要は、リオンに非ずという。これ、間違いやすくて。

(松尾潔)これ、紛らわしいのは、そのグラディスが後見人となってデビューしたと言われているジャクソン5の曲を書いている「L.Ware」はリオン・ウェアなんですよね(笑)。

(林剛)そうなんですよね。

(松尾潔)しかも、時代もそんなに変わんないっていうね。

(林剛)そうなんですよ。だから、たとえば60年代後半にモータウンでアイズレー・ブラザーズの曲もリオン・ウェアは書いているんですけど、あれはリオン・ウェアだったりするんですよね。

(松尾潔)僕もだから、「えっ、グラディスは違うけど、アイズレーはリオンですよね?」っつったら、「はい。アイズレーはリオンです」っていう。なんか2人で暗号を交わし合うような会話がありましたよね?

(林剛)そうですね。で、さらにややこしいのが、そのラヴァーン・ウェアはパム・ソーヤーという人と一緒に曲を書いているんですよ。で、そのパム・ソーヤーはリオン・ウェアともよく曲を書いているので(笑)。本当に面倒くさいんですよね。

(松尾潔)「L.Ware」はちょっとやめていただいきたいですね。あれ、罪作りですね(笑)。

(林剛)まあちなみにグロリア・ジョーンズは後にというか、T・レックスのマーク・ボランの奥さんとして有名になる人ですよね。っていうのがあったりして。

(松尾潔)林さんにしか見えない、この人々の相関図とか、すごいんでしょうね。毛細血管みたいにいろんなものがつながっているんだろうな。

(林剛)でもまあ、これは僕も本当に後追いですから(笑)。

(松尾潔)まあ、その時代に林さんが生きていた……まあ、生まれてはいるのか? 林さん、何年生まれでしたっけ?

(林剛)僕は70年生まれですね。だから松尾さんとは、学年で言うと3つ下。

(松尾潔)学年で言うと。まあ、この歳になると学年もないですけどね(笑)。

(林剛)なんで、そのリオン・ウェア体験っていうのが、それこそ『Rockin’ You Eternally』とか『Why I Came To California』とか、ぎりぎりリアルタイムじゃないんですよね。

(松尾潔)ああ、そうか。僕はぎりぎりリアルタイムなんですよ。まあ早熟な中学生ぐらいだったから。まあ、リアルタイムって言っても、中古盤屋に出るのを待って買うみたいな。そういう感じかな。

(林剛)この人は本当に僕みたいなオタクというかなんというか。そういう人に後から研究される人ですよね。本当に。

(松尾潔)そうか。まあちょっとね、現代史発掘みたいな、そういう感じがありますよね。

(林剛)ただ、でもいろいろとさっきのかかった曲も含めてですけど、リオン・ウェアと組んだソングライターっていうのを見ていくと、意外とこの頃にはこの人と組んでいるみたいな、そういうのがあって。そこでまた、ちょっと音の傾向が変わってきたりっていうのがありますね。

(松尾潔)たしかに、「コ・ライト(co-write)」と我々が業界で呼んでいる共作スタイルが多いんですよね。単独作品というのももちろんあるけど、そこがちょっとね、彼のアーティストとして。そしてソングライターとして、長寿を保った。延命できたひとつの理由かもしれませんね。

(林剛)そうかもしれないですね。だから、最初にかけたマーヴィン・ゲイの『I Want You』とか、その『I Want You』のアルバムとかはT・ボーイ・ロスというダイアナ・ロスの弟ですね。彼と一緒にやっていたりとか。あと、さっきかかった曲でいうと、マイケル・ワイコフ『Looking Up To You』。これはゼイン・グレイっていうグレイ&ハンクスのゼイン・グレイと一緒に書いている。その頃に、たぶんインスタント・ファンクとかも一緒にやっていたのかな?

(松尾潔)あ、インスタント・ファンクね。そうか、そうか。

(林剛)あとはミニ・リパートンなんかはリチャード・ルドルフ。ミニの夫と組んで書いていたり。

(松尾潔)いまね、笠井紀美子さんのご主人。

(林剛)そうですよね。で、リチャード・ルドルフは最近、それこそ何年か前にマリオ・ビオンディっていう人が……。

(松尾潔)はいはい。イタリアの伊達男ね。

(林剛)彼がリオン・ウェアを招いて共演した曲がありますけど。それはリチャード・ルドルフとともに書いた曲だとか。あとは、あれですよね。メリッサ・マンチェスターとよく曲を書いたり提供したりっていう。

(松尾潔)で、メリッサ・マンチェスターと我らが山下達郎さんとがつながりますからね。

(林剛)『Stand In The Light』でしたっけ?

(松尾潔)ねえ。これは本当、趣味の世界ですけど。林さんに、なんて言うんですか? ツリーを書いてほしいですね(笑)。

(林剛)ちょっとすごい汚いので、ノートにまとめてきましたけどね。今日ね(笑)。

(松尾潔)あとで見せてください。楽しみにしています。で、このいろんな人と共作もしましたけど、共作さえしていないものの新世代に愛されて、いろんなサンプリングですとか引用。で、リオン・ウェア名義じゃなくてリオン・ウェアが、たとえばミニ・リパートンに提供した、さっきお聞きいただいた『Baby, This Love I Have』をア・トライブ・コールド・クエストがサンプリングして『Check The Rhime』っていう曲にして、あの
リズムをヒップホップ世代のスタンダードにしてしまう。

で、それを聞いて育ったAAriesが元ネタカバーをするとか。

まあ本当に本人は大声で語る人じゃないんだけど作品がどんどん独り歩きしていくっていう。まあ、そういった典型の人かと思うんですが。続いてご紹介するのは、これはデトロイトのワイナンズ・ファミリーに連なる名前でございまして。ティム・バウマン・ジュニア。去年この番組でご紹介して、大変評判がよくて。『メロ夜』の年間チャートにもエントリーした『I’m Good』っていう曲があるんですけども。

(林剛)これ、いい曲ですね。

(松尾潔)この曲、イントロの「♪♪♪♪」。あれは何のサンプリングになるんですか?

(林剛)あれはですね、『I Wanna Be Where You Are』なんですけども。マイケル・ジャクソン版でも、マーヴィン・ゲイ版でもなく、ズレーマっていうFaith, Hope & Charityというグループの……。

(松尾潔)ズレーマね! 中古盤屋に行ったことがある人だったら、知ってますよ。だって「Z」のところにあるから。あの女性ね。ちょっと見た目が特徴的な女性っていうか。

(林剛)ズレーマバージョンの『I Wanna Be Where You Are』を使っています。

(松尾潔)あれを取っているんだ。僕もあのクレジットにリオン・ウェアとかの名前が入っているけど、「これ、誰のバージョンだったっけな?」と決定的に思い出せないまま。そうか、そこも……。

(林剛)それをロドニー・ジャーキンスが作っているんでしたっけ?

(松尾潔)技ありですよね。そうそう。ロドニーですよね。これ。なるほど、なるほど。じゃあ、ここまで話しましたんで、イントロから味わい尽くしていただきましょうかね。聞いていただきましょう。ティム・バウマン・ジュニアで『I’m Good』。

Tim Bowman Jr.『I’m Good』

(松尾潔)もうある種、音楽人の理想ですけども。70代になって新世代に愛され続けたという、まあその鮮やかな証左となる曲。サンプリングされたというティム・バウマン・ジュニアで『I’m Good』。ズレーマのサンプリングだったんだな。『I Wanna Be Where You Are』。見事。まあ、ティム・バウマン・ジュニアの歌いっぷりもさすがですよね。

(林剛)そうですよね。まあ、去年のゴスペルの作品では、グラミーにもノミネートされましたよね。素晴らしい。

(松尾潔)素晴らしかった。本当に。いやー、もっと話を聞いていたいんですけどもね。本当にリオン・ウェアと彼の音楽を語る上で、それこそ実は欠かすことができないブラジルとの関わりとかね。

(林剛)そうですね。マルコス・ヴァーリとかね。で、最近だとルーカス・アルーダっていう人のアルバムにも共演したり。

(松尾潔)なんですってね。僕、そのあたり全く不勉強なんですけども。

(林剛)川口大輔さんとかがお好きだとおっしゃってましたね。

(松尾潔)なんか林さんと川口さんがね、一緒にその話で盛り上がったりしていましたね。「へー」と思って横で聞いていましたけども(笑)。

(林剛)(笑)

(中略)

(松尾潔)さて、楽しい時間ほど早く過ぎてしまうもの。今週もそろそろお別れの時が迫ってまいりました。ということで、今週のザ・ナイトキャップ(寝酒ソング)。今夜はリオン・ウェア追悼特集、最後は何にしようかなと思って、これはゲストの林剛さんに選んでいただいたんですよ。この曲は?

(林剛)リスナー目線で、これがいいんじゃないかと。松尾さんの番組のエンディングなら、クインシーかなと。

(松尾潔)ありがたい。クインシー・ジョーンズがリオン・ウェアとアル・ジャロウと、そしてミニ・リパートンの3人をフィーチャーしているという。

(林剛)そうなんですよね。アル・ジャロウはもう……アル・ジャロウもちょうどリオン・ウェアの10日前ですか。10日ほど前に亡くなって。

(松尾潔)この間、彼を追悼する曲をナイトキャップでかけたばっかりですけども。

(林剛)しかも、同じ1940年生まれ。

(松尾潔)はー……なるほど。今夜は『If I Ever Lose This Heaven』。クインシー・ジョーンズを聞きながらのお別れです。これからお休みになるあなた。どうか、メロウな夢を見てくださいね。まだまだお仕事が続くという方。この番組が応援しているのは、あなたです。次回は来週3月20日(月)、夜11時にお会いしましょう。お相手は僕、松尾潔と……

(林剛)林剛でした。

(松尾潔)それでは、おやすみなさい。

Quincy Jones『If I Ever Lose This Heaven』

<書き起こしおわり>

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